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「俊。私、妊娠した」

 会社から帰ってきた俺を最高の笑顔で迎えた咲は、お腹に手を当てながらそう言った。

「本当か!?」

「うん」

 はにかんだような笑顔。俺は嬉しくて、咲を抱きしめた。




「ねーねー。あなたが私を使うかどうか決めるまで、私、ここに住んでもいい?」

 アリスが部屋を見渡しながら、俺に向かって言った。

「…別にいいけど」

「やった!」

 一人で住むには、この家は広すぎる。誰かがいたほうがきっと、気も紛れるだろう。

 俺が承諾するとアリスは嬉しそうに、ソファーの上に寝転がった。

「私、ここで寝る」

「幽霊でも寝るのか?」

 俺が苦笑しながら尋ねると、アリスは上半身だけむくりと起こした。

「寝るよー!あ、襲わないでね」

「誰が…ていうか、お前幾つだよ」

 俺がそう言うと、アリスは指を折って何かを数え始めた。それから

「えっとー、幽霊になってる時間も入れると、25歳くらい?」

 首をかしげながら、指を折りながら、言う。どうも計算は苦手らしい。



 アリスがソファーの上にあるクッションで遊んでいる間、俺は色々と考えた。


 仕返し屋。そして、消去屋。頼むならどちらにすればいい。もしも、もしも仕返し屋に頼むなら…。


「ねえ、なんで人を怨むようになったの」

 ソファに仰向けに寝転がって天井を見ながら、アリスが言ってきた。

「…まだ仕事を頼んだ覚えはないぞ」

「分かってる。訊いたのは、単なる好奇心だよ。答えてくれなくてもいい」

「…。」

 沈黙が続くと、時計の秒針の動く音がやたらと大きく聞こえる。俺はため息をついた。

「俺の奥さんには、子供がいた。妊娠してたんだ」

 そう言うと、アリスが勢いよく上半身を起こした。

「それで?」

「…咲は…医者から、妊娠できないとずっと言われていたんだ。だから子供ができた時、俺も咲も喜んだ。だけど…」

「…なにかあった」


「夕方、スーパーの帰り道で咲は強姦された。そのショックで流産した。そして、二度と子供の産めない体になった」


 俺の声は自分でも驚くほど、酷く冷たかった。




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