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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]  作者: 美風慶伍
第2章サイドB『魔窟の洋上楼閣都市』第4部『集結編』
106/147

サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part25『鏡像』

グラウザーが戦場にて出会う人とは――


第2章サイドB第1話Part25『鏡像』


スタートです

本作品『特攻装警グラウザー』の著作権は美風慶伍にあります。著作者本人以外による転載の全てを禁じます

這部作品“特攻装警グラウザー”的版權在『美風慶伍』。我們禁止除作者本人之外的所有重印

The copyright of this work "Tokkou Soukei Growser" is in Misaze Keigo. We prohibit all reprints other than the author himself / herself

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ママノーラ、本当に行かれるのですか?」


 ママノーラの従者の若者の一人が尋ねる。その問いにママノーラはきっぱりと答えた。

 

「くだらない事聞くんじゃないよ。身内の人間が一生に一度の大勝負に命を張ろうってんだ。それを見届けなくてどうすんだい。あんたらもロシアの男だったら覚悟決めな」


 黒塗りの防弾仕様のベンツを走らせながらママノーラは啖呵をきる。その言葉を二人の従者たちは受け入れた。


「да(ダー)」

「仰せに従います。ママノーラ」


 その二人の従者、イワンとウラジミールはもともとは犯罪被害の孤児であった。だが二人の両親を知っていたママノーラは、組織の幹部候補として引き取ると我が子のように手塩を欠けて育ててきた。ウラジスノフも二人に自らの持てる力を注ぎ込んできた。二人はママノーラとウラジスノフを実の親のように慕いながら育ってきた経緯がある。

 そのママノーラがウラジスノフの覚悟を見届ける。たとえ危険極まるベルトコーネが存在していたとしても、それを押してでも駆けつけることに意味があるのだ。

 運転席にはイワン、ウラジミールが助手席だ。イワンが覚悟を決めたように、傍らのウラジミールに声をかける。


「行くよ」


 その声にウラジミールもはっきりと頷いた。

 そして、その黒塗りのベンツは運命の地へと向けて走り出したのである。



 @     @     @



 ウラジスノフはビルの屋上から現状を見下ろしていた。ベルトコーネとグラウザーたちを分断する予定だったのが目算に狂いが生じていた。部下から通信音声が届く。


〔もうしわけありません。メイヨール。排除目標が破壊対象に接近してしまいました〕


 だがウラジスノフは部下を責めなかった。


〔かまわん、それだけ敵が職務に忠実な〝立派な男〟だったという事だ。仲間の命を優先するよりも、職務を全うする道を選ぶ――、見事じゃないか。気に入った。我々も敬意を表して全力でもてなそう。包囲網を固めろ。退路を塞いで行動不能に追い込む。その上で降伏勧告だ〕

〔да(ダー)〕


 命令を受け、グラウザーたちを包囲する輪が狭まり始める。そして銃口は負傷したセンチュリーのみならずグラウザーにも向けられ始めた。高出力の電磁ノイズを放つ特殊弾丸。その猛射が二人に対してあびせられたのである。

 単なる鉛の弾丸ではない特殊弾丸。極めて高い電磁波ノイズを放ち、かすっただけでも内部の電子装置にトラブルを引き起こさせる。其の身にプロテクターを装備していない現在のセンチュリーには十分に〝効く〟攻撃であった。その兄をかばうようにしてグラウザーはセンチュリーの体を崩壊したコンクリートブロックの影へと移動させて物陰に隠す。兄であるセンチュリーはグウラザーへとアドバイスする。


「どうやら軍隊崩れのステルス戦闘部隊のようだな。やたらと能力が高え」

「そのようですね。通常光学センサーでは足跡すら見つかりません。やっかいです」

「だがな、グラウザー」

「はい」

「最後まで諦めるな。敵の攻撃にも波がある。一瞬の隙きを突いて囲みの一番弱いところを壊すんだ!」

「わかりました。センチュリー兄さんは、ここで待っていてください!」

「あぁ、なんとかここでこらえてみる。だがお前は?」


 グラウザーはヘルメットの電子アイ越しに周囲を確認しながら答える。


「僕は――、敵の攻撃をひきつけつつ突破口を開こうと思います。今となってはベルトコーネの身柄の確保は支援でも無い限り僕ら二人では極めて困難ですから、脱出を最優先するしかありません」

「OK。それで行こう。俺も視力が回復次第、援護を開始する」


 今、センチュリーの体内では視覚系統の障害を復帰させるためのシークエンスが最優先で実行されていた。だが実行状況は芳しくはなかった。

 

【特攻装警身体機能統括管理システム     】

【            緊急プログラム作動】

【>視覚系統複合光学センサーアレイ     】

【  〝マルチプルファンクションアイ〟   】

【   主要サーキット高速リカバリーチェック】

【                     】

【 ≫エラー情報              】

【  ・通常光学カメラ受光アレイ焼損    】

【  ・残5種カメラによる機能代行実行   】

【                ⇒障害発生】

【  ・マイクロカメラユニット切替え機構  】

【     制御信号系統、情報伝達不具合発生】

【  ・同バイパス系統切り替えプロセス開始 】

【                     】

【〔切り替えプロセス実行完了まで推定65秒〕】


 センチュリーの眼は単一の高機能カメラではなく、6種の機能特化した小型カメラを束ねたもので、必要に応じて切り替えて使う仕様となっている。そのため各種小型カメラを切り替える機構プロセスが必要となるのだが、それに障害が生じているのだ。制御信号情報の予備伝達経路を内部形成しながら、まだ正常な残る5種のカメラで機能代行出来るようになるまで約1分、それまではなんとしても持ちこたえなければならない。

 センチュリーは己の両目の不出来さを内心、疎まずにはいられない。ディアリオ以降の機体なら切替え機構自体が存在せず単一の光学カメラで多様なセンサー機能を実行可能な状態にまで機能改良がされて特に耐久性が飛躍的に向上している。

 だが、切り替え機構のあるセンチュリーではこうはいかない。切り替えのタイムラグが有り、なおかつ構造が複雑な分、障害発生の可能性がどうしても高くなるのだ。彼は、おのれの体の設計思想がいかに古臭いかを噛み締めずにはいられなかった。

 センチュリーは気配と音で、グラウザーが彼の元から離れて、包囲網を形成している謎の攻撃者の元へと向かっている事を感じていた。そして一人静かに口にする。

 

「すまねぇ、ポンコツな兄貴で――」


 その言葉を口にした時、センチュリーの記憶に蘇るのは兄たるアトラスのことだ。アトラスが普段からおのれのハンディキャップを埋めるために積み重ねてきた数多の努力。そしてそこに至るさいに味わい続けてきた屈辱の数々。それらを物ともせず乗り越え続けてきた兄アトラスの偉大さを噛み締めずには居られなかったのである。

 

「兄貴――」


 そうつぶやきながらセンチュリーは行動を開始する。手にしていたデルタエリートを口に咥えて弾倉を抜き取りチャンバー内の残弾も排除する。そして腰の後ろのヒップバッグに忍ばせていた〝とっておきの弾〟を詰めた弾倉を取り出した。それをデルタエリートに詰めて、スライドを引く。

 そして周囲の気配を探るとベルトコーネの機体へと近づいていく。 

 

「目が見えなくてもできる事はある」


 センチュリーは決めたのだ。ベルトコーネの機体を死守すると。それこそが今夜の彼らの最終勝利条件だったからだ。すごすごと逃げ帰ることだけはおのれのプライドにかけ絶対に認められなかった。

 だがセンチュリーはまだ背後へとひたひたと迫りくる破局的危機に気づいては居なかったのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 上空では新谷所長たちを乗せた第2科警研のティルトローターヘリが、困難な現場接近を試みていた。機体をヘリモード状態のままグラウザーたちが残留していると思われるエリアへと寄せていく。そして機体の各部から第2科警研の研究員や、涙路署の捜査員たちが、必死の思いでグラウザーとセンチュリーの姿を探しつづけていた。

 沖合からの監視映像で大体の位置は把握できている。銃撃戦の異音も確認している。だがその詳細な位置と上空待機可能なポイントはまだ確認できていなかった。

 

「どこだ?! どこで戦っているんだあいつらは!」


 苛立ちを口にしつつ周囲を眺める新谷だったが、夜間ということも有り判別は困難を極めた。だがそれでもこれだけの人員がそろっていると効率は飛躍的に高くなる。肉眼と双眼鏡、暗視装置付きのスコープを併用しながら彼らは探索する。

 

「居たぞ!」


 そう叫んだのは涙路署の捜査員の一人だ。目が非常に良いと定評があり、かつては街頭で行き交う全ての通行人を眺めて指名手配犯を探す『総当り』と言う捜査手法を行った事もある人物であった。

 

「どこだ?!」

「あそこです! ベルトコーネと思わしき機体の所に2人で固まっています。っとセンチュリーがベルトコーネを確保して、グラウザーが何かしようとしていますね」


 その言葉を耳にしながら新谷は折りたたみ式の小型双眼鏡でグラウザーたちの居る方を視認する。望遠カメラと立体視液晶モニターを組み合わせたもので、望遠から軽度の暗視機能を備えている。ただポケットサイズであるため視野角が狭い欠点がある。

 だがそれも具体的な場所が確認できたことで目標を捉えやすくなっていた。指摘された場所へと電子双眼鏡を向ければグラウザーたちの姿がはっきりと写っていた。そして、その電子双眼鏡の映像はティルトローターヘリのパイロットシートのサブモニターへも無線接続で流されている。

 

「室山さん! この映像でグラウザーたちの所へと近づけますか?!」


 新谷の問いに室山が返す。

 

「やってみます! 皆さん、しっかり捕まってください」


 そう告げると同時にヘリの機体をグラウザーたちの居る場所の上空へと向けようとする。機体がゆっくりと夜空をスライドする中、室山は長年に渡って培ってきた操縦スキルを駆使して夜間の洋上での繊細な機体操作を行う。無論、室山もこのエリアが非常に危険で安全の担保できないエリアだと言う事は十分に承知している。何が起きるかもわからないということも――

 だれもがその脳裏に漠然とした不安と焦りを抱いている中、その眼下にあるのは――

 未来の希望と、

 絶大なる恐怖と、

 正体の見えぬ不安要素。

 そして、その玉石混交の猥雑な状況に対して許された時間は殆どないのだ。

 新谷が機内の者たちに指示する。

 

「回収用のウィンチとロープを!」

「はい」


 第2科警研の者が機内装備を操作して、空中収容用のロープと準備する。これをグラウザーたちの上空から下ろして一気に回収するためだ。その間にもヘリは目的ポイントへと接近を続ける。

 あと50m、あと30m――

 着々と目的ポイントへと迫る中、それは発生する。

 

――キュドォォンッ――


 空間を裂く金切り音と同時に響く重低音の破裂音。そして周囲の大気を赤熱しつつ飛翔するのは硬化タングステン製のフレシェット弾体。口径は14.5mmでかつて対戦車ライフルの弾丸として用いられたものだ。それが第2科警研のティルトローターヘリの機体をかすめて飛び去っていく。それがもたらす音と光は機内の人間たちを驚かせるのには必要十分である。

 疑問の声を上げる新谷に室山が答える。


「なんだ?!」

「地上からの狙撃です! どこから飛んできたのか全く見えない!」

「ステルス化した狙撃手か」

「それも対戦車ライフル使ってますよ。ただの猟銃のライフル弾じゃない!」


 無論、これ以上の接近は極めて困難だ。

 

「一旦下がります! ローターをやられたら撃墜される!」

「くそっ! あと少し! あと少しだと言うのに!」


 時間は刻々と過ぎていく。そして痛恨の現場上空からの退避を余儀なくされるなか、新谷からは焦りを象徴する言葉が溢れたのである。



 @     @     @

 

 

〔メイヨール、近接するヘリへの威嚇成功しました〕


 其の声の主が構えていたのは第2次世界大戦でも使われたことのある単発式の対戦車ライフルで、デグチャレフPTRD1941と呼ばれるものだ。現役を退いてから半世紀以上が経つ骨董品だが、構造がシンプルであるがゆえにメンテナンスとオーバーホールを行えば今なお使用することが可能であった。

 狙撃手は全長2m近くあるそれを両手で軽々と支えて頭上へと砲口を向けている。そして立体映像を駆使してその身を人目から隠していた。その狙撃手にウラジスノフは伝える。


〔よし、また次に接近してきたら当てて構わん。誰であろうと近づけさせるな〕

〔да(ダー)〕


 地上ではウラジスノフが見上げていた。その視線の先には一旦距離を取る第2科警研のティルトローターヘリの姿がある。それを見つめながらウラジスノフはつぶやいた。

 

「アレは誰にも渡さん。ミハイルと祖国の同士たちの仇を打つのは俺達だ」


 その言葉を残してウラジスノフはビルの上空から飛び降りる。その彼の義肢の手首には単分子ワイヤーを射出する機構が組み込まれている。ビルの壁面へと単分子ワイヤーの一端を引っ掛けると、それを頼りに落下速度に減速をかけ何事もなかったかのようにウラジスノフの体を安全に地上へと降り立たせたのだ。

 今、ウラジスノフの前には道があった。

 決してに他人には見えることの無い果てしなく長い長い道程であった。

 あの寒風と風雪吹きさぶ中で真実を追い求めてからどれだけの距離を踏破したであろう。ともすれば挫折帽に沈みそうに成る自分を奮い立たせるのはたったひとつの思いだった。

 

――ミハイルの仇はこの俺の手で――


 それだけが、それこそがウラジスノフがマフィアと言う存在に手を染めてでも貫きたい唯一の望みだったのだ。


 そしてウラジスノフは歩みを進めた。それまでステルス装備のホログラフ迷彩のとばりにその身を隠していたウラジスノフだったが、そこで初めて姿を表した。姿を見せるレベルは朧げなまぼろし程度で素顔までは見せていない。だが自らの意志を伝えるには必要十分であった。

 今、ウラジスノフの前には一体のアンドロイドが立っている。ブルーメタリックと白磁のアーマーに身を包んだ彼こそは日本警察が誇る特攻装警の第7号機グラウザーだ。その姿はつま先から頭部に至るまで完璧に装甲体で守られている。当然、その素顔はウラジスノフには見える事は無かったのだ。

 グラウザーは周囲を警戒しつつ、突破口を開こうと敵索を開始していたが、その最中に突如として姿を表した亡霊のような人影に一瞬たじろいでいる。アトラスやエリオットならともかく、グラウザーはまだホログラム迷彩によるステルス戦闘を展開する相手との戦闘行為はまだまだ経験が浅い。ましてや半透明な状態で本体を隠しながら姿を表す敵など遭遇すること自体が珍しい。闇夜の亡霊にでも出くわしたが様に戸惑い恐れを抱いているのがよくわかった。


「誰だ?」


 グラウザーから努めて落ち着いた声がかけられる。その声はアーマーシステムのスピーカー機構を経由しての音声であるがゆえに若干の電子的な濁りがあった。ウラジスノフはそれを意に介さずに淡々と尋ね返す。


「日本警察だな」

「そうだ。日本警察警視庁所属、特攻装警だ。一体何者だ」

「答える必要はない。我々から言えることはたった一つ。ここから黙って立ち去れ。あの壊れかけの兄弟を担いでな。こちらの要求に従うなら、20秒だけ、あのお迎えのヘリの上空待機を認めてやる」


 ウラジスノフは日本語で語りかけていたが、そこには独特のイントネーションが垣間見えていた。グラウザーはウラジスノフからの要求を聞きながらじっと思案していた。そして言葉の裏に隠してある意図を察しながら静かに問い返した。


「それはつまり、ベルトコーネを諦めろと言う事か?」

「そうだ」


 タイムラグの無い素早い回答。それは一切の交渉の余地が無いことを示していた。グラウザーの背後にはベルトコーネを死守しようとしているセンチュリーが居る。兄たる彼が謎の包囲者から要求を素直に聞くとは到底考えられなかった。

 だがグラウザーは再度尋ねた。謎の包囲者の言葉に、隠されたもう一つの意図と事実がありそうだと直感したからである。


「もし〝引き渡し〟を拒否したら?」

「ベルトコーネもろとも破壊する」

「破壊? あんなふうになってしまっているのにか?」


 軽く背後を振り返り視線を一瞬、ベルトコーネの機体の方へと向ける。その仕草と問いかけにはベルトコーネにはこれ以上の破壊も処分も必要ないとの考えが見え隠れしていた。身体拘束して行動不能にして関連施設に運搬してそれで終了。そう言った安易な判断が透けて見えていた。ウラジスノフはグラウザーたちの認識と判断の甘さを察すると苛立ちを隠さずに吐き捨てるように告げた。

 

「貴様ら。そんな甘い認識で〝ヤツに仕込まれた悪意〟とやりあえると本気で思っているのか?」


 怒気を孕んだ荒い言葉は明らかにグラウザーたちの存在を拒絶する意図が隠されていた。その言葉と同時に、それまでホログラム迷彩にて隠されていた20近い銃口がかすかに姿を現す。夜の帳の中でも町明かりの残渣を反射させて、その存在をグラウザーたちに対して攻撃の意図を誇示している。

 

「お前たちは現実を知らん。奴がどれほどの悪意に満ちていて、どれほどの悲劇と惨劇を世界に撒き散らしてきたかを。単に身柄を抑えて官憲どもと学者連中とで分解解析すれば終わりだと考えているならとんだお笑い草だ! いいかハポンスキのポリスロボット――、一度しか言わんぞ」


 そしてウラジスノフの右手が動いて合図がなされ、もう一機隠匿されていたデグチャレフPTRDが姿を現す。地面すれすれに伏射で準備されており闇のシェードが一陣の風で吹き飛ばされたかのように、不意にその姿を現してきた。口径は15.4ミリ。弾種によっては近代戦車の側面装甲すら撃ち抜くほどの威力を秘めており、その後の対戦車ライフルの開発の歴史に重要な足跡を残した可搬型砲撃兵器である。

 その銃砲口の輝きを誇示するかのように、自らの立ち位置をわずかばかりに動かすとグラウザーたちへと強く言い放った。

 

「ディンキー・アンカーソンと言う男がこの世に残した悪意は何よりも深く闇に満ちている! 表社会の貴様らが法のルールの上で遊び感覚で太刀打ちできるほど甘くはないんだ!」


 そしてデグチャレフPTRDの銃口が上下にかすかに揺れていたのは照準が合わせられているためだ。その銃口はグラウザーの脇をかすめて背後のセンチュリーを狙っているのは明らかだ。

 グラウザーは思案する。今、彼のもとに残された状況と言うカードは最悪極まるものだった。

 未知なる敵、

 負傷して行動不能寸前の兄弟機、

 支援を絶たれたスラム街の真っ只中、

 奪われようとしているベルトコーネの機体、

 そして、対戦車ライフルと言う新たなる脅威。

 そこから放たれるであろう大口径弾丸は確実に彼の兄たるセンチュリーの体を砕くだろう。その兄を救う手立てはやはりココからの逃亡しかないのだろうか? だがそうすればベルトコーネの確保と言う目的のために今日に至るまでに積み上げてきた努力と犠牲はどうなるのだろう? ダメでしたでは済まされないのだ。

 どうすればいい? どう立ち回ればいい?

 必死に思考を巡らせるグラウザー――、

 あえて言うのならば、彼はまだ若い。経験は明らかに浅い。だが彼とて特攻装警である。この悪化の一途をたどる日本の治安と平和を取り戻すために警察と技術者の力を集めて産み出された叡智と努力の結晶である。その指先から頭脳の内部に至るまで、最初のアトラスから、フィールに至るまでの実績と経験が積み重ねられてきたのだ。

 

――ハポンスキ? どう言う意味だ?――


 その積み上げられた物は伊達ではなかった。グラウザーは僅かな間の思索の末に謎の人物が発した言葉の2つの特徴に気づいていた。そしてそれをキーにしてさらに過去の記憶を掘り起こす。その記憶はあの有明1000mビルでの襲撃事件に関する記憶を手繰っていた。


――たしかあの時、ディアリオ兄さんは――


 特攻装警には人間には無い、とある特殊な機能があった。

 

【――特攻装警は自らの視聴覚データを、特攻装警自身が必要と認めた場合に限り、警察のネットワークデータベースにアップロードできる――】


 有明事件解決後に受けた特別研修、そして、その中でアトラスからフィールに至るまで、全ての特攻装警の視聴覚データのバックアップにアクセス、事件にまつわる事実と情報を多面的に学習する機会を得ていた。

 そしてベルトコーネの暴走の後にディアリオがネット経由でアトラスたちに告げたある言葉を思い出す。そしてそれはこの場で得られたわずかばかりのデータとリンクして、起死回生の切り札をグラウザーの思考に与えたのである。

 

「なるほど、そういうことですか」

「なに?」

 

 グラウザーのつぶやきにウラジスノフが問い返すが、それにはすぐには答えぬままにグラウザーは自らが装着した2次アーマー体のヘルメットユニットを操作した。

 

【2次アーマーシステム装着着脱系統アクセス 】

【                     】

【>ヘルメットユニット頸部 ⇒連結部分開放 】

【>頭部拘束系 ⇒ 内部頭蓋アンロック   】

【>ヘルメットユニット ⇒ 総体伸張    】

【>メイン中枢システムネット連携      】

【   ⇒ ヘルメットユニットとの連結解除 】

【                     】

【 ≫ヘルメットユニット脱着〝OK〟    】


 グラウザーの頭部に装着されたアーマーヘルメットが、軽い電子音をたてて前後左右にスライド拡張する。そして頸部での胴体との接続を解除すると脱着可能となる。今、この状況で武装の一部を解除する事は決して得策ではない。むしろ自分の身を危険に晒すだろう。だがグラウザーはあえてそうした。それがこれから彼が成そうとしている事にはどうしても必要だったからだ。

 必要なのは対立ではない。

 必要なのは武力ではない。

 必要なのは理解だ。

 必要なのは協力だ。

 そして、ともに事態を解決へと導く事だった。

 グラウザーは警察だ。

 グラウザーは兵士ではない。

 グラウザーの使命は、治安の回復である。

 グラウザーの使命は、敵対者の排除ではないのだから。

 

 今、グラウザーが発しようとしていた声は、まだヘルメットが被さっているために電子的に濁った音声となっている。

 

「あなたたちがこの土地にて武器を手にしている理由がわかりました」


 だがヘルメットをその両手で外していく。当然、ヘルメットユニットは動力が切れて音声のアプリファーフィルターはオフとなる。その後に聞こえてきたのはグラウザーの若々しい張りのある青年としての声である。

 その凛として澄み渡った声でグラウザーはウラジスノフへと告げる。

 

「ボクとあなた達は、この局面を打開するために協力しあえると思います」


 そして運命は新たに歯車を回し始める。偶然の神秘、運命のいたずら。それは様々な名で呼ばれている現象だった。だがウラジスノフには悪夢と写ったに違いない。ヘルメットユニットを外したグラウザーの素顔がそこに露わになった時、ウラジスノフはすべての言葉を奪われることとなるのだ。

 

「――!」

 

 この世界に生まれ落ちてからの日々でグラウザーは様々な価値観を得ていた。

 彼には大好きなものがあった。それは人々が笑顔に満ち溢れて互いを信頼し合う事だ。

 彼には耐えられないものがあった。分かり合えるはずの者たちが無知と無理解が故に対立しあい争い合う事だ。今こそグラウザーは叫ぶ。ありったけの思いを込めて。

 

「僕の言葉に答えてください、ロシアの軍人のみなさん!」


 グラウザーは見抜いていた。包囲者たちの正体を。驚くウラジスノフたちの答えを待たずにさらに声をかける。


「あなたたちはかたきを討ちたいのではないのですか? ベルトコーネとマリオネット・ディンキーに対して」


 グラウザーは気づいていた。世界に平和を取り戻すために必要なのは武器ではないということを。必要なのは理解し合うことなのだ。そしてこれもまた彼にしかできない戦いなのだ。グラウザーは必死の思いを込めて、今まさに戦っていたのである。

 

「おそらく僕たちには重要なデータが欠けているのだと思います。それはロシア国内で発生した3件のベルトコーネ暴走の案件に絡むものです。かつて僕の兄であるディアリオがベルトコーネがロシア国内で諜報機関が極秘扱いとするほどの被害を生み出して居ることを突き止めています。だがその内容までは僕達ではつかめていません。一般社会に流布している情報の範囲内で、このベルトコーネを討伐し、その身柄を確保しようとしていました。それですべてが終わると言う前提のもとに僕たちは行動していた。ですが――」


 グラウザーは脱いだヘルメットユニットを右の小脇に抱えると、未だ全ての全身像を見せないウラジスノフへと歩み寄る。無言のまま何も対応を起こさないという事実は、グラウザーの方が優位になりつつあることの証拠でもあった。

 

「あなた達には僕達にない重要情報が握られている。表社会には絶対に出てこない闇の情報だ。そしてそれこそがあなた達のそれぞれの過去に繋がる物であり、あなた達はそのそれぞれの過去に報いるためにはるばる海を超えてこの国へと渡ってきた――」


 グラウザーは周囲を見回す。グラウザーたちへと向けられた20の銃口を一つ一つ諌めるかのように――、その視線に促されるかのように20の銃口は一つ一つ逸らされていく。1分もたたぬうちについにはグラウザーへと銃口を向ける者は一人も残っては居なかったのである。


「そう、すべては――、ベルトコーネの暴走の犠牲となり命を失った、同胞や仲間たちの仇を討つために!」


 その言葉は核心であった。それを言い放ったのがグラウザーであるという事実にウラジスノフは驚愕と動揺を抱かずには居られないのだ。いささか冷静さを欠いたような口調でウラジスノフは問い返した。


「――なぜだ? なぜ判った?」

「あなた達の正体についてですか?」


 その問いかけに、ウラジスノフははっきりと頷いた。グラウザーは慎重に言葉を選びながら答える。


「時間が無いであろうということは解っています。でも、できればその前に姿を見せてくださいませんか?」


 グラウザーのその言葉をウラジスノフは拒否できなかった。なぜなら――


「まさか、こんな事が起きようとはな」


 ウラジスノフはグラウザーに対してステルスを解除する。向かい合ったグラウザーに対してのみ姿を表し、別角度からは見えないようにしている。そして、他の隊員たちもウラジスノフの行動にならっている。半透明に近い状態で姿を表しグラウザーたちに対して対話の意志を表していたのだ。

 ともすれば震えそうになる声をこらえながら、ウラジスノフは努めて冷静さを心がけながら自らを表す。


「はじめてお目にかかる。ゼムリ・ブラトヤ戦闘部隊司令官役のウラジスノフだ」


 グラウザーの前に姿を表したのは齢70近くになろうという老軍人だった。それは決して平穏とは言えない苦難に満ちた人生を歩んできたであろうと言うことを感じさせずには居られない風貌であった。

 片方の目は人工カメラアイ、頬にはナイフの傷跡。そしてその風貌に深く刻まれた皺は、彼が積み重ねてきた日々の過酷さを物語っていた。グラウザーは直感していた。


――この人は悪人ではない――


 根っからの悪党であったり、犯罪行為を喜々として行う人間というのは独特な粗野な所が見受けられるものだ。だが、グラウザーはウラジスノフのその丁寧な受け答えに、彼の人間性の本質を垣間見たような気がするのだ。


「日本警察アンドロイド警察官・特攻装警、第7号機のグラウザーです。呼びかけに答えていただきありがとうございます」


 そしてそこには静かに微笑んでウラジスノフと対峙するグラウザーが居た。

 今まさにウラジスノフは〝息子の面影の鏡像〟と向かい合っていたのである。



 @     @     @

 

 

「なんて酷い電脳ノイズ――」


 そうつぶやきの声を漏らすのは特攻装警の第6号機、紅一点のフィールだ。

 そこは東京アバディーンの上空1500m、新谷たちの乗ったティルトローターヘリや、盤古の情報戦特化小隊の乗る二重反転ローターヘリの飛ぶ辺りからさらに上空に位置するエリアだ。

 本当ならもっと低空を飛びたかったのだが、1000mより低空に下がると頻繁に違法ハッキングのアクセスを食らうことになる。撃退することもシャットアウトすることも不可能ではないが、そうなると任務に専念するのが困難になる。光学系の視覚能力での性能ギリギリになるがこの高度から地上を視認していた。

 

「法的な基準を守らない違法アクセスだらけね。特に市街地のメインストリートよりも北側のエリアが酷い」


 そしてフィールは、今、あの剣呑なる市街地にアトラス以下、全ての特攻装警たちが身を投じているという事実に不安を抱かずには居られなかった。

 

「本当に大丈夫なのかしら?」


 だが不安を抱いてもどうにもならなかった。今夜の自分は〝眼〟に徹すると言う事を大石とも約束していた。その彼女の眼下には闇の中に光の粒を散りばめたような市街地がある。そこで何が起きているのかを見つめ、そしてそれを警視庁へと伝えるのが役目だ。ならばその役目へと専念するべきだろう。

 

「よし――」


 意を決して行動を起こす。


【 日本警察ネットワーク          】

【          データベースシステム 】

【                     】

【    ――アクセスエントリー――    】

【                     】

【 >所属:警視庁捜査部、捜査一課     】

【 >階級:特攻装警第6号機        】

【 >ID:APO-XJX-F001    】

【 >氏名:フィール            】

【 >電子キーファイル確認、アクセス承認  】

【 >以後音声命令によるデータベース操作開始】


 かつて、横浜の湾岸高速にてセンチュリーが行ったように、フィールは自らの体内システム回線を、日本警察の広域データベースネットワークへと繋いだ。

 

「フィールより宣言、これより視聴覚データを日本警察ネットワークへとアップロード開始」


 そう音声コマンドを宣言して自らの見ている映像をネットワーク上へと流し始める。そしてその眼に見えるものを可能な限り写していく。その時、フィールは視界の片隅に不審な物を写していた。


「あれは?」


 そっと呟くと記憶を手繰る。その漆黒の二重反転ローターヘリは、とある危険人物たちの巣窟が独占的に用いている物で公式には存在しないヘリであった。無論、できるなら深くは関わりたくない連中であった。

 

「情報戦特化小隊――、あの連中まで来ているの?!」


 武装警官部隊・盤古の大勢力の中にありながら、中心指揮系統から切り離されて独立した行動を黙認された愚連隊集団。その構成員全員がサイボーグであり、医療用サイボーグと言う名目の元に堂々たる違法改造処置を施されている武闘派集団だ。そしてその彼らの背後にいる者たちが誰であるのかフィールはその経験から知っていた。

 

「まさか、今夜の件に公安部が噛んでるなんて――」


 刑事警察と公安警察、その行動論理が根底から異なるために絶対に混じり合わない水と油だった。フィールは今後のことを考慮し、自らがバイパス処理してネットワークへと流している映像情報に手を加えた。

 

【リアルタイム映像処理プロセス開始     】

【>処理プロセス形式:特定シグネチャー消去 】

【>シグネチャー形式指定:         】

【        二重反転ローターヘリ一機 】

【>シグネチャー特定成功:1次映像より消去 】


「消去成功」


 もし連中が、フィールが現在、警視庁へと中継している映像の中に自らの姿が写っていると知ったなら。どんな行動に打って出てくるのか? それを想像するだにそら恐ろしいものがある。彼らは尋常ではない。敵だと彼らが認識したのなら、たとえ同じ警察の人間だったとしても、一切の手心は彼らには存在しないのだ。

 

「優先順位は間違えないようにしないと」


 フィールは取り乱さずに冷静なままで対処を進めた。今、彼らの行動を制止することはフィール一人では絶対に無理だ。むしろ、迂闊に近づけば無事ではすまないのだ。極めて剣呑な存在である彼らに気づかれないように距離を取りつつ、フィールが市街地の様子を探ろうとしている。その彼女に緊急の割り込みをかけてくる人物が居た。その者の名をフィールはディアリオを通じて知っていた。

 

【 特攻装警インターナル          】

【  コミュニケーションプロトコルシステム 】

【 Auther:公安4課課長大戸島基   】

【 >回線接続               】


〔フィール、突然すまない。緊急事態だ〕

〔大戸島さん? どうしたんですか?〕

〔ディアリオとの連絡ラインが切れた。東京アバディーン付近にて完全にロストした。ネット経由でやつと連絡する事ができなくなっている。今、君が東京アバディーン上空に行っていると大石から聞いた。そちらで何か見えているか? ――いや答えなくていい。むしろ〝答えられない〟んだな?〕


 大戸島は直感していた。盤古・情報戦特化小隊がフィールが飛んでいる空域の近傍に存在していると言うことに。この会話が傍受されている可能性もゼロではない。そのリスクを知りながらも大戸島はフィールに伝えねばならないことがあるのだ。

 大戸島の問い掛けにもフィールは無言のままだった。その無言が意味するものを大戸島は察した。そしてもっとも重要な言葉をフィールへと伝える。

 

〔そのまま聞け。現在、ベルトコーネとの緊急戦闘を特攻装警の3号と7号が行っているが戦闘行動を打ち切り大至急2人を回収する必要が出てきた。このままではベルトコーネが最悪の状況を引き起こす可能性があるんだ〕


 それはフィールにとっても想像外の情報だった。


〔やつは本来の頭脳とは別に、一切の感情を持たない〝第2の頭脳〟を保有していることがわかったんだ。その第2の頭脳が自分以外の全ての存在を敵と認識して、自らの持つ慣性質量制御能力をフルに駆使しながら、エネルギーの続く限り破壊と殺戮を継続する。君の空域下の埋め立て地市街区程度なら瞬く間に灰燼とする事ができるはずだ。これは、通常の暴走行動とは区別して『破局的暴走』と呼ばれる物だ〕


――破局的暴走――

 

 その言葉がもたらす悲劇的なイメージに、フィールの脳裏に恐怖という言葉が不意に沸き起こった。


〔それが君の眼下の市街区で、今すぐにでも引き起こされる可能性があるのだ。この事をそちらの市街区に潜入している特攻装警たちにも伝えねばならないのだが、そちらの市街区では、情報機動隊のエキスパートですらも突破不能なほどの防壁ラインが張り巡らされており、先程から対策を講じているが、ネット的にはすぐには太刀打ちできない状況が続いている〕


 当然だ。このスラム街区には凄腕の電脳犯罪者が多数ひしめきあっている。ソレが故に安易な接近すらもためらわれるほどの電脳トラップがいたるところに仕掛けられているのだ。街その物が巨大なファイヤーウォールと化していると言っていいだろう。普段から東京上空を飛び回り、街の様相を見つめ続けてきたフィールだからこそ心から理解できる現実だった。

 そのフィールに大戸島が改めて告げた。


〔そこでだ、その市街区の近くにいる君であるならグラウザーたちに直接にメッセージを伝えることが出来るはずだ。君自身を危険に晒すことになるが、洋上市街区の外部からの望遠カメラ映像で、センチュリーもグラウザーも困難な状況にある事が判明している。なんとしても彼らに危険を知らせて脱出を促してくれ、そして君自身も早期にそこから脱出するんだ! それとは引き換えに東京アバディーンは極めて危険な状況にされされることになる。だが――〕


 いつもなら極めて冷静で淡々としている筈の大戸島がいつになく語気を荒げている。そして今迫っている危機の最大の理由を大戸島は告げたのだ。

 

〔現状では破局的暴走を開始したベルトコーネを停止させる手段は存在しない事が判明している!〕

〔――!〕

〔それ以上、その市街区とベルトコーネに関わるのはリスクが大きすぎる! 連絡の途絶えたディアリオたちの身も心配だが、彼らを探索する余力は存在しない。君たち3人だけでも帰還を喫してくれ! 頼んだぞ!〕


 大戸島は必要な情報を伝え終えると一方的に通信を切った。フィールからの返答が双方にとって危険を招く事になるからだ。

 今、フィールは重大な選択を迫られていた。

 大石の命に従い、沈黙し続け〝眼〟の役割をこなし続けるか――

 大戸島の忠告に従い、グラウザーとセンチュリーだけでも救助への緒を掴むか――

 その二者択一をフィールはすぐに決めねばならないのだ。

 大戸島の伝えてきた事が事実であるとするなら、あの有明1000mビルでベルトコーネから味わった狂気じみた戦闘能力なんぞ問題にならないカタストロフィが間近に迫っている事になるのだ。

 だが、フィールも警察官である。そして彼女も立派な〝特攻装警〟であるのだ。

 

「よしっ」


 彼女は覚悟を決めた。そして心の片隅で師たる大石へと無言で詫びる。

 今、地上のグラウザーたちへと通信を確保すれば、今この空間に彼女が待機している事を地上の電脳犯罪者たちに気づかれてしまうだろう。だが、たとえそうだったとしてもやらねばならない事が確かに存在するのだ。

 フィールは高度を下げた。その高さ一気に300m。地上側の存在であるグラウザーへと向けて、音声通信ラインを確実に確保するためだ。


【 特攻装警インターナル          】

【  コミュニケーションプロトコルシステム 】

【 Destination:        】

【       特攻装警第7号機グラウザー 】

【 >回線接続準備、接続プロトコル実行   】

【 >接続完了               】


 接続は完了した。あとは呼びかけるだけだ。

 その声を発した段階で、目に見えない敵に自らの位置を教えることになる。だがそれでもどうしても伝えねばならないのだ。

 

〔グラウザー! 聞こえる!〕


 呼びかけに対してグラウザーからの返答をフィールはじっと待った。正確に情報を伝えられたか否かをグラウザー自身の口から確かめる必要が有るためだ。そして、グラウザーからの声が帰ってくるまでの間、たった十数秒が何時間にも成るかのような緊張の中でフィールはじっと待っていたのである。

 そして次なる戦いのステージはすでに開始されていたのである。


次回、

第2章サイドB第1話Part26


挿絵(By みてみん)

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