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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]  作者: 美風慶伍
第2章サイドB『魔窟の洋上楼閣都市』第5部『死闘編』
132/147

サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part47『サイベリア・ラウンドテーブル』

誰の目にも触れぬ不可視のエリア――

そこに集う者たちがいる


特攻装警グラウザー


第二章エクスプレスサイドB第一話


魔窟の洋上楼閣都市47


【サイベリア・ラウンドテーブル】


――スタートです。


なお今回はツイッターで企画しました

『RTしたフォロワー様を自作品のキャラとして設定する』の参加者様から採用させて頂いております


タツマゲドン

庵乃雲

備忘録

パクリ田盗作

NV lab.

KisaragiHaduki


(敬称略、今回は以上6名様)


ご協力、ありがとうございました


■サイベリア


 そこは電子の空間。

 ネットワーク上に仮想的に存在する高リアリティなイメージ空間。映像データは元より、触感や重力感覚、さらには聴覚嗅覚味覚まで、完璧に再現可能であった。ただしその空間を利用できるのは優れた電脳スキルを有した限られた存在だけであった。

 背景の全てがディープブルーに輝く空間の中、足元と思しき場所だけが黒く塗りつぶされている。その色の違いでかろうじてそこが足場だという事がわかる。だがそれ以外はなにもない。

 否、存在するのは実体すらあやふやなイメージ概念のみ。実体としての器物は全く存在しない。

 それはヴァーチャル・リアリティ

 それは仮想空間

 それは電脳概念

 それは認識存在

 全てが虚構とデータの上に構築され、限られたスキルを持つものだけがその場に立つことを許されていた。

 この場所の名は『サイベリア』

 誰も知らない電脳仮想空間――

 だがサイベリアはそこに確かに存在していた。

 そしてそこに人知れず姿を表した人物が一人――

 否、人物と呼べるかも定かではない。

 その人物を象徴するビジュアルが空間に浮かび上がる。


【(*’︶’*)ノ<            】


 顔文字である。ユニークでユーモラスな笑顔が空間の中に漂うように浮かんでいた。

 

【(*’︶’*)ノ<ユーザーコール!    】


 (仮に)彼女は高らかに宣言する。そしてこの〝集いの場〟に招くべき人物たちの名をリストアップした。

 

【ホスト :あんのーん           】

【メンバー:漆黒のイレーナ         】

【メンバー:メモランダム          】

【メンバー:トリプルファイブ        】

【メンバー:シェンレイ           】

【メンバー:NV.Lab.         】  



 その数総数6名、ホストとされているのは顔文字の彼女自身だ。

 彼女の名はあんのーん、ネット上では知る人ぞ知る伝説の存在であった。

 字名は『ホイッスラーのあんのーん』

 人知れず姿を現しては、危険を警告してさっていく。致命的な事態の発生を食い止めるために彼女は姿を表わすのだ。

 無論、その正体と実態は誰も知らない。

 

【(*’︶’*)ノ<もう、あとひとり!   】


 あんのーんはさらに名前をコールした。そしてその名前の頭には招待者が予定外だった事が明示されていた。


【ゲスト :ビルボード           】


 それが新たな招待者の名だというのは明らかである。彼を加えて7名、あんのーんを除けば6名である。

 そして、その6名が三々五々に姿を現したのである。

  

 まず最初に姿を表したのは純白のマント姿の人物である。

 薄っすらとおぼろげなシルエットから始まり速やかに実体が明らかになる。 

 頭までをすっぽりとフードで覆いその中は容易には見せようとしない。放浪の旅人――と言った趣である。

 

【(*’︶’*)ノ<いらっしゃい!     】


 あんのーんが声を掛ける。それに白マントの人物が応じる。

 

「やぁ、ひさりぶり。元気そうだね。あんのーん」

【(*’︶’*)ノ<うん! 元気!     】

【(*’︶’*)ノ<メモランダムも元気?  】

「いつもどおりさ、気ままにやらせてもらってるよ。でも、他の人達はまだみたいだね。待たせてもらうよ」

【(*’︶’*)ノ<りょうかーい      】


 あんのーんが迎えた人物の名は【サイプシー・メモランダム】

 そして白マント姿のメモランダムが移動する。

 ディープブルーの広大な空間の中、地上に青白い真円が描かれる。そしてその真円は円盤となって空中へと浮上して、CGモデルのようなテーブルをなす。その一角へとメモランダムは居を決めると佇んでいた。

 

 そしてそれと前後してすぐに姿を表したのは膿紫と黒に彩られた長袖の全身ドレスに身を包んだ女性であった。紫に偏光した虹色のシルエットが頭頂部からスクリーンカーテンを下ろすように全身像を順序よく映し出していく。そして足元まで現れると光は暗転し、漆黒のシルエットを映し出したのである。

 その女性は頭部をすっぽりと黒いマリアベールで覆っており、顔も鼻筋から上までが覆われていて素顔は一切見えない。手元も黒のレースの手袋であり足元はロングドレスの裾が完璧に隠している。わずかに見えているのは真紅のルージュが引かれた口元のみである。

 

【(*’︶’*)ノ<いらっしゃい!     】

【         イレーナ!       】


 あんのーんの問いかけにその女性は無言のまま頷いた。言葉は一切発しない。

 

【(*’︶’*)ノ<あいかわらず静か!   】

【         イレーナらしいけど。  】

【         でも来てくれただけでも 】

【         あんのーん、嬉しい!  】


 その語り口から推察するに参加率は良くないらしい。よほどめったに姿を表わさないのだろう。だがその日の彼女は何時になく饒舌だった。真紅の唇がなめらかに開いた。

 

「風が吹いたの。私の背中を押すように――、今日は行くべきだと運命の卦は出ているわ、カードが示したのは〝新たなる出会い〟――全ては運命の導くままに」

【(*’︶’*)ノ<そうだね!       】

【         今日は新しい出会いが  】

【         みんなを待ってるよ!  】

「期待してるわ」

【(*’︶’*)ノ<まかせて!       】


 あんのーんの言葉に彼女は頷いた。

 彼女の名は【漆黒のイレーナ】、黒衣の魔女――

 ロングドレスの裾を広げたまま揺れるように移動して円卓の一角へと彼女も佇むのだ。

 そしてさらなる人影が現れる。

 一陣の風が吹き抜ける。強い旋風のように光の渦を起こしながら遠方から飛来してくる。そしてそれは円卓の一角へと直接たどり着くと、急速に霧散してしまう。その後に現れたのは一つの黒いシルエットだった。

 全身を覆う黒いコートにプラチナブロンドのオールバックヘア、目元を180度覆う大型の電子ゴーグル。コートの合わせ目から垣間見える両手にはグローブがハメられている。メタリックでメカニカルな意匠のそれは、明らかにコンピュータネットワークへのディープなアクセスや特殊な電子機能を有していると思われるものだった。

 そのオールサイバーなコスチュームの男の名をあんのーんが呼んだ。

 

【(*’︶’*)ノ<いらっしゃい!     】

【         シェン・レイ!     】


 あんのーんがその名を呼んだのはシェン・レイ――神の雷その人である。

 

「あんのーん、メンバーコールのシグナルを聞いた」

【(*’︶’*)ノ<来てくれてありがとう! 】

「あぁ、君も元気そうだね。だが一つだけ頼む」

【(*’︶’*)ノ<なーに?        】


 シェン・レイはあんのーんに告げた。その評定は何時になく深刻だった。


「今、緊急のクランケを抱えていてね。あまり余裕がない。手短に頼む」

【(*’︶’*)ノ<OK! わかった!   】


 するとメモランダムが問いかける。

 

「例の洋上スラムでの1件かい?」

「あぁ、子供が一人、頭部をやられた。オペそのものは終了したが〝脳浮腫〟の可能性が出てきた」

「あら、穏やかではないなわね」


 声を挟むのはイレーナ。

 

「脳低温療法は?」

「準備中だ。あれをやるにはICU並の完全看護が必要になる。俺でも流石にハードルが高い」

「なるほど」

「わかったわ。そう言うことなのね」


 そしてメモランダムとイレーナは口々に告げる。

 

「シェン・レイ、僕にできることがあれば言ってくれ」

「私もよ。子供が関わっているなら事情は別よ」


 それはごく自然な善意だった。それを断るシェン・レイではない。

 

「ふたりともありがとう。必要な時が来たら協力してもらおう。ある特殊な機材が必要になるだろうからね」

「特殊な機材?」


 訝しがるのはメモランダム。


「あぁ、いずれわかる」

「わかった」


 メモランダムはそれ以上は食い下がらなかった。

 そして彼らがそんな会話をしていたときだった。

 空間に扉が現れる。大理石でできた重甲な石扉。両開きのそれが足元の地盤からせり上がるように出現する。そしてその扉が音もなく開いて、中から一人の人物が姿を現した。白髪の老人――、知恵を湛えた賢者というべき出で立ち。

 前合わせのガウンにズボン、足元はグラディエータースタイルのサンダルに、茶の色のロングローブを羽織っている。頭部にフードを被り、右手には樫の木の杖を手にしている。

 厳かにあるき出すが、その足元は確かだ。老境の雰囲気を感じさせるが決して老醜は見せてない。

 

「来たわね? NVの御老」


 つぶやいたのはイレーナ。それにメモランダムが続く。

 

「お早いおつきだったね」

「そうだな――、お久しぶり。御老、健在でしたか?」


 シェン・レイが尋ねれば。御老と呼ばれたその人物は微笑みながら皆に視線を送った。そしてよく通る低音の声で語り始めたのだ。


「みな健常のようだな。結構――、あと一人、来ていないが彼の事は構わん。早速始めようか」


 そう御老がつげれば。シェン・レイが言う。

 

「異議は無い。私も時間的余裕がない」


 それにメモランダムが続く。

 

「同感だ。僕も彼と同参するのは不快だからね」


 メモランダムがそう告げればイレーナが言う。

 

「ひどい言われようね。でも否定はしないわ。あいつ――ファイブについてはわね」


 イレーナの言葉に誰となしに皆が頷いていた。全員の同意が取れたところであんのーんが告げる。

 

【(*’︶’*)ノ<おっけー! これでみんな】

【         集まったね!      】

【         ゲストも来るよ!    】

【         早速始めようか!    】


 あんのーんがそう告げたときだ。新たな来訪者が現れる。

 サイベリアの空間上に現れたのは一枚の木の扉だった。どこからともなく扉の細片が集まり一枚の木の扉を構成する。そしてその中から現れたのは一人の黒人風の人物。屈強な肉体にジーンズにTシャツ、さらには厚手のレザーのジャケットを羽織っている。頭にはテンガロン・ハット――どことなく西部のカウボーイか、イージーライダーのバイカーを想起させる。そのテンガロン・ハットの鍔越しに人懐っこい笑顔が浮かんでいた。

 

【(*’︶’*)ノ<来た! ビルボード!  】

【         いらっしゃい!     】


 あんのーんに問いかけられてその人物――ビルボードはテンガロン・ハットを脱ぎながら視線を配る。

 

「あんのーんから突然の招待状もらったから覚悟して来てみたらすごいところに来ちまったな」


 そう言いつつビルボードは一人一人の風貌に目を凝らす。ふとイレーナが問うた。

 

「自己紹介が必要かしら?」

「いや、そいつには及ばねぇ。大体の人と成りは知ってるからな」


 ビルボードの言葉にメモランダムが問う。

 

「例えば?」


 まずはメモランダムに視線を向けながらビルボードは語る。

 

「サイプシー・メモランダム――、特定の活動拠点を持たず常に神出鬼没。自由であり束縛されないことがモットーであり、不当に人間個人の権利を阻害する存在を容認しない。救いを求める声には機敏に反応する。得意とする情報ジャンルは政府機関や大企業の裏情報。特に違法行為の摘発には抜きん出ている――ってとこか?」

「正解だ、ミスタービルボード」


 メモランダムはビルボードの言葉に口元に笑みを浮かべた。次にビルボードの視線はイレーナへと向かう。

 

「ブラックウィッチ・イレーナ――、関東エリア最大規模の暴走暴走族スネイルドラゴンの相談役でありメンバー管理システムの統括責任者。直接接触することはほぼ不可能だが、裏社会組織のリアルタイムな活動情報やトラブルの内情については極めて正確に把握している。裏社会について真実に近いところを知りたいなら絶対にあんただな。ただし――」


 そこで一旦言葉を区切りビルボードはため息をつく。

 

「――ただしあんたは要注意。機嫌を損ねるとスネイルのエージェントが飛んでくる。闇の中に潜む魔女――そこからついた字名が漆黒のイレーナだ」


 ビルボードの言葉に彼がイレーナに対して警戒心を抱いていることがわかる。だがそれを気にするイレーナではない。

 

「詳しいのね。でも警戒する心は大切よ。無思慮な愚か者よりずっといいわ。気に入ったわあなた」

「それは光栄だね。ブラックウィッチ」

「ふふ――でもその名は禁句よ。誰にも言わせてないの。今度だけは見逃すわ」

「失礼、肝に銘じておきます」


 ビルボードの声にイレーナがかすかにうなずく。笑顔を浮かべていても本性は絶対に見えてこない。

 

「そして――」


 ビルボードの声はもうひとりに向いた。シェン・レイだ。

 

「まさか、あんたに会えるとはね。神の雷・シェンレイ」

「やはり知っていたか」

「当然だろう? 大都市東京の電脳事情に関わる人間ならあんたのことを知らない人間は居ない。ハッカーとしてはほぼ万能。特に閉ざされたセキュリティをこじ開けるスキルは他の追随を許さない。他人のサイボーグやアンドロイドの内部へと侵入して自在に操ったり記憶を改ざんしたり苦もなくやってのける。それでいて表の顔は医者」

「モグリだがな」

「だがそれも意図的だ。法的な制約に縛られれたくないからだと聞いている」

「そのとおり。医者同士の付き合いや官僚連中に気を使いながら医療ライセンスを後生大事に抱えるなどナンセンスだからな。それより俺は目の前の命を救う方に全力をかける」

「あんたらしいよ。だがそれを聞いて安心した。噂通りの人だ」

「それは光栄だね」


 ビルボードの言葉にシェン・レイは頷き返した。

 だがそこでビルボードの視線はある人物へと向かう。メモランダムたちが〝御老〟と呼んだ賢者風の老人である。

 

「だがあんたのことは知らなかった。初めてお目にかかる。ビルボードと言う。名前を聞かせてくれないか?」


 そう問われて御老は口を開いた。

 

「ほう、礼儀はできているようだな。結構――」


 ビルボードの言葉に満足げに頷いては笑みをたたえて言葉を続けた。

 

「個体名は『NV Lab.』――このアバターの外見から皆からは〝御老〟または〝エルダー〟と呼ばれているがね」

「お名前から察するに〝人間〟ではないのですか?」

「それについてはノーコメントだ。私自身の正体についてはこの場に居る彼らにも明かしては居ないからね。だが敵対的存在ではないということだけは告げておこう。得意とするジャンルは世界情勢。外国諸国の政府機関情報や国際的な大規模事案のデータならませておきなさい」


 その言葉にビルボードは少し思案したがすぐに疑念を振り払った。

 

「了解、承知した。この場に居合わせたお歴々が納得しているって事自体が証明みたいなものだからな。彼らの顔を潰すつもりもない」

「結構――私のことは好きに呼んでもらって構わんよ」 

「では、諸先輩方に習って俺も〝御老〟と呼ばせてもらうよ」

「いいだろう。では君について聞かせてくれんかね?」


 御老がそう尋ねたときだ。シェン・レイが口を開く。

 

「コレクター・ビルボード――、渋谷を始めとする日本の大都市に住む若者たちに纏わる事情について綿密な情報収集を行っていることで知られている。すべての行動が〝若い者たち〟の救済に振られていて、時には危険な橋を渡ることもいとわない。だが基本的に表社会での行動が主体であり、彼の裏の顔としてのビルボードの名を知っているのはほんの一握りだ」


 ビルボードが他の者達の素性を言い当てたようにシェン・レイもビルボードの素性を言い当てる。これにはビルボードも舌を巻くしか無い。

 

「さすがだな。こっちの事情も筒抜けかよ」

「まぁな、ここにくるゲストならなおさら下調べくらいはさせてもらうよ。ちなみに――」


 そこでシェン・レイは空間に浮かび上がる可愛らしい顔文字を指さした。あんのーんの事だ。

 

「彼女の事は知ってるな?」

「あぁ、表社会の情報としては都市伝説的に有名だからな」


 そして一呼吸置いて語り出す。

 

「ホイッスラー・あんのーん――、表社会の様々な場所に姿を表して致命的な事態が起きないように〝警告〟を残していく。笛を鳴らす者と言う意味でホイッスラーと呼ばれている。だが神出鬼没で人々が眼にする機会が多いのにかかわらずその正体は一切不明――と言われているが。こっちに来てますますわからなくなった」


 ビルボードの疑問の声にメモランダムが問う。

 

「それはどうして?」

「中の人が居てサイベリア上ではアバター体でも持っているのかと思ったら、徹底してこの顔文字だ。しかも口調も行動もほとんど変わらない。人間なのか、AIなのか、全く区別つかねえ。ま、こう言う徹底してるのはきらいじゃないけどな」

【(*’︶’*)ノ<ありがとー!      】

「どういたしまして」


 そして声を発したのはイレーナだ。

 

「彼女の役割は、この円卓の空間『ラウンドテーブル』の管理と総括、そして参加メンバーへの連絡担当よ。ホイッスラーとしての活動は彼女個人のものよ。ただやはりNVの御老と同じ様に素性は不明よ」

「あ、やっぱり。そうだと思ったよ」


 納得するビルボードにメモランダムも告げる。

 

「さてそれぞれの紹介が終わったところで君にこの場所とこの集まりについて説明しよう。それを知ってもらわねば始まらないからね」


 メモランダムは一つ言葉を区切ると更に告げた。

 

「このスペース『ラウンドテーブル』は限られたメンバーしか参加できない。基本あんのーんをホスト役として、メンバーは他に5名まで。メンバーはあんのーんのメンバーコールのシグナルに従いここに集まる。そして持ち寄られた様々な問題について、情報提供や機密事項の極秘リーク、さらには直接的な協力行為を、話し合いの結果の契約に基づいて行う。またこのスペースで話し合われていない事実や普段の行動については無視しても敵対しても互いの自由。あくまでもこのサイベリアスペースの中においてのみ対等に協力し合う事になる。そして、コレが重要なんだが――」


 メモランダムは6つある立ち位置のうち空席となっていた一つに目配せしながら続ける。

 

「本来5人居るメンバーのウチの一人が欠員となった。なので新たな補充メンバーを探す必要が出たんだ」

「それが俺だと?」

「そのとおりだ。君が適任だと推薦してきたのは彼女だがね」


 そう告げつつメモランダムはあんのーんの方に視線を向けた。

 

「え? 彼女って――あんのーんが?」

「あぁ、市井の表社会の若者たちの事情についてなら彼が最適だろうってね」

【(*’︶’*)ノ<そーでーす♪      】

 

 そこにはビルボードの彼を招いた理由をあっけらかんと認めるあんのーんの姿があった。

 

「ずいぶんまた、高く買われたものだな。おれは自分ではそれほどの人間だとは思ってないけど?」

「そんなことはないさ」

 

 ビルボードの謙遜に問いかけたのはメモランダムだ。

 

「重要なのは互いが必要とするものを融通し会えるかどうかだ。そして我々は君を必要としているということだ」

「そのとおり」


 メモランダムの言葉をNVの御老が肯定する。

 

「そして重要なことだが、この集いの場『ラウンドテーブル』はホスト役のあんのーん氏を別として常に5人のメンバーで構成されていると言うこと。メンバーとしての要件は優れた情報電脳スキルの持ち主であることはもちろんだが、互いが互いに不足しているものを補い合える間柄であることが重要なのだ」

「するってぇと――」


 御老の言葉にビルボードは思案する。

 

「俺の持っている情報資産があんたたちには非常に重要だと言うことなんだな?」

「そのとおり。しかも極めて緊急にだ」

「緊急に? 待ってくれ、俺の持ってる情報なんてたかが知れてるぞ? せいぜいが渋谷の街のガキどもを助けるためにかき集めたシロモノばかりだぜ?」


 それは謙遜と言うより素直な疑問だった。

 

「それにだ、NVの御老の言葉に従うなら俺が必要とするものをあんたたちも持っているってことだよな?」


 当然の疑問だった。その疑念に答えるためにラウンドテーブルに集った者たちはその口を開いていく。

 まず語りだしたのはメモランダム。


「そうだな――政府筋や企業情報なら俺に任せてくれ。経済絡みの問題も提供可能だ。君が保護対象としている子どもたちの中にはブラック企業から合法的な方法で自由を奪われている者たちもいるはずだ。そう言う手合を救うなら協力し会えるはずだ」


 その次に語ったのはイレーナだ。

 

「知っての通り、私はバックにスネイルを抱えている。当然そこから敵対組織や、マフィア筋の情報も手に入る。普段は誰にも明かさない情報もこの場では別よ。条件さえ見合えば情報は開示するわ。たとえば――」


 イレーナが両手を動かす。空間上に水晶球のオーブのようなイメージが浮かび上がる。そしてそこに映し出されたのは一人の若い女性だった。その姿にビルボードは思わずその身を乗り出した。

 

「――この子。あなたのところで探しているんでしょ?」

「レイカ!」


 それは紛れもなく倫子が探している相手だった。

 

「あたしも立場があるから。組織内部の情報は容易には開かせない。だがこの場なら。この円卓の空間なら別よ」


 ビルボードは思案気な顔でイレーナを見つめて問う。

 

「それを開示してあんた自信は危なくないのか? 天下のスネイルだろ?」

「ふふ、心配してくれてるの? それは問題ないわ。現実に会うならともかく、この極秘のサイベリアスペースの中なら、スネイルのトップ・慈龍揺籃(じりゅうようらん)ですら把握不可能。時には組織のガス抜きのためにわざと情報をリークする必要もあるの。だから不均衡なギブアンドテイクでも、契約が成立するなら多少の事は平気よ」

「そうか、わかった」


 次に語ったのはシェン・レイだ。

 

「俺の事はすでにわかっているだろうが、通常なら突破できない極秘データも必ずこじ開けてみせる。それにケースバイケースだが表の医者では助けられないような重病人や重篤なけが人も引き受けてやる。事実、イレーナやランダムの依頼で医療行為を何度も行っている。普段ならそれなりのギャランティを請求するんだが、このラウンドテーブルでの依頼なら別だ。ロハでやってやるよ」


 シェン・レイは情報犯罪者であると同時に特S級の非合法医でもある。その腕を借りたいと思う者は決して少なくない。それにダイレクトにコンタクトをとれる事がどれだけの意味を持つかわからぬビルボードではない。

 

「ありがたい。ガキどもの中には難病抱えてても経済的事情から治療を諦めてるやつも居るんだ」

「その時はなおさら尋ねてくれ。力になってやるよ」

 

 シェン・レイの言葉に頷けば、NVの御老が語り始めた。

 

「最後は儂だな。ビルボード――君のスキルは相当なものだが、流石に国境を超えた海外の事情となると辛いのではないのかね?」


 その問いにビルボードが辛そうな顔をする。心の傷に接触したらしい。

 

「いきなり痛いところ突いてくるんだな。当たりだ。人身売買で連れ去られたやつをトレースしてて東南アジアからさらに転売されて追いきれずにロストした事があるんだ」

「この子ね?」


 イレーナがつぶやき水晶球のオーブに映し出したのは美しい双子の姉妹だ。

 

「辻姉妹――妹が緋色会傘下に拉致され、そこから翁龍系列へと売却、海外にトレードされてその後行方不明ね」

 

 それはまさにビルボードが口にした過去の傷そのものだった。


「なんで知ってる? 丸一年かけてみつけられなかったんぞ?!」

「愚問ね。それを知ることができるのが〝ここ〟なのよ。私の持つ闇社会の事情、御老が持つ海外事情、ランダムが把握する政府筋の極秘案件、そして神の雷が厳重に閉ざされた扉をこじ開ける。これにあなたが差配する若者社会のスラング情報や口コミネットワーク、表社会の民間人の動向が加われば何でも知ることができるわ」


 そしてさらにイレーナはデータを操作する。円卓の上に光のリレーションが走る。それは各メンバーが持つ情報をリアルタイムにリンケージていることを示していた。一通りの情報検索を終えてイレーナがつぶやく。

 

「〝この円卓の場〟でなにができるのか? サンプルを見せてあげるわ――御覧なさい」


 そしてイレーナが意味ありげに左右の手を空間で踊らせれば、円卓の卓上の空間に地図情報と動画映像が同時に映し出されたのだ。

 

「見つけた――」


【座標ポイント               】

【 北緯25度12分7秒          】

【 東経55度14分48秒         】


 そこには一つの豪邸があった。その外観データが動画で映し出されていた。

 

「この屋敷の中に居るわね。成金趣味でハーレムでも作ってるのかしら?」


 皮肉交じりにイレーナがつぶやけば、シェン・レイが言う。

 

「だろうな。どこの国にでも悪趣味を極める馬鹿は居るものだ」


 シェン・レイが空間上でヴァーチャルコンソールを叩けばその屋敷の主が表示される。

 

【NAME:                】

【 Murtada jamil sarraf】


「こいつだ。貿易会社のオーナーでかなりあくどい事もやってるな――、お望みとあれば資産データも引き出せるな」


 シェン・レイの言葉に御老が告げる。

 

「ならばドバイの警察筋を動かせば救出可能だな。いくつかの代理エージェントを経由して外国人略取容疑で圧力をかければいい」


 そして畳み掛けたのはメモランダムである。

 

「その際に最優先救助対象として偽情報を送りつけよう。そうすれば帰国支援もとりつけられる。日本政府の在外公館の情報を操作しよう。それで帰国まで完璧にフォローできる」


 4人が連携を取ればここまで可能なのだ。さしものビルボードもその光景にあっけにとられるより他はない。

 

「すげぇ――」

「ふふ、これがあなたが言った〝5本の指〟よ――、そしてその一つにあなたが加わるべきなの」


 イレーナが畳み掛けてくる。そして決断を迫ったのは誰であろうNVlab.の御老である。

 

「さぁ、どうするね? ミスタービルボード」


 僅かな沈黙が流れる。そしてビルボードは手にしていたテンガロン・ハットをかぶりなおすと明確に口にした。

 

「愚問だね」


 そしてビルボードが顔を再び上げた時、すでにその眼には力が宿っていた。

 

「その申し出、引き受けさせてもらうよ。俺なんかの力でよかったらね」


 ビルボードがそう挑発的に伝えればイレーナが微笑んでいた。

 

「素敵ね。決断のできる男はきらいじゃないわ」


 ついでメモランダムが言う。

 

「君ならそう決断できると確信していたよ」


 最後にシェン・レイが告げた。

 

「これでたった今から。この円卓の一角は君のものだ――、コレクター・ビルボード」


 皆の声にビルボードが頷いていた。そしてビルボードを導くように彼の足元に緑色の光の道が浮かび上がる。それは他の5人が立ち並ぶ円卓の周囲の一角へとたどり着くのだ。一歩一歩踏みしめながらビルボードが進む。円卓へと彼がたどり着けば、高らかにコールしたのはあんのーんである。

 

【(*’︶’*)ノ<はい!きまりー!    】

【         コレクター・ビルボード 】

【         ラウンドテーブル#5  】

【         メンバーエントリー確定!】


 然る後に声を発したのはNVlab.の御老である。

 

「よし、これで円卓は修復された。この場の決まりごとについてはコレを熟読したまえ。当然ながら君以外には読めんし、ネット外に持ち出すことも出来ない。受け取り給え」


 御老が懐から取り出したのは一枚の金色に光るカード様のものだ。それを静かに投げれば吸い込まれるようにビルボードの右手へと収まっていく。そしてそのカードの表面にはこう記されていた。

 

【     サイベリア・極秘領域      】

【    ――ラウンドテーブル――     】

【                     】

【    『ライセンスマニュアル』     】

【              部外秘    】

 

 それを受け取り自らの懐中へとしまい込む。ビルボードに御老が告げた。

 

「先程の海外に拉致された少女については速やかに対処しよう。彼の就任祝いだ。皆もいいな?」

「えぇ、異論はないわ」

「僕もだ」

「俺も異論はない」

「決まりだな」

 

 皆がそう答えた時、ビルボードはある事について尋ねた。

 

「一つ聞きたいことがある」

「なんだね?」


 御老の声にビルボードは言った。

 

「この席、#5の以前の主は誰だったんだ?」

「あぁ、それか」


 何の感慨もなく淡々と答えたのはシェン・レイである。

 

「サイレントデルタ、元メインアドミニストレーター、トリプルファイブ。またの名をシルバーフェイスのファイブ」

「なんだって? ファイブってあのファイブか?」


 驚くビルボードにイレーナが続けた。

 

「それ以外誰が居るの? あいつは自らの組織であるサイレントデルタの中に様々な表の顔を持つメンバーが多数いるから、そこから集めた情報をこの場で提供していたんだけど――、どうやらあの人の本業であるサイバーマフィアの任務案件で致命的な失敗をやらかしたらしいの。ヤツの体とも言えるアバターボディを爆砕処分されたらしいわ」

「それで欠番に」

「そうよ。まぁもともとこの場の人々とは折り合いが悪かったから遅かれ早かれここからも排除されてたろうけどね」

「特に俺にな」


 イレーナの言葉に続けたのはシェン・レイだった。明らかにファイブへの敵愾心がにじみ出ている。その訳をメモランダムは知っていた。

 

「君はファイブとは不倶戴天だったからな。東京アバディーンのメインストリートを挟んでのにらみ合い。それにあの人を喰ったような歪んだ性格だ。いなくなって風通しが良くなったくらいだ」

「ひどい言われようだな」

「当然でしょ?」


 イレーナもその言葉にはファイブへの敵意が現れていた。

 

「ウチのスネイルの下位メンバーも何人か殺られてるの。女性メンバーが酷い目に遭うケースもあるしね。いつか殺してやるってずっと思ってたから。でも――」


 その時イレーナの口元に歪んだ笑みが浮かんでいた。

 

「――母体組織のサイレントデルタと彼が断ち切れたのならば今が好都合よね。フフ」

「イレーナ?」


 そっとメモランダムが問いかける。

 

「あら失礼」


 転がるように笑いながら詫びるが、その声にはイレーナ本来の言葉が見え隠れしていたのだ。


「それよりもう一つの本題に入りましょ。彼――ビルボードを招いてまで急いで対処を打たないといけないのでしょ?」

「そうだな。あんのーん――説明してくれ」


 御老の声にあんのーんが答える。

 

【(*’︶’*)ノ<りょうかーい!     】

【         コレ見て!!      】


 そう告げると同時に空間上に立体映像が浮かぶ。それは一枚の高密度DVDディスクであった。その表面にはこう記されている。

 

――警察庁/警視庁――


 さらには――

 

――警察組織内部閲覧動画――

――[極秘]外部への一切の公開を禁ず――


――とある。

 そしてそのディスクのメインタイトルはこうだった。

 

【特攻装警全号機体、詳細解説データ     】

【特攻装警1号~6号編           】

【                 NH仕様】 


 その表記を見て即座にビルボードが反応した。

 

「NH仕様? まさか――」


 息を呑み込み驚き言い放つ。

 

「〝Neck Handler〟かっ!」


 その叫びに尋ねてきたのはシェン・レイだった。

 

「ほう、流石に詳しいな。情報と噂のコレクターと言う肩書きは伊達ではないな」

「当たり前だ。ガキどもを危険にさらしかねない案件はすべからく熟知している。そもそも警察や自衛隊などの組織は内部情報の流出には非常に神経質だ。セキュリティの一環として、あらゆるデータディスクに、特殊な追跡プログラムが仕組まれるのは今や公然の秘密だ!」

「トレーサープログラム。今では世界中の機密ディスクにセットされている」


 シェン・レイの問いかけにビルボードが答え、再びシェン・レイが補足した。

 ビルボードが更に続けた。 


「そしてそれはディスクの内部を実行し、ある一定の条件を満たしたときに諸機関へと通報する仕組みになっている。スラングで〝地雷〟って呼ばれている。うかつに機密ディスクの横流しとかを受けると酷い目に遭うんだよ。俺の知ってるやつも一人それでとっ捕まったやつが居る。それらのトレーサープログラムの中でもとびっきりの核地雷がある。それがこの――」


 ビルボードが指差す。


――NH仕様――


 それをはっきりと明示していた。

 

「NH仕様ってロゴだ。意味は〝Neck Handler〟――獲物を捉えた狩人が首根っこを掴んで獲物を取り扱うように、犯人の首根っこを抑えるって意味の警告だ! コレにやられたら公安部の危険な連中がすっ飛んでくる! 絶対に触っちゃいけない危険物だ! おい! これどこで見つけた? 早く回収、いや! 処分しねえと!」


 焦りを隠さないビルボードにイレーナが問うた。


「落ち着いてビルボード――、焦っても解決しないわよ?」

「うっ」

「気持ちはわかるわ。ウチでもコレにやられたのが居るもの。とびっきり危険な代物よ」

「わりぃ――」

「でもこのディスクの危険性を知っているなら話が早いわね」


 イレーナのつぶやきに説明を加えたのはあんのーんであった。

 

【(*’︶’*)ノ<そうなの!       】

【         今、すごーい      】

【         大変なことになってるの!】

【         それであんのーんが   】

【         みんなにお願いしたいの!】


 その言葉に続いてあんのーんはある人物たちの姿を映し出した。それは2名の〝小学生〟である。

 

【(*’︶’*)ノ<データを出すね!    】


【AUTHER #1            】

【 所属:御殿山東小学校4年        】

【 氏名:飯田将              】

【                     】

【AUTHER #2            】

【 所属:御殿山東小学校4年        】

【 氏名:竹原ひろき            】


 そして顔写真が2つ登場する。どちらもごく普通の小学生である。

 

【(*’︶’*)ノ<この子達に例の     】

【         資料ディスクが渡ったの!】

【         しかも!        】

【         不法コピー品じゃあなくて】

【         マジ本物!       】

【         おそらく閲覧は     】

【         すでにやってるはず!  】


 あんのーんは何時になく切迫した口調でまくしたてていた。

 飄々としてとらえどころのないユーモラスさが彼女の持ち味だったが、それを忘れさせるほどに事態は切迫していたのだ。

 

「それじゃ余裕はゼロか、今すぐ対策打たねえと」


【(*’︶’*)ノ<そうなの!お願い!   】 

【         すでにこの子達の    】

【         学校の担任には     】

【         ホイッスルしたの!   】

【         でもディスクそのものを 】

【         なんとかしないとダメなの】

【         今日、みんなにここに  】

【         来てもらったのは――  】


「そのためなんだな? あんのーん」


【(*;︶;*)ノ<うん!         】 


 あんのーんの顔文字アイコンが珍しく涙目になっていた。さすがのあんのーんのスキルでは限界を超えてしまったのだ。

 それを見守っていた御老の声が場に響いた。

 

「では決を採る。あんのーん氏が提起した問題案件に協力するか否か?」


 その問いに一斉に答えが返された。


【メンバー#1:メモランダム:OK     】

 

「協力する。ただしネット越しオンリーだ。今、同行者が居て直接参加はできない」


 そう答えるのはメモランダム。


【メンバー#2:イレーナ:OK       】

 

「協力するわ。このNH仕様ディスクにはほとほと手を焼いてるの。対策ノウハウもある。ディスクそのものの処分は任せて」


 そう告げたのはイレーナ。普段の彼女の剣呑なイメージとは異なる積極的な回答だった。


【メンバー#3:シェン・レイ:NG     】

 

「すまないが参加はノーだ。今、緊急のクランケをかかえていて、しかも例の暴走アンドロイドの案件で手一杯だ。余裕がまったくない。本当に申し訳ない」

 

 状況が状況だけに彼場合は致し方なかった。非難する声は皆無だ。

 

【メンバー#4:NV lab.:OK    】


「協力しよう。私のスキルで何ができるかわからんがな」


 善意の申し出を口にしたのはNVの御老だった。

 

【メンバー#5:ビルボード:OK      】


「当然だろ? 渋谷から御殿山なら時間はかからない。すぐにガキどもを保護する」


 ビルボードの声にメモランダムが告げる。

 

「だが問題がある。保護対象2名のうちどちらがディスクを保有しているかだ」


 それに、イレーナが畳み掛けた。

 

「それは私が網をかけるわ。二人の状況を監視して実態が把握でき次第知らせるわ」


 さらに、NVlab.の御老が告げた。

 

「よし、ならば公安筋の動向は私が把握しよう。おそらく情報機動隊も活動するだろう。時間の勝負となる」


 そこに、ビルボードが総括の言葉を吐いた。

 

「決まりだな。飯田と竹原、どちらにもすぐに動ける位置に向かおうすぐにでも――」


 ビルボードがそこまで言葉を吐いたときだった。

 

「ちょーっとまったぁ! お歴々!」


 イレギュラーな声が響く。それは予想外の人物の介入だった。軽妙にしてテンポのいい語り口、それでいてどこか軽薄さを装う口調――、その声に驚くのはメモランダムだった。

 

「おい! 盗作! なんでお前がここに介入している!」

「そう騒ぐなって! ランダムちゃんよ! 一緒の車の中でなにやらやってるから気になったのよ。んで通信周辺をたぐったらここにたどり着いたってわけ! まぁ、前々から網張ってたんだがな」

「なんてこった――」


 困惑するランダムをよそに盗作こと栗田東作は言葉を続けた。

 

「あんたがたの事情と抱えている事案は把握した。ホントなら傍観すべきなんだろうが、表社会のガキんちょの未来がかかっているとなれば話は別だ。俺とビルボード、それぞれが保護対象の二人に分かれて待機したほうがいい。ただし俺が介入するのはあくまでも今回のみ、それ以外はここには介入も傍観もしない。今回オンリーのメモランダムの特別協力者という事でどうだ?」


 栗田の提案に決をとったのは御老だ。

 

「皆はどうだ? 儂は異議なしだ」とNVの御老――

「異議なしね。たしかに今回ばかりは実働が複数必要だわ」とイレーナ――

「不本意だが、盗作の言うとおりだ。だがこれで僕も直接参加が可能になる」とメモランダム――

「俺は肯定もしないが否定もしない。ここのルールが守られるならな」とシェン・レイ――

「俺も望んだりかなったりだ。オレ一人で流石に重い。たしかあんた〝パクリの盗作〟だろ? 凄腕のダミー使いって言われてる」


 ビルボードのその問いに盗作はおどけながら答えた。

 

「そこまで素性がバレてるなら自己紹介はいらねーな。それじゃ飛び入り参加OKって事で」


【(*’︶’*)ノ<りょうかーい      】

【         飛び入り参加1名ご案内!】


 あんのーんが了解の宣言をする。そしてビルボードが告げる。

 

「よし、コレで決まりだな。俺は早速、ガキの保護へ向かう」


 栗田が尋ねる。


「飯田ってガキは俺が行こう。位置的にこっちが近い」


 それにビルボードが返した。

 

「なら竹原ってのは俺が行く。俺はこっちのほうが都合がいい」


 さらにイレーナが告げた。


「決まりね。さっそくディスクの所在を探知開始するわ」


 メモランダムが畳み掛ける。

 

「まったく、世の中は何が起こるかわからない。無事事態が収束する事を神に祈ろう」

 

 そしてNVlab.の御老が皆に告げた。

 

「よし、それでは行動を開始する」


 静かな宣言だったがそれが合図となった。

 行動を開始した全員のシルエットが次々に消えていく。そしてあとには――

 

【ラインコネクト:KEEP         】

【サウンド&データオンリー         】  


 その文字が円卓のそれぞれのポジションのところに描かれていた。コレ以後は全員がラウンドテーブルのシステムを介しての連携行動となるのである。

 全ては始まった。取り返しのつかない最悪の事態を避けるために――

 

 そこは電子の空間。

 存在するのは実体すらあやふやなイメージ概念のみ。実体としての器物は全く存在しない。

 それはヴァーチャル・リアリティ

 それは仮想空間

 それは電脳概念

 それは認識存在

 全てが虚構とデータの上に構築され、限られたスキルを持つものだけがその場に立つことを許されていた。

 この場所の名は『サイベリア』

 誰も知らない電脳仮想空間――

 だがサイベリアはそこに確かに存在していた。


 @     @     @

 

 

 そこはウォーク・オブ・フェイムの地下であった。

 辰馬だけが入ることを許される極秘スペースがある。そしてそここそが彼がネット上でビルボードとして活動するときの場であるのだ。そこから出て狭い階段を上り詰める。

 ウォーク・オブ・フェイムの店舗の裏へとでてそこから厨房スペースへと出ることができる。

 すでに店は落としてある。如月や成宮たちは別室にて休みについている。

 そっと足音を忍ばせながら店へともどれば、カウンターの端にて如月がなにやら電子部品の工作をしているところだった。辰馬の姿に如月が尋ねる。

 

「マスター、いつものかい?」

「あぁ、ちょっとネット上で調べ物してたんでな」

「そうか、それで今から行くんだろ? どこかへ」

「緊急に裏の仕事がはいったんでな」

「わかった。倫子姉や六花の事は任せて。うまく取り繕っておく」

「頼むぜ。問題が解決次第すぐもどるからよ」


 そんなふうに語りながら辰馬は外出用に着衣を着替えていた。体を動かしやすい伸縮性のあるジーンズ地の上下に、ウエストポーチを巻いてある。足元はランニング用のスニーカー、それに通信機能付きの電子ゴーグルとNLAのベースボールキャップをかぶる。如月はその服装の意味を知っていた。

 

「また、誰かを助けに行くんだね」

「そう言うこった。留守番たのむぞ」

「OK、気をつけて。何が起こるかわからない夜だから」


 その言葉を交わした後に辰馬は姿を消した。その彼がどこへ向かうのか如月は知らない。


次回

特攻装警グラウザー

第二章エクスプレスサイドB第一話

魔窟の洋上楼閣都市48

【死闘・鉄の旋律】


7月27日夜更新予定です


(´・ω・`) ‹ こんどこそ!


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