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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]  作者: 美風慶伍
グランドプロローグ【未来都市のタイムライン】
6/147

4:午後6時:臨海副都心、台場

 東京都心部の海沿い、その中でも最も勢いがあるのが臨海副都心と呼ばれる有明のエリアだ。本来そこは比較的新設の湾岸署が管轄となっていたが、そこに出張ってきている二人の警察官が居た。

 1人は朝研一巡査部長刑事、まだ30前の若い刑事だ。背広姿が目立つ正統派の刑事である。そしてもう1人がバイカーファッションを思わせるライダースジャケット姿の若者であった。ショートに切りそろえた栗色の髪が特徴的な警察らしからぬ男、その背中には『G-Project』と記されている。

 二人は夕暮れの湾岸の街の中を駆けていた。逃走するとある犯人を追い詰めるためである。

 場所は臨海副都心のお台場のメインストリート、犯人が有明付近にて目撃され、そこから台場へと移動する姿が捉えられたのである。そして管轄の湾岸署の緊急連絡を受けてすぐに非常線が張られた。

 さらにその逃走犯が芝浦ふ頭での逃走案件の被疑者・金友成であると解り、飛島たちの元へと連絡が入った。そして急遽、犯人の確保作戦となったのである。

 今、捜査員たちの頭上を一人のシルエットが飛んでいる。

 

〔こちら特6号・特攻装警フィール、追跡対象なおも視認、追跡を継続します〕


 白銀の翼を頭部と両腰にいだき、全身からイオン化された大気流を吹き出している。

 それは、一回り体格の小さい少女型のシルエットのアンドロイドで、白銀の翼を頭部と両腰にいだき、全身からイオン化された大気流を吹き出していた。

 純白のボディこそプラスティックライクな人工物とはっきり解る。だが、首から上はまるっきりの美少女。そこにシルバーメタリックのメットをいただき、目元はライムブルーのゴーグルでカバーしている。

 その純白とシルバーの色の違いから、彼女が元々のボディの上にプロテクターをまとっているのが分かる。

 頭部、胸部全体、両肩、腰周り、そして、脚部全体――、それらを覆うパーツの全てにMHDエアロダインを利用した電磁バーニヤが組み込まれ、腰背部には伸縮式の電磁効果スタビライザーが備えられている。

 さらに、長さ1m強の白銀のブレードと言うべきものが2枚刃のように2枚一組に平行に組み合わせられている。それがヘルメットの側頭部と後頭部に3対備わっている。そして、一対のブレードの間には強力な磁界が発生していてイオン化された大気に推進力を与えている。〝マグネウィング〟と称される彼女固有の翼である。

 その3組の翼を用いて彼女は大都会の空を舞う。早期警戒機能保有の捜査活動用アンドロイド――

 警視庁刑事部捜査1課科学捜査係所属、特攻装警第6号機フィールである。

 違法サイボーグ犯罪者逃走の報を受けて、応援として派遣されていたのである。

 

 フィールはなおも眼下を見つめながら通信を続ける。


〔目標は現在、『有明テニスの森交差点』を南西に移動、移動速度は追跡開始時より低下しています。あと数十秒で『のぞみ橋』を通過し『レインボー入り口交差点』を通過します〕


 その声に応じるのはグラウザーたちの上司である飛島崇捜査係係長である。


「こちら飛島、特6号からの情報に従い警ら車両でテニスの森側を封鎖。さらにレインボー入り口交差点を北西レインボーブリッジ側と南東側を封鎖し、追跡対象を都道482号線へと誘導する! 付近建物での避難誘導と危険警告は?」

〔こちら警ら湾岸27号、一般市民退避誘導完了です〕

〔こちら警ら湾岸12号、テニスの森側封鎖完了〕

〔こちら警ら湾岸18号、レインボー入り口交差点、北西・東南遮断完了しました〕

「よし、各自持ち場を継続! 特7号、朝巡査部長、現在位置は?」


 飛島が問えば特7号のコードを持つグラウザーと朝刑事がコールを返す。

 

〔こちら朝、所定の海浜公園入り口交差点北西側にて待機継続中!〕

「よし、追跡対象がそちら側に逃げた時は確保だ! 遠慮はするな!」

〔朝了解!〕

〔特7号了解です!〕


 そしてフィールが追跡対象の現在位置を知らせる。

 

〔こちら特6号、のぞみ橋を渡河完了、レインボー入り口交差点に差し掛かります!〕

〔湾岸18号! 確保対象通過しました! レインボーブリッジ側に向かおうとしています〕


 その報を受けて飛島は一計を案じた。

 

「朝! 金がそっちに向かう! 物間から飛び出して確保しろ!」

〔朝、了解!〕

〔特7号、了解です〕


 今、逃走犯の(ジン)は臨海副都心のお台場のメインストリート、その正面の目抜き通りを走り去ろうとしていた。

 そこからレインボーブリッジ側に向かい芝浦側へと戻ろうと言うのである。

 だが逃走犯の周囲にはすでに鉄壁の包囲網が張られている。先に逮捕された仲間二人と異なり、ずば抜けた戦闘能力もない。今なら制圧を強行するのは可能なはずである。

 朝とグラウザーは数名の警察官とともに台場1丁目の脇路地にて待機していた。そこはレインボーブリッジへと繋がる裏道である。追跡対象の逃亡犯が入り込む可能性は高いのだ。 

 その頭上に新交通ゆりかもめの高架路線を見ながら警察車両を停車させバリケードとし、逃走犯の身柄の確保が開始されたのである。

 

〔特6号より報告! 今、海浜公園入口交差点を右折しました!〕


 フィールのその報告と同時に朝は告げた。

 

〔金を視認しました! 確保を開始します!〕


 その言葉と同時に警察車両の影にから制服警察官たちをともない飛び出していく。無論、その戦闘を切ったのはグラウザーと朝である。朝は逃げる犯人に対して叫んだ。 

 

「逃げるな! (ジン)! 罪が重くなるぞ!」


 朝たちと鉢合わせした金は慌てて反転して逃げ出した。遮ろうとする他の警察車両を飛び越え、台場のメインストリートの方へと一目散に走り始めたのである。だが金は両足を改造しており脚が早い。このままでは人混みに鉢合わせるのは時間の問題である。


「くそっ! 無駄に早い足しやがって!」


 すると朝が耳に付けている耳掛け式の通話装置に連絡が入る。実年世代の野太い力強い声だ。

 

〔朝! 聞こえるか?! 金をグラウザーに追わせろ! 生身の我々では無理だ!〕

「飛島さん? しかし――」

〔四の五の言うな! アイツの身体能力を使え! 後のことは俺がなんとかする!〕

「了解! グラウザーに容疑者を確保させます!」


 朝は本来、涙路署と言う特殊な所轄で機動捜査班の捜査員をしている。対して飛島は捜査係の係長だ。本来なら命令系統は別だが、朝がパートナーを組んでいる相手の素性故に様々な部署と連携することが多いのだ。

 朝は耳に付けている通話装置を操作するとパートナーである『グラウザー』へと指示を出す。するとグラウザーは先回り先行して逃走犯である金を追いかけているところだった。

 

〔グラウザー! 逃走者を緊急拘束! 逃走経路を封じて退路を断て! 違法サイボーグである以上、多少手荒な逮捕手段をとっても構わない! 急げ!〕

〔了解! 逃走者を緊急拘束します!〕


 朝の少し前方を走っていたグラウザーだったが、朝の指示を聞いてその行動に変化が見られた。

 走り出す速度が一気に上がる。そして、わずかに膝をかがめて大きく飛び上がった。グラウザーのその体は大きく跳躍して彼らの頭上を走っているゆりかもめの高架軌道へと届く。

 グラウザーはその身を反転させるとゆりかもめの軌道をその両足で蹴り飛ばす。グラウザーの体は反射するゴムまりのように飛び、逃走する犯人を越えて、その前方へとたどり着く。


「やった!」


 朝が思わず叫び声を上げる。だが、その行動の予想外の結末に彼らは困惑する事になるのである。

 

――ズガァアン!――


 アスファルトの路盤が砕け欠片が飛び散る。グラウザーが着地する時、左足を軸足として勢いよく突いたのだが、グラウザーのその強すぎる跳躍力は舗装路のアスファルトを砕くという思わぬ破壊を行ってしまったのである。そして、砕けたアスファルトの破片は周囲に飛び散り、その1つが逃走犯の顔面へと見事にヒットしてしまったのだ。

 逃走犯の額が割れ血が流れる。痛みを訴えながらその場にいきなり倒れ込む。その様子をグラウザーは戸惑い呆気にとられながら眺めるしか無かった。

 

「えっ?」


 なにか攻撃をしたわけではない。意図的に殺傷しようとしたわけではない。ただ、一気に跳躍して先に回り込もうとしただけだ。そして地面に着地し振り返ったらその時既に犯人は倒れ込みもがいていた。グラウザーとしても何が起きたのか全くの理解の外である。


「あっ、あの――」


 戸惑いつつもがく相手を保護しようとした。だが相手はそれを拒絶した。

 

「うわぁぁ!」


 叫び声を上げつつ逃れようとする。それは捕まるのを拒否するより、得体の知れない恐怖を避けようとする本能に近い動きであった。呆然とするグラウザーを尻目に、朝や他の捜査員たちも追いつき集まってくる。三人がかりで制圧して抑え込むと、被疑者に対してま逮捕時の口上を述べたのだ。

 

「18時17分 容疑者確保につき緊急逮捕!」


 そしてなおも逃れようと暴れる金の右手と左手に手錠をはめていく。その往生際の悪さに朝も思わず叫んでいた。

 

「いい加減諦めろ! それでも暴れて逃走するなら、そのご自慢のサイボーグ体を破壊して機能限定するぞ! 危機回避の方法として既に裁判所からも公に認められてる!」

「ちくしょおおお!」


 それでも強く暴れるので朝は覚悟を決めた。スーツの内側に吊るした拳銃を抜き放つと、それを金の右の太ももに近づけ撃ち放つ。至近距離ゆえに外す事無く命中する。そして金の右足は火花をちらしながら機能停止し二度と動かなくなったのである。

 

「まだ暴れるなら左もやるぞ! ショットガンで両足をまるごと破壊しても構わないのだからな!」


 そこまで脅されて警告されて逃走犯の金はようやくに動きをおとなしくさせた。逃走の危険はこれでようやく収まった事になる。立たされ二人がかりで抑えられ、逃走犯は警察車両へと引き立てられていく。

 その体が違法サイボーグの恐れがあるため、通常のパトカーなどでは運べず、サイボーグ体を無効化できる拘束装置と、暴れたときに壊れない頑丈さを持った車両が必用となる。違法サイボーグの収容と運搬を専門とした専用護送車両が金を待っていた。

 然る後にそのサイボーグ体を無力化する予備医療施設へと移送され、拘置所に収容、取り調べから裁判へと流れは続くのである。

 

「さ、こっちへ来い」


 朝や他の捜査員たちに促され、足を引きずりながら逃走犯の金は護送車両へと引き立てれていく。そしてその途上、彼に声を掛ける者がいた。誰であろうグラウザーである。

 

「あの――」


 グラウザーが声をかけようとするが、その存在に気づいた瞬間、金は激しい怯えを見せた。グラウザーから距離を取ろうとし、再び暴れ始めたのである。

 

「うわぁっ!」


 それは恐怖である。明らかにグラウザーを恐れている。そしてこの男は心無い一言を浴びせたのだ。

 

「バケモノ!」

「え?」


 思わぬ一言がグラウザーの認識を真っ白にする。一瞬、何を言われたのかが理解できずにいた。だが彼は聡明だった。人としても、人ではないものとしても、物事を理解する心は純粋で豊かだった。己が何を言われたのか即座に認識したのである。

 

――ギュッ――


 左手をぐっと握りしめ俯きがちに視線を落とす。

 自分が何者であるか? それは彼自身がこの世に生まれ落ち、意識と認識を与えられたときからずっと問い続けてきた問題だった。人間ではない物、それでいて人間と同等であり、人間と似ている事に価値があり、人間以上であることを求められる。

 そうすなわち――

 

「ぼ、ぼくは――」


 グラウザーが絞り出すような声で反論しようとしたときだった。

 

――ズガッ!!――


 鈍くも激しい音とともに逃走犯の金を殴りつける者がいた。脇あいから顔面を横殴りに一発、黙らせるのには効果的な一撃である。


「バケモノはお前だ! 金友成!」


 そして金の胸ぐらを掴むと引き寄せさらに罵声を浴びせる。それは1人の実年男性で、少し白髪の浮き始めた頭髪を丁寧にオールバックに仕上げた長身の男性だ。その細い目が印象的な彼は金に対して激しい怒りを顕にしたのだ。

 

「そのくだらない改造人体で粋がって、傷害32件、強盗7件、殺人未遂2件、殺人教唆2件、強盗殺人主犯1件、これだけ他人様を傷つけてなおも逃げて海外に高跳びしようとする! 同情の余地もなく社会の害悪みたいな貴様の方が、よっぽどバケモノだろうが! 自分が優位なら他人を踏みにじり、自分が劣勢になると周りを非難して責め立てる! ゴミクズみたいな品性してるくせに偉そうに騒ぐんじゃねぇ!」


 その叫びは夕暮れの街に響き渡っていた。そしてその実年男性は懐から拳銃を抜き放つ。シルバーグレーのM3913、S&W社のオートマチック、狙いを即座に定めると片手撃ちで金の右足太ももに命中させたのである。電磁火花を散らしながら破壊されるサイボーグ体を視認しつつ彼――飛島 崇は金に吐き捨てたのである

 

「次にくだらねぇたわごと吐いたら眉間にぶちこむぞ!」


 その剣幕に飲まれたのだろう。金はそれ以上は何も言わなかったのである。

 護送車両へと金を押し込み現場保存と証拠がためをしてその場は終りとなる。飛島と朝、そしてグラウザーは一足先にその場から離れることとなった。この場の管轄は湾岸警察署であり、彼らの所属である広域管轄所轄・涙路署はあくまで応援だからだ。

 湾岸警察署の職員に対して挨拶し詫びを入れたのは飛島である。

 

「少し騒がせました。ウチの捜査員の行った行為については後ほど改めて、釈明と書類提出を行います。それではコレにて失礼致します」


 そして軽く敬礼をすると挨拶の後にその場から去っていく。

 朝とグラウザー、そして飛島はそれぞれ別の警察車両で彼らの本拠である涙路署へと帰参する。

 悠然と歩く飛島に対して、複雑な表情の朝、そしてうつむいたままグラウザーが居る。金が放った『バケモノ』と言う言葉にグラウザーは深く飲まれていたのである。

 路上に停車させていた覆面パトカー2台にそれぞれに別れて乗ろうとする。その時、飛島が声をかけた。

 

「なぁ、グラウザー」

「はい」


 グラウザーは飛島の呼びかけに力なく振り向いた。だが飛島は睨むような視線できつい口調で問いかけたのだ。


「お前は何者だ? 言ってみろ」


 抑揚を抑えているが情のこもった力強い問いかけだった。その問いに力なく弱々しくグラウザーは答える。

 

「ぼくは――、ぼくはバケモ――」

「違う!!」


 飛島が強く否定する。グラウザーの〝怯え〟と〝甘え〟をなにより強く否定した言葉だった。飛島がさらにつづけた。

 

「お前はアンドロイド、そして社会の護り手だ! お前の後ろには急速に悪化する犯罪事情に怯えて暮らす町の人々が大勢いるんだ! そんな人々を金のような犯罪者から護るために戦えば、あんな罵声や悪言はいくらでも浴びせられる! それは一種の言葉の暴力だ。だがな、そんなものにいちいち負けてんじゃねぇ!!」


 それは叱咤だ。愛のムチだ。部下が自分の立ち位置と心のあり方に揺れている時に、上司として先輩として目上として、送ってやれる最高の指導である。そしてその言葉は朝へも向かった。

 

「朝! お前もお前だ! こいつはまだ未熟だ! 成長途中だ! これから沢山教えてやって一人前の刑事として鍛え上げてやらなきゃいけない! 物事に対する価値観もそうだ! 今回みたいにコイツが揺れ動いた時、自分が何者であるかを思い出させるのはパートナーであり相棒であるお前だ! ボケッとして突っ立ってんじゃねぇ!」


 その強い言葉は何よりも若い二人の心に響いていた。そして迷いの中にあった二人の認識にはあらたな力が戻っていたのである。二人はそろって返答する。

 

「はいっ!」


 その勢いのある声に飛島は満足に頷く。

 

「先に行け、俺は後始末していく」


 そう告げて覆面パトカーへ乗り込むと走り出す、朝たちとは別行動である。朝もグラウザーに目線をおくりながら告げた。

 

「帰ろうぜ。もどったら書類提出だ」

「調書ですね?」

「あぁ、あらためて書き方教えてやるよ」


 ミスは犯した。だが取り戻せない致命的な失敗ではない。まだ〝次〟がある。

 二人は覆面パトカーに乗り込むと次の仕事へ向けて走り出したのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 飛島が向かったのは、誰であろう、特攻装警第6号機のフィールのもとである。

 緊急応援で本庁から派遣された彼女だったが、今回に限り、ある特別な事情があったのだ。

 フィールが上空から舞い降りてくる。

 場所は台場と有明の境ののぞみ橋、そこに覆面パトカーにて現れたのは、朝とグラウザーの上司である飛島であった。

 覆面から降りると空を見上げる。そして軽く敬礼をしながら降りてくるフィールを迎えた。

 

「ご苦労さまです」


 飛島は礼儀を持ってフィールを迎えた。

 正規に警察職員として登録された特攻装警は警部補待遇である。飛島もまた警部補だった。階級上は対等だが警察内部での立場的な重要度はフィールの方がはるかに上であった。飛島は、そう言う立場的な前提条件を理解できる男であった。

 だが、そう言う事に深くこだわるようなフィールではない。

 

「ご苦労さまです、飛島さん。無事、容疑者確保、おめでとうございます」


 フィールもまた軽く敬礼をする。ハーフブルーのゴーグルスクリーン越しにその優しい視線が飛島を見つめていた。

 

「いえ、皆さんの協力があってこそです。それに今回は正式ロールアウト前の〝あいつ〟との連携なので余計な手間をかけさせてしまいました。申し訳ない」

「いいえ、謝らないでください。職務として必要な事ですから」


 にこやかにはにかみながらフィールは答える。だが飛島はその笑顔の向こう側にある残酷な現実にすでに気づいていた。

 

「――やはり、今回の任務についての記憶は抹消されるのですか?」


 〝記憶の抹消〟――ショッキングすぎる事実だった。


「はい、正式ロールアウト前にグラウザーと会うと言う事自体が規定違反ですから。その特例処置の条件として当該記憶を部分消去する――、特攻装警の運営委員会が決めた事なのでしかたありません」

「難儀ですな。警察の主戦力としての立場と機密を守るためとは言え――」


 特攻装警にはある掟がある。たとえ兄弟機と言えど、正式ロールアウト前には会うことも語り合う事も禁止されている。事前に機密情報が漏れないようにするためである。どうしてもその様な状況が起こったときには、特攻装警への記憶情報の一時的な消去が行われるのである。この場合、フィールがグラウザーについて視認した、そして聞いた情報や事実は、一切消去されるのだ。

 たとえどんなに無意味な行為だとわかっていてもだ。

 それが警察内部における〝規約〟と〝規定〟と言う物なのである。

 

「でも、二度と会えないわけじゃないし、じきに会えると分かってますから。飛島さん、お気遣いありがとうございます。それと――」

「はい――?」


 神妙な面持ちでフィールが問いかけてくる。飛島はその言葉をじっと聞き入った。

 

「〝弟〟を、グラウザーを、よろしくお願いします」


 それがフィールの本音だった。まだ、正式に会うことが許されないとは分かっていても、その存在を知れば、兄弟として家族として同族として情が湧くと言うものなのだ。それを無碍に軽々しく扱うような飛島ではない。

 

「お任せください。彼は我々が立派に育て上げて見せます」


 そう答えつつ再び敬礼をしたのだ。フィールもまた敬礼で返すと再び舞い上がる。一度、古巣の研究施設に戻り、記憶の操作処置を受け、然る後に本庁へと戻るのである。飛島は、過酷な運命を見守るかのようにフィールが飛び去るまでじっと見送っていたのである。


 

――――――――――――――――――――――――――――

X4:[【リアル正義の味方? 】特攻装警ってなに?【予算の無駄?】再設置]



ミドルフロアから、オープンルームエリアへと異動してきたのはベルとペロだった。フロアにそっと降り立ちルームの扉を確認する。するとそこにはこう記されていた。



[【リアル正義の味方? 】特攻装警ってなに?【予算の無駄?】]

[《ルームタイプ:会議室》《鍵:オープン》《再設置》]



 それを一瞥してペロはつぶやく。


「それにしても、まさかオープンルームエリアで特攻装警に関する部屋が設置されるとは――」


 そして扉へ向けて手を伸ばしそれを開けながら言う。


「――それだけ彼らも認められてきたということなのかもな」


 そのつぶやきを残しふたりは会議室へと入っていった。



 ルーム内はすでに人混みで溢れていた。

 朝方と同じ〝トーカー〟に、数多くの〝ギャラリー〟

 ペロは、その人の群れを縫うように先頭へと出ていく。今回もトーカーとして参加するらしい。

 かたやベルは、人目に触れるのを避けるためか、ペロの近くに位置しながらギャラリーサイドにその身を隠していた。

 会話はすでに始まっていた。


「なんだ遅刻か? 猫?」


 そう問いかけてくるのはミリタリー歩兵氏、ペロはそれに問い返す。


「ちょっと! 猫は縮めすぎでしょう? せめて猫紳士くらいは言ってくださいな」


 ペロは苦笑しながら答える。

 ルームマスターがペロに声をかける。


「大丈夫、まだ始まったばかりだよ。さあ続けよう」


 場を見れば揃っていたメンツは皆揃っている。バー・アルファベットにて会話を交わしたダンテ氏もトレードマークのチロリアンハットを被って佇んでいる。だが挨拶は交わさない。オープンルームではみだりに名前を呼び合わないのがセオリーだからだ。

 ルームマスターが仕切り始める。


「今朝情報提供があった事件で、特攻装警6号のフィールが支援に出動していたのは確認済みの者も多いと思う。だが今回、新たに7号機の存在が確認されている。俺の所で確認した映像情報を紹介する」


 その言葉と同時に、仮想会議室ルームの中央頭上に断片的な二次元映像が静止画・動画を織り交ぜて流され始めた。それはまさにあの有明・台場にてサイボーグ犯罪者を相手に逮捕劇を演じた一件の目撃映像である。

 その映像を流しながらルームマスターは忠告する。


「いいかい? くれぐれもこの映像をバックアップ保管したりコピーしたりダウンロードすることはないように。ましてや外部公開は一切禁止。情報機動隊や公安に追い回されたくはないだろう?」


 ルームマスターの忠告に異論を唱える者は皆無だった。沈黙こそが皆の答えであった。


「異論はないね? それじゃ始めよう。何か新しい情報を持ってる者は?」


 ルームマスターが求めれば最初に発言したのはミリタリー歩兵氏だった。


「まずこの第7号機の名前が分かったよ」

「おっ? 早速来たね?」


 冷やかすのは男の子氏である。


「まあね。それで名前が〝グラウザー〟と言う。アトラスがAだから、順番から言って7番目がGだからガ行で始まる名前だと推測していたけど当たりみたいだね」

「グラウザー――、なんだかドイツ人っぽいな」


 そう問うのはローブを纏った賢者氏、それに男の子氏が返す。

 

「そう? ぼくはヒーローっぽいと思うけど」


 猫貴族のペロが言う。

 

「日曜朝の?」

「そうそう」


 ミリタリー歩兵氏も笑って言う。

 

「案外、それを狙っているのかもな。市民の受けをよくするためにさ」

「だね」

 

 和やかに語り合う彼らにルーム設置者は告げた。

 

「オーケー、ご苦労。他に掴んだ情報はあるか?」


 次に動きを見せたのは〝青い霧〟氏であった。手足のない不定形アバターである彼は色の変化や動きによって意思を表示する。その時も赤い変化を見せて少し前へと進み出た。

 

「こっちは彼の所属部署と役目についてだ。確認映像や目撃情報から手繰ったんだけど、どうやら彼は警視庁本庁の所属では無いらしい、おそらくは新設の所轄署である〝涙路署〟に配属されているようだね」


 賢者氏がそれに付け加える。

 

「確か方面本部に準じて広範囲の捜査活動を行う事を認められた新型の所轄署だったはずだな」

「その通り、所轄間の壁を取り払い、広範囲の事件発生の相互協力を円滑にする――と言う趣旨のもと、凶悪事件の対処を主眼として設けられる『広域管轄所轄署』のテストベットとして設けられた警察署だよ。品川駅のインターシティ付近に拠点があって第1方面全域にて活動しているはずだ」

「つまり、グラウザーとやらは当面第1方面での案件をメインに担当する事になるわけか」

「おそらくそうだろう」


 そんなやり取りに猫貴族のペロが声をあげる。

 

「まぁ、今までの経緯から考えると、原則の建前はそうなるだろうけど、特攻装警の絶対数の不足から、応援名目であちこちに駆り出されるだろうね」

「あ、やっぱそうなる?」


 ミリタリー歩兵氏が笑いながら言う。

 

「――センチュリーもけっこうアトラスあたりにステルスヤクザの制圧に駆り出されてるらしいし」

「まぁ、仕方ないよね」


 ペロも笑いながら同意した。

 だがチロリアンハットの旅人の装いのダンテが告げる。

 

「でもね、少々、気になる点があってね。警視庁の公式発表情報では、今回の有明・台場の件も、朝の芝浦ふ頭の件も、特攻装警が関与したと言うプレスリリースは一切ないんだ。全てその新設署の涙路署の担当案件として処理されているんだよ」

「え? どうして?」


 そう拍子の抜けた声を出したのは男の子氏だ。その疑問にダンテが答えた。

 

「第7号機はまだ正式発表前だ。これは僕の推測だが、法規上まだ第7号機は『存在していない状態』なのだろう。法的行為には責任所在と行為の実行者の名義が重要になる」


 猫貴族のペロがおどけて肩をすくめながら口をはさむ。

 

「誰がやったのか、誰が責任を取るのか、わからない状態で〝調書〟は書けないからねぇ」

「そう言う事だ。ただ、正式登録前の未登録機体がなぜ現場捜査や犯人制圧に参加しているのか? そのへんがあまりにも謎だが〝未承認のままでも、現場活動をさせたいと言う何か〟があるのだろうね」


 ミリタリー歩兵氏が問う。その後に青い霧氏が続ける。

 

「ブートキャンプで訓練中の新兵を、前線に放り込んで鍛えるようなものかな?」

「それ案外正解かもな。正式登録をして現場での責任が取れる状態にはなってないとかな」


 さらに纏めるようにローブ姿の賢者氏が言った。

 

「だからこその別人名義での外部公表と言うわけか」

 

 彼らの言葉にチロリアンハットのダンテは大きくうなずいた。

 

「お三方の考えでほぼ正解だろう」


 そしてあらためてダンテはルームの全員に向けてこう告げたのだ。

 

「そう言う事だから、この件に関して警察に問い合わせたり、露骨に情報を集めたりするのはやめたほうがいいかもしれない。それこそ情機や公安に睨まれるだろうからね。あくまでも個人的にウォッチャーレベルで留めたほうがいいだろう」


 最後に纏めたのは猫貴族のペロである。

 

「まぁ、正式に警察に質問を出すのは、正式登録後の初ロールアウト以後って事だね」


 その言葉にミリタリー歩兵氏が肩を落とし気味にしみじみと悔しがった。

 

「あー! それじゃ、それまではこれだけの情報を知ってても〝生殺し〟って事かよ!」

「残念だけどそう言う事!」


 猫貴族が笑いながら諭した。だが彼は言葉を続けた。

 

「でもね――」


 猫貴族のペロは頭上で投影され続ける第7号機・グラウザーの姿を眺めながらこう語ったのだ。

 

「彼ははじめての〝所轄〟に配属される特攻装警だ。つまり、今まで以上に我々一般市民に近い場所で活躍することになる。アトラスからフィールまでは、それぞれが特定の決められた職域に特化していたのに対して、初めて街角であらゆる事に対応できる〝正義の味方のおまわりさん〟として我々の前に現れると思うんだ。言ってみればコレは――」


 ペロは右手の指(と言ってもどれが人差し指かはわからない、猫なので)を立てながらこう告げた。

 

「本放送前の〝正義のヒーロー〟が、夏休み映画でちらりと顔見世するような物さ。お顔が拝めただけでもラッキーだよ」

「まぁ、そう考えると納得いくか――」


 ミリタリー歩兵氏はしぶしぶ納得する。

 

「しかたない、それまでは〝第1話スタート〟まで待つ事にするかぁ」

「そう言うことだね」


 男の子氏も笑いながら同意した。

 そして、ルームマスターが宣言した。

 

「どうやら、結論が出たみたいだね。そろそろこの部屋を畳みたいと思う。これ以上はこの映像について嗅ぎつけられる恐れがある。そうなるとギャラリーにも迷惑がかかるからね」


 チロリアンハットのダンテもうなずく。

 

「そうだね、これ以上は情機の探査クローラーに引っかかるかもしれないしね」


〝探査クローラー〟――情報機動隊の様な情報犯罪捜査をする者たちが、違法な流出情報の存在を突き止めるためにネットに放っている自動探査プログラムの事である。

 

「よし、それじゃ今日はこれで終わりにする。また何か掴めたら〝ここだけで楽しむために〟みんなで集まろう。それじゃお疲れ様!」


 ルームマスターが閉鎖を宣言する。同時に自動シャットアウトまで5分のタイムカウントが空間に表示された。

 

「撤収します!」と、軍隊式に敬礼して消えるのはミリタリー歩兵氏

「おつかれ」と、シンプルに消えるのは青い霧氏

「またね~」と、子供っぽいのは男の子氏

「ではまたどこかで」と、丁寧に別れを告げるのはローブ姿の賢者氏だ


 ギャラリーも速やかにバラけていく。チロリアンハットのダンテは何も言わずに消えた。

 すると猫貴族のペロが、ベルに視線を向けて頷いていた。それが何を意味しているかベルにもわかった。

 VRゴーグルのシステムを通じてナビプログラムに命じる。

 

〔ナビ! バー・アルファベットにアクセスして!〕

〔ナビ了解、特別限定ルーム〝バー・アルファベット〟に移動します〕


 そして、ベルの姿も、そのオープンルームから消えていったのである。


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