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第7話 『1号アトラス』

第0章第7話公開です。

センチュリーに続き拳を振るうのは――




本作品『特攻装警グラウザー』の著作権は美風慶伍にあります。著作者本人以外による転載の全てを禁じます

這部作品“特攻装警グラウザー”的版權在『美風慶伍』。我們禁止除作者本人之外的所有重印

The copyright of this work "Tokkou Soukei Growser" is in Misaze Keigo. We prohibit all reprints other than the author himself / herself

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 センチュリーにやや遅れて立ち上がったのはアトラスだ。

 炎の残渣の残る中、両足を踏みしめながらアスファルトの上、その体を起こした。

 紫の燃焼剤で全身を炎に包まれていたが、敵に対して膝を屈した様子は微塵も無い。

 超硬チタン合金の頭部シェル、その顔面のスリットから覗くのは鋭い眼光を宿した2つの視線。

 右が各種光学センサーが集まったセンサーブロック、左が人間の瞳と同等の光を宿した人工眼球。

 チタン製ヘルメットのゴーグル越し、アトラスのその鋭い左目の視線がハイロンたちを射抜く。その視線に気圧されて、アトラスに向けられた電磁レールガンの銃口がいくつかたじろいだ。そして、戦闘員の中の一人がつぶやく。

 

「バケモノ――」


 アトラスは身につけていたフライトジャケットの燃え残りを引きちぎり投げ捨てる。そして、手にしたプラズマライフルのメインスイッチを投入し直しながら低めの声で告げた。

 

「バケモノで結構」


 低い声のつぶやきはどんな大きな叫び声よりも広く響いた。

 何よりも巧妙に仕組まれていたはずの包囲網のトラップは今まさに完全に崩壊していた。その囲みの破れから一体の手負いの獣の如く、アトラスは歩き出そうとしていた。

 プラズマライフルのモードを高速連射に切り替え、残存する戦闘員を視認する。100名以上居た戦闘員はエリオットにより半数近くに減った。今、アトラスに銃口を向けているのは十名程度。右目のセンサーアレイをフル稼働させ目標形状と構造上の急所を識別して、プラズマライフルの射撃制御にリンクさせる。

 そして、レッドパイソンを両腕で構えると野太く強い声でアトラスは告げた。


「オレたちは、お前たちのような人間辞めたキ印をぶっ潰すために生まれた〝バケモノ〟だからな!!」


 その叫びがトリガーとなり、白銀のプラズマ噴流が迸る。連射される光の弾丸はターゲットの表面で強烈な衝撃波を産みグレネード弾に匹敵する衝撃と破壊力を生む。さらにアトラスは正面のみならず、反時計方向に向きを変えると一回転のターンを切りながら瞬く間にターゲットを打ち倒していく。

 反撃のセラミック弾丸など物でもない。人工皮膚をまとわない金属製のボディならどんな傷を負うとも気にする必要もない。

 エリオットのガトリングカノンとアトラスのプラズマライフル、その2つの兵器の威力はハイロンたちが仕掛けた包囲網を完全に破壊したのだ。


 プラズマライフルを撃ち終えたアトラスを囲んでいた戦闘員の人垣が割れる。そして、その向こうから一人の人影が姿を現した。


「よくも――やってくれたなぁ!」


 アトラスの前に一人の男が立ちはだかっている。総金属製のボディを持つ肉弾格闘系の武装サイボーグのバジリスクだ。顔面だけは生身だが、その頭蓋にまで改造が及んでいることは明白だった。上半身に羽織っていたフード付きコートを脱いで放り投げると、ボクシングスタイルに拳を構えて一気に駆け寄った。

 

「ぶっ潰す!!」


 そう叫びを上げるバジリスクに、アトラスは迷わず最大レベルの出力でレッドパイソンの衝撃波弾を叩き込んだ。出力過剰だが調整している暇はない。赤熱するレーザー光を伴いながらバジリスクのボディ上で炸裂する衝撃波は辺り一面をホワイトアウトさせるほどの光をまき散らした。

 だが、その後の光景に驚きを露わにするのはアトラスの方だった

 

「なんだと?」


 バジリスクのそのボディの表面に多少の焦げはあるものの変形一つなくほぼ無傷だった。その瞬間、アトラスはこの男の最大の武器が何者にも勝る頑強さにあるのだと悟った。こういう相手にレーザーなどの光線兵器は何の意味もなさない。鉛弾ですら手を焼くだろう。図らずも相対する敵が自分と相似形であり、最大の個性が頑強な防御能力にあることを悟った。

 ならばすることは一つだ。

 アトラスはレッドパイソンを放棄すると右手をダッジのボディに立てかけて一気に跳躍する。そして、バジリスクの前に立ちはだかると彼に対して拳を固めた。

 

「諦めろ。お前の上役は逃亡した」


 アトラスの構えは空手のそれだった。左手の手のひらをバジリスクに向けてかざし、右手を腰だめに構えている。バジリスクの拳を正面から受け止めつつ一気に肉弾戦闘で圧倒するつもりなのだ。

 

「アイツなど関係ねぇ。お前をぶっ倒して逃げ延びて、また別な場所で戦うだけだ」


 そう冷たく言い放つバジリスクの言葉には仲間への愛着や畏敬の念は全く感じられなかった。組織への忠誠もない。ただ、戦いをひたすら渇望する狂った心理が垣間見えるだけだ。こういう男を解き放ってはならない。また、どこかの犯罪現場で他人の命を無下に刈り取るだけだ。


「そうはさせん」


 ただシンプルに告げられた言葉のその奥の意図を、バジリスクも即座に理解したらしい。ステップを踏み飛び出すと、アトラスに向けてその拳を解き放つ。

 

「やれるもんなら――」


 バジリスクはアトラスに左と右の拳を素早く繰り出した。

 

「やってみろ! 鉄くず!」


 右の拳でアトラスの顔面を狙えば、アトラスはかざした左手で軽くいなす。左の拳で間髪置かずに胴を狙えばアトラスも右の正拳を繰り出して真っ向から弾く。二人の拳がぶつかり合い、火花を散らす。

 アトラスはさらに攻勢に出る。

 右の正拳を繰り出した勢いのままに、右足を振り抜いて水月蹴りでバジリスクの足元を払う。

 バジリスクはそれを避けて後方に引きつつ、右足を振り上げハイキックでアトラスの頭部を狙った。

 

 アトラスは左腕を縦に構えてバジリスクの蹴りを阻止したが、そこからバジリスクが攻めてくる。

 右足を引いて勢いをさらに加えて、左足で胴を攻める。アトラスが右腕で左足を弾けば、バジリスクはそのまま左足を踏脚して一気に肉薄する。蹴りの連撃で左右に振り回したのちに、左右の拳のジャブを連続して繰り出し始めたのだ。

 バジリスクは拳打の速度を一気に上げた。残像すら捕らえるのが困難なその拳の速度は、生身ではないサイボーグだからこそ出来る攻撃だ。

 アトラスは両掌をバジリスクの方に向けてかざすと、バジリスクのマシンガンの如き鋼の拳の連打を懸命にいなし続ける。アトラスもまたアンドロイドだ。それも総金属製の頑強なフルメタルのボディだ。打撃や衝撃に対しては彼もまた何者にも勝る強度を誇っている。

 そして、アトラスは待っていた。反撃のチャンスの到来することを。特攻装警の長兄の肩書と経歴は伊達ではない。戦闘自慢、格闘のエキスパート、多種多様な戦闘スキルを相手に幾度戦ったか数えきれる物ではない。

 アトラスは知っていた。どんな拳速自慢でも、ハイスピード能力の持ち主でも、攻撃に集中しきるには限界が有ると言うことを。


「どうした! 手も足も出ないか!」

  

 バジリスクの連打の責めがアトラスの両腕の防御をかいくぐり、幾度と無く、そのボディや顔面にヒットしていた。金属同士がぶつかり合い火花が散り、そのたびにアトラスの立ち位置はジリジリと後ろへ後ろへと引き下がっていく。


「所詮貴様は1号機、原理試作の骨董品だ! おとなしく博物館でスクラップになってろ!」


 バジリスクは狙っていた。アトラスの胴体、その胸部の中央に最大の一撃を見舞うことを。バジリスクは己れの拳がアトラスの超高強度チタン合金の外殻を貫けると確信しているのだろう。その自信と慢心とがアトラスへの挑発の言葉として現れるのだ。

 だが、アトラスもまたその両腕の動きと絶妙な体捌きで、恐るべき密度の連続の拳撃をいなし続けていた。あえて反撃はしない。防戦に集中しつつ、敵の挙動を冷静に観察し続ける。そう、チャンスは――

 

――一瞬だけ訪れるのだ――

 

 アトラスは誘う。バジリスクの攻めを。

 蹴りを繰り出す素振りを見せ、両腕の防御を微かに引いてみせる。敢えて隙を作り視線をそらせば、バジリスクは好機を逃すまいと一歩踏み出し右腕全体にすべての力を込める。

 バジリスクの右ストレートがアトラスの胴体を襲う。しかしこれこそがアトラスの狙いだった。

 アトラスの両踵にもダッシュ用のローラーホイールが備わっている。それまで使わずに秘しておいたそれを密かに作動させると、脚底を滑らせるように体捌きをし、わずかにほんの数ミリほど体軸を後方へとズラした。

 そのズレが敵の緻密な攻撃に思わぬ狂いを生み出した。バジリスクの拳はアトラスの胴体をかすめて行く。アトラスの胸部を横薙ぎに火花が散り、バジリスクは体勢を崩す。

 その瞬間、アトラスはバジリスクの右腕を掴み引き寄せ、右膝蹴りで敵の下腹部を強打する。さらに左手の掌底で敵の後頭部を打ち、バジリスクの背面を完全にとった。バジリスクの右腕をさらに強く引いて転倒させれば、バジリスクの反撃する勢いすらも奪い去る。

 光学兵器の最大級の衝撃にも耐えうる馬鹿げたタフネスの持ち主だ。そのボディーにノーマルな攻撃を加えていても埒はあかない。死なないことを考慮しつつも頭部を徹底的に攻めあげる。アトラスはそうするべきなのだと、それまでの経験から確信していた。

 右手を逆手に捻り上げつつ右足でバジリスクの背面を踏み抑える。そして、左足でバジリスクの後頭部を幾度も幾度も踏みつけ続ける。敵が脱出しようともがく動きが鈍るまでアトラスは無慈悲な攻撃を続けた。


 そして――

 

「骨董品は骨董品なりに戦闘経験には自信とキャリアがあるんでね」


 そうつぶやくとアトラスは左の拳の先端から銀色に輝く白刃を突出させる。

 

――伸縮式高周波振動サーベル『パルサーブレード』――


 アトラスの両拳の甲の部分には膨張式の特殊なサーベルブレードが収納されている。通電することで数十倍に膨張する特殊合金で作られたそれは、通電中、強い高周波振動を伴う。それは単なるブレードでは得られない破壊的な切断力を発揮する。

 パルサーブレードを展開し逆手に捻り上げたバジリスクの右腕のその付け根から切断する。そして、左腕の根本にもブレードを突き立てる。

 アトラスは気付いていた。バジリスクが全く反応していないことを。当然、生命の危険も十分に考えられる。だが、やり過ぎたとは思っていない。そもそも、武装サイボーグ相手には手加減自体が不可能なのだ。

 頭から爪先まで凶器と化しているものに対して、どんな配慮が出来るというのだろう?

 拳銃弾すら通じない相手にどんな手加減があるというのだろう?

 両腕を無効化され意識を失っているバジリスクに対してアトラスは告げた。

 

「広域武装暴走族幹部、葛城 遊馬。通称名『バジリスク』、傷害・殺人・殺人未遂・医療サイボーグ規定違反・その他の容疑で身柄を拘束する」


 それがバジリスクに聞こえているかどうかはわからない。

 アトラスは拘束用のワイヤーを取り出す。そして、バジリスクの身体を結束した。

 視線をセンチュリーの方へと向ければ、あっちでも敵幹部との戦闘が決着したところだ。

 残るはあと一人。アトラスはプラズマライフルを拾い上げると再び歩き出した。


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