第30話『特攻装警第7号機グラウザー』
ついに目覚めたグラウザー、
そして、第5ブロック階層に人々は揃った。
第1章第30話、スタートです。
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「くそっ!」
朝研一は視界の中に光り輝くものを目の当たりにして焦りを覚えていた。
退路はない。退いたとしても、その背後に守ったガドニック教授を放置して自分だけ逃げるわけには行かなかった。
朝の脳裏に瞬間的に、今は亡き彼の父親の面影が思い出された。
――オヤジ――
父ならどうしただろう? 逃げただろうか? 身を隠したろうか?
違う。捜査一課の敏腕刑事だった父ならそんな情けない選択はしないはずだ。
「君!」
背後からガドニックが驚きの声を上げる。だが、それを意に介する事無く朝は自らメリッサの攻撃に対して立ちはだかる。
――身を挺しても絶対に守る――
それは朝が警察官を志した原点であるのだ。
@ @ @
その光景を遠くから見ていた者たちが居る。
「エリオット!」
アトラスにその名を呼ばれるよりも早くエリオットはその右肩の装備を起動する。
【 指向性放電ユニット・起動 】
右肩外側に装備された追加装備、そこから白銀の紫電がほとばしり、メリッサの放った球電体を打ち消した。すさまじい火花を散らしながらメリッサの球電体は掻き消える。ひとまず危険は去った。
「ギリギリセーフだな」
センチュリーはそう告げて走りだす。あとを追うようにアトラスとエリオットも走りだす。そして、ガドニックを守ろうとした朝にアトラスが語りかけた。
「大丈夫か!」
「はい!」
朝とガドニックを守るように立ちはだかると、腰からデザートイーグルを抜き放ちながら朝に問いかけた。
「特攻装警のアトラスだ。援護する」
特攻装警の名を聞いて朝は緊張する。周囲に視線を走らせればアトラス以外にもアンドロイドが2体、それがアトラスと同じ特攻装警であることは明らかだった。朝も直接会うのは初めてだ。だがすべての特攻装警たちの名と姿と素性は知っていた。当然、特攻装警が警部補待遇であることもだ。
「品川管区広域管轄涙路署捜査課、朝研一巡査部長です」
朝が自らの所属を名乗る。その時、センチュリーが朝に声をかけた。
「アイツは?」
センチュリーが指差す先には、アトラスたちが見慣れぬ若者が一人立っていた。朝たちのところから走りだし、玉座の上のディンキーに向けて立ちはだかるその者はまだ逮捕すべき犯罪者に向けて視線を向けている。その背中を見つめながらセンチュリーは彼の名を問いただした。
「彼は、特攻装警第7号機グラウザー」
朝はセンチュリーに視線を向けつつ答えた。
「皆さんの〝弟〟です」
その言葉はアトラスやセンチュリーたちに驚きと歓喜とを沸き起こした。
「アイツが――」
「俺達の弟!」
それは彼らが待ちわびた存在だった。全てで5体しか存在しない特攻装警――絶対数の不足する特攻装警を補いうる第6の存在はアトラスたちにとって何よりも待ち望んだものだった。
いつの間に? とか――
どうして? とか――
そう言った無粋な言葉は無かった。
「ご苦労だった、後は俺達に任せてくれ」
アトラスがねぎらいの声をかける。センチュリーもまた朝に声をかけた。
「俺達が来た方に向かえば螺旋モノレールの軌道がある。そこから降りれるはずだ」
朝の顔を眺めるセンチュリーのその視線には、強い信頼の光が浮かんでいた。
「教授の事は任せたぜ」
「はい」
朝は明確に答えると、ガドニック教授を庇うようにしてその場から後ずさり立ち去っていく。ガドニックもまた朝に導かれながら、その場から立ち去ろうとする。その視界に捕らえた特攻装警たちに視線でメッセージを送りつつも、危険な戦場に彼らを残したまま立ち去ることに一抹の罪悪感を覚えずにはいられなかった。
「教授、行きましょう」
「君――」
「ここは彼らに任せるべきです。生身の我々は介在すべきではありません」
当然の判断だ。流れ弾も考えられるこの戦場に人間が居るべきではない。
「それに彼ら兄弟が揃ったんです。後は――大丈夫ですよ」
朝のその言葉にガドニックは頷いた。多少の楽観的希望が混じってはいるが、信用するに足る希望だった。
「分かった、行こう」
朝は最新の注意を払いながらガドニックを保護しつつ退避していく。
「武運を祈るぞ、グラウザー」
教授のつぶやきがその空間に残された。そして、この第5ブロックから二人の姿は消えたのである。
@ @ @
グラウザーはまだ、気づいていなかった。その背後から3体の新たなる存在が近づいてきていることに。
それは彼の肉親である。兄弟である。家族である。ただ、一般的な人間が考える家族の概念と大きく異なるのは、それは生まれてすぐに互いを認識することがないということだ。
アトラスもセンチュリーもディアリオもエリオットも、弟が作られつつあることは知らされていはいなかった。ましてや、グラウザー自身は兄達の存在は名前とデータとしては知ってはいたが、その存在は遠くから眺めたことがあるだけにすぎない。まだ正式配備がされてない現状では対面すら許されては居なかった。
だが――
時の運命は、規則上の制約すら打ち砕いて、互いを結びつける。
「グラウザー!!」
それはセンチュリーの声だった。
グラウザーは己の名を呼ばれて思わず振り返る。その視線の先には3体のアンドロイド、その姿を目の当たりにするのはこれがはじめてだったが、その名と姿は識っていた。
「センチュリー――兄さん?」
グラウザーがその名を呼ぶよりも前にセンチュリーは真新しい〝弟〟の元へと駆け寄る。不意に肩を組んで抱きついてきたその〝兄〟にまつわるデータをとっさに呼び出すが、データには性格と人柄は示されては居なかった。
「はじめましてだな」
「はい!」
顔を左に向ければ、そこには人懐っこく陽気に笑う顔がある。生身の人間ではなくアンドロイドである互いのことを、とっさに強いシンパシーを感じて警戒をする事なく己を開放した。センチュリーも、グラウザーが気持ちを許したのを察したのだろう。砕けた口調はそのままに組んだ肩を外しながら今なすべきことをレクチャーする。
「とりあえず、詳しい挨拶は後回しだ。今は目の前のあいつらをぶっ壊すぞ」
「壊す? 逮捕ではないのですか?」
「逮捕って言うのは生きている奴にやるもんさ」
センチュリーは両腰から2丁のオートマチック拳銃をとり出しながら答える。その言葉にグラウザーは思わずつぶやいた。
「え?」
そして、センチュリーからディンキーへと思わず視線が向けば、グラウザーからさらに言葉が漏れ出た。
「生きていない?」
驚きを持ってして放たれた言葉にメリッサは冷ややかに視線を向けてくる。
「どこまで知っているの?」
「まだ世間様の噂のレベルだよ」
メリッサが再び両手に球電体を形成する。今度は掌ではなく広げた5指の先に片側5つ――左右で10の光り輝く光球を生み出していく。
「まずいわね、そう言うの忘れてくれない?」
それに対してセンチュリーは、挑戦的に彼女を睨みつけながらその両手に握りしめたグリズリーとデルタエリートをメリッサに向ける。
「できるか馬鹿!」
その銃口を前にしてメリッサは最大限の攻撃態勢を整えつつも、眼前の二人以外の敵に警戒を払う。
「忘れてくれないなら、あなた達ごと消すだけよ」
視線の先にデザートイーグルと短ショットガンを構えたアトラスが居る。その隣にはフル武装のエリオット。いずれもが持てる遠距離攻撃手段を可能な限りスタンバイしている。並んだ銃口をメリッサとディンキーに集中させながらアトラスが言う。
「威勢がいいわりには――戦闘能力的にも劣勢じゃないか?」
エリオットがそれに続く。
「あなたの電磁波系の装備では我々に対抗できません」
すでに攻撃態勢を整えたセンチュリーたちと異なり、グラウザーは期せずしてもたらされたショッキングな情報に戸惑いを隠せなかった。その表情から察したのか、センチュリーはグラウザーに手短に説明を語り始める。
「ディンキーはすでに死亡していると国際機関に極秘裏に認知されている。アイツはディンキーの偽物、あるいはダミーだ」
兄からもたらされた言葉に、グラウザーは驚くしかない。
「え? でも当たり前に会話をしました」
その言葉に諭すようにセンチュリーは言う。
「アンドロイドでも会話はできるぜ? ま、どこまでオリジナルの記憶を残してるかはわかんねえけどな」
そこまで聞かされてグラウザーは漸くにして、現在、自分の置かれている状況について理解することが出来た。しかし、感情については納得いかず引っかかりかけていた。それは純粋であるが故の優しさに他ならなかった。グラウザーは刑事であり警察である。社会ルールを護るものとして感情論とは背反する存在にほかならない。
喉の奥からこみ上げてくるような異物感を胸の中に感じた時、それを遮る概念がグラウザーの中に突如沸き起こった。それは先程、朝刑事から聞かされた何よりも強い言葉だった。
――犯罪者の言い分なんて取調室で聞けばいいんだよ!――
それは彼の指導者たる朝刑事の残した言葉だった。
グラウザーはその脳裏に朝刑事が自分を叱咤してくれた時を思い出していた。
――何のために生まれて、何をするべきなのか――今ここで言ってみろ!――
朝が残したその言葉と、自分自身の生まれる以前から与えられた存在意義とが、グラウザーの心のなかで結びついた時、彼自身の警察としての強い意志が今、目覚めようとしていた。そして、グラウザーは腰の裏のホルスターから一丁の拳銃を抜き放つ。
『STI 2011 パーフェクト10』
コルトガバメントから発展した最新型の6インチ長オートマチック拳銃、米国のデルタフォースでも採用されたことのある実績ある銃である。それを抜き放ちメリッサに突き付けつつ、腰の脇から弾薬の収められたマガジンを取り出しパーフェクト10のグリップへと装填する。セレクトした弾種は対機械戦闘用の高速徹甲弾。牽制用ではない完全に敵を撃破するための弾種だ。
そして、STIの銃口をメリッサに向けて言葉を放つ。
「すべての武装を解除して投降しろ。素直に従えば、ディンキー・アンカーソンを含めてその身柄は保護する」
その言葉とグラウザーの強い視線にメリッサは悟った。
弱さがない。迷いがない。幼さがない。
未熟だったひな鳥が翼を広げ羽ばたき、一羽の荒鷲として飛び立とうとしている。その事に気づいた時、眼前に立つグラウザーが、言葉のアヤで簡単に籠絡されるような未熟者ではない事は誰の目にも明らかだった。
メリッサは自らの状況が圧倒的に劣勢に立たされていると理解する。そして、寂しげに両のまぶたをそっと伏せ、それでいてどこか己の境遇に諦念を覚悟したようなすっきりした面持ちを浮かべている。
メリッサは弱々しくつぶやくように言い放った。
「新しいコマを手に入れるのはやっぱり無理ね」
もしその言葉をディアリオが聞いていたら、どこかで聞いたセリフだと思っただろう。
メリッサは両手の十指に発生させた球電体を、さらにひときわ輝かせる。その両手を振りかぶり、一斉に投げ放とうとする。
「コイツはあげるわ。もうどうせ壊れかけだしね」
「なんだと?」
メリッサの不意の言葉にアトラスが聞き返す。そして、敵の攻撃を察して4人がそれぞれの拳銃と攻撃装備でメリッサに狙いを定めた。だが、メリッサは一向に引かない。そればかりかある一点を見つめて明朗な言葉で語りかけてくる。
「グラウザーと言ったわね」
それはテロリストとしての恐ろしさを一切含まない穏やかで親しげな語り口だった。
グラウザーはメリッサの言葉に無言のまま視線だけで答える。
「強くなったわね。あの〝楽園〟で出会った時とは見違えるようだわ。あなたと話すの案外楽しかったわ。出来ればもっと話していたかったけど――」
そこには世界を恐れさせたテロリストの側近としての冷徹さはどこにもなかった。ただ、弱々しく別れを告げようとする一体の孤独なメイド風のアンドロイドが佇んでいるだけだった。しかし、メリッサは一瞬、グラウザーから視線を外してかぶりを振ると、ふたたびあの強い視線と敵意でもって立ちはだかるのだ。
「お遊びはここまで、後は適当に引かせてもらうわよ」
「そうはさせない!」
メリッサの言葉をグラウザーが遮る。その言葉と同時にセンチュリーとグラウザーは走りだしていた。会話を交わしたのは今この一瞬であるのにもかかわらず、二人の息は古くからの兄弟であるかのようにシンクロしていた。
「逃げるより、罪を償え!」
その言葉を発しつつセンチュリーは駆け出していた。狙うはディンキーの身柄である。
「絶対に逃すな!」
「はいっ!」
だが、時に災厄は再び現れたのだ。
――ゴオォォオオン――
轟音が鳴る。スレート張りの壁面をぶち破り、鋼材の柱をへし折り、本来、扉ではない場所に入り口をこじ開けたソレは不気味な足音を響かせながらその姿を現した。
アトラスがその者の名を呼ぶ。
「ベルトコーネ?!」
センチュリーが足を止めアトラスたちの方へ踵を返しつつ、苛立ち紛れに吐き捨てる。
「最悪のタイミングだ!」
そして、エリオットは状況を冷静に分析しつつ自らの弟に指示を与えた。
「グラウザー、あの二人の確保を願います。私達はあちらに対処します!」
グラウザーは、兄達の言葉から状況の厳しさを察してメリッサたちの方に視線を向ければ、そこには安堵の表情で微笑むメリッサが居る。
「あら、案外遅かったわね」
グラウザーはまだベルトコーネを識らない。拳を交えたこともない。だが、その姿を現した時の状況から察するにそれが容易ならざる相手であることは十分にわかる。かたや、この機を逃がすメリッサではない。グラウザーに微笑みかけると余裕を感じさせる言葉を投げかけてきた。
「ごめんなさい。あたし、まだ他にやることがあるの」
メリッサが振りかぶった右手を振り下ろすと5つの光球が火花をまき散らしながら、グラウザーに向けて投げ放たれる。それは護身のレベルではなく、完全なる悪意を持って破壊のために投射された。
その時、グラウザーはその内に秘めた力を少しづつ覚醒させつつあった。パーフェクト10を構えたままグラウザーは瞬間的に飛び出す。眼前から飛来する5つの球電体の軌道を、正確かつ精妙な動きで、瞬時にして見切っていく。それは特攻装警第6号機のフィールの持つ能力である超高速起動に比肩するとも劣らない動体制御能力である。
「えっ?!」
グラウザーのその動きを目の当たりにしてメリッサは改めて、敵の本来の能力の高さの片鱗を感じずには居られなかった。そして、グラウザーのその顔を垣間見れば、その表情はもはや未熟なルーキーではない。
獲物を見つめる鋭敏なる狩人の視線だ。それは彼女たちがいくども目の当たりにした、法という正義を守る者たちが宿していた冷徹なる力の根源だった。グラウザーを単なる未熟な育成段階のアンドロイドと侮っていた己の迂闊さを唾したくなる。
「そうよね。それがあなただものね」
言葉の中には一抹の羨ましさがにじみ出ている。事ここに至るなら後は逃亡するよりほかはない。左手に発生させた球電体を掌の中に握りなおし手の内に秘めておく。そして、周囲に視線を走らせると、そこに見つけた存在にメリッサはある確信をもって次なる展開を目論んでいた。
「ベルトコーネ、いらっしゃい。アナタにもう一仕事してもらうわ」
それは再び訪れた好機だ。彼女の視界の片隅に姿を現した盟友は、あきらかに強い敵意のこもった視線と怒りを彼女の元へと投げつけている。両の拳を硬く握りしめ、その歩みは一直線にメリッサの方へと向いている。ベルトコーネの眼中には特攻装警たちの存在は微塵もなかった。そう、ベルトコーネはメリッサの隠された意図を察したのだ。
「そうよ。それでいいわ」
メリッサが漏らしたのは矛盾に満ちた言葉だった。
それは味方だったはずだった。家臣だったはずだった。同胞だったはずだった。だが、ベルトコーネがメリッサを凝視する視線には一切の好意は残っていない。そこに垣間見えるのはただひたすらに〝怒り〟だけである。しかし、メリッサは言った。それでいい――と。
「そのために、あなた達をここに導いたのだから」
メリッサには分かっていた。ベルトコーネのその怒りがどこに向かい、どんな形となって爆発しようとしているのかを。視線をそっと走らせれば、眼下のディンキー・アンカーソンだった物は眼前に現れた忠実なる家臣の出現に歓喜の表情を浮かべている。その表情には自らの置かれた状況が圧倒的不利だとの認識は一切感じられるものではなかった。
なにも自体の解決へは向かっていなかった。メリッサにとって最悪とも言えるだろう。だが彼女はたしかにこうつぶやいた。
「あなたのその〝怒り〟を待っていたのよ」
そうつぶやきを残したメリッサの元に、玉座の下から一気阿声にグラウザーが駆け上がってくる。
パーフェクト10の銃口をメリッサたちの元へと向けたまま、その者はいよいよ肉薄しようとしていた。追う者と追われる者、一切の構図がそこにあった。そしてグラウザーはメリッサに対して銃口を向けた。
「そこまでだ!」
グラウザーの力強く凛とした声が響く。その声をメリッサはどこか嬉しげに聞いていた。
@ @ @
期せずして現れたベルトコーネ、その歩みを止めるべくアトラスたち3人は歩き出す。
だが、彼らはベルトコーネの歩みが意味する物にすぐに気づいた。
苛立つようにセンチュリーが吐き捨てる。
「アイツ、俺達を見ていやがらねえ!」
センチュリーが発する言葉にアトラスが言う。
「どうやら怒りの矛先はアイツの方に行ってるみたいだな」
〝アイツ〟それがメリッサを指し示すのは明らかだ。
「だからと言ってこのまま放置するわけには行かねえだろ?」
「ならば全員で同時に叩くぞ」
「あぁ!」
二人の両手には口径の異なる4つの銃口が並んでいる。
アトラスの右手には50口径のデザートイーグル、左手には切り詰めたショートバレルのショットガンが並ぶ。かたやセンチュリーは右手に357マグナムのグリズリーを、左手には10ミリ口径のデルタエリートを構えていた。
【アトラスよりセンチュリー・エリオットへ 】
【攻撃シュミレーション、パターンファイル送信】
【センチュリーよりアトラスへ 】
【>ファイル受信OK 】
【エリオットよりアトラスへ 】
【>ファイル受信OK 】
【各機、シュミレーション内容に従い攻撃を行う】
【攻撃シークエンスはアトラスからのタイミング】
【シグナルに従うこと。 】
センチュリーとエリオットの視界の中でアトラスからのテキストメッセージが映し出される。それは決して失敗させられぬ必殺の陣形であった。一気呵成にぶち当たっていっても決して勝てるとは限らない。ましてやあのキチガイじみた怪力の持ち主である。ならば取れる戦法は搦め手の手段しか無い。3人とも戦闘シュミレーションデータを共有すると、素早く実行動へと移行する。
【第1プロセス:牽制攻撃開始 】
11番ゲージスラッグ弾、50口径、357マグ、10ミリ口径、
4つの異なる弾丸を並列させアトラスたちは一斉にトリガーを引いた。
その銃口から鳴り響く轟音にベルトコーネは視線を向けてくる。それが開戦の合図だった。
【第2プロセス:拳銃弾により牽制を行いつつ、】
【ダッシュホイールによる高速接近。 】
【攻撃目標周囲を周回 】
気勢を制したのはアトラスだった。それとほぼ同時にセンチュリーも駆け出し、ベルトコーネへと攻めかかる。4種の異なる弾丸をアトラスたちは止むこと無く撃ち続けながら両かかとの鋼輪製のダッシュホイールを高速回転させる。そして、ローラースケートの如くスピードに乗り走行しつつ一気に加速していくと、カーブを描くようにしてベルトコーネを取り巻いて、ベルトコーネを間に挟むようにして円を描きじめる。
2人の踵の高速ホイールはカーブの軌道に合わせて、床面の上で火花を散らしていた。
視線が追ってきている。ベルトコーネは自分の周りで奇妙な行動をとりはじめた特攻装警2体にかすかな警戒を発し始めていた。その場から逃げようとしているのは明らかだ。今を逃せばチャンスはない。
【第3プロセス:エリオットによる特殊煙幕攻撃】
アトラスとセンチュリーの動きをチェックしつつ、エリオットは両肩にオプション装備されている煙幕ユニットからベルトコーネの足元めがけて榴弾式の煙幕弾を放った。それも単なる煙幕弾ではない。南本牧の際に用いた電磁波妨害を伴った特殊煙幕弾である。視界の効かない黒い煙を吹き出しつつ、それは高出力の高周波電磁場を撒き散らし視聴覚センサーに誤作動を生じさせる。
無論、それがベルトコーネに対して有効でないのは以前の戦いで百も承知だった。せいぜいが視界を曇らせ、こちらの攻撃を避けにくくする程度だろう。だがそれでもほんの僅かな機会を物にするには必要なのだ。
アトラスとセンチュリーは第5ブロック階層の床面を滑るように走りながらも、エリオットの放った特殊煙幕がベルトコーネの足取りをわずかに止めたことを確認した。そしてそれが最後の攻撃タイミングのトリガーとなった。
【第4プロセス:ワイヤーにてベルトコーネ捕縛】
アトラスは両腕をベルトコーネへと向けると、両手首に備えられたマイクロワイヤーアンカーを撃ち放つ。同じくセンチュリーも腰の裏からワイヤー系装備のアクセルワイヤーを2機取り出すと両腕のスナップをフルに効かせてベルトコーネの方へと打ち込んでいく。
2×2のワイヤーが疾走り、煙幕の中に足止めされているベルトコーネへと絡み付こうとする。
マイクロワイヤーアンカーが先端のフックアンカーに内蔵された超小型ブースターでベルトコーネに巻く突く軌道を描き、アクセルケーブルが自らの意思を持つかのように螺旋を描いてベルトコーネの身体を絡めとっていく。
煙幕が晴れきらぬ中、暴走していたベルトコーネを捕縛拘束するのはそれほど困難な物では無かった。アトラスも、センチュリーも、両踵のダッシュホイールを停めて静止すると、それぞれに逆方向にワイヤーを牽引して、ベルトコーネの動きを動きを止ようとする。
――ギィィィィィン!――
アトラスたち2人は両腕に力を込めてフルパワー引っ張れば、高精度で高い強度を持つ四条のワイヤーは一切のたるみを見せずに張り詰めた。そして、そのワイヤーにはベルトコーネが両断されるのではないか? と思えるほどの力が込められていた。
アトラスは気勢を込めて叫ぶ。
「そこまでだ! ベルトコーネ!」
アトラスが総金属製の両足を足場へと踏ん張り踏みしめれば、無言のベルトコーネが抵抗してその身を捩って暴れようとしていた。
その頑強な抵抗はワイヤーを伝わってセンチュリーにも伝わっていく。そして、体内の動力装置から出力容量ギリギリの電力と駆動源が放たれて両腕の人工筋肉の力が全開放されていく。
――ギシッィ――
金属の骨格と金属高分子の人工筋肉とがせめぎ合い、不気味な軋み音を立てている。逃すことは許されない。逃せばコイツを倒すチャンスは二度と来ないだろう。そして、この機会を絶対に逃さず、必ず倒すという覚悟がセンチュリーの口から形を変えて飛び出した。
「観念しやがれ! 暴走野郎!!!」
ベルトコーネは、浴びせられた罵声に激高して足を踏み鳴らしつつその状態をなおも激しくよじろうとする。だが、それを気の触れた暴れ馬を捕らえるカウボーイの如く、アトラスとセンチュリーはギリギリの所でこらえきっていたのだ。
そして、最後のチャンスをアトラスたちはついに獲得したのだ。
【第5プロセス:エリオットによる砲撃 】
エリオットは警備本部の近衛へとネット越しにシグナルを送る。
【特攻装警エリオットより 】
【 警備部警備一課長近衛迅一警視へ】
【内蔵攻撃兵装『メタルブラスター』 】
【使用許可要請発信 】
その武装はあまりに危険であるため、仕様の際には上司である近衛の承認が必要になる。ネット越しの承認要請に近衛からのレスポンスはすみやかに帰ってくる。
【近衛よりエリオットへ 】
【メタルブラスターを〝使用許可〟する 】
これで必要な準備は完了する。
【特攻装警エリオット体内システム 】
【 コンフィグレーションチェック】
【>オールグリーン 】
【非常攻撃兵装 ―メタルブラスター― 】
【 射撃制御プログラム】
【>発射シークエンス ―スタート― 】
エリオットは自らの胸部に内蔵された非常攻撃用兵装の起動を完了していた。
それは重金属微粒子を体内の超小型核融合炉心からの超高温プラズマ流で超高圧加熱、重金属プラズマを精製した後に、エリオット自身の胸部の中央のMHD砲身により射出する熱プラズマ攻撃兵器だ。
対機械戦闘において、戦車の主砲クラスの銃砲撃が必要とされた際の攻撃手段として考えだされたものだ。重武装ロボットはもとより、戦場での対戦車戦闘でも十分に威力を発揮しうるものだ。
【プラズマ加熱チェンバー重金属微粒子投入 】
【マイクロ核融合炉心より超高温プラスマ導入 】
【加熱チェンバー内温度急速上昇 】
【プラズマ保持高圧磁場発生 】
【プラズマ臨界点到達 】
アトラスとセンチュリーの行動を冷静に監視しつつ攻撃のタイミングに備えれば、高熱の弾丸と化すべく重金属微粒子を順調にプラズマ精製していく。そして、プラズマ精製が完了したその時に、アトラスから攻撃の指示が下された。それを確認して射撃プロセスへと入る。
【MHD砲身、通電スタート 】
【姿勢制御――OK 】
【砲身角度微調整――OK 】
【体外螺旋磁場、射撃角度――調整完了 】
射撃に必要なプロセスをすべて終えると、照準を眼前のベルトコーネへと向ける。発射範囲にあらゆる要素を考慮して、敵アンドロイドベルトコーネのみを攻撃し、アトラスたちを攻撃せぬように微妙な射撃コントロールを加えていく。
【発射角度―― 】
【 上下:+2.6°左右:右3.2°】
【発射タイミング:オート 】
トリガーはエリオット自身の意志だ。敵を倒し、必ず攻撃すると言う敵意だ。この眼前の最強のテロアンドロイドを停止させるべく、この攻撃を何としても成功させねばならないだろう。
【砲口メインシャッター――解放 】
【メタルブラスター――……‥‥
そして、エリオットはついに、その何よりも強い意思でメタルブラスターの引き金を引いたのだ。
「発射!」
エリオットの声が響き渡る。それと同時に白赤色に光り輝く超高温プラズマの奔流が一直線に解き放たれた。射撃角度はぎりぎりベルトコーネだけを攻撃できる範囲に制限してある。今なら間違いなくベルトコーネだけを精密に攻撃できるだろう。
アトラスは語らなかった。結果が出るまでは何が起きるかわからない。
センチュリーは思わず叫んだ、こんどこそ攻撃が成功すると信じて。
「行けぇェェェっ!!」
だが、その時、アトラスもセンチュリーもエリオットも、気づいては居なかった。
ベルトコーネと言う〝怪物〟の口元が不気味に笑みを浮かべていたことに。
勝利をものにしたはずのアトラスたちにベルトコーネは地獄よりも深く響く声で、明確に一言、言葉を発したのだ。
「――かかったのはお前らだ――」
次回、第1章第31話『ビヨンド・ザ・ヒーロー』

















