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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]  作者: 美風慶伍
第2章サイドB『魔窟の洋上楼閣都市』第6部『決戦編』
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サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part56 『決戦・ヤタガラス』

現れた極秘部隊、その名は――


サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part56


スタートです

 今から約10年前の事だ。

 日本警察は帰路に立たされていた。

 犯罪状況は未来化・ハイテク化の一途をたどっていた。

 かつての21世紀当初の3Dプリンターによる密造銃など比較にならない勢いで、違法ハイテクが社会の裏側やアンダーグラウンドで着実に広がりを見せていたのだ。

 さらにそこに拍車をかけたのがサイボーグ技術の出現と、民生用ロボットの爆発的な普及だった。

 年齢別人工分布の変化も後押しとなり、労働力の不足を補う意味で、社会の社会の様々な場所にロボットやアンドロイドは着実に根を下ろし始めていた。

 さらに外国資本の流入や、外国人労働力の増加も加わり、日本と言う国の主要都市の治安状況――さらには犯罪のスタイルは急激に変化していった。

 日本の治安は確実に最悪の方向へと向かい始めていたのだ。

 これにして日本警察は当初、刑事警察の総力をあげ、さらに機動隊やSATと言った既存の制圧部隊を駆使することで、かかる凶悪事件の増加を食い止められる――と、信じていた。警察こそは社会の平和の担い手――そう信じて疑わなかった。

 だが、それが幻想であったことを思い知らされる事となる。


 違法サイボーグ犯罪や不法アンドロイドは当初、散発的に登場していたのだが、徐々に組織化され、地下流通マーケットも整備されていく。サイボーグ手術のための地下病院も出現し、より巧妙かつシステマチックになっていく。

 そしてそれらは多数の犯罪組織によって運営されており、多数の闇金が蠢く一大市場を形成し始めるのだ。

 

 非合法な形で闇の技術を提供するもの

 それを実行するのに必要な物資や資材を不法な形で調達するもの

 人目につかないようにアンダーグラウンドで施設や場所を提供するもの

 表社会に目につかないように地下通貨を整備し流通させるもの

 それを維持し、かつ日本国の内外とのなかだちを担うもの

 それらの組織やシステムを維持し、法の監視の目から隠そうとするもの

 表社会の一般組織に偽装し、資金調達や人的資産の確保を行うもの

 人材や労働力を調達し提供するもの

 不法住民の衣食住を確保提供するもの

 そして――

 組織抗争に必要な戦闘力を提供するもの

 脱落者や敵対者を処分するもの

 不要〝物〟を廃棄するもの――

 

 それは社会の地下と裏側で確実に広がりを見せ、ステルス化されたネットワーク化していく。

 表社会の住人たちが気づいた時には事態はきわめて深刻な状況に陥っていたのだ。


 もはや、抜き差しならなかった。

 そして日本警察は悟る。彼らの有する治安維持のための制圧戦闘力が『時代遅れ』の物となっていたことを――

 

 日本政府と日本警察は決断をする。

 早急に〝新時代に即した適切な戦闘力を有した犯罪制圧組織〟を生み出すことを――

 そして彼らは結成される

 

【日本警察・武装警官部隊『盤古』】


 アジア全域にその名を残す古の世界創生の巨人の名を冠した、最新鋭のハイテク戦闘部隊の誕生である。

 

 

 @     @     @

 

 

 上空に待機する三機の静音ローターステルスヘリ

最大で十四名の搭乗を可能にする最新鋭機である。隠密性能が極めて高く、極めて速やかに作戦エリアへと盤古隊員たちを作戦エリアへと送り込むことが可能なのである。


それまで秘匿されていた機体だったが、今日この夜、初めてそのベールを脱いだのである。


〔全ヤタガラス隊員に告ぐ〕


 そのヘリに機乗する盤古隊員たちのヘルメットへと秘匿音声が伝えられる。声の主はヤタガラス指揮官である大隊長の檜枝岐である。


〔作戦開始! 全機吶喊!〕


 そして、ヘリ機体の左右と後部のハッチから、ダークガンメタリックブルーのプロテクタースーツに身を包んだヤタガラス盤古隊員たちが一斉にノーロープ降下を開始した。

 スーツの背面に装着しているのは圧縮ガスを噴射することで降下速度を減殺する、ジェットパック飛行ユニットである。

 半透明な白煙を噴き上げながら、その30体のシルエットは天空から舞い降りてくる。

 地上から彼らを扇ぐものから見れば、ヘリ機体の強力サーチライトの光を浴びてそのシルエットだけが強烈な印象を与えて接近してくるだろう。

 それはまさに――『天界の軍勢』

 日の本の帝を導く神の使い。

 三本足のカラス【ヤタガラス】である。


 その盤古隊員たちの運用するプロテクタースーツは、そもそも――


・軽武装タイプ

・標準武装タイプ

・重武装タイプ


――の三つに分かれる。軽度警戒任務用の軽武装、一般制圧任務用の標準武装、重戦闘を想定した強行制圧任務用の重武装タイプである。

 だが――


「な、ナンダ? それハ? そんなプロテクタースーツ。俺は知らンゾ!」


 字田が苛立ちを隠さずに驚きの声を上げた。それはまさに黒い盤古である彼にとっても想定外の代物だったのだ。


 上空からノーロープパラトルーパー降下してきた30駆の盤古隊員たちは、すでに降下中からそれぞれが攻撃すべき対象を確認済みであった。

 狙うは字田が操る十体の蜘蛛型子機体。その多機能性ナノマシンによる攻撃吸収能力は無効化済み。通常攻撃で十分対処可能である。

 彼らが所持する武装は銃身を切り詰めショートバレル化したM240E6機関銃、並びに軍用オートマチックライフルG110Aである。これに加えてそれぞれの隊員の特性に合わせ異なる武装が支給されている。

 降下中からすでに攻撃は開始されていた。


――タタタタタタ!――


 甲高い独特の連続音を響かせながら対機械戦闘用の高速徹甲弾が乱射される。鉛弾による無慈悲な洗礼は確実かつ一気に蜘蛛型子機体の防御力を削っていくのだ。

 だが、それを漫然と指をくわえて見ている字田ではない。時分割制御された自我による同時制御を駆使しながら10体の子機体からの攻撃を開始していた。

 

「糞ぉッ!」


 悪態をつきながら字田は子機体に装備されていた武装を起動する。


――10ミリ口径モーターガトリングカノン――


 子機体の頭部正面右脇に供えられたそれは、1分間に1千発を目標へと叩き込むことが可能だ。

 自らの機体の、後部を下げ、頭部を持ち上げると、ガトリングカノンの銃口を上空へと向けたのである。


――ギュイイイイン――


 ガトリングカノンの電動モーターが作動音を響かせる。そして――


――ヴォオオオオオオン――


 引き金が引かれ10ミリ口径の鉛弾は上空へ向けて解き放たれたのだ。だが――


〔回避!〕


 降下してくる盤古隊員たちは何も精鋭揃いである。降下中での、地上からの攻撃に対する対処法はすでに見つけていた。

 彼らが、原則としてロープを用いない、ノーロープの降下行動を行うのはこのような状況が常に考えられるからである。

 盤古隊員たちは、背面に備わったジェットパックの機能をフルに駆使しながら、巧みに地上からの弾丸を躱していく。

 それはまさに、翼を持つが如しである。

 しかし字田とて盤古隊員である。ノーロープパラトルーパーの詳細は熟知している。その空中移動能力限界すらも。だからこそ、ガトリングカノンで対空砲火を撒き散らしたのだ。しかし――


「か、回避能力が向上してイルだとぉ?」


 驚きを隠しきれなかったのは字田である。眼前の青黒いボディの盤古たちのそれは、明らかにそれまでのノーロープパラトルーパー回避能力を凌駕していたからである。まるで翼でも持つかのように横方向へと自在にスライドを繰り返すのだ。それはまるで、有明でバイクで大空へとダイブしたセンチュリーの様である。


 字田が驚愕している間にも彼らヤタガラスの盤古たちはやすやすと地上へと舞い降りていた。

 そして、1つの子機体に対して3名の隊員で包囲すると更なる攻撃を行う。

 M240E6機関銃――

 G110Aオートマチックライフル――

 そして10番ゲージと言う市場ではお目にかかれないフルカスタムのショートバレル大口径ショットガン――

 それらを駆使して、着実にターゲットを破壊していく。


 だが――


「ヤメろおおオォ!」


 字田の狂気ばしった叫びが響く。それは俺の半身を削り取られるが如しの苦悶の叫びであった。

 字田は鋼の六脚をけたたましく鳴らしながら踏み出そうとする。攻撃の矛先がヤタガラスの盤古隊員たちに向けられているのは明らかだった。だが――


「させるかぁっ!」


――強く声を上げて進み出て、字田の行動を遮ったのは、誰であろう〝グラウザー〟その人であった。

 グラウザーは両足を踏み鳴らししっかりと大地に立つと、両拳に力を貯めていた。

 紫電を拳にまとわりつかせて、真っ向から迎撃の体制を取ろうとしている。自ら数歩進みだすと右足を前に震脚させて左拳を引いて構える。右拳は牽制の体勢である。

 対する字田は右の怪腕を振り上げグラウザーに叩きつけようとしている。

 グラウザーの左拳と、字田の右腕――

 そのぶつかり合いだと、誰もが思った。

 しかし――


 字田の蜘蛛のごとき不気味なクラスターカメラアイが不穏な光を放っていた。


――ウィン……――


 その作動音は微妙であり、よほど耳を澄ませねば聞こえなかっただろう。

 だが、字田の蜘蛛のごときボディの下面側、そこには一基の7ミリ径超小型モーターガトリングカノンが束ねられた銃口を覗かせていたのだ。

 バレルはすでに回転を始めている。そして弾丸が大量に発射される……、その刹那である。


――ガチャッ――


 手にしていた最新鋭の銃器を構える、一人のシルエットがあった。

 字田がマイクロモーターガトリングカノンを発射させるよりも早く、〝その者〟は先手を打って攻撃を仕掛けたのである。


――パォウッ――


 超小型のグレネードランチャー、10番口径のショットガンを兼ねたそれは、一発のマイクログレネード弾をグラウザーの腰脇を掠めつつ字田へと打ちこむ。

 混乱する戦闘現場の中とは言え、恐るべき精密射撃である。

 そしてその弾丸は、字田の秘匿兵装を破壊するのには十分だったのである。


――ドオオオオォォオオン!――


 大音響を奏でながら、そのグレネード弾は字田のマイクロモーターガトリングカノンを破壊せしめた。そしてそれは字田を驚愕させるのには十分だったのである。

 

「ガァアアアッ!!」


 字田は獣のごとき苦悶を響かせた。そしてその隙を突いて、字田にマイクログレネードを打ち込んだ件の隊員が速やかに接近してきたのである。そしてグラウザーの隣に並び立つとヘルメットの音声システムを経由して警察無線回線で話しかけてきたのだ。

 

〔聞こえるか。特7号グラウザー〕


 グラウザーは速やかに返答する。

 

〔はい、聞こえます〕


 返された声に傍らの盤古隊員は頷きつつ、さらなる言葉を発した。

 

〔此処から先、私と君とで連携を取る〕

〔連携――ですか?〕

〔そうだ、現在我々が装着している第4世代のプロテクタースーツならそれが可能だ〕


 疑念を持つ余裕はない。それにヘリから降下してからの彼らの行動はそれまでの盤古隊員のそれを大きく凌駕する物だった。かつて有明1000ビルの戦場で目の当たりにした姿とは明らかに異なるのだ。だからこそグラウザーは敢えて問うた。

 

〔僕の速度について来れますか?〕


 その問に、盤古隊員の彼はヘルメットの中で笑ったような気がしたのだ。

 

〔グラウザー――今日は私が君の兄弟だと思って遠慮なく加勢を期待してくれ〕


 それがグラウザーの疑念に対する答えだった。拒む理由はどこにもない。

 

〔わかりました。お願いします〕


 グラウザーはその隊員の名を敢えて問わなかった。問わずともわかる気がしたからだ。

 今まで一緒にくつわを並べて戦ったことはない。だが、その人となりはよく分かっている。他の特攻装警の兄弟たちからも聞かされたことがある。かつて弥生慰霊堂での慰霊祭の時に語らったこともある。

 そう――

 彼は本来ならここには居ないはずの人物だったのである。

 その彼が言う。

 

〔すまん、少し時間をもらう〕


 そう語りながら数歩歩み出る。そして、顔面近くにグレネードをまともに食らった字田の前に立ちはだかったのだ

 その人物はプロテクタースーツのマスク越しに、電子拡声システムで適度な音量で語りかけた。

 

〔無様だな。字田――かつては私の戦友だったと言うのに〕


 その言葉に字田はハッとなる。そして、そのマスクを凝視する。

 

「オ、お前は――?」


 漏れる疑念の声。だが相手は意に介さない。

 

〔先程のマイクロガトリング――暗器めいた使い方はお前の十八番(おはこ)だったな。よく袖の中にスリーブガンを隠しておいて油断した犯罪者を撃ち抜いた事もある。字田――、おまえはあの頃から残忍だった。そして容赦が無かった〕


 字田の過去を引き出しながらその人物は語りかける。そしてヘルメット内で音声で操作指示を出す。

 

〔――フェイスマスク展開――〕


 盤古隊員のプロテクタースーツの顔面は丸い2連レンズ形状のゴーグルと流面的なフェイスマスクとで構成されている。

 2連レンズゴーグルがロック解除され上へとせり上がり、目元が露出し、さらにフェイスマスクも顔面を開放するかのように上方へと跳ね上がる。しかるのちに、その者の素顔が顕になるのだ。

 

「キ、貴様は?――妻木?!」


 字田は渾身の驚愕を口にしながら、その人物の名を呼んだ。

 

「ばかナ! お前ハ自衛隊の北海道エリアで長期研修処分だったハズだ! 今日モ矢臼別の演習場ニ居ると確認サレテいたはずダ! ナゼお前がココニ居る!」


 字田は一気にまくしたてた。確かに、ディアリオに問われて字田は言った。武装警官部隊・盤古の総大隊長である妻木は長期研修だと。有明事件で大量の殉職者や負傷者を出した責任を問われたと――

 だが、優位に立って語り始めたのは妻木の方であった。

 

「字田、俺が矢臼別に居たとなぜ確認できた? 俺が研修処分なのは周知だが、どこで研修となったかは機密対象だったはずだ。暗殺を敢行される恐れがあるからな」


 盤古隊員の隊長ともなればどんな攻撃を受けてもおかしくはない。それ故に処分内容の詳細が明かされるはずが無いのだ。

 妻木は左手に持った大型のレーザーライフル装備を肩にかけ、右手に60センチほどの長さの10番口径ライアットショットガンを持ち、ライアットショットガンの銃口を字田へと向けながら問うていた。先程、先制攻撃を食らわせた10番口径のマイクログレネード弾を撃ち込んだ銃である。

 その19.6ミリの超小型グレネード弾の威力は証明済みだった。字田を黙らせるには十分である。

 

「コ、答えル義理ハ無い!」

「そうか、ならば俺も教える道理がない。ただ一つだけ教えてやる」


 ライアットショットガンを握る妻木の右手に力がこもる。対する字田も全身に力を込めつつあった。

 

「なんダ――」


 呻くような字田の声に妻木は言った。

 

「お前のおかげで、盤古に新採用される予定の新型プロテクタースーツの実戦テストが存分にできた。跋扈するテロアンドロイドの高速性能に十分食い下がれる高速戦闘対応型だ――」


 妻木はかたわらのグラウザーを顎で示しつつこう続けたのだ。

 

「――これで、彼ら特攻装警と轡を並べて共に戦うことができる。お前が求めたようにいたずらにその肉体を改造しなくてもな!」

「シ、新プロテクタースーツだとォオオ?!!」

「あぁ――」


 妻木はヘルメットのフェイスマスクを閉じながらライアットショットガンの引き金を引く。そしてこう叫んだのだ。

 

「これが第4世代新型プロテクタースーツ【(からす)】だ! お前の歪んだサイボーグ信仰思想に対する答えだ!」


 ライアットショットガンの銃口からマイクログレネードが放たれる。迫りくる弾丸を字田はとっさに回避する。6つの脚で飛び上がりながら後方へと退きこう叫んだのだ。

 

「おノレ! 妻木ぃぃィイイイイイい!!」


――ドオオオオォォオオン!――


 炸裂するマイクログレネードの爆熱が吹き上がり、閃光を放つ。そしてそれは一つの毒虫と化した悪漢を、二人の戦士が制圧するための戦いの始まりの狼煙だった。

 

「グラウザー!」

 

 妻木が叫ぶ。

 

「はい!」


 グラウザーが答える。

 

「連携してやつを潰すぞ! やつにはすでに資格取消処分が下っている! 凶悪犯としてやつを制圧する!」

「了解!」


 今、特攻装警7号機のグラウザーと、武装警官部隊・盤古の総大隊長の妻木――

 二人の英雄が並び立った。

 そしてここにラストバトルの幕が切って落とされたのである。


次回

サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part57 『決戦・総隊長 妻木哲郎』


次回は2月1日夜9時更新の予定です



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