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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]  作者: 美風慶伍
第2章サイドB『魔窟の洋上楼閣都市』第5部『死闘編』
123/147

サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part41『死闘・人間の欠片』

特攻装警グラウザー 第二章 サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part41『死闘・人間の欠片』


スタートです

本作品『特攻装警グラウザー』の著作権は美風慶伍にあります。著作者本人以外による転載の全てを禁じます

這部作品“特攻装警グラウザー”的版權在『美風慶伍』。我們禁止除作者本人之外的所有重印

The copyright of this work "Tokkou Soukei Growser" is in Misaze Keigo. We prohibit all reprints other than the author himself / herself

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「急げ! 急げ!」


 それはタウゼントと大差ない体躯の小柄の人物だった。

 

「まったく! 高速移動手段くらい付けてほしいです」


 全身をこげ茶のマントで覆い、その中は容易には覗けない。ただ顔のあたりから目のような2つの光が覗いているのが解る。それはどこかユーモラスで温かみに満ちていた。

 

「これは急がねばなりませんね」


 地上の裏路地を走っていた彼は、頭上を仰いで倉庫ビルの裏階段を見つける。

 

「しからば――」


 そして軽く足をかがめると勢い良く飛び上がる。そして、2度3度と跳躍を繰り返し、高山に生息する忍者ヤギの様に器用に倉庫ビルの頂へとたどり着いたのだ。

 

「これ疲れるんですよねぇ。でも――」


 その彼は足を止めること無く再び走り出す。彼の主の下へ――


「もう少しで追いつきます!」


 そして彼は体内回線で主人であるはずのその人物へと声をかけた。

 

〔旦那様~~!!〕


 彼はその特徴的な声で主人であるタウゼントと幾度も会話を重ねてきていた。その彼の名は―― 

 

〔来たか! パイチョス!〕


 彼の名はパイチョス――、粗忽者の主人の後を付き従い、いかなることも忠実にこなす従者。絶対に切れることのない深い絆で結ばれた主従であった。


〔はいです! 旦那様! あと10秒ほどでそちらに参ります!〕

〔よし! お前が帰着と同時に〝結合〟を行う! 準備せよ!〕

〔かしこまりましてございます! 旦那様!〕


 パイチョスは主人であるタウゼントの声を聞いた。余すところなく正確に指示を理解する。

 

〔それでは!〕

〔うむ!〕


 会話を終えてビルの屋上を一気に駆け抜ける。主人の所へとたどり着くまであと数秒――

 そしてそこに見えてきたのは――


――ガァアアン!!――


 金属へと大型ハンマーが打ち据えられたような異音、そしてその後に放物線を描いてゴルフボールのように飛んでいく主人であるタウゼントの姿であった。その姿に思わずパイチョスは言葉を漏らす。

 

「旦那様!? またですか?!」


 驚きと呆れ――、そして愚痴を吐きながらも〝準備〟を始める。

 

【 パイチョス、総体管理システム      】

【 両脚底部内、ロケットブースター     】

【 >Lユニット              】

【 >Rユニット              】

【  ≫両ユニット点火準備スタンバイ    】


「まったく! お笑いモードの時のインパクトの弱さとお体の軽さをいい加減理解してくださいよぉ!」


 そしてパイチョスは己の両足の中に仕組まれたカートリッジ式の個体ロケットブースター装置に火を入れた。

 

【 両脚底部内、ロケットブースター     】

【  ≫両ユニット――点火――       】


 そして駆け抜ける勢いのそのままにパイチョスはビルの屋上の縁から勢い良く跳躍した。

 

「私達二人でようやく〝一人前〟なんですから!」


 そしてパイチョスは火柱を拭き上げながら飛んで行く。粗忽者の彼の主人のところへ。

 それはこれまでもこれからも幾度も繰り返される二人の日常の一コマだったのである。

 

「旦那様――! おまたせしました~!!」



 @     @     @

 

 

 ボリスは優秀であった。

 指揮官として、部隊のリーダーとして、そして戦闘のエキスパートとして――

 的確に状況を判断すると即座に次の指示を下す。


「敵挙動に対し警戒を継続! 左翼右翼、煙幕弾とフラッシュグレネードにより敵行動及び視聴覚を阻害! 中翼! 遠距離攻撃支援続行! グレネード弾敵胴体部分、撃ちこめ!」


 静かなる男たちの全隊員は、いずれもがウラジスラフとボリスがその審美眼で厳選に厳選を重ねた精鋭たちばかりである。そのいずれもが老兵達ばかりではあるが、その熟達した戦闘経験が故に精密機械のごとく一糸乱れることなく完璧な包囲網を完成させていたのである。


「この野郎!」


 爆炎に包まれて権田の獣のような咆哮が周囲に轟く。その強化された人体と頑強な装甲スーツは旧時代の通常兵器では傷跡を作るのが関の山である。

 サイボーグやアンドロイド、ハイテク兵器がひしめき合うこの時代に適応したその戦闘力がゆえに、その黒いシルエットの男は非常識なまでの防御力を身につけていたのである。


「そんなチャチな花火程度でこの俺が、この装甲スーツが、殺れるとでも思っているのか?」


 そして、権田の身にまとう装甲スーツの背面・両肩・腕部の放電端子が青白い紫電を迸らせたのである。


「消えろ老いぼれ! 骨にしてシベリアに送り返してやるよ! 仲良くツンドラの下に埋もれていやがれ!」


 権田が放つ青白い紫電、その凶悪なまでの迸りを視界の中に捉えてボリスは静かなる男たちの全隊員に対して体内回線通信にて一斉に指示を下す。


〔退却!〕


 まるで目に見えないスイッチでも押したかのように連携行動で攻撃対象との距離をとる。被害を最小限に抑えるためとはいえ、これでは決定的な目標の撃破手段を見出すことができない。ボリスはその内心、歯噛みする想いで敵である黒いシルエット睨みつけていたのである。

 だが、彼は軍人である、極めて有能な軍人である、歴戦の猛者である。

 彼は今、おのれが何をするべきか見失うような愚かのことは決してなかったのである。


「これでいい。陽動と牽制としては上出来だ」


 しずかにそう呟くとその視線を頭上へと向ける。その視線の先にはあの放浪騎士が夜空を舞っていたのである。


「頼むぞ、伍長――」



 @     @     @



 タウゼントは大空を舞っていた。

 軽やかに、やや情けなく、まさにゴルフクラブで叩かれたボールの如しである。


「うーむ、この軽い体では踏ん張りがきかんのう」


 タウゼントは内心ため息をつく。この寸足らずなコミカルな体では全力の戦闘はやはりどうしても無理がある。


「ならばやはりあれをやるしかあるまいなぁ」


 しかしそれには彼一人ではどうにもならない。彼の大切な従者であるあの者がともにいる必要があるのだ。


――まだかパイチョス!――


 余裕を口にしつつもこの状況では不安を覚えずにはいられない。だが彼が待ちわびた相手はついに追いついてきたのだ。


「旦那様――! おまたせしました~!!」


 聞き慣れた声、馴染みのある声、そして、彼の半身が告げる声である。その彼の名は――


「来たか! パイチョス!」

「はいです!」

「よし行くぞ!」


 タウゼントは脚底部から電磁遊離プラズマガスを噴出させつつ姿勢を制御する。声のしてきた方へと背中を向け合図となる相手方の声を待ったのだ。


「それでは参ります!」


 高らかに告げられるのは相棒であるパイチョスの声。そしてパイチョスはその身に纏っていたこげ茶のマントを一気に脱ぎ捨てたのだ。


――バサッ!――


 マントの中のパイチョスの姿、それは――


「何だあれは?」


 思わずそう声を漏らしていたのは地上に経つボリスたちだった。

 彼らの視界に捉えられていた物はまさに〝寄せ集め〟

 途中で寸断された胴体、両腕の上腕部だけに申し訳の手の部分、脚は大腿部のみで脚底部は簡素な板状の物が有るのみ、そして頭部は円筒状カメラが2機とそれを囲むように箱型のフレームが2連で並んでいるのみ――

 まさに余り部品が集められて人型をかろうじて成している状況であった。

 

 だがそんな地上側の驚きとざわめきをよそに、タウゼントとパイチョスは〝結合〟を始めようとしていたのである――

 

【 タウゼント補助管理システム『π』    】

【 〔総体結合プロセス〕          】

【 >作動開始               】

【 全パーツ・3次元空間ジャイロ      】

【            シンクロナイザー 】

【 >完全同期スタート           】

【 余剰パーツ結合構成体          】

【          個体名『パイチョス』 】

【 >結合準備・躯体分割プロセス開始    】

 

 パイチョスが結合工程を開始する。

 

「躯体分割!!」


 そう宣言すると同時に彼の体を構成していたパーツが5つ――否、6つに分割される。

 胴体下部、上腕左右、大腿部左右、そして頭部仮ユニット――

 さらにパイチョスの両腕だった上腕左右は上下反転し、手として機能してた部分が変形ショルダープロテクターを構成した。

 次にパイチョスの脚であった大腿部左右は脚底部として機能していた部分がさらに変形、膝の位置にて位置修正するとニープロテクターを構成した。

 最後に仮の頭部ユニットを構成していた2連のカメラユニットとその防護フレームは左右に伸長しコの字形状を構成する。

 

【 余剰パーツ結合構成体          】

【 >分割完了               】

【 簡略化本体部、個体名『タウゼント』   】

【 全フレーム結合部分           】

【 >ロック解除              】

【 >躯体伸長、モード変移スタート     】


 さらにそれを視認していたタウゼントもまた結合工程に移る。

 

「躯体伸長!」


 その宣言とともにタウゼントのデフォルメサイズな体躯はさらなる変形を遂げる。

 肩関節、股関節――その4箇所が離断し、パーツの間隔が急速に広がっていく。そして、その離断間隙の間には――

 

【 全パーツ展開完了            】

【 電磁誘導シンクロナイザー        】

【 >起動                 】

【 指向性磁場トラクタービーム       】

【 >励起開始               】

【 3次元空間ジャイロシンクロナイザー   】

【 >全機同調               】

【  ≫各パーツ3次元位置シュミレート   】

【 〔3次元位置特定完了〕         】

【 指向性磁場トラクタービーム       】

【 >出力最大               】

【 最終プロセス作動開始          】

【                     】

【       ――結 合――       】


――タウンゼントとパイチェス、その二人の体を構成したはずのパーツの数々が一斉に繋がれて行き、それは一つの形となり本来あるべき彼の姿を取り戻そうとしていたのである。


 2m近い巨大な体躯

 頑強極まりない装甲

 鈍色に輝く重厚な鎧

 大地を貫く一対の両脚

 天空をも引き裂かんばかりの剛腕


 そして――


 その兜の中のスリットから輝くのは明るい緑色に光る正義の視線。そうそれは、いかに引き裂かれ、いかに老いさらばえ様とも決して尽きることのない無尽の力――

 彼は今まさに「あるべき本来の姿」を取り戻し顕現せしめたのである。

 彼の名はタウゼント、放浪の騎士にして歴戦の勇士、彼こそは偉大なる武人なのである。


【 タウゼント補助管理システム『π』    】

【 〔総体結合プロセス〕          】

【 >最終確認               】

【  ≫全パーツ・結合完了         】

【  ≫不正信号・無し           】

【  ≫全動作シグナル、及び、神経網    】

【             完全リンク完了 】

【                     】

【 >最終判断               】

【   〔システム・オールグリーン〕    】


 全ての準備は整った。その鈍銀色に光り輝く甲冑の鎧騎士はその他に背丈と同じ長さの馬上槍を握りしめると地上へと落下していく。

 

――ズゥゥウゥン――

 

 そして、仁王立ちで両足で大地を踏みしめるようにして彼はついにその姿を地上絵と顕現せしめたのである。


 見よ彼こそは――


「待たせたな愚かなる若輩よ」


――偉大なる放浪の聖堂騎士。


「無垢なる命、無碍に刈り取ってきたその罪は断じて許し難い! 今こそ成敗してくれる!」


 彼はその手に握りしめた馬上槍を勢いよく振り上げ、正面を毅然として見つめて、力に溺れた黒い悪鬼に向け馬上槍を振り下ろし突きつけたのだ。

 そして、彼はついに高らかに名乗ったのである。


「我こそは武人タウゼント! いざ尋常に勝負!」


 タウゼントのその叫びに権田は苛立ちを一切隠さずにいた。


「いちいち芝居がかったことをしやがってこの野郎! 目障りなんだよ!」


 それは絶対に交わらぬ価値観の衝突。今こそ決着の時である。



 @     @     @



 今タウゼントの眼前で、権田があの青白く光る電磁波砕ハンマーを振りかぶろうとする。その隙をつき果敢に飛び出したのは全ての体の機能を今こそ取り戻した甲冑騎士のタンジェントだ。

 その右手に握りしめるのは完全体のタウゼントの背丈と同じ長さの馬上槍である。金色の稲光をまとわりつかせるように槍の先端から全体へと高電圧を放射する。

 タウゼントは左足を踏み出し踏みとどまるとそちらを軸にして右半身を撃ち出すかのように飛び出させた。その右手に握りしめる馬上槍、すなわち電磁ランスを悪しき黒い鎧をまとった眼前の男の胸元に渾身の力を込めて撃ち込んだのである。


――ズドォォォン!!――


 電磁ランスが権田の装甲スーツの表面に激突する瞬間、電磁ランスの内部に蓄積されていた高電圧が一気に炸裂する。その電気衝撃の勢いは反発力を生み敵の巨体を後方へと吹き飛ばした。


「やったか?」


 タウゼントの背後でボリスたちの声がする。その声にはある種の期待が込められていたが、タウゼント自身の中では決め手となる手応えは感じられてはいない。


「なんと、これでも起き上がるか――」


 苦々しくつぶやけば彼の視界の中で権田はなんとか起き上がり、なおも戦闘行動を継続しようとしている。恐るべき闘志であるがとてもそれを賞賛する気にはなれないのだ。その怒りと復讐に妄執する姿を見ていると、どこかで憐れにすら思えてくる。

 そんな気持ちをわずかに滲ませながらタウゼントはパイチョスに問いかける。


〔パイチョスよ〕

〔はいです旦那様!〕

〔ボリス副長殿と通信は確保できるか?〕

〔了解いたしました! 速やかに周波数とプロトコルを特定致します〕


 主であるタウゼントの命を受けて、主と結合し内部システムとなったパイチョスは速やかに支援作業を行う。


【 戦闘躯体タウゼント支援制御システム〝π〟】

【                     】

【 外部周波数高速チェック開始       】

【 チェック対象:ボリス・ミハイロフ    】

【 >回線周波数特定成功          】

【 通信プロトコル高速チェック       】

【 チェック形式:国別プロトコルマッチング 】

【 特定成功:ロシア軍正規フォーマット   】

【 同、改変形式:タイプB         】

【 周波数・プロトコル           】

【 >マッチングOK            】

【 〔回線接続準備よし〕          】


 パイチョスは優秀だった。瞬く間にボリス副長との繋がりを確保すると主人であるタウゼントに報告する。


〔旦那様! 回線確保成功にございます!〕

〔うむ! ご苦労である〕


 タウゼントは思う。


「これで全ての準備は整った――」


 そして、ボリス副長に向けて回線を開く。


〔タウゼントである〕


 突如繋がれた予想外の回線接続に驚きを交えたボリスの声が返ってくる。


〔伍長か?〕

〔いかにも〕

〔驚かせるな! この回線は部外秘だぞ?!〕

〔堅いことを言うな。我輩のお付きの者が優秀なのですぐに割り出せたのである〕

〔全く――、とんでもない奴だ〕

〔案ずるな、外には流さんよ。それより頼みたいことがある〕


 愚痴混じりの会話だったが、タウゼントからの言葉にボリスの思考回路が瞬時に切り替わる。


〔言え〕

〔援護射撃を頼む、我輩が奴と打ち合い動きを止める。その上で決めの一撃を頼みたい〕


 決めの一撃――、しかも、あのふざけた防御力の怪物が相手である。ただの鉛弾で事足りるはずがなかった。その困難さはボリスにもすぐに伝わった。タウゼントがボリスに何を求めているのか以心伝心ながらに理解できたのである。


〔――狙撃だな〕

〔行動停止させ生命は維持で〕

〔わかった、俺たちの持つ最後の切り札を切る。タイミングは通信終了から60秒後〕

〔心得た。通信終了〕


――ブッ!!――


〔旦那様、通信接続終了です〕


 パイチェスからのアドバイスボイスが響く。すでにボリスが示したタイムカウントは始まっている。急がねばならない。


〔パイチェス、全回路全出力フル稼働である!〕

〔はいです!〕


【 戦闘躯体タウゼント支援制御システム〝π〟】

【                     】

【 パイチョスサイド・メインリアクター   】

【 >総出力レベル上昇           】

【  ≫出力制御値:32%⇒77%     】

【 総体姿勢制御ブルーレーザージャイロ   】

【  #1から#15まで、全数調教連携開始 】

【 全戦闘装備起動準備プロセススタート   】

【 >12秒後完了             】


 パイチョスは本来、完全体のタウゼントに組み込まれたサブ頭脳システムである。メイン頭脳の補助をし、戦闘ボディ全機能の総括制御を行う役目がある。その意味においてもパイチョスのタウゼントへのサポートは完璧であった。


〔全開OK〕


 パンチョスからのメッセージをタウゼントは認識した。そしてその総身に溢れるばかりの怒りが渾身の力として迸るのを自覚した。


「行くぞ!」


 そしてタウゼントは馬上槍を後方へと引き絞る。そして一言、とあるキーワードを口にする。


「武装変換--〝破城戦棍〟」


 その宣言に連動してサブシステムのパンチョスが武装の制御系統にコマンドを発する。


【 多段可変式戦闘ツール「オルガニックギア」】

【 >モード変換              】

【 〔ストラクチャーデストロイハンマー〕  】


 タウゼントの宣言にパンチョスがダイレクトコントロールコマンドを発する。コマンド種別は武装機能構造変換――、すなわちタウゼントが手にしているその武器は自由自在にその機能と構造を変化させることが可能なのである。

 

――残り50秒――


 タウゼントは電磁ランスを大型ハンマー形状に変化させた。微細機械ユニットの結合体であるソレはプログラムシグナルの指示に従い随意に形状と機能性を変える。そしてそれはタウゼントに許された唯一の武器であるのだ。

 

「行くぞぉ! 若造!!」


 そしてタウゼントは両脚底部からあの電磁遊離プラズマガスを噴出させる。その2m近い巨躯をリニアカタパルトで打ち出したかのように飛び出させるのだ。

 

「ちいぃっ!」


 激しく歯ぎしりをしながら苛立ちを吐き捨てた権田は、起き上がったばかりの体勢でとっさに両足を開いてその場に踏ん張り立ち尽くした。そしてその手にしている電磁破砕ハンマーを右下側後方へと引き絞るとタイミングを推し量る。

 

「死にさらせぇえ!! ガラクタぁあ!!」


 電磁遊離プラズマガスの紫煙を迸らせながら突進するタウゼントはその両手に携えた巨大ハンマーを大ぶりに右斜上に振りかぶった。そして二人がそれぞれに握りしめていたハンマーは、斜め上から、斜め下から、振り抜かれ互いの間で壮絶に撃ち合った。

 

――ズゴォォォン!!――


 権田の握りしめる電磁破砕ハンマーはその打撃面から超高出力のマイクロウェーブを放出する。そして接触時に目標物の構成分子構造を爆砕的に自己崩壊を誘発させる形式のものだ。当然、彼はタウゼントの振るうハンマーも一瞬にして破壊せしめられるはず――そう思っていた。だが――

 

――ギィィン!――


 タウゼントのハンマーは奇妙な共鳴音を発するとまばゆい光を放ちながら敵の電磁破砕ハンマーからの衝撃を相殺してしまう。そして何もなかったかのように破壊されずにそのまま存在している。

 

――残り40秒――


 タウゼントが言葉を吐く。 

 

「生憎であるなぁ」


 タウゼントは自らのハンマーを再び振り上げた。

 

「この程度の電磁波衝撃! 散らすことなど造作もない!」


 タウゼントとて百戦錬磨の戦歴を持つ武人であり軍人である。この手の電磁波兵器に遭遇したことは一度や二度では無い。対策は講じてある。だが権田には、タウゼントの言葉に狼狽えるような素振りは一切無かった。ヘルメットのゴーグル越しの視線はギラついたままだ。

 

――ブゥゥゥゥン――


 鈍く響く電磁放電の異音、それはタウゼントと相対する権田の方から鳴り響いている。それはタウゼントから見て死角となる位置から始まっていたのである。

 

「吠えてろ、老いぼれ」


 そう吐き捨てると同時だった。

 

――残り30秒――

 

 権田の背面2つの放電端子から放たれた2条の紫電のほとばしりは権田の纏う装甲スーツの体表駆け上がる。そして両肩へとリレーされ、そこからさらに両腕部、さらには前腕部の放電端子へとつながる。2条の稲光が権田のハンマーへとリンクする。それと同時に権田が握りしめていたハンマーのヘッド部は不気味な振動を始める。

 

――ゴォッ!――


 それと同時に不気味とも言える噴出音が鳴り響き、電磁破砕ハンマーのヘッドの片側が環状のスリットノズルを現し、そこから銀白色の電磁遊離プラズマのハレーションを噴出、輝ける火柱を吹き上げたのだ。

 

「勝つのは俺だぁ!」


 権田のハンマーのヘッド部がロケットのごとくに突進し始める。権田が握るその長い柄によって動きと軌道を制限されていたからハンマーは円を描くように飛び、瞬時に一回転すると、その高速のハンマーヘッドをタウゼントのボディへと打ち込もうとしていたのである。

 

「まだ終わらんよ」


 さらなる言葉を吐いたのはタウゼント。ガラ空きの胴体に今にもボディブローを食らうがごとくに権田のハンマーが襲いかかろうとしていた。

 

――残り20秒――

 

 それを真っ向から迎え撃ったのは他でもないタウゼント自身だ。

 

「狩りの獲物は貴様の方だ! 下郎!」


 それと同時にタウゼントは内部リンクシステムを通じてパイチョスに無言で指示を送る。それを受けたパイチョスが武装のダイレクトコントロールを発した。


【 多段可変式戦闘ツール「オルガニックギア」】

【 >モード変換              】

【 〔ハイパワーヒートジャベリン〕     】


 タウゼントが振り上げていた巨大ハンマーは一瞬にしてその形状を変える。次なる形は長さ1.5m程度の長さの手槍となる。しかしただの手槍ではない。その先端の刃峰の部分は真紅に、そして赤白く光り輝いており、それが何よりも高い高熱を発しているのは誰の目にも明らかだったのである。

 

「なにっ?!」

 

 驚きの声をあげたが既に遅かった。タウゼントが勢いよく手槍を振り下ろすタイミングはまさに、権田のハンマーがタイミングのボディへと襲いかかろうとするまさにその瞬間だったからである。そしてタウゼントの赤く燃え上がる手槍は正確にして確実に、権田の振るったハンマーヘッドを、その動きを相殺して衝撃を打ち消すかのように、斜めに貫いたのである。

 

――ジュォォォォオッ――


 鉄塊が切り裂かれ、同時にバターでも熱して溶かしたような溶解音が鳴り響く。

 

――残り10秒―― 

 

 乾坤一擲、天啓きらめくがごとく、タウゼントが放った一撃――、それは見事に愚物・権田の狂えるハンマーを害虫を叩き潰すがごとくに動きを静止させ、その場に固定してしまったのである。

 そのタウゼントの口から権田に対して突きつけられた言葉があった。

 

「儂の武器が可変式である事のほんとうの意味、考えるべきであったなぁ」


 これで終わるような戦いではない。

 これで諦める敵ではない。

 これで決着がつくような怨讐ではない。

 そして、その事を老兵タウゼントは理解していたのである。

 

――獲物がダメなら素手で――

 

 敵がそう来るであろうと言うことはタウゼントは百も承知だった。

 権田の両手がハンマーから離れる。

 即座に動いたのは権田の左腕だった。下から上へと跳ね上げるようにタウゼントの頭部を狙う。

 それと同時に左足が踏み出され前進してくる権田の体。

 そしてさら同じくして、右腕が下から上へと突き上げるようにその剛拳を撃ち抜こうとする。無論、その右拳には青白い稲光の迸りが絡みついてた。

 雷撃をまとった鉄拳――、近接格闘の攻撃手段としてはなかなかと言えた。だが――

 

「だから――」


【 多段可変式戦闘ツール「オルガニックギア」】

【 >モード変換              】

【 〔マーシャルアーツシャフト〕      】


 真紅に輝く燃える手槍――、それは瞬時に再び形を変えた。それは単なる一本の〝棒〟であった。

 

「よく考えろと言っておるのだ!!」


 両手で握りしめたその重厚なる金属シャフト――、左手が上に、右手が下に――

 右手の側の棒の先端が跳ね上がり、下から上へと動いて権田の胸元を叩きのめし、敵の動きを一瞬にして抑止する。

 さらに返す刀で、手元から上へと伸びていた反対側のシャフトの一端が必罰を下す錫杖の如くに振り下ろされる。左足を軸に後方へと退く動きを加えることでタウゼントは権田の攻撃をさり気なく流れるようにかわしてみせた。

 そしてついに――

 

――0秒――


――ボリスが約束した60秒は過ぎたのだ。


――ゴウゥゥゥン!――


 鳴り響いたのは轟音一閃、重く響く射撃音――

 口径14.5ミリの重弾丸が虚空を切り裂き突如として撃ち放たれたのである。

 当然ソレを回避する余裕すらない。それに加えてその弾丸を撃った者こそは――

 

「|Снайперский《狙撃》 успех(成功)


――必殺の狙撃兵。


 彼が対戦車大型ライフル『デグチャレフPTRD1941』を構え、その身を〝完全ステルス状態〟にて完璧に隠して来るべき狙撃の瞬間のたった一撃のために、果たすべき役割を達成してみせたのだ。

 弾丸は権田の背面、その脊椎部の下端部、骨盤部分と連結される部位に、寸分の狂いなく見事なまでの精緻さで命中していた。

 これにより――

 

「くそっ! 下半身が!」


――権田の腰から下の部分の、特に改造されたサイボーグボディの部分は精密制御を失い、立つ事すら出来なくなっていたのである。


「動かぬであろうなあ――、いかなサイボーグボディと言えど、神経を断裂させられれば立つ事すら出来ぬ道理」


 そしてタウゼントはその重く硬い金属シャフトを僅かに持ち上げると権田の後頭部に脅すかのように押し当てる。

 

「まだ殺るか? 弱卒?」


 それは威嚇である。戒めである。これ以上やるなら間違いなく殺してみせるという威嚇――そしてそれはまさに勝者の頂にて見下ろせるからこそ行使することが出来る威嚇であった。

 その瞬間、権田の全身から一気に力が抜けていた。がっくりと項垂れ、両手で突っ伏しるようにして伏している。当然、その装甲スーツに組み込まれた放電兵器は停止して攻撃手段の役割を放棄したのである。

 

 そして、この闘いを制したのはタウゼントだけではない。

 

――ザッ、ザッ、ザッ――


 地面を踏みしめながら歩いてくる者たちが居る。その者たちの名は『静かなる男たち』――

 ロシアン・マフィア『ゼムリ・ブラトヤ』が率いる老獪なる精鋭戦闘部隊である。

 彼らは一人、また一人と姿を現す、完全にステルスを切らずに、おぼろげなシルエットとして浮かびっている。

 まるで亡霊の様な姿で彼らは黒い盤古の隊員である権田を取り囲んだのである。その彼らにタウゼントが問う。

 

「来たか?」


 答えるのはボリス副長、

 

「あぁ」


 満足げな声が漏れる。ボリスはタウゼントに問うた。

 

「しかし、よく気づいたな。俺達がアレを所持している事を」


――アレ――


 その言葉が指し示すのはまさに権田のボディを撃ち抜いたあの対戦車ライフルのデグチャレフのことだ。

 だが、タウゼントは事も無げに笑いながら言い放った。

 

「シリアにアレを持ち込んで昼夜無く打ち込んでいたのはお主らであろう?」

「覚えていたか」

「無論である。装甲車の破壊にも、対人狙撃にも、そして敵陣地の夜間の嫌がらせにも――」


 その言葉にボリスはもとより、彼の元に集まった老兵たちの顔に笑みが浮かんだ。

 

「あぁ、夜食のスープの鍋を撃ち抜いた時の連中の顔ったら――」

「哀れなほどであったなぁ」

「全くだ!」


 ボリスが笑う。タウゼントも笑う。そして老兵たちは笑う。

 明日をもしれぬ兵士の宿命、退役しても逃れられぬ闘いの業――、

 死神の影すらも宿命として真っ向から見据え、そして彼らは笑い飛ばすのだ。

 それが死の運命に真っ向から抗う最良の手段であると経験にて熟知しているからだ。

 

「さて――」


 だが、そんな砕けた時間もすぐに終わる。なぜなら――

 

「覚悟を決めてもらうぞ。相応の代償は払ってもらう」


――彼らはマフィアなのだから。


 ボリスが告げる言葉はまさにギロチン台の刃物の輝きに等しかった。その言葉が持つ重さと意味を悟り、権田の顔は蒼白になっていた。

 一方でボリスの視線はタウゼントにも向けられていた。その視線の意味をタウゼントもまたはじめから解っていた。

 

「吾輩は保護対象が助かればそれで構わぬ。敵を捕縛し連行するのは役目ではないのでな」


 それは嘘だ。命を守り、危機を回避する。その行動の趣旨の中には可能な限り人の死を避けたいと言う思いがあったはずだ。だがそれを敢えて捻じ曲げたのには意味があったのだ。

 

Ценить(感謝する)


 ボリスが謝意をあらわす。それは彼らの誇りが守られたが故。軍人でありマフィアである以上、誇りと尊厳を護るのは生きていく上で欠かせぬことであることはタウゼントにも十分にわかっていたのである。

 だがそれはある者にとっては死刑宣告に等しいものであった。己に降りかかるであろう運命を悟り、黒い盤古の隊員であったはずの権田は死にものぐるいでその身を捩り始めたのだ。

 

「ふ、ふ! ふざけんなぁ! お、俺をころ、殺そうってのか?! 冗談じゃねえぞお!!」


 そして装甲スーツの右腰、強化プラスチック製のホルスターに納められえていた拳銃――H&K社のUPSコンバクトの357SIG口径モデルを引き抜くと、それを引き抜きざまに副長のボリスへと突きつけたのだ。

 

「お! お! 俺は! 俺達は! 犯罪者(お前ら)を認めねえ!」


 その叫びとともに権田は引き金を引いた。死に物狂いで、無我夢中で、だが、理性をなくし激高しての拳銃射撃など当たるわけがない。全弾が虚空をきり飛び去っていく。そしてその者の射撃と同時に動いたのはタウゼントだった。

 

「大概にせい! 愚か者がぁ!!」


 怒号一閃、轟く叫びとともに踏み出したタウゼントは重金属製のシャフトを振り回し権田のヘルメットを真正面から全力で打ち据えた。


――ゴシャッ!――


 強化プラスチックが割れ、信号ケーブル線が引きちぎれて権田がかぶっていたヘルメットは吹き飛んだ。それのみならず彼の鼻頭は砕け鮮血が激しく吹き出す。さらに煽りを食らって仰向けに倒れ込んだのだ。それでも苛立ちと怒りを抑えきれないのか権田は上半身をなんとか引き起こした。

 

「ち、畜生!」


 その強烈なまでの怒りの視線は隠しきれない敵意だ。それはタウゼントのみならずロシアン・マフィアの静かなる男たちにも向けられている。だがその尋常ならざるまでの怒りに疑問を抱いた者がいる。

 

「お主――」


 タウゼントは右手に握りしめた金属シャフトの一端を権田へと突きつけながら問う。


「なぜ、それまでにして〝憎む〟のだ? 法と治安を司る官憲の徒ならば殺害よりも制圧を優先すべきであろう? なぜにまでしてそう〝殺す〟事にこだわり続ける? なぜだ?!」


 その問いはタウゼントだけではない。静かなる男たちのみならず、この東京アバディーンに住む全ての人々が黒い盤古の者たちへ抱く疑念と義憤であったのだ。全ての視線が一つに集まる中、権田の口が開いた。

 

「サイボーグ技術が――地下で蔓延するようになってからこの街は、いやこの国はすっかり変わっちまった。国の外からはお前らみたいな連中がぞろぞろやってきて徒党を組む! 悪化した治安を取り戻すためにこの国の警察は死に物狂いで戦った! でも戦闘力がたりねえ。法の枠の制限下じゃどうあがいても法の枠を超えて動くお前らを超えることができねぇ! そうこうしているうちに仲間たちはどんどん殺られてく! 生き残った連中も体が効かなくなった壊れた連中ばっかりだ! 法を守ってこの国を守れねぇなら端っから規則なんか無視して問題の根幹をぶっ潰す以外にねぇだろうが!」


 それは武装警察部隊・盤古が設立当初から抱え続けている根幹的な問題だった。当然、それに対する答えを出せようはずがない。さらにはその勢いのまま権田はさらに叫んだのだ。

 

「俺も腰から下の機能を無くした。両足も大腿部から下を挫滅させた。医療用の義肢をつければ日常生活を送ることは出来るが俺の中にくすぶる怒りは組めども付きねぇ! だから俺は誘いに乗ったんだ。俺達の隊長とその背後に居る連中の誘いによ! お前らを皆殺せるだけの力を得るためになぁ!」


 叫びがこだまする。だがそれに対して同意する声は出てこない。代わりに発せられた言葉は侮辱だ。声を発したのはボリスである。

 

「お前の誇りってやつはそんなもんか。安っぽいプライドだな? ハポンスキ」


 静かな怒りと痛烈な侮辱を滲ませながらもボリスは歩み出る。そして身につけていたコサックジャケットを徐に脱ぎ始めた。

 

「コレを見ろ」


 そう告げると右肩をモロ出しにする。そしてそこに戦争という行為が人間に残した傷跡の現実を露わにさせる。そして権田が見た物は彼自身が普段から見慣れていたものだったのである。

 

「―――」


 言葉無くあっけにとられている権田が目にしたものは、右半身全てが人工素材化したサイバネティックスボディであった。自らの身体を晒したままでボリスは告げる。

 

「グレネードで吹き飛ばされた。3度通常手術を受け、5度サイバネティックスボディの適応手術を受けた。そしてふたたび立ち上がるまでに戦闘用サイボーグボディのカスタム手術を12回受けた。後遺症も山ほど抱えている。それでも俺は生きている」


 副長のボリスが自らの正体を晒した事で、他の隊員たちも次々に自らの肉体を露わにさせていく。

 ある者はコサック帽を脱ぐと、顔面の人造皮膚をめくり始めた。下から露出したのは真っ白な医療用プラスティック製のロボットの様な頭部である。

 

「対戦車ライフル弾の直撃で頭部を砕かれた。17回の手術でようやくここまで回復した。だが脳を引きちぎるような頭痛とつんざくような耳鳴りの発作は未だに消えない」


 別のものはズボンをまくる。そこに見たのは金属製の頑強な義足だった。

 

「俺は地雷だ。右足を骨盤まで吹き飛ばされた。男性機能は完全に無くした。歩行機能を完全に取り戻すのに4年だ」


 また別なものは着衣をまくって腹部を出す。そこには碁盤の目のように手術痕が幾重にも重ねられていた。

 

「土手っ腹に4番ゲージのダブルオーバックの散弾を食らった。内臓がほとんど吹き飛んじまってな、あれ以来マトモに飯を食ったことがない。腸管の代わりに栄養タンクに置き換えちまったんでな」


 その隣の者は自らの左胸を叩く。

 

「軍用アンドロイドの制圧戦闘で肋骨を砕かれた。左肺を引きちぎられて完全に死んだ――だが1年の昏睡の後に胸の中を全部人工物に置き換えて生き返った。だが自分の体が自分のものじゃないような違和感は未だに消えない」


 よく見るとその者の首筋には何度も何度もかきむしったかのような傷跡が見えた。彼が口にする違和感を彼の心と理性が拒否した結果であった。

 残る隊員たちも次々に自らの肉体の経歴を明かす。左腕をまるごと奪われたある者は爆弾テロの犠牲であり、自らの娘を救おうとして失敗したが故の結果だった。居並ぶ隊員たちの全てが何らかの理由でその体の一部を失っていたのだ。そしてそれらの事実が突きつける現実が有るのだ。

 ボリスは告げる。

 

「いいかよく聞け。今、世界中の戦場は異常事態に突入している。エジプトで起きた大規模テロの現実を知っているだろう? どんな国でもあんな状態なんだ! 旧時代のISなんか比較にならん! 非常識な規格の非合法サイバネティックスボディが溢れ、ディンキー・アンカーソンの使ったマリオネットのような重戦闘アンドロイドが跋扈している。今や世界中の軍隊は軍隊同士で争うために活動はしていない! 最前線の兵士達が俺たちのように傷だらけになりながら国家を! 市民を! 同胞を! 街を! 故郷を! 護るために擦り切れながら戦っているんだ! 世界の現実を見ようともしない貴様に! いや、貴様ら黒い警官たちに! 自分自身を語る資格なんぞ無い! いいか――」


 そしてボリスは大きく息を吸い込むと叫ぶように吐き捨てた。


「自惚れるな!!」


 その怒声が響く中、あらたに数歩進み出たのは権田と熾烈な闘いを繰り広げたタウゼントだった。言葉を失った権田を見下ろしながらタウゼントは静かに語りかけた。

 

「お主に〝人間〟とはなにか? と言うことを教えてやろう」


 その言葉を残しながらタウゼントは右手でその頭部にかぶっていた兜を脱ぎ始めた。そしてボリスに背中を向けたまま彼にも告げる。

 

「准尉殿、かなり酷いものをお見せする」


 その断りの言葉にボリスは答えなかった。

 

「見るが良い。これが儂の現実だ」


 そして完全にロックを解除してタウゼントはその頭部にかぶっていた鈍銀色のフルフェイスの兜をすっかり脱いだ。そしてその下から見えたものに対して言葉を発せる者は誰も居なかったのである。


 それは髑髏である。

 骸骨である。


 皮膚もなく眼球もなくむき出しの血管と神経とが張り巡らされたナマの頭蓋骨は透明な防護プラスティックシェルで覆われてその中に半ゲル状の保護粘液を満たしていた。その中にタウゼントの正体である生の頭蓋が納められているだ。そしてその耳や目、さらにはその奥の様々な感覚器官が収まっていた場所の神経へと、センサー装置から伸びた神経信号回線がつながれている。生の脳髄こそむき出しでは無かったが、その姿は筆舌に尽くしがたい無残さに満ち溢れていた。

 そしてさらにその場に居合わせた全ての者が悟る。タウゼントは〝合体前〟は寸足らずの体と申し訳程度手足しか無かった。ならば、その胴体に残されている物がほんの僅かである事は誰の目にも明らかだった。

 

「ごっ、伍長――」


 僅かにボリスの声が漏れる。だがその声にタウゼントは反応しなかった。タウゼントは兜を被り直しながら権田になおも語りかけた。

 

「ロシア古典文学に〝ドウエル教授の首〟と言う作品が有る。人間を首の上だけで生かそうとする研究をしていた者が、自分自身が実験台にされ首だけにされてしまうと言う筋書きの話だ。だが、お主、この話に出てくる首だけにされた者は果たして生きていると言えるのだろうか?」

 

 その質問にも権田は答えなかった。

 

「ワシは死んでいるのも同然だと考える。人はその足で歩き、声を伝え、他者とふれあい、己自身の意志で行動を決定して、その結果のすべてを甘受してこそ、人は生きているといえるのだ。ならばワシはどうだ? お主の目から見て生きているか? 死んでいるか? さぁ、どちらであろうかのう?」


 それでもなお権田は答えられなかった。安易な答えを出すことができなかったのである。

 

「ワシは、ワシ自身は〝生きている!〟と胸を張って答えたいのだ! 機械に組み込まれた無残なパーツである事だけは断じて否定したいのだ! ならばその為にはどうすればよいのか? 日々常に考えに考え、悩みに悩んで、そしてワシは今こそここに居るのだ! 道化として、愚か者として、誇りある騎士として! 胸を張って生きるために! だからこそワシは戦うのだ! たとえ――〝人間の欠片〟と化してもな。ならば黒い官憲よ、お主はどうなのだ? 生きているといえるのか? 自らの意思で何をなすべきか決めているのか? その答えはお主の中に今こそあるのか? さぁどちらであろうなぁ? それともお主の部隊の隊長の口にする文言に洗脳されているだけでは無いのか? 借り物の言葉に酔っているだけではないのか? さぁどうだ?! 弱輩よ!」


 そして権田はいよいよ、その心を完全に折られていた。がっくりと項垂れ何も声を発しない。そんな権田をタウゼントは一瞥もせず、彼を見放したかのように黙々と歩き出したのである。

 

「准尉どの」

「なんだ?」


 ボリスもまたタウゼントの持つ正体に戸惑い驚きながらも彼からの問いかけに答えた。

 

「またいずこかで会うこともあるだろう。その時まで――死ぬなよ?」


 さらなるタウゼントからの声にボリスも答える。それがおそらくは二度と会えぬ今生の別れであるのは間違いなかった。その事実を受け入れ理解しつつも、かつての戦友のあまりに悲惨な真実に衝撃を感じずにはいられない。


「お前もな伍長――、武運を祈る」


 それが二人が交わした最後の言葉となる。タウゼントは振り向きもせずその場から立ち去って行く。ボリスはタウゼントのその後姿を眺めながらも部下に指示を下した。

 

「移動するぞ。ウラジスノフ隊長の支援に回る。中翼から4名が残れ。そしてコイツを――」


 ボリスは腰の後ろからトカレフと言う名の一丁の拳銃を取り出す。それを逆さに持つと振り上げ、権田の後頭部に向けて勢い奥振り下ろした。鈍い打撃音の後に権田の体は昏倒してついにその場に倒れ伏したのである。

 

「アジトへと連行しろ」


 死力は尽くした、  

 戦った、

 成すべき事を成し、

 一歩も退かなかったのだ。

 そして一方が負け、残る片方が勝った。

 ただそれだけのことである。


「こいつには洗いざらい吐いてもらう。警察の内部事情、黒い盤古の関連情報、我々の今後に有益なものは全てだ」


 ボリス副長の指示を受け四人の隊員がその場に残った。敗者である権田をマフィアである彼らの組織の深奥へと飲み込むためである。おそらくは決して生きて帰ることは二度とないだろう。


「行くぞ」


 ポリスのこの宣言とともに静かなる男たちの隊員たちは、規定のステルス装備を作動開始させる。


「ステルス深度レベルⅡ」

да(ダー)!」


 命令受諾の返答はすぐに発せられる。

 そしてその姿はついに何も見えなくなった。後には荒涼たる空間が残されているだけである。



 @     @     @



 タウゼントが歩き去り、路地裏の物陰へと進んできたその時である。


――グラッ――


 タウザントのその体躯は前のめりに倒れていく。

 そして自分への倒れ伏すその瞬間に機転を利かせたのはパイチョスの方である。


「おっと!」


 思わずつぶやきながらパイチェスは内部コマンドを速やかに実行する。


【 戦闘躯体タウゼント支援制御システム〝π〟】

【                     】

【 総体制御命令              】

【 >躯体結合状態解除           】

【  ≫タウゼント、パイチェス       】

【  ≫各個別個体、再構成実行       】


 速やかにコマンドが実行されタウゼントのそのボディーは再び2体分に分解され再結合を果たす。パンチョスは器用に地面に着地したが、タウゼントの方は再結合こそ成功したものの前のめりに地面に突っ伏してしまったのである。


「ちょっと旦那様! またですか? まったくもう! だからあれほど無理するなといつも言っているのに!」


 パイチョスが普段の不満をぶつけるかのように捲し立てる。その剣幕を聞きつけ歩み寄る物の姿があった。その人物は穏やかな調で問いかけてきたのだ。

 

「大丈夫かね?」


 パイチョスはその声に聞き覚えがあった。


「これは? ドクター・ピーターソン?」

「おや? 覚えておいてくれたのかね。それにしても一体どうしたのかね? 何か不具合でも?」


 ピーターソンからの問いかけにパイチョスは丁寧に答える。


「不具合というわけではないのですが、いつも通りの大規模ファントムペインの発作兆候です。体内システムが最悪の事態を回避するために状況を自動感知して旦那様の意識を一時的にシャットダウンするのです」

「なるほど、そういう仕組みになっているのか」

「はいです! そしてその際の尻拭いは私の役目なので」


 タウゼントには彼だけが背負わされた重い重い苦難の鎖が絡みついている。わずかばかりでしか残されていない肉体であるが故に、無くしたもの全てが怨蹉となり絶えることない苦痛として降りかかってくるのである。

 そしてそれを支えてやり助けてやれるのはタウゼントの後ろをぶつくさ言いながらもついてくる、この小さな小さな従者ただ一人であった。

 その勤勉にして忠実なる者をドクターは微笑ましいと思う。そして彼の説明にピーターソンも素直に納得していた。しかしピーターソンにはどうしても気になることがもう一つあった。それを尋ねずにはいられない。


「そもそも君は何者なのだね?」


 ピーターソンの疑念、それは彼の眼下に佇む小さい存在に向けられていた。パイチョスもまたこれを拒むことなく素直に答えた。


「私は、本来であれば旦那様の体内に備わったサブ頭脳システムにほかなりません」

「なんと……!?」

「ですがこの方には例のファントムペインの発作が発生します。このファントムペインを抑えるために色々な対応が試みられてきましたが、最終回答として出たのが彼本来の頭脳が持つ身体イメージを大きく制限する対処方法だったのです」

「それで2人分になったのかね?」

「はいです」


 その素直で裏表のない性格だからこそピーターソンは彼の言葉を信じないわけにはいかない。


「なるほど、それが今の彼と君の生きる姿というわけかね」

「はいです」


 ピーターソンのその言葉にパイチョスは素直にうなづいていた。


「私は単なるサブAIとしてこの世に生み出されました。ですが不測の事態で仮初の体を得ました。その体は本来は私が組み込まれるべき主人の片割れ。ならば、その主人の意志に従いお世話をするのが私の生きるべき道。その事に喜びこそあれ、不満は何一つありません。だって――」


 そしてパイチョスはその総身で体の奥底から湧き出る喜びを現した。

 

「旦那様のお役に立てて、世の子どもたちを笑顔にも出来る! ただのAIだった私にはありえないほどの喜び! これを喜ばずに何を喜ぼうと言うのですか!」


 それは一つのしあわせであり喜びであった。己れが宿命を素直に受け入れ、その制限された生き方の中で最大限の楽しみと存在意義を見出す。それこそが、いかなる人間にも通用する幸せの秘訣のようなものなのかもしれないのだ。

 そのパイチョスの笑顔にピーターソンも思わずその頬をほころばせていた。

 

「なるほど――君たち主従の掛け合いが、なぜコレほどまでにたのしさや喜びに溢れているのか不思議だったのが――、そう言うことなのだな。それでだが、私も一緒に連れて行ってくれんかね? 私一人でここから脱出するのはいささか骨でね」


 ピーターソンがはにかみながら問いかければ、パイチョスもまた主人であるタウゼントの体を持ち上げ担ぎ上げると、ピーターソンの申し出に素直に頷いていた。

 

「かしこまりました! では一緒参りましょうか。ささこちらへ!」


 そしてパイチョスが案内する道をピーターソンがついていく。放浪騎士の凸凹コンビの後を一人の老医師が導かれていったのである。


 

 @     @     @

 

 

 そして同時刻――

 ここは地球の裏側のイギリス――ケンブリッジ、

 チャールズ・ガドニックが率いるエバーグリーン財団の拠点研究所の一角

 

「これは――まさか?!」


 驚きの声を上げているのは、一人の若い科学者。情報工学が専門のトム・リー、英国系とシンガポール系の華僑のハーフだった人物だ。英国人を父に持ち、英国で生まれ、英国で育っていた。その彼が驚きの声をあげていた。彼が見ていた物は東京のあの洋上スラムの光景を映し出す中継カメラ映像だった。

 トムに解説するのはガドニック教授本人。

 

「私の組織の日本現地スタッフに命じて中継カメラ映像を確保した。今の日本の現場のリアルタイム映像だ。しかしコレを見るに――」


 教授もその顔に苦虫を潰したような不安が垣間見えていた。

 

「あまり良い状態ではないな」

「えぇ、たしかに――」


 ガドニックがつぶやきトムが頷く。

 その中継カメラ映像には、未だ退避していない第2科警研のティルトローターヘリが移っていたのである――

次回、特攻装警グラウザー第二章

サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part42『Now It's Show Time!!!』



挿絵(By みてみん)

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