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その子と初めて会ったのは、咲の見舞いに行った帰りだった。
「ん?」
かなり目立つ格好をした女の子が、人通りの多い道端に座り込んでいた。
小学校低学年くらいに見えるその女の子は、一言で言うなら「かわいらしい女の子」だった。少しだけ釣りあがった、けれども大きな瞳は、まるで子猫のようだと思った。肩にかかっている黒い髪はストレートで、…これだけならどこにでもいる女の子だ。問題は、その子の恰好だった。
その子は、黒いドレス姿だったのだ。全体的に黒いと思ったが、よく見るとスカートのフリルは白い。足元には、黒いエナメルの靴。「不思議の国のアリス」をモノクロにしたようなその姿。えーっと、なんていうんだっけこういうファッション。…ゴスロリ、だったかな。
俺からすればかなり浮いて見えるその子だが、周囲の人々はその子に構わず通り過ぎていく。チラ見する人すらいない。目を丸くしているのは俺くらいだ。
…ああいうファッションが、小さい子の間で流行ってるんだろうか。
俺は素通りしようとして、だけどやっぱり気になって、通り過ぎる前にもう一度彼女の方を見た。彼女もこちらを見上げていて、目があってしまった。
「…こんにちは」
透き通るような高い声。彼女は、その幼い顔には似合わないような落ち着いた笑顔で、俺にあいさつしてきた。
「あ、こんにちは」
俺がそう返すと、彼女はにっこりと笑った。それから
「私のことが見えてるのね」
そう言って、くつくつと笑った。
「え?」
戸惑っている俺に微笑みながら、彼女は立ち上がる。それから、俺のすぐそばまでゆっくりと歩み寄ってきた。俺は後退しようとして、だけど金縛りにあったかのようにその場から動けなかった。
「誰を怨んでるの?」
彼女は俺の目の前に立つと、確かにそう言った。
「…え?」
「誰かを、殺したいくらい怨んでるでしょ」
彼女は俺の目を覗き込むように見た。思わず、目をそらす。それを見て、彼女はまた楽しそうに笑った。そして言った。
「復讐、してあげましょうか」
幼い顔には似合わない言葉に、俺は驚いて彼女の方を見下ろす。彼女の身長はかなり低く、俺の腰の高さに顔があった。
彼女は俺の顔を見て、綺麗な顔でほほ笑んだ。そして先ほどと同じ言葉を、もう一度繰り返した。
「復讐してあげましょうか。…私、仕返し屋なの」