第6話 『5号エリオット』
第0章第6話 公開しました!
いよいよ第4の特攻装警登場です!
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『南本牧埠頭の突端、そのコンテナヤードの一角。
新型手榴弾と強化型火炎瓶とが凶悪な2つの火柱を噴き上げた。
その火柱の中心に立っていたのは2人のアンドロイド警官〝特攻装警〟
アトラスとセンチュリーは今まさに、為す術を失いつつあった。
それを見据えながらハイロンが告げる。
「ジズ、バジリスク――」
南本牧埠頭の突端、そのコンテナヤードの一角。
新型手榴弾と強化型火炎瓶とが凶悪な2つの火柱を噴き上げた。
その火柱の中心に立っていたのは2人のアンドロイド警官〝特攻装警〟
アトラスとセンチュリーは今まさに、為す術を失いつつあった。
それを見据えながらハイロンが告げる。
「ジズ、バジリスク――」
ハイロンの声に2人は僅かに視線を向け反応する。
「爆風が止んだらトドメを刺せ」
至極当然の命令を出すと、捕らえてある処刑対象をもう一人、まるで吸っていたタバコをもみ消すかのように放電兵器で面白半分に焼き殺す。そして、ハイロンは楽しげにこう告げるのだ。
「これで忌々しい特攻装警は残る3体だ」
スネイルの尖兵の戦闘員たちが電磁レールガンの銃口をアトラスとセンチュリーに向けた。未だ、その2人に反撃の気配はない。
5段に積まれた大型コンテナの頂きで、電磁レールガンを仕込んだ黒人系のサイボーグ男は周囲一帯の状況を静かに見守る。さながら群れの危険を察知するために丘の上に立つ見張り役のプレーリードッグの様に。
彼の眼下で爆炎が踊っている。そこに倒れているはずの2人の特攻装警が骸になるときを、彼はただ静かに見守っていたのである。
@ @ @
その時、地上から〝ソレ〟が見えなかったのは当然である。
だがしかし、それがもし肉眼で見えたとしたら――
まさにそれは鉄塊のように見えただろう。
濃厚なアーミーグリーン。全身をくまなく覆う重装甲。落下傘もなく自由落下しつつ、MHDエアロダイン技術で制御される電磁バーニヤで軌道修正しつつ。正確に南本牧の埠頭のとある場所へと投下される。
彼を投下したのは3機編成のVTOLヘリのうちの一機。東京の警視庁の警備部からの指示で東京ヘリポートから飛び立った物だ。残る2機は神奈川県警の横浜ヘリポートから飛来している。
それは人型である。
アトラスやセンチュリーの様に人間のシルエットを有している。
ただ、アトラスたちと異なるのは、その警察らしからぬ武装の度合いだ。
投下された高度は2000m上空。地上にヘリの消音ローターの音が届かないギリギリの高度だ、
それは南本牧埠頭で繰り広げられる戦いを眼下に望みながら、パラシュートもなく静音落下軌道を描いて地上へと向かっていた
地上到達まであと10秒――
着陸態勢準備、耐ショック防御――、そして、追加増装式の電磁バーニヤをフル稼働させる。
今、眼下にアトラスとセンチュリーが視認できた。
カウント、3、2、1――
彼の着地はまさに爆撃のような衝撃を周囲にもたらしたのだ。
彼の落下の衝撃で南本牧の岸壁のアスファルトに巨大な窪みが生まれた。コンクリートとアスファルトの破片をまき散らし、落下の周囲10mほどに立つ者たちを衝撃で弾き飛ばしそうになる。少なくとも、彼の落下の衝撃を受けて攻撃姿勢を維持できるものは居ない。
両足を開き、膝と腰をかがめた体勢で地上に到達する。そして、目もくらむような電磁バーニヤのキセノン系プラズマガスの噴流を撒き散らしつつ彼は飛来した。
全身に取り付けられていた姿勢制御と減速用の電磁バーニアユニットを、爆破ボルトを作動させて一気に切り離す。同時に全身の簡易システムチェックを行ない異常が無い事を確認する。
【全戦闘システム高速チェック 】
【 ⇒システムオールグリーン】
【戦闘用追加増装チェック 】
【スモークディスチャージャー⇒OK 】
【指向性放電ユニット⇒OK 】
【10ミリ口径マイクロガトリングハンド⇒OK】
【射出式捕縛用ネット⇒OK 】
【脚底部高速移動ダッシュローラー⇒OK 】
それらの武装を追加装備して彼は飛来した。空中投下直前に下された任務を速やかに確認する、
【任務目的:アトラスとセンチュリーの支援 】
【 及び、武装サイボーグ勢力の制圧】
【補足事項:殺害行為と破壊活動の阻止のため 】
【 容疑対象者への攻撃及び殺害を許可】
彼は身体を起こすとディアリオから事前に提供された精密データを元に周囲の〝敵〟と〝要救助者〟を瞬時に視認する。
舞い降りたのはハイロンたちの眼前である。スネイルの犯罪者集団の真っ只中に、まさに空中投下の爆弾の如く彼は落とされたのだ。
同時に、その者の出現をその場に居合わせた全ての者が嫌でも目の当たりにしていた。
ハイロンは驚愕の声を上げる。
「エリオット?!」
そうだ。その者の名はエリオット。
次いでジズが絶叫する。
「どっから湧いて来やがった!?」
あまりに唐突な予想すら出来ない現れ方だった。
残るバジリスクは冷静に敵の出現を分析する。
「ちっ、消音ローターヘリで超高空から飛び降りてきやがったな!」
そう吐き捨てながら両の拳を固める。そして、エリオットの存在を視認したドレッドヘアの速射レールガンの男が配下の戦闘員たちに叫んだ。
「Killing! Shoot! Shoot! Shoot!」
強い口調でアメリカ訛の英語が飛ぶ。その命令に促されて全ての電磁レールガンの銃口がエリオットの方を向く。悪意と敵意を突き固めた弾丸は高圧レールガンの電磁パルスを撒き散らしながら一人の男を襲った。片や、彼は明確に宣言する。その攻撃に反抗するために。
「任務開始」
その名はエリオット、特攻装警第5号機、警視庁警備部警備一課所属の1体。
凶悪犯罪事案の最前線で戦う重装備タイプ。センチュリーやディアリオのように頭部のみリアルタイプで、それ以外は重戦闘を想定したメカニックボディの持ち主だ。
【 スモークディスチャージャー起動 】
【 弾種:白煙低濃度、レーダー妨害煙霧 】
両肩に装備されたユニットからサイボーグの視覚を奪う特殊な妨害煙幕を噴霧する。敵の攻撃を適度に阻害し、自分の側では最低限必要な視覚を確保する。混戦状態で自らを護るための煙幕だ。その白煙に阻まれて戦闘員の電磁レールガンの放った弾丸はエリオットを容易には補足できないでいる。
【 脚底部高速移動ダッシュローラー起動 】
次いで作動させたのは、脚底部に装着したダッシュローラー装置だ。金属製のホイールがアスファルトの上で火花を散らしながらエリオットの機体を高速移動させる。そして、視覚センサーをフルに使い攻撃対象たるスネイルの戦闘員に向けて銃口を向けた。
【 10ミリ口径マイクロガトリング 】
【 ハンドカノン起動 】
【 マルチターゲット照準制御・多目標同時補足】
両手で保持しているのは10ミリ口径で6本の銃身を持つガトリング銃スタイルのハンドカノンだ。総重量は25キロを超えエリオットにしか扱えないシロモノだ。ガトリングハンドカノンに電源を投入すると速やかにターゲットを補足する。
【広域武装暴走族スネイルドラゴン 】
【実働戦闘部隊戦闘要員、標準メンバー 】
【 サイボーグ改造所見推測データ】
【 】
【両上肢、両下肢、戦闘用義肢換装済み。 】
【 医療用義肢法的性能基準違反】
【頭部頭蓋周囲、及び、胴体肋骨周囲、及び 】
【 腹部前面、防弾金属メッシュ皮下移植済み】
【脳内中枢神経興奮増強信号装置、及び、 】
【 ノルアドレナリンブースター移植済み】
【その他、戦闘用途目的に、視聴覚系統改造済み】
【 】
【戦闘アシストデータ・附則 】
【攻撃対象:高耐久ボディ、積極的攻撃を要する】
戦闘開始前に与えられた情報を元に攻撃対象を分析すれば、敵は筋力の増強よりも防御力の方を重視したタイプだ。ならば一切の手加減と遠慮は要らない。弾種を対サイボーグ用の高速徹甲弾で貫通力を重視したタイプに決定すると銃撃戦へと突入した。
「攻撃開始」
まるで深夜の夜霧のように視界を遮る人工の白煙の中、電磁レールガンのセラミック弾頭が、赤熱した軌跡を空間に描きながら飛び交っていた。エリオットの両足の下で金属ホイールが火花を撒き散らしながらうなりを上げている。
エリオットの濃緑の装甲ボディの上でセラミック弾頭が幾度も弾けるが、その程度でダメージを受けるような機体ではない。敵の攻撃を物ともせずにエリオットは徹甲弾丸を敵戦闘員へと幾重にも叩き込んでいく。
【 マルチターゲットロック 】
【 多目的射撃制御スタート 】
エリオットの視界の中、攻撃対象を自動識別して行く。射撃ポイントは両肩、そして大腿部。重要臓器の収まる頭部と胴体は可能な限り回避する。そうしてエリオットは敵の無力化を速やかにこなしていく。
白煙の中、次々と倒れていくのはスネイルの戦闘員たちだ。彼らが銃火を交えている相手は生身の機動隊員などではない。軍用戦車並みの装甲と重火器を装備した唯一無二の重武装アンドロイドなのだ。
そして、一陣の風が吹く。
エリオットの張り巡らせた煙幕が風に流されて少しづつ晴れていく。
月光下の薄明かりの中、攻撃の意思を形にして悪意と犯罪行為の前に立ちはだかる者が居る。
そのエリオットに向けてコンテナの最上段から、あのドレッドヘアの電磁レールガンの男が、右腕に仕込んでいた電磁レールガンでエリオットを狙撃しようとする。しかし、エリオットはそれを一瞥もすることなく、左肩から一条の紫電を一直線に迸らせて攻撃を阻止する。ドレッドヘアの男は一発も撃つこと無く地上へと落下したのだ。
【 指向性放電ユニット起動 】
【 >3次元シュミレーターによる 】
【 自動追尾攻撃成功 】
エリオットの視界の中、サブ頭脳から示される電子メッセージが流れていた。その時エリオットはハイロンたちに背中を向けて立っていたが、次なる攻撃対象へと顔を振り向かせた。作戦行動時のエリオットの視線には人間味よりも、戦闘機械としての冷酷さの方が何よりも感じられる。すなわちエリオットのその視線はプロフェッショナル狙撃手のスコープ越しに送られる殺意のようなものだ。
次なる攻撃対象――、それはハイロンだ。
「糞っ!!」
ハイロンはそう吐き捨てると後ろににじり去るようにその場から離れようとし、その動きをカバーするのはジズとバジリスクだ。
「行きな!」
「ここは引き受ける」
彼らにはまだ成すべき企みがある。むざむざ捕らえられる訳にはいかない。その2人がハイロンをかばいつつ視線を向ける先には2つの影がある。
一人はセンチュリー。全身に焼け焦げ痕を残しつつ、彼は力強く立ち上がった。
「そうはさせるかよ!」
ヘルメットのゴーグルの左側が若干破損しているが致命的なダメージは感じられなかった。センチュリーは両の拳を固めつつエリオットに語りかける。
「エリオット、恩に着るぜ!」
その声を耳にしてもエリオットは頷くだけで微笑みすら見せない。冷徹に、そして正確に、要攻撃対象と認識した相手を攻撃し無力化するだけだ。センチュリーは、エリオットのその反応を一瞥して両足に強く力を込めるとひときわ高く跳躍する。
センチュリーは跳躍しつつ腰の裏側に収納させていた特殊装備を作動させ展開する。それは最大で数十mを超す長さの特殊ワイヤーであり単なる捕縛ツールでは無かった。
【ダイヤモンドセラミックマイクロマシン能動連結ワイヤー『アクセルケーブル』】
ダイヤモンドセラミック製の微細なマイクロマシンアクチュエーターを連結しワイヤーケーブルを構成、アクチュエーターが作動することでケーブル自らが形状を変える特殊攻撃ツール――
センチュリー専用装備アクセルケーブルは単なるワイヤーとは違う。一つ一つのミリ以下のサイズの単位ユニットには中央の単分子ワイヤー芯材の周囲に3本のアクチュエーターが備わっている。その単位ユニットのアクチュエーターが個別に可動することでセンチュリーの意図するままに屈曲し、その使用形状を変えることが出来るのだ。
巻きつき、打突、障害物回避、はてはチェーンソーのように目標物の切断までマルチに使用可能なツールアイテムである。
跳躍したセンチュリーは、さらに自らの装備を作動させる。
MHDエアロダイン技術を利用した動体制御システムがセンチュリーには備わっている。自らの周囲の大気を電磁気的に積極的に制御して自ら気流を生む。そして、高速移動や滑空を行うことが可能な機能だ。装備名『ウィンダイバー』――
センチュリーはウィンダイバーで姿勢と軌道を制御しつつ飛び降りる先はハイロンの立つ場所だ。そして左右の腕で振り上げた二振りのアクセルケーブルをチェーンソーのように突き出す。
それを視認していたエリオットが左手首下側に装備している射出式の捕縛ネットを作動させた。狙う先は、ハイロンたちに襲われていた制裁対象となっていた下部組織の者たちだ。
ネットの先端にはマイクロロケットモーターによる6つの超小型推進ユニットが備わっている。小型プロセッサーによる制御で推進飛行しつつエリオットが視認した目標を正確に包み込み捕縛する。ハイロンやスネイルドラゴン戦闘員に処分されようとしていた彼らは、エリオットの放った捕縛ネットで包まれ瞬時に保護される。
ネットは絶縁性能があり網の目が細かいためハイロンの電撃も阻止し、多少の弾丸は貫通を許さない。逃亡も移動もできなくなるが、生身のままでうずくまるよりははるかに安全だ。
飛び込んだセンチュリーはハイロンの両腕の付け根を狙う。ハイロンの攻撃装備であるその両腕を一気に奪うためだ。
それを察知し咄嗟に後方に跳躍しようとするハイロン。
その動きを読んでアトラスが先回りレッドパイソンの衝撃波の弾をハイロン背後の退路に向けて打ち込んでけん制する。
センチュリーのアクセルケーブルは右のワイヤーこそかわされたものの、左のワイヤーはハイロンの右肩にしっかり食い込んでいた。
そして、センチュリーが左手のアクセルワイヤーのグリップを引けば、ハイロンの肩関節が引き裂かれて右腕がもぎれていく。間髪置かずにレッドパイソンのプラズマ衝撃波がその上半身を襲う。ハイロンは左薙ぎにふっとばされた。
センチュリーがさらに攻撃を加えるべくアクセルケーブルを操作する。振り下ろした2本のケーブルを再度振り上げると、今度こそ確実に無力化すべく両腕を肩の根本から切り落とそうとする。
そもそも――
この時代の裁判事例でも違法サイボーグの武装された義肢は『凶器』であると認定する判例がいくつも出ている。犯罪の阻止のためには凶器は無力化されなければならない。違法な義肢の破壊や無力化は緊急行為として必要なものだ。
だが、そのセンチュリーの第2撃に割り込んでくる影がある。ワイヤー使いのジズだ。ジズはセンチュリーの首筋を襲った。両腕の十指の先端から精製放出される単分子ワイヤーを怒れるタランチュラの如く射出しながら、センチュリーのその頭部を一気に切断するつもりなのだ。
センチュリーは咄嗟にアクセルケーブルをコントロールし、己の右側でアクセルケーブルを旋回させるとジズの単分子ワイヤーを弾き飛ばしその攻撃を回避した。
センチュリーのその動きを先読みし、ジズはワイヤーを張り巡らせる。周囲のコンテナや、ガントリークレーンの支柱などで蜘蛛の巣の如きフィールドを作ろうとしているのだ。
「逃がしゃしないよ! その首、切り落としてやる!」
怒りとも狂気ともつかぬ表情に顔を歪ませるジズ。だが、その状況に置かれてもセンチュリーに焦りの色は浮かんでこない。
「面白え! やれるもんならやってみやがれ!」
ハイロンの身柄を抑えるためには、これ以上は余分な手間はかけられない。センチュリーは一気に勝負を決めに出た。
「お前のワイヤーでコイツが切れるかやってみろ!!」
アクセルケーブルを鞭のようにしならせて振り回すと、敢えてジズを挑発した。その言葉にジズは顔を歪ませると同時に精製できる最大限のワイヤーをすべて放った。
ジズの単分子ワイヤーが周囲の構造物を利用しつつ、センチュリーの周囲360度を包み込んで一斉に襲いかかるのだ。
「その挑発、のったぁ!」
ジズの自信には根拠があった。ワイヤー素材は軌道エレベーターの素材にも用いれる高純度・超強度の単分子ワイヤーだ。相手となる素材がどうであれ遮られない確信がある。
片やセンチュリーは、十本の糸が周囲から襲ってくるのを察知しつつ、両方の踵部に備わったダッシュホイールを急回転させる。弾き出されるように跳び出すと左手のアクセルケーブルを自分の頭上から螺旋状に解き放ち、自らの体の周囲で急速旋回させる。
左のアクセルケーブルを自らを包み込み身を守る防御として使いつつ、右のケーブルを掌の中に戻す。そのまま右腕を後ろに引き、左半身を前に出し、ジズとの間合いを一気に詰めた。
ジズは単分子ワイヤーを操りつつセンチュリーを捕縛し拘束する様を思い描いていた。敵の身の自由を奪いつつ、その手足をワイヤーの鋭利さで切り刻む光景を明確に思い描いたのだ。
だが――現実はそうはならない。センチュリーの操るアクセルケーブルはジズの放った単分子ワイヤーを儚い蜘蛛の糸を薙ぎ払うように刻んでいく。
「なにィッ!?」
センチュリーは、狼狽するジズの表情を正面から捉えつつ、自らを作ってくれた創造者たちの技術力の高さに心の中で密かに感謝していた。ジズのワイヤーと己れのケーブル。その対立に理論的に確信があったわけではない。ただ、自らの身体とそれを構成する数多の技術力への信頼が、この〝賭け〟に彼を挑ませたのだ。
センチュリーはジズに防御をさせる隙を与えずに肉薄する。続いて、左のダッシュホイールを急停止する。そして、後ろに引いていた右の拳を腰だめに構えると、左を軸足にして右半身を前方へと弾きだす。
右半身を前方へ繰り出しつつ右の拳を一気に突き出す。そして、拳の握りを変えると掌底をジズの胸骨の下部へと叩き込んだ。センチュリーはジズに向けて肉薄したまま告げる。
「親御さんに詫びろ! せっかく産んでくれた身体を無駄にしてすまねぇとな!」
その言葉がジズに届いたかはわからない。
ただ、少年犯罪に向き合う日々の中で、いたずらにサイボーグ技術で己れを変えてしまう若者たちと、自らの子供たちのその姿を嘆き、サイボーグ化を食い止められなかったことへの悔恨を抱く親たちの姿をセンチュリーは数えきれぬほど目の当たりにしてきた。
いつの時代でも〝我が子の堕ちていく姿〟は情愛ある親にとってはこの上ない苦痛なのだ。
だからこそセンチュリーは犯罪サイボーグの若者たちを銃火器ではなく拳で静止したいと思うのだ。拳と言う愛の鞭で、その魂が過ちに気づくことを願って――
センチュリーの掌底の衝撃がジズの胴体を貫き彼女の意識は一気に喪失する。糸の切れたマリオネットの如く、その身体はアスファルトの上を転げまわる。それにすぐに駆け寄るとアクセルケーブルのグリップを腰後ろに収納しつつ所定の口上を告げたのだ。
「広域武装暴走族幹部、通称名『ジズ』、傷害・殺人・殺人未遂・医療サイボーグ規定違反・その他の容疑で身柄を拘束する!」
しかるのちに所定の口上を宣言して、彼女の意識レベルを確認すれば、深い昏倒状態ですぐには回復しないのは確かだ。拘束用のワイヤーを取り出すとその体をガッチリと固定する。
「しばらく眠ってな、目覚めた時は檻の中だ」
センチュリーはジズの横顔を眺めつつ、次なるターゲットを追う。
狙うのはハイロン――、数多くの人々の運命と人生を捻じ曲げたを男である。