第5話 『リクエスト』
有明1000mと言う巨大なシステム。
それが今、少しづつ動き始めます。
1000mビルの光景にもご注目ください。
第1章 第5話公開です。
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東京湾海上国際空港――
その海底基礎部からは幾つかの地下鉄道・地下道路がのびている。
東京、千葉、羽田へと直通ルートを確保し、横浜方面へもトンネルが伸びている。
その内の一つに、千葉袖ケ浦方向から東京の新木場有明方面に向けて東京湾を縦貫する、沈埋型の高速地下鉄道ルートがあった。
――東京マリーナジオライン――
沈埋型ユニット式トンネルを多用して作られた世界でも類を見ない形式の海底トンネルであるか
空港の地下を出た高速地下列車は東京湾の海底をひた走る。
鉄道トンネルの構造は、巨大ブロックが海底に沈められる沈埋タイプと、強化炭素繊維ケーブルで海中に繋ぎ止められる係留タイプとに分れ、それらが状況に応じて使い分けられる。そして、その列車は車輪式のリニアモーター列車であり、最大時速200キロクラスで都心部へと直結される。それは成田の頃とは比較にならない高利便性である。
サミットに参加予定の欧州科学アカデミーの一行は、海上空港の地下から彼らのために用意された特別列車へと乗り込んでいく。列車は7両編成の特急型列車、空港旅客の大量の移送を目的とした列車で、さしずめ地下を走るNEXの様なものである。
その日、「クリスタルシャトル№17」は貸切である。
東京湾の海底をその列車はひた走る。距離にして、約14キロ半である。
「ATTENTION PREASE――、本列車をご利用のお客様にサミット開催事務局よりご連絡です。本日の日程に関しまして、若干の変更がございます。詳しくは開催事務局からのメールメッセージをご参照ください」
「なんだ?」
ウォルターは車内放送を聞き大きく口を開けた。ウォルターは自他ともに認める酒好きである。今も、周囲が止めるのも聞かず車内サービスに一杯求めたところだ。これから国際サミットに望もうと言う時であるから遠慮すべきなのだが――
「軽いものならそんなに酔わんよ」
――と笑うばかりで周りの静止を聞く耳すら持たない。紅一点であるエリザベスはウォルターのそんな態度に渋い顔だった。
そんなやり取りのさなかに先ほどの車内放送である。英国アカデミーの面々のみならず、他のサミット参加者たちも、スマートフォンやタブレット、あるいは3Dディスプレイゴーグルなど様々な電子メディアを駆使して、それぞれに配信済みの電子メッセージを確認していく。
【送信者:サミット開催本部 】
【件名: 】
【サミットオープニングセレモニー 】
【 開催時刻変更のお知らせ】
【 】
【本日、有明1000mビルコンベンション会場】
【にて開催される『国際未来世界構想サミット』】
【のオープニングセレモニーにつきまして、 】
【開催予定時刻を以下の通りに変更いたします。】
【 】
【有明1000mビル緊急メンテナンスのため 】
【開催予定時刻を午前12時から午後1時に変更】
【 】
【付記: 】
【1000mビル内の施設にて休憩場所をご用意】
【いたしました。どうぞご利用ください。 】
ウォルターはスマートフォンでメール内容を確認しつつ、手にしたグラスをシートの前の簡易テーブルに置く。
「なんだ予定変更か、何をして時間を潰せと言うんだろうなぁ」
「別にかまわんだろ、ウォル」
ガドニック教授は隣のシートで笑った。
「ちょうどいい機会だ、日本の最先端を見て回るいいチャンスだよ。一時間程度だが、みんなも休憩などと言うつまらない事をしないで、じっくり見学してみないか?」
ガドニックは、周囲のシートに座っているアカデミーの仲間に話しかける。
通路を挟んだ隣でエリザベスが答えた。
「いいわね、あたしも賛成ね。確か、有明の1000mビルはまだまだ建築計画の半ばのはずだけど、その規模から言っても一見する価値はあるわ」
「確か、今日のサミットが、ビルの完成式典の一つのはずだな」
「あぁ、有明1000mビルですね? 取り敢えず第1期の工区が完成したはずですよ」
後ろのシートからトムが身を乗り出して問いかけた。27才で英国アカデミーで最年小のトムは、専門の情報・コンピューターの分野でありそのジャンルでは大変に優秀である。建築関係は範囲外だが、現在の電脳化社会では彼のスキルはいかなるジャンルでも通用すると言っていいだろう。
「そうね、予定建築高さは約1000m、基底部の直径が380m、最高部の直径が160m、第1期の完成高さが260m。構造は通常のビルとまったく違ってて、言ってみれば――そう、巨大な温室みたいなものね。まぁ、口で言うより実際に見た方が早いわね」
「まぁ、しいて例えるなら」
カレルが口を挟む。
「現代のバベルの塔そのまま、と言った所だろうな」
「あら、マークも来た事があるの?」
「あぁ、内部に入ったことはないが、建築途中の様子を外観から見せてもらったことはある。ただ、あまりにも非現実的で既存のセキュリティがそのまま通用するとは到底思えないんだ」
カレルは意味ありげな物憂げな表情を浮かべた。それをして、トムが提案する。
「そうだ! 先程のフィールさんに案内してもらえないかな?」
「ん、出来るんじゃないか? だいいち彼女は我々の警護役なんだし」
「いいねぇ、わしもそうしてもらいたいな」
タイムとメイヤーが答えた。二人の言葉が示すようにフィールは好意的にアカデミーの彼らに受け入れられている。そして、それを合せるかの様にフィールがタイミングよく彼らの所に姿を現した。足早に近付き彼らにメッセージを告げる。
「みなさま、先程の車内放送をお聞きの通り、若干の間、ビル周辺で待機していただく事になりました。一応、自由行動となっておりますが、ご希望がありましたら案内の者を手配させていただきます。いかがいたしましょうか?」
そのフィールに、ウォルターが問う。
「そうだね。フィールさん、よろしかったらあなたに案内してもらいたいんだが、どうかね?」
「え? わたくしが――、ですか?」
フィールは言葉を詰らせる。彼らの言葉を耳にして弾かれる様に振り向き、驚きの言葉を発した。加えて、ガドニックがさらに告げる。
「フィール、私からも頼むよ。それに君なら案内ぐらい軽いものだろ?」
「はい。わたくしはかまいませんが」
フィールは戸惑いながらも頷いた。その顔には、少なからず喜びの表情が浮かんでいる。初対面で、しかも、他国のVIPの人間にアンドロイドの自分がこれほどまで好意的にされる事に驚いている反面、心底からうれしさを感じてもいる。
「かしこまりました。慎んで、お引き受け致します」
フィールは笑顔で彼らの求めに応じていた。
@ @ @
――やがて、列車は有明1000mビルの地下駅へと滑り込んだ。
有明1000mビルは、有明の余剰土地区画を巧みに利用し、首都高速湾岸高速線をまたぐ様に構築されていた。そのアクセスには有明の「ゆりかもめ線」や首都高速湾岸高速線、営団地下鉄湾岸線、そして、大深度の高速地下鉄道が用いられる。
ビルの周囲には、首都高へと繋がるハイウェイが多数延び、その地上/地下には、多数の鉄道路線が繋がれている。東京湾の海上空港から延びる地下鉄道も繋がれていた。そのため、このビルは湾岸都市「有明」の交通の中心ともなっていた。
1000mビルの第1ブロックは一般に広く開かれたオープンエリアだ。誰もが、自由に出入りできるコミニュケーションエリアとなっている。ショッピングモールから文化施設や娯楽エリアなど多彩なエリアが構築されている。この日も、ビルの施設の全てがサミットのために御される訳ではない。施設のその大半は、すでに一般向けの営業を開始していたのだ。
欧州科学アカデミーを含む全てのサミット参加者は、有明のビルの空間を目の当たりにしながら、それぞれ思い思いに行動を始めた。
ショッピングモールにくりだす者、
カフェテラスなどで休憩する者、
サミット事務局の手配した休憩所で休息をとる者、
そして、ビル内の個人的に関わりのある企業に面会に行く者まで現れた。さらには、場所を借り個人的な仕事を始める者も――
秒刻みのスケジュールを送る特S級の学識者・知識人には、使える時間は例え1分でもおしいと言うのが本音だろう。一方、英国アカデミーの面々はフィールに案内役をたのみ1000mビルの内部を散策していた。無論、常時開放されている第1ブロックのみだが。
フィールは彼らを、ビル内部の螺旋モノレールへと案内する。螺旋モノレールはビル内部の空間の内周部を螺旋状に這うように昇っていく。フィールはアカデミーの面々をモノレールの最後尾に乗せて上を目指す。それにはほとんど彼らしか乗りあわせておらず、そこから見えるビル内部の景観は彼らの独占である。
そこからはこの1000mビルの重要箇所が良く見える。自然とウォルターたちは、感じた疑問をフィールへとぶつける。
ビルの子細な数値データ――
構造物の学術的な解説――
管理システムにまつわる情報処理の面での技術情報――
この1000mビルの政治的/経済的な面での意義――
さらにはこの1000mビルが立てられた経緯までが質問対象に上っている。
フィールはそれらを流れるような巧みな弁舌で解説していた。
「この有明1000mビルは、基本発注者を東京アトランティスプロジェクト推進理事会としており、また、ビル自体はその所有権を地権者である東京都と東京アトランティスプロジェクト推進理事会としております。そして、当ビルは、すでに一般のマスコミなどでも報じられている通り、東京アトランティスプロジェクトの一部として計画されました」
モノレールからは有明の地の腑観図が見えようとしていた。その遠くには、レインボーブリッジの向こうに東京都23区の姿があった。
「そもそも、東京アトランティスプロジェクトは、海外の諸国の大都市と比較して大きく立ち後れた首都東京の国際競争力や、経済能力を強化発展させるために企画されたものです。そして、その背後には日本単独ではなく、汎アジア規模の経済復興のための試金石としての意味合いが含まれております」
頷く者もなく、皆、じっと彼女の解説を聞き入っている。
「20世紀末より、戦後日本はアジアにおける経済復興の牽引役ともいえる立場で様々な方面で活躍してきました。ですが経済支援の偏重や、日本国内への企業参入へのハードルの高さなど、アジア諸国との交流は今一歩、公平さと自由に欠ける物であり、バブル経済期の経済的乱開発の問題もあり、20世紀末の日本は大きく不評を買っておりました」
その言葉に、エリザベスが大きく頷いた。傍らで、ウォルターが渋い顔をしている。ガドニックは二人の仕草に苦笑するしかなかった。
「これに対し、21世紀に入り日本国内では政治にも方針が不安定な時期に入り、幾度かの政権交代を経て、周囲のアジア各国と対等な国際関係を結び、これまでの不均衡な経済関係から脱却しようと言う動きが起こりました。これにはその背景に、第2朝鮮戦争の勃発や。中国の内部分裂危機、中・台統合問題における大国の干渉など、アジア全域へと波及しかねない紛争危機の問題がありました。さらには中近東のイスラム軍事勢力の世界的な拡大による、国際的な紛争不安が広がったことにより、それまでのアメリカ偏重の平和維持システムから脱却しアジア独自の国際平和維持のための体制確立が急務となっていました」
20世紀から21世紀にかけて、世界は戦後の発展の時期を終えて、混迷と停滞の時代へと突入した。その中で日本は平和国家としての使命と、独立国家としてのアイデンティティについて悩み苦しみ続けてきたと言っていい。
「その結果――まず、中国/韓国を除く、各アジア諸国は日本を中心として大規模な政治同盟を準備するに至り、4年前についに政治的に新たに生まれ変わった新中国/新韓国が合流することでアジア全体規模の政治経済連合である「T.A.A.(Total Asian Assocition)」が発足する運びとなりました。日本は、国際社会。特に汎アジア圏における国際貢献の最終段階として、東京湾をメインステージに、日本国が主体で巨大開発事業を起こし、これをT.A.A.に参加するアジア諸国を対象に一定条件のもとに開放し技術経済の両面から諸外国と協力しあう巨大経済計画――東京アトランティスプロジェクトを発表する事となったのです」
フィールは流れるように説明を続けた。その解説の言葉に皆、静かに耳を傾けていた。
しかし、エリザベスはその小首を傾げながらつぶやいた。
「本当にそうかしら?」
エリザベスはポツリと洩らした。
「はい?」
フィールはエリザベスの方を向き彼女の顔を伺い見る。それをして、エリザベスは慌ててかぶりを振った。
「ううん、何でもないわ」
それっきり、彼女は窓の外を向いて沈黙を守った。
エリザベスの髪は、ケルト神話のミューズの様なプラチナブロンドだ。腰の附近まで延びたそれが一種のベールとなり、彼女の本音を巧みに隠す。無論、それっきり誰も話し掛ける事はできない。
フィールも止む無しと言った風である。
@ @ @
一同は、螺旋モノレールを第1ブロックの最上階まで上り詰めた。
そこでモノレールを降りと、そこはレストスペースを兼ねたモノレール用のコンコースだ。そこからはビルの南側の光景が一望できる。周囲には他のビル利用者の人影もあった。アカデミーの面々は衆目を避けてか、窓際へと移動する。
一方でフィールもVIP警護の体験は浅い。基本的な業務マニュアルは学習済みだが実際の任務ではまだまだ知らねばならない事も多かった。今回は事前に警護部のSPのメンバーたちにVIP警護のノウハウについて徹底的に叩き込んでもらったが、一抹の不安はぬぐいきれなかった。
先程のエリザベスの事を除けば、アカデミーの人たちは彼女の解説を熱心に聞き入っている。事務的でもなく気さくに頷きながら彼女に相槌を帰してくる。それに何よりも、見知った仲のガドニック教授の姿もあった。
一同は窓際に立った。そこからはさきほど彼らが降り立った海上空港が見える。東京湾のいたる所で埋立てがなされ、海上を巨大なクレーン船や、双胴の作業船が動いている。その視界の遥か先には、川崎と千葉を連結する東京湾横断道路がある。
そこまでの巨大なエリアが、新たな首都圏のステージだ。
そしてその最中心地が、ここ有明なのだ。
「その日本首都の再生復興プロジェクトにおいて重要な中心計画として実行されたのが、この有明1000mビルでした。そのためこのビルは近い将来において完成されるはずの、東京湾岸の未来型都市群の中枢となるべく造られました。その完成時には、その高さ1000mの頭頂部から、関東一円が見渡せるはずです」
アカデミーの面々は、それぞれに好奇心を働かせながらも、フィールの流暢な英国英語を通じて、1000mビルに関する説明に聞き惚れていた。そして、フィールが1000mビルのセキュリティシステムについての解説を行なった時だ。
「フィール君」
「なんでしょうか? ミスターカレル?」
「その管理センターだがね」
「はい?」
「すまんが、見せていただける様に交渉してはいただけないだろうか」
「えっ? 管理センターをですか?」
「そうだ」
カレルはきっぱりと明言した。ビルの管理センターなど、機密上の理由から通常は見学できない事など誰でも理解できる事実である。だが、カレルはそれをあえて無視して言いきった。単純に忘れたのか、知っているからこそあえてダメ元で要望だけは出しておこうと思ったのか――、
おそらくはカレルの性格から言って後者の方だろう。
フィールは当惑しつつカレルへと弁明する。
「申し訳ございませんが管理センター内は一般の方は防犯上の理由から立入禁止になっていると思われます。他の箇所でしたらご案内できると思われますが」
カレルは思案顔である。そんな二人のやり取りにエリザベスが口を挟んだ。
「マーク、どうしてそんな場所に行きたいの? 何か重要な理由でも?」
「次に発表予定の研究で、こう言った巨大建築物の防犯や犯罪対策についてやってるもので――、どうしても取材情報が欲しいものでね」
「なんだいマーク、こんなとこに来てまで仕事の事かい」
「すまん。無理ならしかたがない」
カレルはあっさりと引き下がった。無理かもしれないと言う事は彼自身も始めから判っていたに違いない。だが、意外なところから上がった声により事態は動き出す。
「入れるよ」
朴訥に、唐突に、告げた者がいた。グループの中で最も若輩のトムである。カレルはがらにもなく顔色を変えて慌てて振り向いた。
「本当か?!」
「うん。今、日本の企業とやってる仕事で、このビルの管理会社の系列の情報通信の技術会社と契約してるんだ。ほら、この手のビルって、内部の情報システムが非常に大規模だし、ビル内で高度なLAN網を引いてるから、そのあたりの仕事を頼まれてるんだよ。ビルとは呼んでいるけどここは実態としては巨大な“街”なんだ。一般的なビル向けのネットワークシステムではコストがかかりすぎて無理があるからね。コストダウンと効率化をテーマに全体システムの構築についてアドバイスを求められていたんだ」
「でも、できるの? 見学申し込みなんて?」
エリザベスが不思議そうに聞く。
「理由はいくらでも付けられるよ。例えば、完成したビル内情報システムを今の機会に見ておきたいとかね。ところでフィールさん、そう言う事ですので、よろしければお取次お願いできませんか?」
トムは完全に勝手に話を進めている。その側ではウォルターまたもが苦い顔をしている。だが、それ以外の面々はまんざらいやそうでもない雰囲気だ。
「そうね、あたしも見ておきたいわ。こう言う事って滅多にあるものじゃないし」
「そうだな。私も同感だね。チャーリー、君はどうだね?」
エリザベス、ホプキンスと続く。ガドニックは微笑みながら答える。
「まぁ、こう言うユニークなハプニングを否定するほど私も不粋じゃない。ただ、礼儀はわきまえんとな。トム、君は今すぐにでも、自分の言うその契約会社に挨拶を兼ねて正式に申し込みしたまえ。このまま直行しても無礼なだけだからな」
「はい、もちろんです」
トムは頷き小型のスマートターミナルをスーツの内ポケットから取り出す。そして、即席に申し込みのメッセージ文書を作り上げると、自分の固有IDでデジタル署名をして早々と送信する。そして、それと同時に、ターミナルの電話機能を用いて会話を始めた。
それから数分ほどして……
「先方の、取締役の方に許可してもらいました。あちらを通じてビルの管理センターに連絡しておくそうです」
フィールは頷きながら答える。
「かしこまりました。そう言う事でしたら私の方からも、管理センターの方に問い合せる事に致します」
そう言うと、フィールも通信を開始した。もっとも、アンドロイドであるため、体内の通信回線を用いた通信であるため、はたから見ると何やら独り言を言ってるようにしか見えない。英国アカデミーの面々は、それを不思議そうにながめていた。フィールは第1・第2ブロックの施設統合管理センターに連絡を入れる。そこには彼女の見知った人々がいたのである。
@ @ @
統合管理センターの一室で、通信ターミナルのコール音が鳴り響く。ビルの管理システムのコンソールにくびったけになっていた鏡石は、傍らでサポートしていたディアリオに頼んで通信ターミナルのコンソールをONにさせた。
「はい、こちら統合管理センター」
小型の液晶ディスプレイにディアリオは問い掛ける。忙しい時であるが、勤めて冷静に応対した。
「失礼します。こちら、特攻装警のフィールです。そちらにどなたかいらっしゃいませんでしょうか?」
フィールの落ち着いたビジネストークが聞こえてきた。向こう側のディスプレイにはいつも見慣れたフィールの顔があった。
「フィールか。何か起きたのか?」
「はい、お願いしたい事が」
「とりあえず、用件を聞こう」
「はい、実は私が護衛させていただいている英国のアカデミーの方がビル内を見学したいとおっしゃるので、管理区画をお見せしたいと思いまして。そちらの承諾をいただきたいのですが、いかがでしょうか?」
ディアリオは、フィールの申込みに少し考え込んだ。来賓の素性は申し分ない方たちだが、だからと言ってそう簡単に許可する訳にも行かない。ここは責任者である鏡石隊長に聞くほかはない。
「少し待ってくれ――、隊長!」
鏡石はビルの管理システムのコンソールに首っ引きである。コンソールの方を向いたまま、ディアリオに返事を返す。
「なに? 手短にお願い」
「フィールが、アカデミーの方々をこちらにて見学させたいと申し込んでいるのですが、いかがしましょうか?」
「え?」
鏡石は思わず驚きと当惑の声で振り向く。彼女はその手を、ターミナルのキーボードの上を走らせながら、自らの記憶を反芻する。そして何かを思い出した。
「あっ! あぁ、さっきそう言えばこのビルの管理会社からなんか連絡あったわね。うん、許可していいわ」
「よろしいのですか?」
意外とあっさりと快諾する鏡石に、ディアリオは拍子抜けした。
「うん。ここでの仕事はもう終わりだし、あとは各階での最終チェックだけだしね。これ以降のチェックは各ブロックに待機してる情報機動隊の隊員に任せるわ。あたしはビルの下層の警備本部で最終チェックの報告を待つだけだから、ここはちょうど空くことになるしね。ディアリオはこのままフィールに合流してちょうだい。但し、英国アカデミー以外の人たちにはくれぐれも内密にしておいてね」
「わかりました」
「あ、それと、サミット会場への入場再開の前に、警備システムの最終チェックを忘れないでね」
「はい、了解しました――、フィール、隊長の許可が出たよ。私は、第2ブロックの最上階層にある統合管理センターの№3エレベーターターミナルで待っている。アカデミーの方々をお連れしてくれ」
「はい、ではその様に」
フィールとディアリオのやり取りが終わり、鏡石とディアリオは作業に戻る。そして、さっそくそれぞれの行動を開始した。
そして、フィールは英国アカデミーの面々を連れて、第2ブロックの最上階へと向かう。ビルの中には、最下層から最上層へとビル全体を貫く3基の超大形ゴンドラエレベーターがある。さすがに80人もの人間が乗れる大形ゴンドラともなれば並の大きさではない。指し渡り、学校の教室1つ分くらいはあるだろうか。
そこには、フィールを始めとする英国アカデミーの面々と警護の警官たちと言ったごくわずかな者たちしか乗っていなかった。
そのゴンドラエレベーターはビルの中をゆっくりと上昇する。その行程は高さ140mほどなのだが、通常のビルの高速エレベーターと異なり、そのスピードは実にのんびりしたものである。
言うなれば、この1000mビルは、それ自体が一種の「街」だ。超大形ゴンドラエレベーターは、その『街』における垂直方向の交通機関と言える。
ゴンドラからは、ビルの内側と外側がよく見渡せる。内側は先に記した通りで、各ブロック毎に特色が出るのは、建築物の無い自由空間をどの様にレイアウト・設計するかだ。その目的や趣旨の違いは色濃く機能的に現れていた。
一般向けの娯楽施設エリアとしての性格が強い第1ブロックは、ビルが密集しており、特にまとまった広い自由空間はとらず、数箇所に分散した自由空間を設けている。無論これはなんらかの2次使用を前提とした既利用区画である。
また、これが第4ブロックとも成れば、敷地内中央に一括して広い敷地を有している。第4ブロックはコンベンション会場や国際会議場……あるいは学術施設などを設けるためにまとまった広い自由空間を必要とするためである。
視点を屋外に向けてみる。するとそこには、奇妙なものが見えてきた。
「なんだね? あれは」
ウォルターがおもわず驚嘆の声を上げる。
「支柱だね。斜めになっているな」
タイムが呟く。
「フィール、あれは?」
「デルタシャフトと言って、ビルの構造を補強するために設けられた傾斜支柱です」
「なんと巨大な」
ガドニック教授の問いにフィールが答える。それを追う様にメイヤーが呟いた。
フィールは、求められなくとも自らデルタシャフトについて解説を始めた。
「デルタシャフトは、ビルの周囲200mの地点から、ビルの第4ブロック附近に向けて斜めに延びた巨大な支柱です。全長360m、傾斜角約55度、特殊軽量鋼材と炭素繊維の中空構造体でできております。本来は、将来全ての建築活動が終了しビル高さが1000mに達した際に、基礎部分の傾斜を防止する事を目的として備えられた物です。それが東西南北の4方向に1本づつ設置されております」
解説を終えたフィールに尋ねる。
「なんだか、これを伝って行けば上の方に上れそうですね」
「はい、デルタシャフトは、3m角の4角形の断面を持っているので、内部の中空部分やシャフトの上面を用いれば、なんとか上る事も可能です。もっとも、最下部から順に高さ3.4mの防御フェンスが5重に設けられていますので通常は無理ですけど」
エレベータはなおも上昇する。すると今度は、土星の輪の様な、環状の人工地盤が見えてきた。ビル本体の各ブロックの高さに合せて設けられた円環状の形の空中大地である。
「こんなものまであるのか」
そこには人工農園や工業施設など様々な種の施設が設けられている。ビルの利用効率を上げるための知恵であった。
そうしている間に、エレベーターは指定のフロアへと到着した。
第1・第2ブロック共通メイン管理センター、第3ブロックと第2ブロックの境目の人工地盤の最下層である。
ゴンドラエレベーターは、透明な光透過性の壁面を過ぎ、人工地盤の内部へと入って行く。人工地盤の周囲の外壁は6面とも強固な構造材であり一切光を通さない。ゴンドラは周囲の景色の見えないセクションで、速度を緩めると停止する。軽い弾む様な電子音のベルと共にドアが開き、列をなしてエレベーターから降りていけば、そこに一人の男性型アンドロイドが礼節をつくして彼らを出迎えてくれたのである。
「皆様、ようこそ、お待ちしておりました」
プラスティック張りの床が光沢を放ち、その彼のシルエットを浮き上がらせている。凛として直立する彼に、ウォルターが英国の代表のリーダーとして自ら進み出た。待っていたアンドロイドはウォルターと握手を交わす。
「英国アカデミー、使節団団長のワイズマンです。今日はご無理を言って申し訳ない」
「いえ、よくおいでくださいました。日本警察・警視庁所属、特攻装警のディアリオともうします。本日は有明1000mビルへようこそおいでくださいました。それでは皆様を、当ビル管理センターへとご案内いたします」
無機質でメカニカルな空気のそのフロアの中で、少し霞がかったダークメタリックブルーのボディは不思議と爽快な気配を伴っていた。洗練された立ち振舞を見せながら、ディアリオはフィールと英国アカデミーの者たちを、ビルの最深部へと招いていったのである。
@ @ @
鏡石は、ゴンドラエレベーターを用いて第1ブロックへと降りてきていた。
目的は警備本部、第1ブロック内にある1000mビル特別分署の一角である。1000mビル内にも警察は存在する。もっとも、正式な警察署ではなく最寄りの有明に管轄を置く湾岸警察署の出張所であり特別交番と言う扱いである。この日、特別分署の会議室の一つが警備本部として用いられていたのだ。
「ご苦労」
警備本部のドアを開けた鏡石を出迎えたのは、警備総責任者の近衛警備1課課長である。
近衛は、警備本部の室内に据えられているビジネスオフィス用の椅子に腰を降ろしていた。
その前の折りたたみテーブルには警備体制に関して記した書類が並び、傍らにはビルの警備状態を示す情報端末が据えられている。部屋の中央にはミーティング用の楕円形状の長く大きいテーブルがある。
近衛が座っている所のテーブルの箇所には湯気をたてるコーヒーカップが置いてあった。
「あら、近衛課長、もうご休憩ですか?」
「ん?」
近衛は鏡石の言葉に疑問の声を上げたが、その意味をすぐに解して笑顔で答えた。
「いや、色々と新たに思案しなければならないことが多くてね、すこし気持ちを落ち着けたくてね。どうだ君も?」
「はい、頂きます」
近衛は同室内の片隅で待機していた女性警官に声をかけるとコーヒーをもう一つ持ってこさせる。それを待つ間に鏡石は近衛と向かい合うように席に腰を下ろした。
「でも、新たな思案って、また何か問題でも?」
「いや、問題というほどではないが、第2科警研からの連絡で新たに研修名目の者が回されるそうだ。新たな新人という事だが、新谷所長が迎えに行っているよ」
「新人? 第2科警研の? 新人の技術者をなんでわざわざ所長さんが現場で迎えるのかしら?」
「その新人と言うのは技術者ではないよ。まぁ、彼としてはここでじっと待っていられないみたいでね」
「行ってしまったんですね?」
鏡石の言葉に近衛は頷いた。
「せっかちだなぁ、相変わらず新谷さんは」
鏡石は苦笑いする。自らも技術者としての面を持つ鏡石は新谷の仕事ぶりや人となりに感じ入るところがあった。
「あの方、じっとしてないんですよね。身体を動かしてないと落ち着かないみたいで」
「しかし、あの方は有能だよ。技術者として頭でっかちではなく、組織のリーダーとして広い視点を持っている。特攻装警という難しい目的のために組織という物の複雑なバランス調整を行いつつ、困難なプロジェクトを着実に進めているからな。加えて対外交渉も巧みだ。わたしもエリオットの開発の際には大変世話になった」
特攻装警の開発は、配属予定の現場との連携が必須となる。真に必要とされる性能を現場の意見から汲み取り、それを開発現場へとフィードバックしなければならない。鏡石はその困難さを技術者として理解できるからこそ、近衛の言葉の意味が痛いほどよく判るのだ。
「そう言えば――」
近衛は鏡石を見る。
「他の方はどうなさったんですか? お一人しかいらっしゃらないんですね」
「あぁ、その事か」
近衛は鏡石の問いに微笑むと、目の前に有る情報端末を鏡石の方へと向ける。それは、若干厚みのある液晶ディスプレイと、ボタンレスの薄膜キーボードとで作られた比較的小型にして簡潔な物である。
近衛はそれを見せて鏡石に答える。
「これがあるから、誰もいらないんだ。ここは私一人が、いざと言う時に頭を抱える部屋だとでも思ってくれればいい」
「かかえる事態にならないといいですわね」
「そうだな」
近衛はその言葉に思わず苦笑いした。鏡石は近衛にさらに問うた。
「その通信端末だけで、今回の全ての警備体制を管理なさるのですか?」
「そうだ。今後もペーパーレスとネットワーク化をさらに進めて、警備体制管理のための装備の簡略化を行っていくそうだ。今回は言わばその試金石だな」
近衛は再び頷く。鏡石は感心しながらも近衛の方へと歩いて行く。鏡石は、へぇ、とでも言いたげな表情で通信端末を覗き込む。
「あ、これって新型の双方向通信なんですね」
「うん、私は詳しい事は判らんのだが、この端末では、このディスプレイパネル一枚でお互いの顔を見れるらしい。現場に居ながらにしてこの警備本部と打ち合せが出来ると言う事だ」
この端末のディスプレイは、偏向フィルターと液晶シャッターの組み合わせる事によって同じシステム内に液晶ディスプレイと小型のパネル型カメラを詰込む事に成功した物である。鏡石も、通常の液晶型ディスプレイと小型CCDカメラとで、同様の原理で作り上げたものは見たことがあった。だが、それでもここまでコンパクトにまとめあげた物となるとまったくの始めてである。
「ところで、このビルの管理システムの状態はどうなってるね?」
「はい、90%程は完了です。あとは最終チェックを待つのみですので、もう10分ほどしたら入場の指示を出せると思います」
「そうか」
鏡石は持参した小型情報ターミナルを開く。そして、最終チェックとしてビルの管理システムのモニター回線へと接続する。
そこに接続するには、本来なら何重にも仕掛けられた厳重なプロテクトを掻い潜らなければならない。だが、鏡石は情報機動隊の特権として、トップランクのアクセス権と管理用IDコードを行使することが可能だ。そのためどこからでも自由にアクセスできるのである。
鏡石が端末を起動させると、さっそくそこに他の情報機動隊からアクセスが開始された。
【鏡石隊長へ連絡。 】
【ビル管理システムの最終チェックの準備完了 】
【チェック開始の支持を請う。 】
鏡石は、ディスプレイに表示されたその文面を確認して、即座に返事のメッセージを返した。
【鏡石了解、これより、最終チェックスタート 】
そして、モニターへと表示される進捗状況を眺めながら、鏡石は出されたコーヒーカップを手にする。
「よしっ、これで最終チェックが終わればオッケーね。時間的余裕は10分ってところね。近衛課長、サミット開始に間に合いました」
鏡石の言葉に近衛は頷いた。
「そうか。助かったよ」
「いえ、これくらい当たり前です。それにまだ最終チェックが完了して始めてOKなので」
当然と言える言葉だ。その言葉に頷きつつも近衛の思案顔は晴れないままであった――
@ @ @
一方で、ディアリオは、英国のアカデミーの者たちを連れてビルのメイン管理センター内を散策していた。――とは言っても見せれるところはたかが知れている。
この管理センター区画にあるのは、ブロック毎に独立したビルの管理システムのメインシステムと、各ブロックやビル全体をコントロールする事の出来るオペレート端末室だけである。だいたいからして、一般の人間に自由に見せれる場所ではない。第3者の見学を考慮しては作られていないのである。
ディアリオは、彼らを先程、鏡石隊長とデバッグ作業を行なっていたオペレーター室へと案内した。あそこなら大形のディスプレイはあるし、ビル全体を解説するには問題の無い場所である。
オペレーター室へと全員が入ってくるが、そこは見学される事を想定していないため、座る場所はそう多くはない。アカデミーの面々は思い思いに自らの居場所を確保した。
その中でも、もっとも積極的にディアリオの説明をきいていたのはカレルである。この管理センターの見学を希望したのは、他でもない彼である。
ディアリオは、オペレーター室の中央端末を操作する。無論、情報処理能力に優れる特攻装警である。キーボードを叩くなどと言う不粋な真似はしない。腹部側面から多芯タイプの超高速仕様の光ケーブルを引出すと中央端末の外部インタフェースのコネクターに接続した。
部屋の奥には、壁一面をかざる巨大な液晶プロジェクターパネルが存在する。そこを通じて、ビル全体を見渡したり、ビル全体の管理システムをモニターする事が可能なのだ。
ディアリオは管理システム本体を触る事はさけた。まだ最終チェックが終わっていないため、うかつにアクセスできないためである。管理システム本体からは独立した上級レベルのモニター回線へとアクセスする。
そのモニター回線は、システム本体とはまったく独立して存在しており、現在のビル内全ての情報処理システムをチェック・監視する事が出来るのである。
ディアリオは、そのモニター回線から、現在の1000mビル全体の情報処理ネットワークの作動模式図を引き出してくる。そしてそれをテキストに見立てて、このビルのシステムについて解説を始めた。無論、防犯上、あたりさわりの無いレベルまでの話である。
そこには、1000mビルの血管や神経とも言える、通信ネットワーク網があった。
このビル内の通信ネットワーク網は原則として環状のLAN網を同心円状に重ねたものである。それが各ブロック毎に存在し、それを縦方向に垂直にバイパス回線を幾重にも設置、ちょうど節のある竹の様な筒状構造が多重に入り込んだ入れ子構造に作り上げている。
さらに、その筒状構造の「節」にあたるのが、各ブロックの人工地盤である。この人工地盤の上には、ビル内空間の建築物にて使用される枝線の通信ネットワーク網が設置されている。
青い線で示される通信回線の中に、様々な色で示された立方体がある。これは、ビル内通信ネットワーク網の中に設けられた様々な情報システムである。例えば、赤い立方体はビルの管理システムのオペレーターシステムを現し、各ブロックの人工地盤の中に数十基ほど存在している。白い立方体は、ビル内の一般向けに使用される汎用コンピューターユニットで、商・工業ビジネスはもちろん学術からパソコン通信、あるいは娯楽目的のものに至るまで、ビルの制御や管理に直接関係しない一般向けの物が基幹システム側から把握されている端末の全てが無数に表示されている。
ディアリオはモニター映像を操作すると、今度は碧の小さな立方体が映し出した。ビル内部の移動体通信である。ディアリオは淡々と解説を続けていた。そんな解説がすすむとカレルが口を開いた。
「未完成部分である、第5ブロックへの拡張はどう言う体制になっているのかね?」
カレルは、この1000mビルのこれから作られる部分に関して尋ねている。当然だすでに出来ている部分だけで完結していたのでは、これからの1000mビルの増築に支障をきたすだろう。だが、それはまったく問題無かった。
「現在、第1ブロックから第4ブロックまでで完結した構造となっておりますが、第4ブロックの最上端には仮設の情報管理センターが設けられています。そこは現在、停止しており稼働しておりませんが、第5ブロック完成時にそなえていつでも使用可能となっていおります」
ディアリオは解説をひと区切りすると、やや思案して皆に告げる。
「実は、ここだけの内密な話ですが――、現在このビルの管理システムはまだ最終チェックが終わっていません。臨時のメンテナンスが今朝に発生したのです。皆様のビル内への入場が遅れたのはそのためです。ですが、これからその最終チェックが開始されます。こちらのディスプレイをごらん下さい」
ディアリオが告げると、ネットワーク網の模式図の中の例の赤い立方体から無数のパラメータやメッセージが描かれている。そして、そこからビル内の至る所へ向けて、最終チェック用のプログラムファイルとその実行メッセージが送られていた。
微細なネットワーク網の模式図の上を、ひとしきり無数のデータやプログラムが走り回る。そして、次々に管理システムの最終チェック結果が報告されてくる。
【 情報各員Bユニット、チェック完了 】
【 情報各員Cユニット、チェック完了 】
【 情報各員Fユニット、チェック完了 】
【 ………
ユニットとは情報機動隊が二人一組で動く際の呼び名である。ちなみに鏡石とディアリオはAユニットである。やがて、全てのチェック結果が届くと、ディスプレイの上に大きくとある一文が表示された。
【 システム・オールグリーン 】
それを視認すると、ディアリオは淡々と告げる。
「最終チェック完了」
エラーメッセージは出ない。全システムにて異常が確認されたというような通報もなかった。
ディアリオは1つの任務の完了に安堵しつつ、英国アカデミーメンバーの方へと振り向き視線を向けてこう宣言したのである。
「それでは、これより有明1000mビルを全面開放し正式な入場を開始致します。皆様をこれより最上部・第4ブロックへとご案内致します」
次回――
第1章 第6話『覚醒』