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第11話 『マリオネット・ディンキー』

第0章第11話公開です。


本作品『特攻装警グラウザー』の著作権は美風慶伍にあります。著作者本人以外による転載の全てを禁じます

這部作品“特攻装警グラウザー”的版權在『美風慶伍』。我們禁止除作者本人之外的所有重印

The copyright of this work "Tokkou Soukei Growser" is in Misaze Keigo. We prohibit all reprints other than the author himself / herself

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 フィールが――首都高湾岸線を、扇島~東扇島の上空を飛ぶ。

 眼下の高速道路では一台の大型トレーラーが北東方向へと逃走している。そのトレーラーの中には、国際級テロリストであるディンキー・アンカーソンの一派が隠れているはずだ。

 そして、今。首都高湾岸線には他の車両は居ない。走行しているのは逃走トレーラーのほかは、それを追う2台の大型トレーラーとその後方に待機する一台のクーペスタイルの警察車両だけだ。特攻装警第4号機ディアリオの駆る情報犯罪対応特化車両ラプターである。


 今、扇島・東扇島一帯は漆黒の闇の中へと落ちている。高速道を照らす街灯はもとより、付近の工場施設の電灯まで遮断されている。ディアリオの遠隔操作により全ての電源系統がカットされたのだ。4台の車両は漆黒の闇の中を、轟音を上げながら追いつ追われつのカーチェイスを繰り広げていたのである。


 それらの4台の車の光景を上空から俯瞰で見下ろしているのは、同じく警視庁特攻装警第6号機であるフィールだ。

 彼女は、自らの視聴覚情報を警察ネット回線へとリアルタイムでアップロードする。

  

〔ディ兄ぃ、画像送信始めるよ!〕


 フィールの呼びかけに兄であるディアリオは答える。

 

〔よし! 見えてるぞ。そのまま監視を続行してくれ〕

〔了解!〕

 

 フィールは、そう明朗に答えると眼下の走行車両と平行して巡航飛行を続ける。

 彼女の視界の中、漆黒の空間を沈黙したまま走行を続ける車両群がある。平均速度はすでに150キロを超えている。扇島と東扇島、2つの島を走り抜けるのにせいぜい2~3分と言うところだろう。

 その中で先に行動を開始したのはディアリオがコントロールする2台のトレーラーである。

 

 自動運転システムをハッキングした2台のトレーラーを遠隔操作で意のままに操っていく。そして、逃走するトレーラーに肉薄するようにアクセル全開で突っ込んでいく。走行する速度はわずかにディアリオが操る2台が上であった。


「やっぱり! お兄ちゃんが操作しているトレーラーは空荷で無人だから無茶できるけど、逃走車には乗員がいるから無理できないんだ――」


 事実そのとおりで、ディアリオは敵を無傷で捉えるつもりは毛頭なかった。無人のトレーラーを遠隔操作しているため心理的に枷がなかったためもあり、むしろ、意図的に事故を誘発させる覚悟で望んでいた。


 まずは一撃、ディアリオの側から見て左側のトレーラーを全開加速させて敵トレーラー後部に激突させる。双方のライトユニットが砕けて電気火花が散る。

 その隙に右のジャブを繰り出すかのように、右側のトレーラーを突っ込ませる。

 衝突させると見せかけて、右手の反対車線側に逃げると運転席部分を、敵トレーラーの後部荷台に並行させると同時にそのハンドルを左に一気に切った。

 

「逃すか!」


 ディアリオの叫びと同時に右からのフックパンチのように、そのトレーラーは逃走車輌に一撃をぶちかました。

 だが、敵も黙ってはいない。

 ぶつけられて、車体を大きくよろけさせたが、内部に乗っている者のことを無視したかのように急加速させてわずかに距離をとる。そして、それと同時に急ブレーキを踏んで追突を誘発させるかのように自らの荷台でカウンターパンチを食らわせた。

 それと同時に、敵トレーラーの後部荷台の後方扉の部分が火柱を吹き上げた。それは燃料への引火では無く、トレーラー荷台内部からもたらされた物のようである。


 その威力は絶大である。瞬時にして、紅蓮の火炎が後方のトレーラーを飲み込んでいく。

 ディアリオは炎に飲み込まれたトレーラーを後方へ下がらせると同時に右側のトレーラーその隙に加速させ、逃走トレーラーと並走させた。

 

 今、逃走トレーラーの後部扉は開いていた。そして、そのトレーラー内部から炎を吹き上げさせた張本人の姿が垣間見えていた。

 

 中から姿が覗いていたのは4人の女性たちの姿だ。

 金髪が2人、プラチナブロンドが1人、黒髪が1人。

 いずれも黒衣のドレスを身にまとっている。それは喪服のようであり、闇夜の中で戦うための戦装束のようでもある。4人の中の1人、黒いロングストレートの長い髪の女性が両手を突き出して立ちすくんでいる。紅蓮の火炎を拭きあげたのはこの女だ。

 

 彼女たちの姿を捉えたディアリオの視界は、フィールにも共有されている。その映像の姿にフィールが問いかける。

  

〔兄ぃ、この娘たち、ディンキー・アンカーソンの部下だよね?〕

〔部下――と言うより、所有物だろう。ディンキーが〝マリオネット〟と自称する武装アンドロイドだ、インターポールの犯罪者データベースには、男性型3体、女性形5体の存在が確認されているそうだ〕

〔そんなに?〕

〔全員、いつもディンキーと行動を密にしているそうだ〕

〔じゃ残りの4人も――、きゃっ!〕


 ディアリオと回線越しに会話をしていたフィールが悲鳴を上げる。逃走トレーラーの屋根を突き破って銀色の光を放つ光弾がフィールの肩口をかすめたのだ。

 

〔どうした?〕

〔高電圧の電気の塊――〝球電〟が飛んできたの! 大丈夫、かすっただけ〕

〔お前が言っていた電磁波使いか!〕

〔そうみたい――っと、また来た!〕


 さらなる攻撃が逃走トレーラーから飛来する。フィールを狙い撃ちにするかのように2連、3連と、休むまもなく幾重にも、フィールを連撃で襲った。

 だが、それにがディアリオが抗った。

 

「させるかっ!」


 並走していた右のトレーラーのハンドルを切り、逃走トレーラーにぶち当てる。だが、そこで信じがたい物を見たのは、今度は兄のディアリオの方である。

 激突させたはずのトレーラーの車体が弾き返される。まるで何かに打撃で殴られたかのようだ。

 フィールとディアリオの視界の中、逃走トレーラーの右側面の扉が開いて、その中から人影が覗いている。ベリーショートのプラチナブロンドで黒いロングコート姿の長身の女性だ。彼女が右拳でディアリオが操るトレーラーを打撃で押し戻したのである。信じがたいほどのタフネスぶりである。

 

〔なんてやつだ――〕

〔国際テロリストの肩書は伊達じゃないみたいだね〕

〔だが、だからと言ってこのまま逃走を許していいわけがない!〕


 歯噛みするディアリオの言葉に、フィールはふとある疑問の言葉を割り込ませた。

 

〔でもさ。お兄ちゃん、これだけ真っ暗にして視界を妨害しているのに、どうしてこんなに器用に運転できるんだろう?〕

〔それは――〕


 ディアリオはフィールからの問いに答えようとしつつ、ふと気付いた。

 

〔――視覚以外の方法で外部を確認しているのか!〕


 その言葉にフィールも気付いた。

 

〔電磁波でのエコーロケーションだね?〕

〔闇夜のコウモリってわけか〕

〔そこまで分かれば十分! ディ兄ィ、フォロー宜しくっ!〕


 フィールは何かにひらめくと賭けに出る決心をする。車輌は扇島を渡り終えるまですぐだ。このまま走り抜けられ海底トンネル部分に入られれば、フィールも上空からは視認できないのだ。なんとしてもここで一気に足止めせざるを得ない。

 すでに兄たちはその身を掛けて決死の攻撃を試みている。自分だけが傍観して良いはずがない。フィールはディアリオに告げると一気に急降下する。そして、逃走トレーラーの前方を飛行しつつスタンバイする。


〔何をする気だフィール?〕

〔こうするのよっ!〕


 フィールは両腕の電磁波加圧チャンバーを作動させる。体内で生成される電磁波を両腕のチャンバーユニットへとバイパスを始めると、数秒のタイムラグを置いて必要十分な出力を確保する。そして南本牧埠頭で行ったように高圧電磁波を浴びせるつもりなのだ。

 それは賭けだった。敵の電磁波能力と自らの電磁波能力、そのどちらが相手を凌駕しているかで勝負の行方は決まる。だが、このままむざむざ逃走を許すほどフィールも気弱ではない。日本警察の最前線に身を置く者として絶対に譲れない最後の一線なのだ。

 両腕内の加圧チャンバーが100%充填完了となるのと同時に、フィールは飛行したまま後方へと振り向く。そして、両腕をかざしながら叫ぶ。

 

「ショック・オシレーション!」


 フィールのその叫びをトリガーとして、彼女の両腕の中に貯められた高圧電磁波が一気に放射される。それは逃走トレーラーの後方を走行するディアリオからも電磁ノイズを視認できるほどの凄まじさである。

 もし仮にこの周辺で携帯やスマホをもっているモノがいたら、一発でショートしているだろう。


 ディアリオもフォローを忘れない。火炎に包まれつつもなおも走行可能なトレーラーをアクセル全開で加速させる。そして、もう一台を炎上しているトレーラーの後方へとつけると2台同時に爆進させる。逃走トレーラーへの再度の体当たりを敢行する。

 

 前方からはフィールの電磁波妨害が――

 後方からは誘爆寸前のトレーラーによる玉突き追突が――、

 挟み撃ちで逃走トレーラーを狙い撃ちにする。

 

 ディアリオも、フィールも、確信していた。

 絶対に逃さない。なんとしてもトレーラーを停止させる。車内に隠れているのが凶悪なテロリストであると明確に判明している今、被疑者の生死よりも確実に身柄を押さえ、それ以上の逃走を不可能にすることの方がなにより優先されるのだ。

 

〔行くぞフィール!〕

〔オッケィ! ディ兄ィ!〕


 2人は互いが行おうとしている事を察すると、掛け合った言葉を合図に、一気に攻撃を仕掛けた。

 フィールは頭部のシェルの中から6本のブースターナイフを取り出すと、片手に3本づつ握り、敵トレーラーに向けて一気に投げ放つ。

 かたや、ディアリオも、まずは炎上しているトレーラーを加速させ激突させる。

 

「もう一つ!」


 そして、それに加えて残る一台を炎上トレーラーの後部へとさらに激突させる。

 後方からの衝撃が逃走トレーラーを揺さぶるのと同時に、フィールが投げ放ったナイフが、トレーラーのフロントガラスを砕き、正面のラジエターグリルを貫き、そして、左のフロントタイヤを切り裂いて瞬時にバーストさせる。


 それに加えて、フィールのショックオシレーションによる電磁的な目潰しの効果も絶大だった。

 逃走トレーラーはもはや制御を失っていた。一旦、左に傾いて、道路脇の防護壁に激突すると、反動で右側を反対車線の方へと弾かれていく。そして、逃走トレーラーは中央分離帯を突き破り乗り越えると、トレーラー全体が、くの字に折れ曲がるジャックナイフ現象を起こしていた。

 

 決まった。これでもう、これ以上は逃走できない――


 ――と、フィールもディアリオも確信を抱いただろう。だが、2人の目の前で起こった事実は、2人の確信を大きく超えるものだった。

 

 真横を向いてしまったトレーラーヘッドだったが、突然、甲高い金属音を響かせた方と思うと、トレーラーヘッドと後方荷台を繋いでいる連結部が引きちぎれてしまったのである。

 フィールが当惑の声をあげる。

 

「え!?」


 ディアリオが驚きの叫びをあげる。


「しまった!」


 2人が追いすがる暇も与えぬままに、ディンキー一派が隠れていた後部荷台は反対車線を斜めに疾走する。そしてそのまま高速道路の側壁を一気に突き破った。

 いや――あるいは、またしてもトレーラー荷室内部から外部へと干渉し道路側壁を破壊したのかもしれなかった。

 いずれにせよ扇島と東扇島の境目の辺り。そこには橋がかかっている。その橋の手前の扇島の側、高速道路の海側の方は道路脇すぐまで海が迫っていた。道路側壁をぶち破ったトレーラー荷室は、闇夜の海面へと向けて一気にダイブする。そののちに海面に大きな水しぶきが吹き上がる。

 沈んだコンテナは再び浮き上がること無く、不気味なほどに速やかに海中へと没したのである。

 

 ディアリオは2台のトレーラーと、自らが駆るラプターを急停車させる。そして、降車すると高速道路脇に駆け寄り、海中へと没していくそのコンテナの姿をじっと見守っている。

 そのディアリオの傍らにフィールが舞い降りてくる。眼前で展開されたその予想外の光景に、ただ困惑するばかりである。


「ディ兄――」


 気まずそうにフィールが問いかけるが、それに答えるディアリオの言葉は、思ったよりも明朗だった。彼はどんな時でも冷静だった。どんなに最悪な状況下でも、次善の策を考えることをやめることはしない主義だ。

 ディアリオはフィールの方を振り向いて告げた。

 

「フィール、周辺海域を探索してくれ! 海上保安庁にも私から協力要請をする。ここまで用意周到な連中が、ただ溺れ死ぬとは考えられない。絶対に生き延びていると考えるのが妥当だからな」


 ディアリオはそう告げながら、すでに関係各所への報告と事態収拾のための協力要請の発信をはじめている。そんな冷徹で狼狽えることのない兄の姿を見ていると、意気消沈するがバカらしくなってくる。ほんの僅かにため息をつくと、フィールは飛行準備をしつつディアリオへと問うた。

 

「わかった、姿を追ってみるね。でもディ兄ィはどうするの?」

「私は後始末をしていくよ、ここまで大仕掛をしかけておいて、放ったらかしと言うわけにはいかないからね」


 振り返れば、大破した2台のトレーラーと、破損した道路施設が目に入ってくる。ましてや道路封鎖と電力遮断まで行ったのだから、適切に報告と協力要請を行わなければ問題化してしまうのは必死だ。フィールはそんな兄をひやかすように問いかける。


「それに、始末書も書かなきゃいけないしね」


 それはディアリオも考えないようにしていたことだった。事をここまで大きくしていたのだから、避けては通れない事実だった。だが今この場では、その事を考えると気が重くなってしかたがない。あえて触れないようにしていたことを指摘されて、ディアリオは思わず声を荒らげた。

 

「フィール!」

「あはは、ごめん!」

 

 フィールは笑い声を上げながら舞い上がると、一路、東京湾の洋上へと向かっていく。その姿はまるでピーターパンとともに宙を舞うティンカーベルのようでもある。

 ディアリオは自らの妹のその姿を眺めていると、重く鬱いだ気持ちがどこかに晴れていく気がする。為さねばならない事はあまりに多いが、それでも〝兄弟〟として生み出された特攻装警たちが力を合わせれば、どんな難事も乗り越えられる――そんな風に思わずにはいられない。

 軽くため息をつきつつフィールの姿を見送る。そして、周囲に視線をくばりながらディアリオも歩き出す。まずは現場保存と情報収集、そして関係各所への協力要請だ。彼が歩みを停めるにはまだ早かった。


さて、次話で、第0章完結です。

どのような結果が待っているでしょうか?



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