6
「俊。私、妊娠した」
会社から帰ってきた俺を最高の笑顔で迎えた咲は、お腹に手を当てながらそう言った。
「本当か!?」
「うん」
はにかんだような笑顔。俺は嬉しくて、咲を抱きしめた。
「ねーねー。あなたが私を使うかどうか決めるまで、私、ここに住んでもいい?」
アリスが部屋を見渡しながら、俺に向かって言った。
「…別にいいけど」
「やった!」
一人で住むには、この家は広すぎる。誰かがいたほうがきっと、気も紛れるだろう。
俺が承諾するとアリスは嬉しそうに、ソファーの上に寝転がった。
「私、ここで寝る」
「幽霊でも寝るのか?」
俺が苦笑しながら尋ねると、アリスは上半身だけむくりと起こした。
「寝るよー!あ、襲わないでね」
「誰が…ていうか、お前幾つだよ」
俺がそう言うと、アリスは指を折って何かを数え始めた。それから
「えっとー、幽霊になってる時間も入れると、25歳くらい?」
首をかしげながら、指を折りながら、言う。どうも計算は苦手らしい。
アリスがソファーの上にあるクッションで遊んでいる間、俺は色々と考えた。
仕返し屋。そして、消去屋。頼むならどちらにすればいい。もしも、もしも仕返し屋に頼むなら…。
「ねえ、なんで人を怨むようになったの」
ソファに仰向けに寝転がって天井を見ながら、アリスが言ってきた。
「…まだ仕事を頼んだ覚えはないぞ」
「分かってる。訊いたのは、単なる好奇心だよ。答えてくれなくてもいい」
「…。」
沈黙が続くと、時計の秒針の動く音がやたらと大きく聞こえる。俺はため息をついた。
「俺の奥さんには、子供がいた。妊娠してたんだ」
そう言うと、アリスが勢いよく上半身を起こした。
「それで?」
「…咲は…医者から、妊娠できないとずっと言われていたんだ。だから子供ができた時、俺も咲も喜んだ。だけど…」
「…なにかあった」
「夕方、スーパーの帰り道で咲は強姦された。そのショックで流産した。そして、二度と子供の産めない体になった」
俺の声は自分でも驚くほど、酷く冷たかった。