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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]  作者: 美風慶伍
第2章サイドB『魔窟の洋上楼閣都市』第5部『死闘編』
113/147

サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part31『シャイニングソルジャーズ』

それはもうひとつの死闘


特攻装警グラウザー

魔窟の洋上楼閣都市31

【シャイニングソルジャーズ】


開始です



(今回のお話のおすすめBGMです!)

(TRY-EDGEHさん

『【MEIKO&結月ゆかり】SHINING SOLDIERS【オリジナル曲】』

http://nico.ms/sm22699261 )


本作品『特攻装警グラウザー』の著作権は美風慶伍にあります。著作者本人以外による転載の全てを禁じます

這部作品“特攻装警グラウザー”的版權在『美風慶伍』。我們禁止除作者本人之外的所有重印

The copyright of this work "Tokkou Soukei Growser" is in Misaze Keigo. We prohibit all reprints other than the author himself / herself

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 東京湾に浮かぶ退廃と無法が支配する異形の街――東京アバディーン――

 その街の中心にして支配力の中枢となる場所、それが多国籍大規模企業グループ『白翁グループ』が支配する金色の伽藍『ゴールデンセントラル200』である。


 地上200mの高さを誇る高層ビルで円筒形状をしている。また外壁表面の高耐久性ガラスの表面に施された鏡面保護コーティングによりビル全体が金色に光り輝いている。

 東京アバディーンの住む者ならば、この壮麗なる支配の象徴の巨大ビルの輝きに対して、この東京アバディーンと言う退廃の街の支配者がだれであるのか、思い知らされずにはいられない。すなわち、このビルを所有する白翁グループであり、そして、その影に存在する集団である翁龍オールドドラゴンである。そのビルの輝きが意味する物の正体に思い至るたびに、人々は心のなかに恐れを抱くこととなる。

 

 ゴールデンセントラル200――それはこの街の支配の象徴である。

 

 そのゴールデンセントラル200の32階フロア、通称『円卓の間』と呼ばれる集会フロアがある。とある特別な存在である7つの組織が、定期的に会合をする間であった。

 翁龍、緋色会、ブラックブラッド、ゼムリ・ブラトヤ、ファミリア・デラ・サングレ、新華幇、そしてサイレント・デルタ――

 人種も文化背景も、世代も、組織形態も、活動方針も、犯罪レベルも、全く異なるこの7つの組織は、この円卓の間にてとある人物によりひとつにまとめられていた。

 

 サイレントデルタ・メインアドミニストレーター

 IDナンバー555、通称『ファイブ』

 総銀無垢のボディを三つ揃えの高級スーツで包んだ怪人物。サイボーグともアンドロイドとも言われるがその正体は全くの不明。

 だがその優れた情報掌握能力とネットワーク能力から、円卓の間に集う闇社会の住人たちと対等に渡り合い、抗争と勢力争いに明け暮れていた彼らを、意見調整の場所として円卓の間に結びつけることに成功した人物だ。

 彼の手により産み出された意見調整機関は、〝七審〟――またの名を〝セブン・カウンシル〟と呼ばれる。

 ファイブ――かれこそはセブン・カウンシルの要なのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 ファイブは今、歓喜の入口にあった。彼の手の届く範囲に、一つの獲物がかかったからだ。

 その獲物の名は『特攻装警第6号機・フィール』

 現時点で全特攻装警の中で唯一の女性型であり、飛行能力と空戦能力を持つ戦女神。

 その愛らしくも凛々しいルックスは警視庁を象徴するマスコット的存在であり、彼女の登場がアンドロイド警官と言う、ともすれば警戒されやすいコンセプトである特攻装警の持つ社会的イメージを、どれだけ改善し、どれだけ人々に馴染みやすくさせたのか、計り知れないものがある。

 その彼女に向けられているのは〝好意〟であり平穏な社会への〝願い〟だ。

 フィールはある種のヒロインであるのだ。人々にとって紛れもなく〝正義の味方〟といえる存在だったのである。

 そのフィールを自らの作戦展開エリアへと捕らえたのが、サイバーマフィア・サイレントデルタを統べる〝ファイブ〟である。ファイブは自らの周囲に3次元ホログラムによる空間ディスプレイを展開している。

 そして、円卓の間の中央に、今これからはじめられようとしている〝余興〟のための準備を始めようとしていたのである。

 

「さて皆さん、少々退屈でしょう? 今からちょっとしたお遊びを始めたいと思います。お付き合いいただけますか?」


 ファイブが楽しげに、円卓の間に残留していた人々に声をかける。

 この場に残っていたのは翁龍の王之神老師と王麗莎女史、ファミリア・デラ・サングレの首魁ペガソと、その秘書兼愛人のナイラだ。

 ママノーラとウラジスノフは作戦活動中、緋色会の天龍は活動拠点へと引き返して行った、ブラックブラッドのモンスターはママノーラの依頼を受けて何処かへと向かい、新華幇の伍志承と猛光志は、これ以上残留しても益なしとして立ち去っていった。

 王之神とペガソは、まだこの部屋にて得られる情報に期待して、ファイブとともに待機していた。なにしろ、ここには電脳と情報犯罪の権化であるファイブが控えているのである、今、この東京アバディーンの土地にて起きている事件や騒動について情報を得るには最適な状態であった。

 ましてや、今、あのベルトコーネを巡って混沌とした状況が続いているのである、いたずらに動くよりもじっと待機する方を選んだ者が居たとしてもなんら不思議ではなかった。その〝待つことを選んだ者たち〟に向けてファイブはさらに告げた。

 

「少々悪趣味ではありますが、美しいモノが散華するさまをご覧に入れましょう」


 そう語りながらファイブはヴァーチャルコンソールを操作した、彼が起動させた100体以上の空戦ドローン、軍用にも適用可能なだけの戦闘力を有した悪意の象徴――、それをまるでオーケストラの楽団員をタクト一本で操る指揮者のごとく、勇壮に、華麗に、操り始めたのである。

 

【 BGM演奏開始             】

【 曲名:オペラ「ニーベルングの指環」   】

【   :第二部第三幕前奏曲        】

【    『ワルキューレの騎行』      】

【 作者:リヒャルト・ワーグナー      】


 壮麗かつ悲壮なオペラ楽曲がBGMとして流れ始める。それをバックに、まるでベトナムの密林地帯を焼き払うヘリ部隊の如くに、漆黒の闇夜の東京アバディーンの魔窟の街から、黒いシルエットのドローン体が、闇夜を舞うコウモリかカラスの如くに、そこかしこから舞い上がっていく。

 それはまさに魔物の如くだ。

 魔窟の街の上空に迷い込んだ一人のワルキューレを悪夢へと誘う魔物たちの葬列である。

 大仰かつ、凝った趣向を展開するファイブに対してペガソが口元を歪ませながら楽しげに語る。

 

「いい趣味してんじゃねえか、ファイブ。ナチスがヒトラーを讃える席で流した曲で、あの日本警察が誇るヴァルキュリアを血祭りにあげようってわけか」


 ペガソの言葉にファイブが笑いながら答える。

 

「その通りです、ミスターペガソ。ボクの悪趣味に少々お付き合いくだされば幸いです。なにしろ――」


 ファイブは語りながら両手の平を上へと向けて両肩の辺りにかかげながらこう告げる。

 

「この体ではこう言う形でしか快楽が得られないものでして。普段はタレントアンドロイドや、個人所有のメイドロイドやネニーロイドなどを捕らえて弄んでいるのですが――」


 そしてファイブはさらにヴァーチャルコンソールを操作し、東京アバディーンの街の各所から発信させた戦闘ドローンを上昇させ、包囲展開し、瞬く間にフィールを取り囲んで退路を断ちながら哄笑の叫びを上げる。

 

「今宵の獲物はあの戦女神! 日本警察が誇る特攻装警のフィール! 是が非でもこの手に捕らえたい! これほどの最高のチャンスを逃す手はない! さぁ、最高のショーをお見せしましょう! 悪食のこのボクにお付き合いいただけるのでしたらねぇ! ククククッ!」


 それまでの冷静な振る舞いが嘘であるかのように、ファイブは興奮気味に語り、そして耳障りな笑い声を上げる。その狂態に王麗沙は眉をひそめて王老師の背後へと下がり、ナイラはこれから起こるであろう惨劇を思い描いて怯えにも似た表情で視線を伏せた。

 王之神は黙したまま語らずじっと空間上のスクリーン映像を見つめている。

 だが、ただ一人――


「ファイブ」


 ペガソの呼び声に微かにファイブは視線を向ける。そのファイブにペガソがかけた声は賞賛と好意だった。

 

「いいねぇ。こう言う余興は嫌いじゃねえぜ。なにしろ首から下は味気の無ぇプラスティックボディ――徹底的に遊んでやるのが礼儀ってもんだぜ。獲物の毛皮をひん剥くようにな!」

 

 ペガソだけは喜びの声をもってファイブが繰り広げようとする残酷ショーを期待を寄せたのである。

 

「なぁファイブ、お前にとっちゃああの女は、マリリン・モンローかキム・カーダシアンでもレイプするような気分なんだろう?」


 ペガソはウィスキーの注がれているグラスを傾けながらファイブを賞賛する。


「見届けてやるよ。お前が獲物を味わうところをな」


 それは強烈なサディズム。そして、同じサディズムを嗜好としている者同士が感じ合うシンパシーの様なものだ。ペガソにとって女とは獲物でありトロフィーだ。その獲物を味わう瞬間こそが男としての本懐だ。フィールと言う至高のアンドロイドガールをその掌中へと収めたファイブをペガソは讃えた。それは闇社会という弱肉強食の世界に生きる者だけが得られる感覚だったのである。

 

「ミスターペガソ。あなたのご期待お答えしましょう――、とくとご覧あれ」


 ファイブはさらにコンソールを操作する。

 

【 サイレントデルタ総体システム群     】

【         管制プログラムシステム 】

【                     】

【 >空戦機能ステルスドローン       】

【 >SD0124 より SD0223   】

【 指定攻撃対象:特攻装警第6号機フィール 】

【 攻撃実行モード:            】

【        リレーショナルセミオート 】

【                     】

【 戦闘コマンド〔――実行――〕      】


 仮想ディスプレイの上でグリーンのコマンドが実行される。そのコマンドに込められた悪意とサディズムが乗り移ったかのように戦闘ドローン群は、野原の実りを食い尽くす大量発生イナゴの様に、羽虫のような作動音を響かせながら急加速していく。そのドローンどもが向かう先には――

 

「さぁ! 踊れ! 踊れ! 死に物狂いで逃げ回れ! 逃げ切れるのならばな! 特攻装警フィール! お前の翼はボクが全てむしり取ってやるよ!」


――白銀の翼のアンドロイドの少女が蒼白の表情で為す術無く佇んでいたのである。



 @     @     @

 

 

「……なに? あれ」


 フィールはその光景が信じられなかった。

 

「ドローン? なんでこんなに」


 数が信じられなかった。

 

「どうして出てくるの?」


 理由が信じられなかった。

 

「なんで、完璧に退路を絶とうとするの?」


 その緻密なまでの統率力が信じられなかった。その黒の群れはフィールの周囲を濃密に取り囲み、まさに黒の外壁と呼ぶにふさわしい障壁を構成していた。

 

「これ――全部――」


 そして目の前で展開された機能が信じられなかった。

 それは半円形の黒いシルエット。直径は60センチほどで一見すれば皆同一の形状である。ホバリングファンは内部に内蔵式でありローターを損傷して墜落する可能性は低い。ましてやその半円形の形状が防御力と耐久力を高めるための物であることは一目でわかる。

 

 あるドローンは、左右に分かれて内部からレーザー銃口を露出させる。

 あるドローンは、機体の4箇所から空間放電用の高圧端子を展開させる。

 あるドローンは、機体下部の円周部から回転式のノコ刃を露出させる。

 あるドローンは、機体を旋回させながら金属製のワイヤーを放射する。

 あるドローンは、ペッパーボックス式の散弾発射装置を展開させた。

 そしてあるドローンは太い筒状の器具を露出させる。直径5センチ程度でそこから放たれたのは赤く輝く炎で、それは火炎放射器と呼ばれるものだ。

 

 射抜く、放電する、切断する、絡める、撃ち抜く、焼く――


 おおよそ考えられるだけの悪意がそこには並べられていた。その数100体。単なる量産用機体だとは考えられないバリエーションだ。そしてそこに込められた執念と狂気を感じずには居られなかった。

 

「――――」


 フィールは完全に言葉を失う。もはやそこから感じられる恐怖は言葉では表現できるものではなかったのだ。

 

――ブゥゥゥゥン――


 重く響く唸り声、それはドローン内部に組み込まれたエアダクトファンの音だ。だがそれが100機分以上も集まることにより、まるで地響きを立てて迫りくる怪鳥の羽音のようにも思えてくる。今、フィールが汗をかく機能をもっていたとしたら、全身いたるところから冷や汗をかき、心臓はこれまでにないくらいに鼓動を早めていただろう。

 そして、フィールは今まさに生まれて初めて〝心の底からの恐怖〟と言う物を味わいつつ有ったのだ。

 

「に、逃げ――」


 かすかにつぶやき眼下を見る。だが下からもドローンの群れが密集形態で退路を遮断している。反射的に頭上を仰ぐ。するとそこにかすかな隙間が有る。それはまさに絶望の中の僥倖のように思えただろう。

 

――まだ間に合う!――


 そう直感して全速力を頭上の一点からの脱出へと向かわせる。

 マグネウィングを、電磁バーニヤを、フルで作動させて急加速する。

 

――お願い! 間に合って!――


 絶望を必死に振り切ろうとするフィールの思いが最後の望みへとつながろうとしていた。そしてそこにしか希望はなかったのだ。だが――

 

〔かかった――〕


 不気味な、それでいて他者を見下した、嫌味な声が響く。それは音声の発信元を特定さえ無いように、全てのドローンの中のいずれかから無差別にランダムに変化を繰り返しながらメッセージが発信されている。フィールはそれを耳にした時、強烈な不安と共に、背筋に冷たいものが走るのを感じる。


「え?」


 フィールがそう呟くと同時にソレは悪意の牙を剥いたのである。

 数十メートル程の等間隔距離をおいて離れた位置に、6つの方向に端正な六角形を描いて特別なドローンが待機していた。


――指向性放電兵器――


 かつてあの南本牧の事件で、スネイルドラゴンの悪名高き幹部ハイロンが用いていた殺人用途の放電兵器だ。それを仕込まれた機体が他のドローンの群れに隠れ潜んでいた。唯一残された退路へとフィールが逃げ手を伸ばしたさいに、6つの方向から一直線に青白い紫電がほとばしったのだ。電圧のレベルもあのハイロンが装備していたものとは比較にならないくらいに高いものだ。

 ソレはまさに天使を射抜く悪魔の弓矢。6条の放電はフィールの体を一瞬にして貫く。

 左手、首筋、背面、左腰、左太腿、そして右足首。それらの箇所が細く絞られた高圧放電により焼かれ、プロテクターで覆われていない場所は構成素材のバイオプラスチックを焼損する。そしてその下地となるメッシュフレームは露出して、その内部メカニズムを無残にも晒すのである。

 フィールにも痛覚システムはある。

 痛みは肉体のトラブルを知らせるためには最も効率的でわかりやすいシステムである。それをアンドロイド開発の過程で必要なものとして取り込んだとしても何ら不思議ではなかった。だが――

 

「ギャァッ!!」


 壮絶な悲鳴がなりひびく。6条の青白い紫電の直線光はフィールの体表を焼いたのみならず、その防護構造をやすやすと突破して内部メカニズムを浸潤する。それは筆舌に尽くしがたい苦痛を伴ってフィールの体を犯していくのである。


【   体内機能モニタリングシステム    】

【    <<<緊急アラート>>>     】

【  ―各部主要部分障害及び破損発生―   】

【                     】

【1:左手首貫通創発生           】

【  左指系統小指薬指駆動系破損発生    】

【                     】

【2:首部右後方外部焼損          】

【  内部予備プロテクター構造により    】

【            重要機能部破壊阻止】

【                     】

【3:背面電撃傷発生、           】

【  損傷度軽度              】

【                     】

【4:左腰部体表、開放損傷発生       】

【  内部動力B系統露出          】

【  高圧動力ケーブル予備系統軽度損傷発生 】

【              絶縁能力低下中】

【                     】

【5:左太腿貫通損傷            】

【  左大腿部内部予備フレーム軽度損傷   】

【         >左股関節部運動障害発生】

【6:右足首関節部放電受傷         】

【  オプショナルギアプロテクター     】

【        による保護成功、損傷度軽微】


 それら6ヶ所のうち致命的だったのは左腰だった。腰はその運動機能の重要性から首と並んで保護しにくい場所の一つだ。それも体表部が露出している部分が破損してしまったのだ。内部メカはまだ破損していなかったが、そこが弱点となり敵の狙い目となるのは明らかだった。そしてなにより――

 

「しまった!」


 残る数多のドローンがフィールの頭上を塞いでいく。それはまるで、自由への扉を閉ざされ、絶望の牢獄へと引きずり込まれる光景のようであった。退路は完全に絶たれた。今、フィールを取り囲んでいるのは100を超える数の敵意、そして邪悪なる歓喜。その絶望の群れがフィールへと話しかけてくる。

 

〔日本警察がほこるアンドロイド警官、特攻装警――、その紅一点にして白銀の天使――、ようこそ終末の舞台へ。ようこそ処刑の空間へ、まずは君を迎えられた事を光栄に思うよ! まずは挨拶と行こうか。私の名は〝ファイブ〟――字名をシルバーフェイスのファイブ――、以後お見知りおきを!〕


 ファイブ――その名を耳にした時、フィールはかつて、ディアリオや情報機動隊の人々に聞かされた話を思い出していた。

 

「ファイブ? 聞いたことがある。またの名をトリプルファイブ――、最近、首都圏の電脳犯罪界隈を賑わせている新型の組織、サイバーマフィア、サイレント・デルタのメンバーね?!」


 フィールは内心から沸き起こる恐怖と戦いながらも気丈にファイブに対して毅然とした口調で問い掛けていた。そこにはまだ恐怖や絶望に折れたような素振りは微塵も見られなかった。その気高さと強さを評して、ファイブの言葉が続く。

 

〔ほう? 君に知っていただけてるとは光栄だね。その通り、ボクが率いる組織はサイレント・デルタ――、世界でも類を見ないサイバーマフィアだ。ハイテクの未来世界を掌握し、その未来を食い尽くす新時代の〝悪〟だ! いずれは君たち特攻装警とぶつかりあうことになるだろう。それは他のサイレント・デルタのメンバーたちも意見を同じにするところだ。だが僕はかねてから君だけに強い関心を持っていた。なぜだかわかるかい?〕


 フィールは答えなかった。強い嫌悪感を抱いていたためでもあるが、到底理解できない理由であることは明白だったからである。

 

〔つれないなぁ、そう無視されると無理やりにでも聞いて欲しくなる! 僕はね、美しい女性型アンドロイド――ガイノイドが大好きでねぇ! 自分の支配下に置き、その存在の全てを踏みにじりたくなる! 君のように気高く雄々しい女性はなおさら欲しくなる! 全ての存在をこの手に掌握し支配し、そして指先から頭脳の中心に至るまで破壊したくなる! 体の末端から切り刻み引きちぎり、恐怖におののき、誤作動とエラーと作動障害に苦しむさまはたまらないくらいに美しい! 敵意を剥き出しにし逃げ惑う姿は、もっと愛してやりたくなる! 手足を全て分解し、頭部と胴体だけになった姿で、攻撃を加えながら生きながらえさせると、もっと愛おしくなる! 最後は頭部と最低限の動力だけにしてその頭脳中枢をダイレクトにハッキングし、頭脳の中の基底プログラムの最後の一行に至るまでいじりまわしそのAIや人工自我が許しを請い、人工知能としては禁断の自殺願望を発露させる姿は絶頂を覚えるくらいに素晴らしい! さぁ、君も愛してやるよ! 僕のこの100体の分身を駆使してね! 最期の亡骸はボクが組み立てなおしてオブジェにして飾ってやるよ! 麗しき白銀の戦乙女フィール! さぁ、最後に何か告げる言葉は有るかい!? そうさ! 遺言と言うやつだ! ククク――アーッ ハッハッハ!〕


 ファイブの口から溢れ出したのはおぞましいばかりの狂気と破壊衝動。そして、歪みまくったフェティシズムだった。理解も同意もできない吐き気を催すばかりの歪んだ情念だ。それをこの人工の体のアンドロイドへと向けようなどと言う嗜好が到底理解できなかった。それでもなお吐ける言葉があるとするならたった一つだ。

 

「ゲス野郎!」


 フィールは精一杯の抵抗として悪態をついた。今、この状況となってはソレしかできないだろう。だが――

 

〔ありがとう! 最高の褒め言葉だ! ならば最高の礼儀を持って君をもてなしてあげよう! 特攻装警フィールの処刑ショーでね!!〕


 そしてファイブはコマンドを実行する。

 

【 戦闘ドローン群、総括制御プログラム   】

【 攻撃対象:特攻装警第6号機フィール   】

【               (指定済み)】

【 攻撃モード:セミオート         】

【 >ヴァーチャルコンソール経由にて    】

【     攻撃手段、攻撃対象範囲を適時指定】

【 破壊攻撃コマンド            】

【      〔――実行――〕       】


〔さぁ始めよう! アイと破滅の宴を! さぁ! 踊れ! 踊れ! 踊れぇ!〕


 ファイブの狂声が闇夜にこだましている。

 そして、100を超える狂気と悪意は一斉にフィールへと襲いかかったのである。

 

 

 @     @     @

 

 

「始まったな。残酷ショーが」


 ペガソがグラスを傾けながら、フィールの処刑ショーの映像を眺めていた。もとよりナイラへの仕打ちから分かるようにサディストであり残虐性のある男だ。このようなイカれたお遊びも決して嫌いではなかった。

 そのペガソの傍らではナイラが嫌悪感を必死に堪えながら目を背けている。これから起こるであろう惨劇を目の当たりにすることは、彼女のトラウマを強く目覚めさせるのだろう。いかにも辛く苦しそうに自分の胸の心臓のあたりを押さえていた。

 さらにその背後では王老師の腹心の部下である王麗莎女史が蒼白な顔で、その光景を眺めている。やはり女性として同じ女性のシルエットをもつフィールが迎えるであろう悲惨な光景を想像するに至って冷静ではいられないのだ。

 最後にその麗莎を背後に立たせた王老師が憮然としてその中継映像を眺めている。王老師は何も語らなかった。ただ事の経緯を見守るだけである。そこには四者四様の有様が展開されていたのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 フィールは諦めては居なかった。

 退路はない。完璧に周囲を封鎖された状況下、とれる手段は一つしか無い。

 

【体内高周波モジュレーター作動       】

【両腕部チャンバー内、電磁衝撃波発信開始  】

【電磁チャンバー急速充填――100%OK  】


 両手の平を双方異なる方向へと向けるとフィールは叫んだ。 


「ショックオシレーション!」 


 両手の平の中央部から攻撃対象の電子回路を焼ききれるだけのマイクロウェーブを圧縮放射する。そしてそれは周囲のドローンを少しでも削り、退路確保への道筋となるはずであった。だが――

 

〔おっと、そうはいかないよ〕


 進み出てきたのは、4対の高圧放電端子を備えた放電機能タイプだ。それは数機で連動して電子波干渉しあう事で電磁ノイズやマイクロウェーブを撒き散らすことができた。相互の位置関係や干渉方法を調整することで攻撃的な収束型マイクロウェーブをピンポイントで打ち出すことも可能だ。

 当然ながら、フィールの放ったマイクロウェーブはそれらのドローン群により拡散反射されてしまう。ただの一体にもダメージを与えることはできなかった。


「くっ!!」


 悔しさを声にもらすフィールにファイブは告げる。

 

〔どうした? 得意の電磁波攻撃はどうした? 南本牧でも、湾岸高速でも、有明でも散々使ったじゃないか! 〝ぼく〟のドローンにはかなわないとでも言うのかい? なぁ!? フィール!〕

 

 ファイブは敢えてフィールを挑発的に侮辱した。彼女の冷静さを削り取るためだ。間を置かずしてファイブはさらなる絡め手の手段を講じる。

 

――ヒュッ!――


 フィールからみて下方向、そこから突如とて放たれたのは直径2センチ程の径のワイヤーケーブルだ。先端が投げ縄のようになっており可動式で獲物を容易にとらえることが可能だ。それがフィールの右足首を捕らえたのだ。

 

「あっ!?」


 思わず悲鳴が漏れる。じわじわと最悪の事態へと引きずり込まれる予感がしてならない。それは確実にフィールから冷静さと集中力を削いでいく。そして適切な反撃方法を取ることを困難にさせるのだ。

 

「はっ! 離せ! くっ!!」


 思わず飛行装備の推力を駆使して拘束ワイヤーと反対方向へと逃れようとする。だがそれすらもファイブの思う壺だった。

 

〔そら! 注意力が散漫になってるぞ!?〕


 一機のドローンが隙きを突いてフィールの脇腹に肉薄する。一本のペンチ型マニピュレータアームを備えたタイプのドローンだ。それが狙うのは先の指向性放電による攻撃で開けられた脇腹の大穴だった。フィールの体に取り付くと狙いすましたように脇腹の傷へとマニピュレータアームの先端をねじり込む。そして、ペンチクローでイエローカラーの高圧動力ケーブルを握りしめた。

 

〔そおら! 最初の大ダメージだ!〕


――ズバァアアッ!――


 目もくらむような電磁火花が撒き散らされる。高圧ケーブルは引きちぎられ、その先端が体外へと引きずり出されている。それはさながら天使の腸を引きずり出そうとする悪魔のごとしである。

 

「ギャァァァッ!」


 耳をつんざくような悲鳴が上がる。フィールの体内の痛覚システムが警告としての痛覚を彼女の中枢へともたらしたのだ。

 

【   体内機能モニタリングシステム    】

【    <<<緊急アラート>>>     】

【胴体内主動力システム群:破損発生     】

【メイン電力系統バックアップケーブル    】

【        胴体内左バックアップB系統】

【>ケーブル離断・開放損傷         】

【同、破損箇所による放電火花発生      】

【主動力動作状況変化なし          】

【>ただし、推力低下-2%         】

 

 そしてそれに加えて特攻装警には優れた頭脳システムが有る。どんなに物理感覚としての痛覚を遮断したとしてもイメージとしての痛覚と苦しみは遮断には限界がある。フィールはその臓腑をえぐられるような感覚に頭脳がひっくりかえりそうな嘔吐感を覚えずには居られなかった。

 

「オエェッ」


 呻くように声を漏らすがその間にもファイブはさらなる責め手を加える。それこそ体の末端から切り刻むように。

 

――ヒュィィィィン――


 甲高い回転音を響かせながら飛来するのは丸鋸型の切断具を備えたタイプだ。その動きは素早くフィールはソレの存在に気づく前に切断具はフィールの右足を膝下20センチ程の位置で斜めに切り裂いたのだ。

 

――ズバッ――


 それはひどくシンプルな音を残してあっさりと切れてしまう。そして遅れて伝わってきた激しい痛覚にさらなるダメージが加えられたことを思い知らされる。

 

【体内機能モニタリングシステム       】

【      ――アラート――       】

【右下腿部切断発生             】

【運動機能神経系完全離断          】

【電動性人工筋肉破損            】

【切断面、簡易補修機能作動開始       】

【>溶着ゲル浸潤、簡易補修完了まで30秒  】


 無論、そんな自動修理の隙きなど与えてくれるはずがなかった。さらに接近してきたのは6連装の回転式ペッパーボックス銃身を備えた散弾銃装備タイプである。それは二機一組となり狙いをすます。狙撃ポイントとしてファイブが選んだのは――

 

――ドォン! ドォン! ドォン!――


 立て続けに10発ほどの12番口径の散弾が打ち込まれる。詰められていた弾丸は鹿などのハンティングにも使用されるダブルオーバックと呼ばれる大粒の弾丸だった。その黒光りする鉛のベアリングはフィールの左の大腿部を次々に打ち砕いて行く。10発目が打ち込まれた時、フィールの左足はその根本から失われていたのである。


【体内機能モニタリングシステム       】

【      ――アラート――       】

【左大腿部破損。大腿部上端部より完全破壊  】

【体内循環系統緊急閉鎖           】

【運動神経系統、感覚神経系統、信号遮断   】

【体内バランサー自動補正          】


 もはやフィールの体内システムは痛覚を発することすら止めてしまった。あまりに多大な痛覚を発信することは中枢頭脳へ多大なダメージを与えることとなる。それがいかなる事態を意味しているのか、わからぬフィールではない。

 

「あ、あ、あ――」


 左大腿部、右膝下部、そこから先が失われてかすかな電磁火花が散っている。思わず下へと視線を向ければ見慣れたものがない。フィールの目に思わず涙が溢れていた。

 

「うわぁあああっ!!!」


 思わずつんざくような悲鳴を上げながら、フィールは左手をその背後へと回す。そして頭部シェルの中から特別製のダイヤモンドブレードを取り出し左手の中へと収めてそれを大きく振りかぶった。

 

「畜生ォォォッ!!」


 悔しさと苦しさと不甲斐なさが、フィールに涙を流させていた。その悔しさを叩きつけるようにスローイングナイフのダイヤモンドブレードを投擲しようとしたのだが、それもまたファイブが想定していた状況だったのである。頭上から前方へと投げ下ろす動作で、特別製のダイヤモンドブレードを投げ放とうとする。だが――

 

〔おっと、残念だねぇ!〕


 嘲笑する声とともに紫色の高熱レーザー光が迸った。そしてダイヤモンドブレードの先端部分へとピンポイントでヒットする。離れた位置からレーザー銃装備のドローンが精密狙撃したのだ。それはダイヤモンドブレードの先端部分に内蔵された電子励起爆薬へとヒットする。そしてダイヤモンドブレードがフィールの頭部の側面あたりに位置する時に、電子励起爆薬は炸裂したのである。

 

――ドオォォォン!!――

 

 それは空間を振動させる程の威力を放った。かつてはマリオネットのジュリアを葬った武器であったが、それが自らの頭部のすぐそばで炸裂したのである。ダメージはもはや避けられない。

 

【体内機能モニタリングシステム       】

【      ――アラート――       】

【頭部左側面損傷              】

【頭部人造皮膚、焼損            】

【左聴覚センサー破損、バックアップ不可能  】

【左視覚、眼球ユニット破損         】

【>左聴覚、左視覚、作動停止        】


 頭部の左側の人造皮膚が焼け焦げ剥がれ、さらには左の耳と目がその機能を失ってしまった。それだけでない。

 

【体内機能モニタリングシステム       】

【      ――アラート――       】

【左前腕、手首部破損            】

【左肘より先端側、完全喪失         】


 電子励起爆薬の暴発はフィールの左腕の肘から先を吹き飛ばしてしまったのだ。

 右足、左足、そして左腕――

 3つの機能が失われ、残されているのは右腕だけだ。

 

〔いいざまだなぁ! フィール! ダルマになるまであと一つだ! 君がクリエイターにプレゼントしてもらった特別製のナイフをこの局面で使うだろうとは予想できていたからね! 電子励起爆薬に焦点を合わせて誘爆させれば最高の大ダメージだ!〕


 はしゃぎながら叫ぶファイブにフィールは尋ねた。

 

「なぜ、何故知ってるの? 改良型のブレードの事を?」


 戸惑いを隠せないフィールにファイブは楽しげに告げた。

 

〔当然だろう? 僕はサイバーマフィア、ネットの情報を掌握するのは得意中の得意だ! 警察内部の機密情報や警察ネットワーク上の事件記録も自由自在さ! 君がこれまでの警察任務の中で用いた機能については完璧に把握している! 君が何を出来るのか全部お見通しなのさ!〕

「そんな――、嘘よ! だって、情報機動隊やディアリオ兄さんや、トップクラスのネット技術者がセキュリティを構築しているのよ?」

〔それがどうした? そもそも人間様が作り上げたものだ。作れるということは、壊せると言うことだ。完璧なセキュリティなど有るはずがないだろう? それが現実というものさ! だからこそ僕達はサイレント・デルタを組織した! この世界に存在するあらゆる情報を、あらゆる機密をこの手に握る! そして世界を奪い取る! それこそが僕らの望み! 君にまつわる情報など筒抜けなのさ! 次は何を仕掛ける? 超高速起動か? 単分子ワイヤーか? 大技のシン・サルベイションか? それとも苦し紛れにXDMコンパクトでも撃ってみるか? それ以上の打つ手は無いはずだ! さぁ! さっさと絶望するんだ! フィール! 君の残骸はボクが丁寧に遊んでやるよ! ハハハハハハ!〕


 興奮を暴走させるようにファイブがけたたましく叫び続けた。勝負は決したと言わんばかりにだ。だがそこでフィールは狼狽えることも、激昂することもやめてしまった。ただ静かに沈黙して、静かに周囲に視線を走らせるばかりだ。その変化にファイブが問いかける。

 

〔どうした? もはや絶望して声も出ないか? 無抵抗なのを弄んでもつまらん。そろそろ残る右手も毟らせてもらうとするよ。そして君はすべての抵抗手段を失うんだ! さぁ、覚悟するんだねフィール!〕


「――――」


 それでもなおフィールは沈黙を守っていた。無駄に反抗せずに、無駄に攻撃せずに、自らに残されたものを冷静に思案していたのだ。

 

――単分子ワイヤーでドローンを捕らえても追いつかない。超高速起動を発動させても力尽きれば元の木阿弥、むしろ、ファイブはそれを狙うだろう。シン・サルベイションは一対一の破壊手段。大多数に囲まれては使用する意味が無い。つまり私単独では脱出はもう無理ということ。ならば残る手段は――


 そう思案しつつ、フィールは頭部シェルからノーマルのダイヤモンドブレードを数振り取り出した。そしていつでも使用可能なように右手に握りしめる。

 

――少しでも長く生き残り助けを待つしか無い!――


 だがその答えに疑問が湧くのも事実だ。

 

――本当にくるの?――


 救援の手が来ることは相当に困難だ。

 

――信じるしか無い――


 自分以外の特攻装警が全て行き詰まっているとしても、それ以外にも頼れる存在は居るはず。今の自分の惨状を布平たちが把握していないはずがない。ならば――

 

――来る! 助けはかならず来る!――

 

 フィールは信じた。一縷の望みを。その残された右の瞳は炯々として輝いている。満身創痍を極めながらも、フィールの心は今なお折れては居なかったのである。

 

 

 @     @     @

 

 

「どうしたんだ? 王老師? さっきから黙っちまって」


 ペガソが王之神に問いかける。だが王老師は憮然として黙ったままだった。ただ一言だけ小さくつぶやくいていた。その言葉を聞き取れたものはペガソだけだ。

 

「シーサンメイ」


 その言葉を耳にしてペガソは怪訝そうに老師を見つめる。その視線に王老師がうなづいている。老師には見えていた。フィールの今なお折れない心を。勝負はまだ終わっては居ないのだ。

 そして、老師には見えていた。


「ほう? 来たか」


 そのつぶやきは誰にも聞こえていなかった。

 月も無い、闇に落ちた夜空。それが雲が割れてそこから星明かりが覗いている。その星明りの中に、老師の鋭敏な感性と深い洞察力は、その星明りを背にして現れた一つの影を見ていた。それは新たなる力である。戦いの第2幕が切って落とされようとしていたのである。

 


 @     @     @



 第2科警研の庁舎の屋上――

 そこからもう一つの白銀の天使が飛び立った。

 シルエットはフィールに似ていたが、細かな部分に差異があった。

 所有している装備に違いがあったのは当然として、最も大きく異なるのはその〝翼〟である。

 フィールが2枚一組の放電フィンを主翼兼推進装置としているのに対しして、その機体は全く異なる形状の飛行ユニットを装備していた。

 両肩の基底部から伸びる一対のサブフレーム。その左右先端に大きめの円筒形状のユニットが装備されている。MHD推進装置とエアジェットダクト装置を組み合わせ、速力より尾比推力の向上と空中での三次元位置の精密制御を狙ったものである。


 装備名称『電磁フローター』


 布平率いるF班が新たに開発した〝白銀の翼〟である。

 フィールの翼が速度性能を重視しているのに対して、電磁フローターは精密空間位置制御を得意とし重量物の起重に重きをおいていた。それは、その装備を必要とする者がフィールたち特攻装警とは異なる組織から求められて産み出されたことに理由があった。

 彼女は警察ではない。

 彼女はレスキューである。

 彼女が制圧するのは犯罪者ではない。

 彼女が制圧するのは火災であり自然災害であり事故であり、人命を脅かすあらゆるトラブルに立ち向かうことが彼女の使命である。

 特攻装警応用機体第1号機、F型応用機、個体名『フローラ』――

 

 彼女こそは首都圏の人命を守るべく産み出された、新たなる空の守り手である。

 

 

 フローラは府中の第2科警研を飛び立つと、一直線に東京湾へと向かった。

 向かう場所は中央防波堤内域埋め立て市街区。通称『東京アバディーン』

 そこで戦いに望んでいるはずの、未だ有ったことのない〝姉〟――特攻装警第6号機フィールを支援することが今回の任務であるのだ。

 奇しくもそれはフローラが立ち向かう初めての〝実戦〟であった。とは言え、作戦の詳細が細かに決められているわけではない。現場では誰が居るのか、どんな状況が起きているのか、詳しくは何一つ解っていないのだ。自分の判断で全ての行動決定をしなければならない。

 

「でも――」


 フローラは解っていた。

 

「わたしは〝命〟を救うために生まれた」


 おのれが産み出されたその理由を、彼女は理解していた。

 

「わたしの翼はそのためのものだから」


 フローラはとびつづける。白銀の鋼の翼を震わせて――

 現在速力マッハ0.62――、

 彼女がまだ見ぬ〝姉〟の下へとたどりつくまで3分足らずである。

 

 府中郊外の中河原から出発して、多摩川沿いに東南東へと進路を取る。進む先には川崎の市街地を右手に見ていた。そしてそこでナビゲーションシステムに従い真東へと進路を切れば、1分ほどで事件現場空域へと到達する。

 大井ふ頭の倉庫の灯りを眼下に、羽田エアポートの光を右手に眺めながら直進すれば、そこに見えてくるのが中央防波堤内域エリアである。


「見えた――」


 そうつぶやくフローラの視界の先に見えてくるのは、猥雑な瘴気を立ち上らせる魔窟の洋上楼閣都市である。その中央部に金色に輝く200m規模の高層ビルが立ち、その周囲を100mから150m程度の高さのビル群が魔王の城のように群塊を成していた。

 

「あそこにお姉ちゃんたちが――」


 はやる気持ちを制しながらフローラは光学視界を精査した。

 

【光学視界システム・モード修正       】

【暗視レベル 〔+2.4〕         】

【望遠倍率  〔×100〕         】


 まずは視認を試みたのは市街地の真上、高層ビルの上層階辺りから地上500m程度の空間だった。そこに何か異変がないかを確かめようとしたのだ。

 爆発、火災、それに伴う黒煙や異常発光――、事故や災害の発生の可能性を考慮したのは消防レスキュー用途のために産み出されたフローラならではの判断だった。

 

「火災は――無いみたい。でも――」


 確かにビル火災のたぐいはビルエリアでは発生していない。だがそれとは異なる異変をフローラはその目で見つけていた。

 

「なに? あの黒いカラスの群れみたいなの?」


 カラスの群れ、そう形容するにふさわしい光景だった。漆黒の何かが無数に群れながら密集して飛び回っている。それはまるで獲物を弄ぶ猛禽類のようであり、餌を求めて廃棄物をあさる都会のカラスの群れのごとしだ。

 そしてその黒い群れの中の中央に〝彼女〟の姿を見つけることとなる。

 

「あれ? 何か白い物がいる。かもめ? じゃないもっと大きい――」


 そうつぶやいた時、炸裂したのは眩いばかりの光を伴った爆発だった。電子励起爆薬――、フィールが使うダイヤモンドブレードに内蔵された高性能な金属水素爆薬である。その爆発の閃光を背景として、黒い群れに閉じ込められた白いシルエットの正体を、フローラは知ることとなる。

 

【光学映像データ・高速照合――       】

【適合対象発見               】

【適合対象名〔特攻装警第6号機フィール〕  】

【適合率〔68%〕             】

【補足>人形シルエットに欠損確認      】

【状況推測>四肢部に損傷の可能性あり    】


 体内のデータベースと連携して状況判断をすればそこから得られた事実は最悪のものだった。

 

「お、お姉ちゃん!? 怪我してるの?」


 フローラの中に驚きがこみ上げ、一瞬冷静さを失いそうになる。だがそこで彼女の心を押しとどめたのは、フローラの存在を求め、そして、彼女の着任を待ちわびている消防庁の人々からもたらされた言葉の数々だった。

 

――どんな状況でも冷静であることをこころがけろ――

――現在状況に何が一番適切な行動なのか判断を誤るな――

――災害現場では私心は胸の奥に締まっておけ。優先順位と重要事項を誤るもとだ――

――お前が差し伸べる手によって〝救われる命〟が必ずある! それを忘れるな!――


「そうだ」


 フローラは思案する。最適な救助方法を――

 

「わたしは戦う存在じゃない」


 急上昇して高度700mまで舞い上がり、その眼下に、姉であるフィールを取り囲む黒いシルエットの群れを俯瞰で見下ろす。そこから見える黒いカラスの群れのようなものを注視する。そこに見たのは鳥ではなかった。まるで半円のボウルのような物で明らかな人工物である。

 

【光学系視覚系統・特殊モード        】

【複数同位体、個数高速カウント       】

【対象物・光学照合             】

【推測適合対象名〔夜間用戦闘ドローン〕   】

【確認総個数〔100体以上〕        】

【補足>                  】

【〔密集行動中               】

【〔中心部に人形シルエットを発見      】


 そこからの映像から得られた情報から最適行動を判断する。

  

「わたしは――」


 行動は決まった。フローラは背面腰部のラックに収納した装備品を左手で引き出すと作動状態へと展開する。

 

――ハイプレッシャーウォーターガン――


 本来は消化用の液体薬剤を圧縮散布して瞬間消火するためのバズーカー状のアイテムだ。薬液はカートリッジ式であり、装填するカートリッジの中身を変えることで、消火以外の用途にも運用可能な多機能ツールである。

 

「わたしは〝命を救う者〟――救助活動用アンドロイド――」


 そしてフローラは右の大腿部の側面に設けたカートリッジラックから一つの薬剤カートリッジを取り出し、ウォーターガンへと装填した。薬剤カートリッジには数種類あり、一つのカートリッジで2回から数回の発射が可能となっている。

 

「待っててお姉ちゃん――」


 そしてフローラは電磁フローターの推力を急速上昇させると姉の居る空間ポイントめがけて一気に飛び込んだのだ。

 

「わたしが今、助けるから!」


 今、フローラも彼女にしかできない戦いへと飛び込んでいったのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 フローラは一気に加速した。

 その視界内には、フローラの姉であるフィールへと群がる醜悪なる黒い機械物が捕らえられている。フローラはその群れの3次元位置を即座に推測すると、黒い群れの中に捕らわれているフィールの位置を推測して最適な突入ルートを割り出した。

 

「お姉ちゃんを救うにはこれ!」 

 

 電磁ブースターの推力を全開にして、戦闘ドローンの群れの真っ只中へと突入を敢行する。そしてドローンの黒い群れに接近すること100mを切った時、左手で構えたハイプレッシャーウォーターガンのトリガーを引き絞る。ウォーター内部の散布液状物メインチャンバーに予備圧縮されていた高圧空気を瞬間的に送り込む事により、メインチャンバー内の液状物を瞬時に拡散発射するものである。

 

「どけぇええっ!!」


 雄叫びにも似た叫びを轟かせながらフローラは狙いを定めてウォーターガンのトリガーを引いた。照準位置はフィールが居るであろう位置からほんの僅かずれた位置。そして、急角度で真下に放射された液剤は強力な物理的な衝撃効果を発揮して、数機のドローンを破壊し、醜悪なる囲みに隙間を作ったのである。

 

〔なに? 何が起きた?!〕

 

 ファイブが驚きと戸惑いの声を解き放つ。突如上空から突入してきたフローラの存在はファイブには全くの想定外だったのだろう。混乱する敵を尻目にフローラはさらに行動を続ける。

 

【マイクロアンカー装備・右腕部作動     】

【アンカー先端部三次元飛行モードにて高速射出】

【飛行起動>中枢部思考結果に連動      】


 右腕を伸ばした先にはフィールが居た。自らの視界でその姿と位置を把握すると間髪置かずにマイクロアンカーを射出する。そのアンカー先端は単なる銛ではなく、小型の飛行推進装置となっており、エアジェット流や小型の羽根を駆使することで、フローラがその思考に思い描いたとおりに飛行軌道を描いて飛ばすことが可能なのだ。

 そのフローラが思い描いた飛行軌道は――


「おねえちゃん!!!!」


――何よりも強い思いを伴ってフィールのもとへと到達する。一直線に飛来し、しかる後にフィールの体の胸部で輪を描いて3度ほど周回すると、ワイヤーをフィールの体へと巻き付かせる。そしてしっかりと捕縛したのを確信すると、フローラはそのまま真下へと一気に通り抜けようとする。


〔させるかぁああ!!〕


 とっさにファイブが退路を断とうとする。だがそれすらもフローラは見切っていた。

 

「邪魔だぁっ!!!」


 轟くような叫びを響かせてウォーターガンのトリガーを更に引く。鈍いグレーの粘性の高い薬剤は重い質量を伴った幕となって、妨害を図ろうとするドローン群へと襲いかかり、そして、鋭利な刃物か、重いハンマーとなって、妨害物を一瞬にして葬り去るのだ。

 脱出の突破口はこじ開けた。あとはフィールとともにここから逃れるだけだ。

 

「おねえちゃん! 捕まって!!」


 フローラは必死の思いを込めて叫んだ。ここでワイヤーが外れて姉を敵領域の中へと残してきたら最悪の事態を招きかねない。絶対に失敗が許されぬプレッシャーを感じながらも、結果を信じてフローラは姉の体を引きずり出したのだ。

 とっさに背後を振り返れば、無事、敵ドローンの黒い群れの中から、満身創痍状態のフィールを救出することに成功しているのが見えた。あとはここから離れて安全な距離をとるだである。

 フローラは電磁フローターを制御しつつ、U字型の軌道を描きつつ急速上昇する。その間にもファイブが操るドローンはフィールを再び捉えようと追いすがってきていた。それを視認したフィールは、その右手に用意していた4振りほどの投擲ナイフ・ダイヤモンドブレードを投げ放つ。

 

「しつこいのはモテないって言われなかった?!」 

 

 ナイフは緩やかなカーブ軌道を描いて、追手となるドローンを3機ほど葬り去った。そしてついにドローン群の追跡を見事に振り切ったのである。

 フローラは更に上昇を続ける。高度800mまで上昇してようやくにしてその動きを止めた。無我夢中のままに行動して周囲を見回せば、乾坤一擲の突入救出を成功させたフローラの眼前に佇んでいたのは、傷だらけになりながらも無事に生還を果たした、彼女の姉の笑顔だったのである。

 

「ありがとう、助かったわ」


 そこには安心があった。歓びがあった。そして希望があった。

 頭部は半壊、左腕喪失、左足全損、右足半損、胴体側部破損――、まともに残っているのは右腕と右目だけという惨状でありながらも、それでもフィールは安堵と希望を噛み締めていた。彼女は生き残ったのである。 

 絶体絶命の状況下から拾い上げた命を喜びながらフィールはおのれを救ってくれた見慣れぬアンドロイドへと問い掛けた。


「わたしはフィール。あなたは?」


 シンプルな名乗りを伴った問い掛けに、フローラは気恥ずかしさと戸惑いを覚えながらも、力強く、快活に答え返す。

 

「わたしは、特攻装警F型発展応用機、公称F2、東京消防庁警防部特殊災害課所属のレスキュー用機体。個体名『フローラ』――」


 その言葉の意味に驚くフィールにフローラは告げた。

 

「あなたの〝妹〟です!」

「妹――、わたしの?」

「はい!」


 驚きの真っ只中に居る姉フィールに、フローラは彼女に巻きつけていたワイヤーを解除し回収しながら笑顔で答えた。

 

「正式ロールアウトはまだなんですが、今回の事態を受けて、東京消防庁の特別許可を得て救援に駆けつけました。そしたら、お姉ちゃんがあのドローンに襲われているのを気づいて、救出しようと思って飛び込んだんです」

「そんな無茶な! 下手したらアナタも殺られてたのよ?」

「かもしれません。でも――」


 フローラは安堵を言葉の中ににじませながら告げる。

 

「お姉ちゃんを救うことしか考えられなかった。わたしは〝命を救うために〟生まれたから」


 それは悲しい事実でもあった。アンドロイドははじめから運命づけられてこの世に産み出される。役割はすでに規定され、能力も、任務も、あらゆるものが決定済みでこの世に姿を表すのだ。アンドロイドの人生には、人間のような〝自由な将来〟は存在しないのである。

 でもだからこそ――、フィールはフローラに手向ける事ができる言葉があるのだ。

 

「そう――、素晴らしいじゃない! アナタが人々を救うために生まれたなら、わたしは人々の命を護るのが役目。フローラ――」


 フィールは一本だけ残された右手をそっと差し出すとフローラにさらに語りかける。

 

「――一緒に戦いましょう!」


 姉からの心からの言葉を拒む理由は何もなかった。フローラもまた笑顔を溢れさせながら姉の右手をしっかりと握り返したのだ。

 

「はい!」


 手と手を結び合い、力強い視線が交わされる。それは戦いの真っ直中に生きることを宿命付けられた2人の〝姉妹〟としての家族の絆の確認であった。だがそれは悲劇ではない。誇るべき絆だ。それを改めて確信した2人は、眼下から上昇してくるドローン群の黒い群れに強い視線を向けたのである。

 それを視認しつつフィールが告げる。

 

「その為にはアレを始末しないとね」


 それはまるで押し寄せるイナゴかハエのごとくだ。姉の言葉にフローラが言う。

 

「はい。一気に葬らないとキリが無いです」

「そうね。できれば〝本元〟も叩きたいところね。増援の戦力を呼ばれたら事だわ」

「本元――?」


 姉のフィールが不意に口にした言葉に、フローラは何かをひらめいたようだ。

 

「おねえちゃん! それ、わたしに任せてくれる?」

「え?」

「わたしに考えがあるの。必ず仕留めてみせるから」


 自信と勢いをにじませながらフローラが言う。その言葉にフィールは問い返した。

 

「フローラ、あなたはナニが出来るの?」


 シンプルだが真剣な問いに、フローラは告げる。

 

「お姉ちゃんが出来ることなら投げナイフ以外はなんでも」

「飛行性能は?」

「精密制御重視で、トップスピードはお姉ちゃんの80%程度」

「〝糸〟は?」

「できるよ! 全力で行けばお姉ちゃんにだって負けない自信があるよ」

「言ったわね? あとで見せてもらうわよ? それじゃ一気に仕掛けるからね。わたしは〝縦糸〟を張るから、フローラ――あなたは〝横糸〟をおねがい」

「任せて! 完ぺきにとらえてみせるから」

「オーケィ! カウント3で〝発動〟するわよ! ついてきて!」

「了解。準備開始します」


 2人はうなずき合いながら、手を離す。そして、反撃のためにスタンバイを始める。

 互いの飛行装備を加速させながら、一旦大きく離れる。そして、再加速するとドローン群の真っ只中へとVの字を描くように2人は一点を目指して飛び続ける。今日始めて会ったにもかかわらず、長年に渡って連れ添い支え合った家族であるかのように、二人の息は見事にシンクロしていた。

 その2人に対して全ドローンを巨大なスピーカーのように響かせながらファイブが声を発する。

 

〔何をする気だ? 死にかけが! 同型機が二体に増えてもどうにもならんぞ! オレからは逃れられん! おとなしくオレの欲望の糧となれ!〕


 それはおのれが負けることすら想像できない傲慢極まりない愚か者の姿だった。そんな愚物に対してフィールは力強く叫び返した。

 

「そんなのお断りよ!! 散々やってくれた借りはきっちり返すから覚悟なさい! それにアナタは最大のミスを犯した!」

〔ミス? そんなのはありえない! 僕は完璧だ!〕


 完璧――、安易にその言葉を口にする者に限ってロクなものではないということをフィールはこれまでの経験から知っていた。愚か者に対してフィールは告げる。


「まだ気づかないの? あなたの最大のミスは――」


 そして、フィールは右手の指を3本立ててそれをフローラに指し示しながら、3カウントを数え始めた。


【 単分子ワイヤー高速生成システム     】

【        タランチュラ起動準備開始 】


 3つ――

 

【 速度レンジ・マキシマム         】

【 体内負荷 限界値の95%まで      】

【      超高速飛行モードをスタンバイ 】

 

 2つ――


「――わたしの〝翼〟を奪わなかったことよ!!」


 その叫びとともにフィールは残る一つの指をたたむ。3カウントがコールされたのだ。

 2人の姉妹の叫びがこだまする。


「――超高速起動! ダブル!!――」


 今、二つの白いシルエットは飛行加速装備の作動時の電磁ノイズにより流星のように輝き始める。そして目にも留まらぬ超高速で加速飛行しつつ白銀の光を放つ。

 今2人は――〝輝きの戦士〟――となったのだ。

 

――キィィィィィィ――


 まるで天界の銀の鈴が鳴り響くような甲高い音が鳴り響く。それはフィールが宿した3対の白銀の翼が持てる全ての力を解き放っている姿。2枚一組の放電フィンが電磁波を解き放ちながら共振する時の作動音だ。

 

――ヒュボォォォォォ――


 それを追うように鳴り響くのは救いの聖火が吹き上がるような燃焼音。フローラの電磁フーターがフルスロットルで電磁火花とプラズマ火炎をほとばしらせている。フィールが銀色の羽を広げたようなハレーションの残渣を放射しながら飛翔し、フローラは七色の輝きの軌跡を、二条の直線光を細長く解き放っている。

 2人が放つ光の翼は退廃の街の頭上にて、鮮烈なる輪舞曲ロンドを奏でるのだ。

 しかし、その一方で、彼女たちが仕掛けた〝技〟である超高速起動は諸刃の剣でもある。

 限界を超える速度を得られる代わりに、メインリアクターも推進装置もギリギリまでの負荷に見舞われる。余剰熱も危険なレベルにまで達し、誘爆や自己発火の危険もある。けっして長い時間をかけることはできないのだ。それになにより――

 

「このダメージではリスクは大きい! でもせめて十数秒だけ!」


――無傷なら多少の無理を通した連続動作も可能だったが、今のフィールではギリギリ粘って十数秒程度が限界だろう。だがそれを押してでも限界に迫りたい理由が有るのだ。


「あの子の努力を無駄にはさせない!」


 今、フィールのあとを追って飛んでいるのは妹であるフローラなのだ。まだ何も知らないこの世に生まれ落ちたばかりの魂で、危険を犯してまで救いに来てくれたのだ。ならば姉妹で共に手を携えて飛びながら、立ちはだかる敵を捉え葬りさり、この街から生還することだけが、この恩に報いる唯一の手段なのだ。

 

 フィールがその右手の先端から、5本の耐熱仕様の単分子ワイヤーを放射していく。そして飛行軌跡のそのままにドローンの群れを取り囲んでいく。それを後続のフローラが両指の先端から10本の単分子ワイヤーを多様な方向へと射出し、姉のフィールが張る縦糸を確実に固定していく。

 100体以上のドローンが広範囲に拡散し切る前に行動範囲を制限しなければならない。そのためには100m以上の範囲地に散らばりつつ有るドローンの全個体を取り囲めるだけの大きな円を一刻も早く描かなければならないのだ。その速度は限りなく音速へと近づき、一つの円を描くのに1秒を切るほどになる。

  

――ギィィィィィィン―― 

 

 電磁火花のノイズと亜音速飛行が混じり合い、独特の唸り音を奏でていく。そして肉眼で捉えることも困難なくらいの加速で、2人は闇夜の真っ只中に鈍い白銀色に輝く微細鋼線の檻を構築し完成へと導くのだ。

 闇夜のコウモリの如きドローンどもは、着実にその中へと囚われていく。一切のあらゆる逃亡を許さず、ただ粛々と――

 だが、ファイブはドローン越しに声を響かせるとある事実を指摘する。


〔なんだ? 小細工でも弄するつもりか? どうした? 完璧には囲めてないぞ? 檻と呼ぶにはザル過ぎるぞ!〕


 その言葉のとおり、全ては囲みきれていない。数にして1割程度だろうか、囲みから漏れたドローンも有る。その数12機とけっして少ない数ではない。そのチャンスを逃すほどファイブは甘くはない。

 

〔くだらん小細工もコレで終わりだ!!〕


 奇声のような叫びとともにファイブが操作したのは、唯一一回りサイズが大きいタイプだ。その機体が左右に割れていて、そこから火炎放射のノズルが覗いているのだ。それがフローラの進行を遮る位置へと回り込むと、ノズルから紅蓮の炎を噴出させ高温のナパーム弾を浴びせかける。フローラのシルエットが瞬時にして真紅の炎へと包まれたのである。

 その光景はフィールにも見えている。突然の凄惨なヴィジュアルに叫ばずには居られなかった。

 

「フローラ!!!」


 驚きの声を上げるフィールにファイブが嘲りを浴びせた。

 

〔残念だな! 初めて会えた妹ともいきなりお別れだ! だが寂しくない! スグに廃品置き場で再会させてやるからなぁ!!〕


 状況の逆転に成功して、再びチャンスを手に入れたと確信しての発言だった。

 だが――

 

――ドォォン!!――


 突如として鳴り響いたのはフローラがその手にしていた専用ツール――ハイプレッシャーウォーターガン――である。

 

――ガシャッ――


 火炎放射仕様のドローンは瞬時にして粉砕される。そしてフローラは何の損傷もなくナパーム火炎を振り切って残存ドローンの囲みへと突入するのである。

 

「どけぇ!」

 

 強い叫びを上げながらフローラはウォーターガンの引き金を引き続けた。

 

「壁面破壊用の砂鉄と水銀の混合粘液弾よ! 食らえ!」

 

 残る12機のドローンをさらに半数以下へと追い込んでいく。携帯していたカートリッジは使い果たしたフローラは、空となったカートリッジケースを排莢しながらファイブにこう告げたのだ。


「あなた馬鹿?」

〔なにぃ?〕

「消防のレスキューを、炎で葬れるはずがないでしょうが! わたしは炎を退治する者よ! 覚えておきなさい!」


 フローラは警察ではない。消防庁所属のレスキューである。彼女にとって炎とは恐れるものではなく、立ち向かうものなのだ。

 その叫びはフィールにも聞こえていた。単分子ワイヤーのネットで行動を制限したドローンの群れを挟んで互いに反対側に位置していた。フィールが上空でフローラが地上に近い。それはフィールにとって絶好のポジションだったのである。


「決めるなら今だ」


 フィールは一言つぶやくとフローラへと叫んだ。

 

「フローラ! 電磁波反射シールドを展開して! ショックオシレーションの応用モードで可能よ! 急いで!」

「了解! 電磁波反射シールド展開します!」


 姉からの声にフローラは即座に反応した。

 

【体内高周波モジュレーター作動       】

【両腕部チャンバー内、電磁衝撃波発信準備  】

【発信モード:対波形増幅反射モード     】

【                     】

【  ――ショック・オシレーション――   】

【  ――電磁波反射シールド・展開――   】


 腰裏にウォーターガンを戻し両手の平を広げてフィールの方へと向ける。それは高圧電磁波を対消滅させ、電磁波を投射してきた方へと反射させるための機能であった。

 

「反射シールド、準備よし!」

 

 そしてフィールは自らの右の手の平を広げて、捉えた全てのドローンへと向ける。しかる後にその体内で所定のプログラム動作を開始させた。

 

【体内高周波モジュレーター作動       】

【両腕部チャンバー内、電磁衝撃波発信開始  】

【チャンバー高速蓄積スタート        】


 それはかつて有明の第5階層ブロックでの戦闘でも用いたことの有るショックオシレーションの使用プロセスであった。その動作の意味をファイブはすでに調査済みであった。

 

〔何の真似だ? そんなちゃちい電磁波でこのドローンの大群が始末できると思うのか?! 今この単分子ワイヤーを切断してやるから待っていろ! 今度こそ終わりだ!〕


 だがその挑発にもフィールは全く動じなかった。


「いいえ、終わるのはアナタです。あなたは私達の事を何も知らない」


【体内電磁波チャンバー           】

【〝法的リミッター〟強制解除        】

【作動状況証明ログ、強制記録を開始     】

【物理リミッター限界値まで高速充填完了   】


 そしてフィールは、その攻撃機能の最終トリガーと自らの意識を接続する

 

「レベル・オーバーマキシマム!」


 その叫びと共に、自らの意識でトリガーをオンにして全てを作動させたのである。

 

「ショックオシレーション! ――インフェルノ!!――」


 その瞬間、フィールの全身が青白い炎を上げた。

 物理的な炎ではない。電磁波放電による発光現象、いわゆるセントエルモの火にも似た現象である。その青白い光の炎をまといながら、フィールの右手は純白へと輝き始める。そして、あらゆるものを焼き尽くす〝裁きの業火〟を解き放ったのである。

 

 

 @     @     @

 

 

「うっ!」


 そう声を漏らしながら顔をしかめたのはプロセスの一人――ダウであった。その傍らには、クラウンとの交渉に臨んだウノがいる。

 

「どうしたの? ダウ?」

「いや、なんでもない。何か、瞬間的にものすごい出力レベルの電磁波が飛んできたんだ」

「え?」

「それも尋常じゃない、すぐそばに居たらスマホなんか一瞬にしてふっとぶよ」


 そう答えながらダウは頭上を仰いだ。

 

「ほら、あの辺り――、メインストリートの向こう側のエリアの上空だよ。ボク、センサー感度が高いからあまりに強いノイズは苦手なんだ」


 ダウが視線で示す方を一緒に眺めながらウノはつぶやいた。

 

「そう――あそこで一体何をしてるのかしら?」

「さぁね。でも、マトモな事ではないのは確かだけどね」


 2人は頭上の空間へと思いを馳せた。

 

「あそこでも誰かが戦っているのね」


 ウノは不安げに眉をひそめながら、そう言葉を漏らしたのである。

 

 

 @     @     @

 

 

「ダディ」


 不安げに言葉をもらしたのは専用の特殊ゴーグルと手足を露出させたレオタード戦闘服に身を包んだ黒い肌の黒人系の美少女だった。その名をアラクネと呼ばれる彼女はかたわらに佇むダディ――すなわち彼女が〝父〟と思いを馳せる人物へと声をかけた。

 

「ん、お前も感じたか」

「うん、ものすごいエレクトリックノイズ――、シールドしてない電子機器だったら一瞬ですっ飛ぶレベル」

「そうだな。シールドの甘い安い人工心臓だったら、即座にオシャカになる。お前、大丈夫か?」


 彼女の父の名はジニーロック・またの名をダイダロスと言う。

 

「平気だよ。ダディが作ってくれた身体だから」


 その言葉にジニーロックは右手でアラクネの頭をなでてやる。

 

「行くぞ。〝片目〟の野郎を追い詰める」

「オッケイ」


 その言葉を残して、二人の姿は街の闇の中へと消えていったのである。

 

 

 @     @     @

 

 

〔ば、ばかな――〕


 ファイブは絶句していた。それはまさに一瞬の出来事だったからだ。

 

〔ぼ、ボクのドローンが一瞬にして吹っ飛んだ。嘘だ――お前は偵察用途がメインだったはずだ――、そんなイカれた攻撃能力なんか許されるはずがないだろう! 第一そんなデータはどこにも無かった! 何なんだお前は!〕


 そこに残されていたドローンはわずかに4機、その中の残り一つを介して、ファイブは声のやり取りをしていた。ヒステリックに叫ぶファイブをフィールは一考だにせず、彼の声を冷ややかに聞き流していた。眼下に広がる光景はまさに地獄そのもの。彼女とフローラが単分子ワイヤーで捉えたドローン群は余すところ無く全てが一瞬にして吹っ飛び焼ききれたのだ。それは全て、常識はずれなほどに強力な電磁波攻撃による物であった。

 電磁誘導と電磁波加熱による爆砕的強制広域加熱攻撃。

 

 ショックオシレーション――インフェルノ――

 

 それがフィールの最後の最後の切り札であった。その壮絶なまでの結果をフローラは半ば呆然として眺めていたのだ。

 

「―――」


 戸惑うフローラにフィールは声をかけた。

 

「フローラ、いらっしゃい」


 姉の言葉にフローラは頷くと速やかに飛行して移動する。フィールは妹が隣に来るのを確認しながらファイブへと力強く告げる。

 

「あなたは一つ勘違いしています」

〔なんだと?〕

「あなたは、私たち特攻装警が課せられている能力限界の意味を全く理解していません。私たちには、あなたたち犯罪者の人工人体にはない〝もう一つの枷〟がかけられているんです」

〔もう一つの枷だと?〕

「ええそうです。私たちにはあなたたちにはない〝法的リミッター〟と言うものが課せられているんです。たとえば警察用の拳銃が45ACPを超える口径の弾丸を使うことはめったにありません。威力が過剰であり、場合によっては弾丸が貫通して、無関係な市民を傷つける可能性があるからです。私たちアンドロイドの身体もそうです。特別に許される理由がない限りは、他の一般市民に影響を与えないことが常に求められます。

 当然、機能として使用可能であったとしても、その能力を行使したことで、誰かが傷つき、誰かが不幸な結果になるならば、与えられたその能力や機能は使用を禁じられる事となります。これを『禁則条項機能』と呼び、開発製造段階で使用が禁じられるんです。ショックオシレーション・インフェルノは、まさにその禁則条項に該当する機能なんです。絶対に使ってはならない力――、その存在はわたしの管理責任者である捜査一課課長ですら知りません。

 あなたはわたしの全てを掌握したと言いました。ですがアナタは、この機能の事を知らなかった! つまりはあなたの言葉は嘘であり、わたしに関する機密情報は何も掌握していないんです!」

 

 フィールはこの不毛な戦闘を通じて得られた事実を、一気呵成に声にして叩きつけた。さらに反論の言葉を待たずしてさらに言葉を突きつけたのである。


「あなたは警察内部情報の表層をなぞっただけの素人にすぎない! あなたは本当の電脳犯罪者たりえない! 神の雷はおろか、あのクラウンの足元にも及ばない! 単に人よりハイレベルな電脳スキルを手に入れて得意になっているだけのスクリプトキディにすぎない! 恥を知りなさい!」


 そしてフィールはネットの向こうに存在するであろうファイブに向けて、侮辱に満ちた言葉を叩きつけたのである。

 

「ガキがいい気になっているんじゃあない!」


 それは圧倒的な差だった。格の差、力の差、経験の差――、何もかもがフィールとファイブとでは大きくかけ離れていることをきっぱりと突きつけていたのだ。

 だがその事実を持ってしても、ファイブは抵抗することを止めなかったのである。

 

〔ち、畜生っ! もう容赦しないぞ! この街に配備した1000機以上の全てのドローンで一瞬にして焼き尽くしてやる! 指一本にいたるまで完全に粉砕してやる! 後悔しても遅いぞ!〕


 1000機のドローン――その言葉が響いても、それを恐れ怯える者は居なかった。

 フィールは冷ややかに事態を眺め、フローラは超然としていた。それには理由が有ったのである。

 

〔――なんだ? どうしたんだ?――〕


 戸惑い、狼狽える言葉をファイブが漏らしている。その醜態に声をかけたのはフローラである。

 

「無駄です。アナタはもう何もできません」

〔なんだと? どう言う意味だ?〕


 問い返してくるファイブに、フローラは自らの左手の小指を掲げて指し示した。

 

「コレ、見えませんか?」


 フローラのその小指の先には細い糸――すなわち単分子ワイヤーが伸びていた、そしてそれはフローラの背後で宙を漂っていた3機程のドローンへとつながっている。


「あなたのドローンはすでにわたしの制御下です。そして、そのドローンの内部システムを中継ユニットとして使うことでそちらへ〝逆侵入〟しました!」

〔なに?!〕

「あなたの通信システムはすでに私が掌握しました! もうどこにも逃げられません!」


 フローラはまさに、敵の本元を見事に制圧せしめたのである。

 

 

 @     @     @



 フローラの渾身の警告が発せられるのとほぼ同時だった。

 ファイブは自らの周囲に展開している仮想ディスプレイの画面に、到底信じられないものを目の当たりにしたのである。

 

【 ――通信回線がロックされました――   】


 さらに追い打ちもかけられる。

 

【 マスター管理者権限が書き換えられました 】


 今まさに、ファイブはネット環境から遮断されてしまったのである。

 

「し、しまったぁ!」

 

 あわててコンソールを操作するがもうどうにもならない。絶望に追い打ちをかけるメッセージしか返ってこない。

 

【 不正操作です              】

【 アナタのユーザーランクはノービスです  】

【 管理者権限がありません         】


 ERROR!

 ERROR!

 ERROR!

 ERROR!


 今やファイブの目の前には絶望的なそのメッセージしか流れては来なかったのである。

 

 醜態を晒すファイブに怒りを叩きつけたのはファミリア・デラ・サングレのペガソである。

 

「馬鹿野郎! 何やってんだ手前ぇ!! さっさと回線を切れ! こっちの場所を逆探知されるぞ!」

「わかっている! 今やっている!」


 ペガソの罵声にファイブはもはや逆ギレでしか答えられなかった。その間にもファイブにとって絶望的なメッセージがながれてくる。

 

【 通信回線管理情報がロックされました   】

【 メイン管理者以外には変更はできません  】

【 三次元物理位置の特定まで〔あと33秒〕 】


 物理的な位置まで把握されればもはや逃れるすべはない。そればかりかこの円卓の間に集っていた、セブン・カウンシルの全メンバーにまで累が及ぶだろう。そうなればファイブはもとより、サイレント・デルタの信用は地に落ちたも同然となる。

 悲鳴にも近い声で泣き叫ぶようにファイブは尋ねた。

 

「なぜだ! いつの間にこんな事を!?」


 フローラのその姿を円卓の間に残っていた全員がモニター越しに見る事となる。ファイブの疑問に、フローラはつよい視線をたたえながら答えを返したのだ。

 

〔先ほどの超高速起動のさいにアナタへの逆侵入を試みました。侵入経路はこの単分子ワイヤーです。私があつかう単分子ワイヤーには電子システムへの非接触侵入機能が付加されています。これを使って、あなたのドローンの遠隔操作部分へと侵入して、アナタへのハッキングを成功させたんです! もうアナタに退路はありません! おとなしく投降しなさい!〕

「嘘だろう?! アレだけの戦闘行動を行いながら、高レベルのハッキングを同時進行したというのか!! 何なんだお前は!」

〔ひとつだけ教えて差し上げます。私にはアトラス兄さんから連綿と積み上げられた技術が蓄積されているんです。当然そこにはディアリオ兄さんのハッキングスキルもあります! 特攻装警はそうやって日々成長しているんです! それが私達の戦いなんです!〕

 

 そしてさらにファイブに対して絶望を突きつける事実が告げられようとしていた。

 

【 物理位置特定まであと4秒        】

 

 モニターの警告のカウントダウンを尻目に、ファイブは最後のあがきをしていた。ペガソがファイブを罵倒していた。

 

「何やってんださっきから! さっさと回線を切れ! まだできねえのか!」


 ペガソの罵声を浴びて、ファイブはもはや泣き叫ぶしかできなかった。

 

「クソぉ! 畜生! 畜生! 畜生ぉぉぉぉ!!!」


【 物理位置特定まであと1秒        】


 それを目にしてファイブは立ちあがり、ついに叫んだのである。

 

「俺から離れろォォオオオ!!!!」


 その叫びを耳にして素早く動いたのは王老師だ。麗莎の手を握りしめて床へと伏せさせる。

 かたやペガソは膝の上に乗せていたあの女官と、秘書のナイラを抱きしめながらファイブへと背を向ける。

 

 次の瞬間、ファイブのボディは閃光を放って、木っ端微塵に爆砕したのだ。

 それこそがサイバーマフィア/サイレント・デルタの鉄の掟――任務失敗者の爆砕処分――である。

 今、ファイブはここに、決定的に敗北したのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 向こう側から、一方的に接続が切られていた。

 管理者権限は完全にこちらが奪取していた。あちら側が正常なプロセスで回線切断を行ったとは到底考えられなかった。システムその物を破壊するしか手段は残っていない。その事実から考えられる事を、フローラは静かにつぶやいていた。

 

「強制切断か」


 無理矢理に切断すれば双方ともダメージは避けられない。それをあえてやったことに、敵の狂気と執念を感じずには居られなかった。

 

「お姉ちゃん」


 フローラの声にフィールが振り向く。

 

「終わったよ。逆侵入で得られた情報やデータは通報しておくね」

「うん、そうして。あとは私の方で処理するから」

「了解」


 そう言葉を交わすと、フローラは不安げに姉へと言葉をかけた。

 

「それにしても――、本当に大丈夫?」


 満身創痍で傷だらけの姉の姿を案じずにはいられない。

 

「大丈夫よ。これくらいなんでもないわ。ラボへ帰ればしのぶさんたちが直してくれるから」

「そう? なら良いけど」

「不安がらせてごめんね」

「うん――」


 よく見ればフローラは涙目であった。初の任務を終えて安堵した面もあったのだろう。溜め込んでいた気持ちが溢れ出していたのだ。

 

「ほーら、泣かないの! まだ現場空域の中なんだから!」

「うん、分かってる――でもほんと、心配だったんだからね」


 姉の励ましをうけて、フローラは笑顔を取り戻していく。そしてどちらが手を差し伸べるでもなく、互いの手を握りしめたのである。

 

「さぁ、帰ろう。フローラ」

「うん。母さんたちも待ってるだろうから」


 本来の任務をこなしきれたわけではない。やり残した事も有る。だが今は生還できた――、それだけでも十分な成果だった。

 今、2人は共に手を携えながら飛び去っていく。

 これからも果てしなく続く任務と戦いの日々が2人を待っているのだ。


――――――――――――――――

 報告:

 特攻装警第6号機フィール

 破損状況重篤により任務続行不能と判断。

 よって、作戦空域より離脱を決断する。


 なお、作戦空域下の市街区における、情報犯罪者のネットワーク支配状況についての大規模データの取得に成功、これにより通称『東京アバディーン』と呼ばれるエリアにおける、情報犯罪者の活動拠点や支援体制を捜査可能となると判断する。

 よって、情報機動隊や捜査部、及び、組織犯罪対策部各方面による迅速な犯罪対策が可能となると考える。

 当該データは日本警察ネットワークデータベース上にアップロードするので適時参照されたし。早急な行動を求めるものである。


 報告者:特攻装警第6号機フィール

 協力者:特攻装警応用第1号機フローラ



次回、

特攻装警グラウザー第2章

サイドB第1話魔窟の洋上楼閣都市32

【 輝きの残渣 】


挿絵(By みてみん)

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