サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part35 『死闘・正義のシルエット』
イプシロンの死闘の行く末は…………
第二章サイドB第1話Partt35
スタートです
本作品『特攻装警グラウザー』の著作権は美風慶伍にあります。著作者本人以外による転載の全てを禁じます
這部作品“特攻装警グラウザー”的版權在『美風慶伍』。我們禁止除作者本人之外的所有重印
The copyright of this work "Tokkou Soukei Growser" is in Misaze Keigo. We prohibit all reprints other than the author himself / herself
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その狭いヘリの機内に存在するのは3人だけである。
一人はクラウンの配下でカエル型の存在であるイプシロン
一人は盤古・情報戦特化小隊の狙撃手である財津
残る一人は、2重反転ローターステルスヘリのメインパイロットである香田である。
香田はヘリの操縦に全神経を注ぎつつも、背後で行われている荒事に苛立ちを感じずには居られなかった。そして、その濃と直結された秘匿会話回線にて情報戦特化小隊の隊長である字田へとシグナルを送る。
【送者:ヘリパイロット・香田 】
【受者:隊長・字田 】
【極秘内規規定、E-23 】
【適用対象:狙撃手財津 】
【判断を求む 】
暗号化されたそれを独自の拡散通信アルゴリズムにのっとって、隊長の字田へと送ればレスポンスは即座に帰ってきた。
【送者:字田 】
【受者:香田 】
【E-23、適用許可 】
【即時執行せよ 】
【送者:ヘリパイロット・香田 】
【受者:隊長・字田 】
【了解。即時執行する 】
【ヘリ機内、特別第3種装備を使用する 】
その通信は僅かな時間の内に行われた。そして、パートナーである狙撃手財津の知らぬところで、もう一つの正義は起動しつつあったのだ。
その正義の名を――
『粛清』
――と言う。
【情報戦特化小隊特殊装備総括プログラム 】
【AUTHER:香田 】
【多重人格並行処理プロセス起動開始 】
【第1処理:ヘリ操縦 】
【第2処理:アバター体独立起動 】
【 】
【多重化プロセス ―スタート― 】
そして、無情なる〝組織の論理〟が稼働し始めたのである。
@ @ @
「――の野郎っ!!」
狙撃手・財津は明らかに冷静さを失っていた。彼にとって絶対のスキルであった狙撃をことごとく跳ね返されたのみならず、このステルスヘリの機内にまで突入されてしまったのだ。この失態をそのまま認めるわけにはいかなかった。彼とて職務に対するプライドはあるのだ。
「舐めてんじゃねえぞ!」
その叫びとともに財津の左の手首の表皮が複数に分割され内部が展開される。そしてその内部から露出したのは――
【 超高圧スタンロッド展開 】
【 最大瞬間電圧:200万V 】
【 電流波形モード:殺傷 】
――超高圧の戦闘用のスタンロッドである。
財津は両足を開きスタンスをとる。
「こいつは特別製だ。たとえ高絶縁のゴム素材でも電流を内部浸透させる事が可能だ」
さらに目の前のバケガエル目掛けて飛びかかろうとする。
「お前の防御能力がどれほどのもんか試してやるよ!」
左腕を振り上げスタンロッドの先端をバケガエルのイプシロン目掛けて叩きつけようとする。イプシロンはそれを這いつくばるような低姿勢で身構えると丸い両眼で敵である財津の動きを詳細に観察していた。いかなる攻撃にも即応できるようにするためである。
「やってミロ」
一見してはわからないが、イプシロンのその胴体に比して巨大な両足に力が込められている。両足の底面は吸着式。飛び出すためにしっかりと床面に吸い付いている。
「ゲッ!」
ガマガエルの呻きのごとくイプシロンはノイズを吐き出した。それは財津に向けられたものであり威嚇と敵対を明確にする物であった。だが自らは動かない。財津が先に動いてから即座に反応するつもりだ。
対する財津は狭いヘリの機内で超高圧スタンロッド特有の性能によりイプシロンを封じるつもりであった。それは――
――ブォォォオオン――
スタンロッドがその放電部から青白い稲光を解き放っている。単なる犯人の無力化を目的としたものではなく、その放電の効果範囲を飛躍的に伸ばすのが目的の物であった。
当然、電圧のみならず電流値も大幅に強化されている。それは目的物と接触せずとも接近させただけで十分に威力を発揮しうる代物だったのだ。
一気に飛び出しイプシロンへと迫る財津。スタンロッドを備えた左腕は上へと振り上げられいつでもイプシロンがどの方向へと退いだとしても即応可能であった。ゴーグル越しの狂気ばしった視線で敵を見据えながら財津は一気にイプシロンへと迫ったのである。
「死――」
小さくつぶやくように声を発しかける。だがその言葉から先は出ることはない?
「ゲッ?」
突然、展開された意外な光景にイプシロンは驚きの声を上げる。否、驚いているのは財津自身である。背後を振り返ろうとするが振り返れない。疑問の声も、苦悶の叫びもあげれない。ただ感じるのは――
――喉への焼けるような痛み――
――であった。
そしてその痛みとともに無感情な電子音声が鳴り響いたのである。
『武装警官部隊・盤古東京大隊、情報戦特化第1小隊、狙撃手『財津洋也』情報戦特化小隊極秘内部規定E-23条項を適用しこれを執行する』
それは財津の背後に立つ不気味な黒い骸骨のオブジェの様なものから鳴り響いていた。
胴体部と頭部の直径は10センチほど、腕部と脚部は5センチほど。あまりの細さに折りたためばカメラ用の大型三脚とは大差ない大きさにしか見えないだろう。頭部は円筒形であり、無数のカメラアイが周囲360度をくまなく見つめていた。
その棒状の右腕は前方へと突き出され、先端部からは長さ40センチほどの極細のブレードが突出していた。それが財津の背後から彼の喉へと突き立てられていたのである。そして、財津に対して下された無情な〝声〟は紛れもなく、そこから発せられていた物であった。
『ヘリの中でそんなもん振り回すんじゃねえ糞が。放電火花で引火するだろう。もういい、お前は不要だ』
黒い骸骨状の物は右腕を一旦後方へと引いてブレードを引き抜くと、再びそれを前方へと突き出す。刺し貫いたのは財津の後頭部。最大の急所である延髄部を見事に一撃である。
「が、カッ――」
銀色に光るその鋭利なもので延髄を刺されて財津は瞬間的に硬直した。声に鳴らないうめき声を一瞬だけ漏らすと白目をむいてそれっきり動かなくなる。再びブレードを引き抜けばかつて財津と言うスナイパーだった物は力無く崩れ落ちたのである。
『E-23規定執行完了』
人間にはまるっきり見えない不気味な黒い棒人形、そうとしか形容できないそれが盤古隊員であった財津をあっけなく処分したのだ。その唐突過ぎる光景にイプシロンは驚くしか無い。だが次にその棒人形が攻撃するとすれば、ヘリ機内の邪魔者であるイプシロン以外にはあり得なかった。ならばイプシロンが問うのは一つだ。
「誰だ、オマエ?」
そう問い掛けつつ横へと少しづつ移動する。かつて財津だった肉塊に近づくと足先でヘリの外へと向けて少しづつ押しやっていく。狭いヘリ機内ではもはや邪魔でしか無い。深謀遠慮で敵の出方を伺っているイプシロンを黒い棒人形のシルエットは語りだす。
『答える義理はねぇが教えてやる。オマエの目の前でこのヘリを操縦しているのが俺だ』
すぐには理解できない言葉だ。だがそれが意味するの事はたったひとつしかない。
「ゲロ? 遠隔アバターか?」
『ご明察。俺はヘリを操縦しながら、この棒マネキンを使って非常戦闘を行える。機内警備の戦闘だけじゃない。このレールガンライフルで狙撃任務も同時執行可能だ。その気になればこんなイカれサディスト、いらねーんだよ」
20以上のカメラアイがひしめく頭部が不気味な光を放ちながら、イプシロンを凝視していた。これだけの目を持っているなら当然、死角は無いだろう。逃げることも難しい。
それは香田が無線回線を通じて、その頭脳と直結させた遠隔アバターボディであった。折りたたまれて機内の片隅に秘匿しておいたのだろう。アバターボディがイプシロンとの距離を詰めながら、無様な死体と化した元狙撃手を足先で蹴飛ばしヘリの機外へとおいやっていく。
かつて任務パートナーであったはずだが、香田には何の感慨もない。まるで虫が声を発しているかのようだ。
『建前上、操縦手と狙撃手は別個の人間で登録しなけりゃいけねぇから隊員登録してるが、俺たち情報戦特化小隊の理念を理解していないクズは生きている価値すらねえんだ』
棒状のシルエットのアバターボディは両腕をだらりと下の方へと下げていた。緊張がないのはいつでも自由に動けることの証明でもあった。香田のアバターへとイプシロンは問いかける。
「お前らの理念? なんだそれは?」
イプシロンが問えば、香田のアバターボディはその左手の手首から甲高いコンデンサー充填音を響かせ始めていた。その音と共に香田が告げる。
『法的存在証明を有したすべての人間の保護、及び、国家組織の護持――それが俺たちだ』
――チャッ――
金属と金属が触れ合う音を響かせて一歩進む。
『それが俺たちの理念であり目的。言い換えれば戸籍もなく滞在許可もない〝居ない人間〟はこの国の邪魔だからとっとと死んじまえって事さ。義務を背負わず法に基づく権利も有しないクズは居るだけでこの国を腐らせる。腐ったミカンは他のミカンも腐らせる。だから捨てる、排除する。当然、そこには個人的な快楽も優越感も不要だ。ただ目的遂行のための動機となる意思と敵意があれば良いんだ。それがわかんねえクズは、敵も味方もねぇ。とっとと死ねば良いんだよ。善良なる国民様の安らかな眠りをためだ。そうだろう?』
イプシロンはじっと香田の言葉を聞いていた。だが納得しているような雰囲気はない。じっと睨み返したままある一言を問うたのだ。
「ゲロッ、なぜコイツ殺した?」
香田のアバターボディが左腕を突き出す。
『腐ったパーツのお取り替え。ウチは役立たずはディスポーザブルなんでな』
「もう一つ聞く。オマエ、また地上を〝撃つ〟のか?」
『愚問だ。おれがこのアバターボディを動かす理由はただ一つ。〝狙撃任務〟の執行だ』
「できるのか? そんな骸骨で?」
『できるさ』
香田のアバターボディがかつて財津だった物を強く蹴り飛ばす。人間を遥かに超えた力で蹴り飛ばされたソレは機外へと放り出されて地上へと落下していく。
『そもそもこのヘリの機材は、俺のためのシステムなんだよ。地上に動くゴミどもをさっさと掃除して地上部隊の任務をやりやすくしてやるのが俺のそもそもの役目だ』
そこまで香田の声を聞いてイプシロンは気づいたものがあった。
「そうか、オマエ『多重処理脳力者』か!」
多重処理脳力者――脳機能に補助装置を付加したり、脳組織その物を改造するなどして、複数の行動を同時に執行可能にする機能だ。特攻装警で言うならディアリオのサブ頭脳システムを生身の脳で行えるようにした物――そう考えて差し支えない物である。
「ならばヘリを飛ばしながら地上を撃つことなど造作も無いわけだな」
そこまで分かれば十分だ。アバターを破壊してもパイロットシートの男を始末しなければ再び地上への攻撃は再開されるだろう。ならばこんな棒人形のようなアバターボディ、相手にしている暇はなかった。
イプシロンは両足に込めていた力を開放する。炸裂する様に飛び跳ねバウンドして香田のアバターを回避しようとする。
『無駄だ』
――ビッ――
ほんの一瞬、甲高い音が鳴る。ほんの微かな青い光がアバターボディの左手から放たれる。それは肉眼で捉えるのが困難くらいに微細で細く引き絞られた攻撃レーザーであった。
アバターボディは人間の骨格の可動範囲を無視して即座に前と後ろを入れ替えて背後へと抜けたイプシロンを攻撃する。青い極細レーザーは反射されること無くイプシロンのボディを焼く。背後から左脇へと抜ける様にレーザーが貫通したのである。
『このアバターに死角はない』
イプシロンは、レーザーで焼かれて撃墜されるかのように床へと落ちるが即座に姿勢を整えて退避行動を開始する。それと同時にイプシロンは香田へと問うた。
「高貫通ニードルレーザーか?」
『ほう? 詳しいな。場数を踏んでるな? 貴様』
「ゲロッ! 伊達に世界中あるいてない!」
『そうか、ならオマエの旅はこの埋立地で終わらせてやるよ』
「断る!」
――ニードルレーザー、通常の攻撃装備用レーザーよりも出力を増大させつつ、照射面積を小さく細くし、単位面積辺りのエネルギー密度を上昇させ、貫通力を強化したレーザーである――
「まだ子どもたちの沢山の笑顔見てない!」
イプシロンとそんなやり取りを交わしながら、香田は左手と右手が入れ替わた形でアバターボディは、刃渡り40センチの高精度サーベルを突き出すようにイプシロンへと襲いかかる。
「グゲッ?」
文字通りカエルが潰されるようなうめき声をあげながらイプシロンは逃げ惑っていた。隙を突く余裕すらなく、敵の攻撃をかわすのがやっとの状態だった。サーベルはイプシロンの超弾性構造体のボディを掠めると、鋭利な傷を深々と刻みつけたのだ。
『ご自慢の超弾性構造体も俺の高周波サーベルには叶わなかったな』
答え返すこと無くイプシロンは逃げ続けていた。逃げる方向は巧みにコントロールされており、瞬く間にヘリの後方の角へと追いやられていく。
『後がないぞ? それに攻撃するにはその口を開かないとな、だがそうなれば俺のレーザーが狙い撃つ。しかし物理的な動きだけでは俺を超えることはできん。ジッとしていれば切り刻まれる。さぁ――ひと思いか? なぶり殺しか? 好きな方を選べ』
当然、どちらもお断りだった。ここはいっそ逃げるべきだと、イプシロン自身も諦めていた。だが彼の目の前のこの無機質なアバターボディが彼の逃走を認めないのだ。
「グ、グゲッ!」
苦し紛れにうめいてみせるが、その視線は目の前の敵を見据えたままだった。彼は思案していた、ここからの逆転するための秘策を――
これが彼の主人であるクラウンならどう対処しただろう? 鮮やかに攻撃を躱して、敵の喉笛に鋭利なナイフを突きつけただろうか? だが悲しいかな、イプシロンは魔術師でも魔法使いでもない。単なる道化のバケガエルだ。
思案していた。
思案に思案を重ねていた。
だが答えは出ては来ない。
『万策尽きたな。アバヨ』
冷酷に淡々と言い放つ香田。それは任務の障害となる〝小骨〟を取るだけの些細な仕事でしかない。香田の電子装置越しの声には、小骨が抜ける一瞬の安堵感のような物がにじみ出ていたのである。
@ @ @
―ホログラム迷彩―
―光学迷彩―
―オプティカルステルス―
―CG迷彩―
―デジタルギリー―
それは様々な名称で呼ばれている。
そもそもは20世紀の終わり頃に、さらなる次世代の戦場を想定して戦闘員の保護のために軍需産業により開発されたものであった。当初は決して満足の行くものではなかったが、コンピュータグラフィックス技術の向上や、可搬可能な高機能プロセッサーの開発の成功、3次元立体映像技術の確立――などを経て、次第に戦場での使用に耐えうる光学ステルステクノロジーが採用されるようになっていった。
そして21世紀、今は世界中の軍隊の半数以上は何らかの光学系ステルス機能を標準採用していると言われる。無論、その技術のレベルは様々であり単なる迷彩技術に毛の生えた程度のものから、光学情報はもとより、熱・電磁波・振動からはては匂いに至るまで、完璧に隠し切ることのできる極めて高度なものまで実に多彩なステルステクノロジーが反乱していた。
今、彼女たちは頭上を仰いでいた。
燃やし尽くすタン、吹きすさぶグウィントの2人は奇妙なカエル型の機体に手を貸して大空へと彼を運んでやった。だがその続きとして彼がどうなったのか? ――それを知ることはできなかった。
グウィントがタンに問う。
「どう? 見える?」
グウィントの問いにタンは顔を左右に振る。
「無理だな。ダウと違って僕らの眼はあくまでも標準的なものだから、あの夜の闇に隠れたステルス機能付きのヘリ機体を捉えるのは流石に無理がある。あのカエル君の眼力を信じるしかないな」
「そうね、でも――彼ならやってくれるでしょうね」
2人が大空へと送り込んだ一匹のバケガエル・イプシロン。その彼の向かった先を彼女たちは案じていた。
「そうだな。それを信じよう。僕達にできることはここまでだ。彼なら子どもたちを守ってくれるはずだ」
今、ここで出会ったばかりだったが、そのユーモラスなシルエットの中に見た思いを彼女たちは信じた。善意にもとづく絶対に叶えたい想いがあるのなら二人は手を貸さずには居られなかった。見返りはいらない。それで誰かが助かり幸せになるのであれば。人はその正義をこう呼ぶ――
『無償の善意』
――と。
そしてタンとグウィントが何も見えない夜空を仰いでいたときであった。
「え?」
不意につぶやいたのはグウィントだった。その彼女の方を掴むと、引き戻し背後へと追いやったのはタンである。
「下がって」
2人の視界の中、何かが空から堕ちてくる。黒いプロテクタースーツ、細いシルエット、目元の光学ゴーグル――、それがまともな素性の人間ではないことはある部分を見れば判る。
「義手なの?」
「武器化しているぞ」
左腕が手首から先が開いて展開されている。そして、地上へと落下してくるにも関わらず、その人物は受け身すら取る気配がない。
その〝骸〟は身じろぎ一つもせぬまま、頭部を下にして地上へと真っ逆さまに落下してきたのだ。それも何もない空から地上へと――
その骸の正体を2人はすぐに理解した。
「特殊部隊か?」
「あの空に隠れてたのね。それじゃこれがあのカエルさんの――」
「敵だな」
「えぇ」
――顔面から地上へと叩きつけられ、わずかにバウンドしながらうつ伏せに地面の上へと横たわった。そして、その遺体の様相から知り得るものがあった。
「タン、見てこれ」
グウィントが指差したのは2ヶ所、首の後ろ側と延髄部である。
「刺し傷――ためらい傷も、ブレもない。急所に精密に2撃――、ほぼ即死だな」
「じゃああのカエル君が?」
期待に満ちた表情でグウィントが空を仰ぐ。だがそれに答えるタンの声は冷ややかだった。
「違う。彼の外見から察するにこんな精密攻撃のできる武器は持っていない。カエルとしての脚力を利用した物理攻撃か、口の中から発射・放射する物、せいぜいそれくらいだろう。こんなミリ単位の微細な傷だけを残して急所を一撃なんて彼の不自由な手では不可能だ」
「え? じゃあ――」
「あぁ、他にも敵が居る」
「そんな」
安堵は不意に不安へと変わる。だが今の彼女たちではステルス機能に隠された敵が相手ではどうにもできない。だがそんな不可視な夜空に飛ぶ小さなシルエットを2人は見逃さなかった。
「ん?」
その数8機ほど、大きさは60センチ程度。半球状の丸いシルエットで色は漆黒だった。
「夜間用ドローン?」
「そのようだな」
その動きは闇夜の空から骸が落下してきた辺りへと向かっていた。それが何を意味するのか即座には分かり兼ねた。だがタンは断言する。
「まだ終わりじゃない」
そして不敵な笑みを浮かべつつパートナーであるグウィントへとこう告げたのである。
「彼ならきっとやってくれる。行こう。長居は無用だ」
その言葉だけを残して、2人は歩き出したのである。
@ @ @
片やバケガエルのイプシロン、片やステルスヘリのパイロット香田――2人は身じろぎせずに向かい合っていた。
わずかでも動けば香田のアバターボディが襲い掛かってくる。それも遠距離も近距離も手段を選ばずに。イプシロンも反撃のために口を開けようとするが、開ければその時こそ終わる。この香田と言う男の技量なら、イプシロンのカエル型の機体の急所を即座に把握して正確に貫いてくるだろう。
だが逃げずに居ても、やがてくる結果は同じだった。外面から傷つけられてじわじわと余力を奪われる。まさに打つ手無しと言った状況だったのである。
そしてついに、そのアバターボディは声を発した。にらみ合いを終わらせるために。
「時間の無駄だ」
右手の高周波サーベルを一瞬後方へと引く。いわゆる弓引く動作というやつだ。それを突き出せば、この無駄な時間がようやく終わる。そして、機外へと異物を排除すれば完了である。
だが、無言で攻撃を仕掛けようと駆け出したその時である。
「――!」
無意識に駆け出そうとする両足が止まる。ある一発の発射音が香田のアバターボディの足を踏みとどまらせていた。撃ち放たれた弾丸はアバターボディの鼻先をかすめて通り過ぎたのである。
「なに?」
驚き、周囲を見回す。するとそこには一機の空戦ドローンがこちらめがけてその銃口を向けていた。それは明らかに香田のアバターボディを狙いすましていたのである。
銃身は6連でペッパーボックスピストル形式。それが3基で合計18発。ドローンの側面部に備わっている。それが強い威嚇としての力を放っている。
そしてそれは〝敵意〟である。
攻撃の意図を把握しないと迂闊にそれ以外の行動を取ることができない。苛立ちと焦りを感じながら、香田はそのドローンへと問い掛けた。
『なんの真似だ?』
その言葉が呼び水となる。ドローンがもう一体。機内へと侵入してくる。次に侵入してきたのはドローン本体の外周部に回転ノコ刃を装備した近接戦闘タイプだ。それが香田のアバターボディとイプシロンの間に割って入ってきたのである。その動きその物がドローンの行動の意図を端的に現していた。そのドローンは香田にとって敵対的存在だったのだ。
『貴様!』
そのドローンの向こう側に居るであろう操縦者に対して怒りが炸裂する。だがその怒りすらもドローンの所有者は意に介さない。香田の言葉の一切をガン無視して一方的に話し始めたのである。
〔先程は世話になりましたね。情報戦特化小隊の皆さん。あらためて生存報告とご挨拶にまいりましたよ〕
慇懃無礼なまでに丁寧な口調、そして理性的なその語り口には香田も聞き覚えがあった。
『そ、その声? ディ、ディアリオか?』
〔えぇ、私です。特攻装警第4号機ディアリオ。無事生存しています。あなた方の行動の一部を阻止にまいりました〕
驚きと戸惑いを隠せない香田に対して、ドローンの向こう側のディアリオの声はひどく冷静で淡々としていた。そこにはダメージを負った際の狼狽えや弱さは感じられず、余力があるが故のある種の残酷さが滲んだ冷静さだけが伝わってきたのである。
それは知性派・理性派の極北を極めていると言われるディアリオだからこその対応であったのだ。
『阻止だと? 貴様、あの300m以上はある高度から落下して無事だったというのか?』
そうだ、先程ディアリオは地上へのロープ降下に失敗して真っ逆さまに落ちていったはずだ。
〔えぇ、多少は傷つきました。メットのゴーグルが少し割れましたのでソレについては後ほど修理代を請求させていただきます。ですがそれ以外は全くの無傷です。すべての作戦行動にはなんの問題もありません〕
『馬鹿な! あり得ない!』
〔あなたがどう思おうが勝手です。ですがこれは事実です。私は生存して居ます。これでも私の身体は頑丈さで有名なアトラス譲りの外骨格ベースです。あの程度の空中落下でどうにかなるような華奢な体はしていません〕
冷静さを崩さない淡々とした語り口、それがかえって口調の奥に込められた怒りと敵対心――そして正義感を克明に浮かび上がらせていた。香田が驚きと焦りを感じている中、彼からの反論を待たずにディアリオは更に告げたのである。
〔あなたたちに落とされた街で面白い物を見つけました。この街のサイバーマフィアが使っていた戦闘用ドローンです。マフィア側の管理下を離れた個体を数十機掌握しました。すでにドローンの遠隔カメラを用いてあなた方の行動の一端を撮影しつつあります。無論、このヘリの行動も掌握済みです〕
『なに?!』
ディアリオの言葉に香田も驚かざるをえない。その言葉がハッタリでは無いのは、この眼前の二体のドローンの存在が証拠だった。否が応でも事実として突きつけてくるのだ。歯噛みする香田をよそにディアリオは更に告げたのである。
〔あなた方に逃げ場はありません。それにこれ以上、無意味な殺戮も許しません。あなたの行動をここで阻止します〕
そしてディアリオが操るドローンの声は、もう一つの存在であるイプシロンへも向けられた。
〔あなたがどのような存在で、どの組織に所属しているかは存じません。ですが貴方が地上の子どもたちを守ろうとしていたのは理解しました。私は警察です。このヘリの地上攻撃を阻止するために協力を要請します〕
ディアリオからもたらされたのは意外な言葉だった。警察を名乗る者の言葉にイプシロンは思わず問い返した。
「俺、イプシロン。オマエは?」
〔ディアリオ〕
シンプルに交わされるお互いの名前。それだけで二人が契約として言葉をかわすには十分である。ディアリオから役割分担が指示される。
〔私がドローンであのアバターボディを牽制します。あなたは隙をついてアバターボディの破壊をお願いします〕
「ゲロッ、判った」
イプシロンがディアリオの申し出を了承した瞬間、新たに5機ほどの空戦ドローンが姿を現した。それはこの街の上空でフィールたちと一戦を交えたあの機体と同型であり、ファイブが姿を消したことで管理に隙きが生じた機体であった。その一瞬をついてディアリオが再ハッキングしたのである。すると香田が問い掛けてくる。
『馬鹿な! 貴様そいつが何者なのか分かっているのか! ディアリオ!』
香田の言葉はもっともである。だがそれに対する言葉も至極当然の物であった。
〔彼は命を守ろうとしている。この街に殺戮をもたらそうとしているあなた方よりは数段マシですよ〕
その言葉に反論する言葉を香田は持ち合わせていない。
〔行動開始〕
ディアリオが発した言葉は簡素だったが合図として、警告として、必要十分である。
それもまた正義の一つの形であった。
『団結』
――同じ目的の為に出自も理念も異なる者同士が力を合わせ、最大公約数的な皆の幸せと成功の為に行動する。現在のディアリオとイプシロンの行動はまさにそれであった。
今まさに反撃の時は訪れたのである。
@ @ @
クラウンは物見であった。
その姿は完璧に近い形で隠されていた。
インビジブルな状態で荒れ地の上に立ち頭上を仰いでいる。その視線の先に居るのは、彼の腹心の部下であるイプシロン――そして彼が突入していったステルスヘリがある。
クラウンは腰に手を当てながら静かにこう告げたのである
「なかなか、しっかりとやってますね。単なる復讐者ではなく確固たるポリシーを持つ〝行為者〟として。それでこそ私の部下です」
クラウンはそう語りながら満足気に頷く。
「自らの意志で、何のために、どんな結果をもたらす為に行動するか――〝人〟にはそれが必要なのです。ただ無目的に流され、無意識の内に集団的悪意に加担するような輩には、この世界に存在する意義はありません。そしてそれがどれだけこの世界を破壊し、汚し続けている事か! そのような輩は死してしかるべきなのです!」
その視線は、この荒れ地の上で繰り広げられている数多の闘いの一つ一つをじっと見つめていた。
「道化としてトリックスターとして、世の人々にその事を問い続け、世界をかき回し続ける。それこれが〝我ら〟――プレヤデスクラスターズ――」
そこに浮かぶクラウンの表情は満面の笑顔であった。
「イプシロン――合格です。貴方は正しい」
そうごちると再びクラウンはうなうづいていた。そして自らの部下の行く末をじっと見守っていたのである。
これもまた正義である。その正義の名をこう呼ぶ――
『追求者』
――彼は問い掛けずにはいられないのだから。
@ @ @
そこからはあっけなかった。
ステルスヘリを囲むように4機の空戦ドローンが待ち構えている。黒い半球状のシルエットが左右に割れ内部から展開されたのは直径3センチほどの砲口であり、中央にはレーザーの発振素子がかすかに光っている。そこから放たれるレーザーは肉眼では見えない。いわゆる『不可視レーザー光』と言うやつだ。
だが不可視レーザーにより大気を電位的に遊離させ電気の通り道を形成して狙った位置へと高圧電流を自在に到達させる技術が有る。レーザー誘導送電――、本来の使用目的は宇宙空間や高層大気圏からの効率的な電力伝達だったのだが、ある世界ではコンパクトな破壊兵器技術として密かに利用されていたのである。
見えないレーザーが開いたルートを進んで高周波放電が一直線に進む。ヘリの機体の窓ガラスを砕いて進んできた四条の紫電はピンポイントでアバターボディの円筒形状の頭部を狙い撃ったのである。そして、20近いカメラは瞬時にして受像素子を焼損させる。
――ボンッ――
低く響く爆発音を奏でながら、香田のアバターボディの頭部は白煙をあげてその視界を奪われたのである。
その瞬間を逃すイプシロンではない。大きな口を開くとその中から赤い舌を一気に投げはなった。巨大なムチのように撓り、螺旋を描きながら伸びるそれはアバターボディの首へと巻き付く。
「ケエェエッ!!」
奇声を発しつつ両手両足を踏ん張り、体重移動と同時に舌にも力を込めて、骸骨の如きアバターボディを機外へと一気に投げ放った。抵抗はほとんど無くあっけなかった。
そして更にイプシロンは一気に前方へと飛び出した。パイロットシートへと向かうと、その視界の中にある物を探す。
――光学ステルス関連装置・制御コンソール――
このヘリの機体を夜の闇に溶け込ませている力の源、それをコントロールする部分だ。複雑極まる戦闘ヘリのコンソールパネル、だがそれをいちいち調べ上げるような真似はイプシロンはしなかった。怒りを込めて、制裁の為に、イプシロンは力強く告げた。
「コレで終わりだ!』
大きく開いたその口の奥からは、青白い炎が吹き上がりつつあった。それをルームミラー腰に視認する香田だったが、全てはもう手遅れである。
「う、うわ!」
悲鳴のような声が上がるが、そんなの一考だに値しない。イプシロンはコ・パイロットシートの背もたれに取り付くと吸い込んだ呼気を解き放つ様に青白い超高温の火柱を吹き上がらせたのである。
「ケエエエエエッ!!!!!」
青錬火炎一閃、それは無選択にヘリのコンソールパネルに備わった装置を一瞬にして焼き払う。豪快極まるその行為は、悪しき力の一つのその正体を白日のもとに晒すこととなったのである。
――ジッ! ジジッ!――
鈍い電磁雑音が漏れたかと思うと、そのヘリの機体を包んでいた立体映像の檻は、霧に移された幻のように瞬く間に掻き消えてしまう。そしてあとに残ったのは漆黒に塗りつぶされたロシア製の二重反転ローター仕様の軍用ヘリである。
「し、しまった!」
姿を消していたからこそ、夜の闇夜にて暗躍ができたのだ。スラム街の殺戮の誘発という人倫に悖る行為に加担できていたのだ。だが――
――カッ!!――
彼方の海上からサーチライトで照らされる。そのサーチライトの元をたどれば、その洋上に浮かんでいたのは一隻の海上巡視船であった。東京海上保安部所属・いそぎくCL135――ひめぎく型と呼ばれる警備機能強化型船舶である。
そのいそぎくの甲板の上にてライフジャケットを来て頭上を双眼鏡で仰いでいる人物が居る。涙路署捜査1係係長である飛島であった。海上保安庁の協力を取り付けると、東京アバディーンの近傍にて警戒と洋上からの探索にあたってのである。そして、そのような経緯を持ついそぎくが突如姿を現した不審なヘリに向けて探索の手を伸ばしたとしても不思議ではなかった。
かたや香田は眼下から浴びせられるサーチライトの正体を知る術すら無かった。ヘリのコンソール装置を尽く破壊されてしまった現状では、弁明も抵抗も出来るはずがなかったのだ。香田は最悪の事態も覚悟していた。
無言で香田は成り行きを見守るしか無かった。ただヘリが墜落しない様に機体を維持するだけで精一杯である。
そう――彼の生殺与奪は彼の背後のバケガエルに握られてしまったのである。
「―――!」
沈黙を守る香田。だがその彼にイプシロンが発した声は意外なものであった。
「おれ帰る。オマエどっか行け」
「え?」
いささかマヌケな声で香田は問い返したが、イプシロンの言葉は聞き間違いでは無い。
「オマエ、地上を攻撃することもうできない。子供らを襲った悪いヤツ死んだ。オマエを殺すこと意味ない。だからお前、どっか行け」
そしてそれっきり一瞥もすること無くパイロットの香田から離れていく。ヒタヒタと足音を鳴らし、向かうのはヘリの側面であった。そこに彼を待っていたのは空戦ドローンのうちの一機である。
〔良いのですか? このまま終わって〕
ディアリオの声が問い掛けてくる。だがそれに対してもイプシロンは素直だ。
「いい。俺、殺すことが目的でない。地上の子供らを助けたいだけ。やることはやった。だからもういい」
イプシロンは開け放たれた側面ドアの辺りに位置すると外へと飛び出す準備をしていた。その傍らでディアリオに向けてこう告げたのだ。
「お前には救けてもらった。ディアリオ――、いつかこのお礼する」
とてもついさっきまで死闘を演じていたとは思えないような朴訥さだった。そしてこれがイプシロンという存在なのだとディアリオは感じずにはいられない。
〔覚えておきましょう〕
「じゃあな」
ディアリオの答えにシンプルな返事だけを残してイプシロンはそこから地上へ向けて、夜空へと飛び出していったのである。それはどこまでいってもカエルとしてのジャンプである。
その地上へと落下していくシルエットを視認しながら、ディアリオは香田へと告げた。
〔命を救われましたね〕
「―――」
香田は答えない。沈黙したままだ。
〔まだ、殺りますか?〕
「やらねえよ。墜落させないだけで精一杯だ。問題の出ない場所を探してヘリを降ろして投降するよ」
〔良いのですか?〕
「あぁ、流石にもう限界だ。それに最近、自分が何のために危険に身を晒しているのかわからなくなってきてたんだ。財津みたいな殺しが大好きなイカレ野郎と一緒にいると、こんなヤツと同じにされたくねぇとも思っちまうしな」
まるで憑き物が落ちたような弱気な言葉だった。ヘリパイロットと言う現場から一歩下がった立場で有るが故に、組織の論理への洗脳はまだ浅かったらしい。彼のその言葉を信じて、救いの手を差し伸べるべきであろう。
〔ならば、警察内での貴方の身柄と安全は保証します。公安4課に保護を求めてください。悪いようにはしません〕
「頼む。まだ死にたくねえ」
〔了解です。では警視庁管内から離れてください。東へ、千葉エリアへと逃れてください。後ほどこちらからアプローチします〕
「判った――」
それっきり二人は会話を打ち切っていた。そして香田は一路、ヘリを東へと進路を取る。やがて警視庁公安4課が身柄保護のための人間を手配するだろう。そのための連絡と要請を大戸島に送るのはディアリオの役目である。
〔課長、大戸島課長聞こえますか? こちらディアリオです――〕
ディアリオと大戸島、二人のやり取りが始まる。
そして今、一人の黒い盤古の隊員が、闘いから自ら逃れていったのである。
@ @ @
一つの闘いは終わった。そして、大空での戦いを終えて地上へと舞い降りてくるのは一匹のカエルであった。
両手両足を広げて、落下速度を下げながらイプシロンは舞い降りてくる。とは言えパラシュートもなしの自由落下では流石にノーダメージとはいかないだろう。だが――
「ホホホ、主賓のお帰りですねぇ」
それまで完全にその身を隠していたクラウンだったが、一切のステルス関連の機能を解除するとその姿をあらわす。両腕を目いっぱいに広げ空を仰ぐ。そして地上へと返ってきたイプシロンその腕で受け止めたのである。
「おっと!」
――ボスッ!――
それはまるでドッジボール球技のボールでも受けたかのようなマイルドな衝撃であった。イプシロンはと言えば思わぬクラウンの登場に驚きつつも、報告と挨拶だけは忘れないクラウンである。
「ただいま! クラウンたま」
「はい、おかえりなさい」
「子どもたちを殺そうとする奴ら追い払った! 手こずったけどなんとかなった」
「ほうほう、それはそれは――。子どもたちの笑顔が守れたのであればそれで何よりです」
受け止めたイプシロンの身体を地面へとおろす。その姿をつぶさに見れば、鋭利な刃で切り刻まれたかのように傷だらけである。その姿にクラウンは思わず苦笑する。
「それより、まだやれますか?」
「あい。俺、まだやれる」
「ならば、イオタの方に合流なさい。あちらも戦いで苦戦しているはずです」
「あい! クラウンたま!」
「よし、それでは――」
だがその時、そんなやりとりをするクラウンとイプシロンの、本当の姿を見守る集団があった。
「みつけた――クラウンの姿ついに捉えた」
その言葉が新たな戦いの火種をまねこうとしていた。それまで姿を隠していた〝彼女たち〟だったがその視線の先についにクラウンを捉えたのである。
「死の道化師! あいつがここに!」
声の主はエルバ、ペガソの腹心の部下であり彼に忠誠を誓った女性たちからなる精鋭部隊のリーダー格だ。
「行くよ。みんな」
エルバは告げた。あの忌まわしい過去の〝オトシマエ〟をつけるために。愛する人の敵をうつために。彼女たちが抱いた正義、それは――
『復讐』
――である。
そして、この夜最大の成果について、エルバは彼女たちの主人の元へと報告したのだ。今こそ密かに懐き続けた大願へとチェックメイトする為に――
「――ペガソ様、エルバです。ご報告いたします」
それが主人への最大のプレゼントになると信じて。
彼女たちの主人の名は、ファミリア・デラ・サングレ首魁ペガソ、
かたや彼女たちの部隊の名は、ペラ――
彼女たちはある思いを介して深い絆で結ばれていたのである。

















