催眠が効かない俺 VS 俺を堕としたい宇宙人な美少女『シグナ』── 【急募】モールス信号にしか聞こえない音を出す美少女(宇宙人)との対話方法(助けてください)
一応ラブコメ。
というより、勘違いコメディ。
ヤンデレっぽい女の子が好きな方は、多分刺さる……かも。
「・・-・・」
学校の帰り道。
モールス信号のような音を、まるでASMRが如く、ウィスパーボイスで発する少女の囁く声が後方から聞こえる。
思わず僕は後方を振り返る。
そこには、青髪ウルフカットで毛先だけが真っ赤な所が特徴の、絵に描いたような美少女がいた。
彼女の名はシグナ。
最近転校してきた女子高生である。
ちなみに、先程のモールス信号みたいな音は和文でとを意味するはずだ。
経験上、とから連想できるものは今のところ一つしかない。
それは──。
「あ、シグナちゃーん! 透くーん!」
また後方から、黒髪の別の少女が僕の名前を呼ぶ。
霧島透。
つまりそれは僕の名前で、彼女は下の名前を呼んでいたのだ。
多分。
そして別の誰かも、もちろん知っている人間である。
いわゆる腐れ……幼馴染である。
「-・-・-」
シグナが(恐らく)彼女の名前を呼んだ。
桜井日向。
それが僕の幼馴染の名前だ。
シグナはモールス信号でさを発したはずだ。
「もー。透君を呼ぶみたいに私も下の名前で呼んでもいいのにー」
幼馴染の苗字はさから始まっているため、当たっていたようだ。
よしよし。
「えー。なんでよー」
日向の反応から察するに、シグナから拒否られたようだ。
理由はよく分からん。
「透君もそう思うよね?」
僕が黙っていると、今度は僕にキラーパスを出してきやがった。
絡まれた以上、会話にはできる範囲でキャッチボールを返さなくてはならない。
「フッ……風の向くままに吹いていけば貴様はそれで良い」
僕は首元を掻きながら、厨二病風に言葉を返す。
自分で言っててなんだが、鳥肌が立つ。
「わー。相変わらず意味が分からないなー。それって肯定ってことでいいのかな?」
「愚問だ……」
「気持ち悪いねー。高校生になっても厨二病抜け切ってないじゃん」
日向の刺々しい正論を全身に浴びていると、シグナが「ーー・・」とまたもやモールス信号のような音を出し微笑んでいた。
傍から見たらきっと僕達は青春真っ最中の、テンプレのようなラブコメのワンシーンを展開してるように見えるのだろう。
だって隣には付き合いの長い幼馴染の女の子、反対側には不思議だけどお淑やかそうな転校生の美少女。
それに挟まれる平凡な僕。
これをテンプレ的ラブコメと言わずして、どう表現するのだ。
きっと周囲の人間には嫉妬されていることだろう。
やれやれ。
でも仕方ないのだ。
僕はきっと選ばれてしまったからな。
なら全力で楽しまなくては。
僕はきっと、この二人と甘酸っぱくてドラマチックな漫画のような青春をこれから送る──。
──訳がねぇ!!!
駄目だわぁ!
もう我慢できないんでぶっちゃけまぁす!
転校生のシグナ、こいつやべぇ奴です。
宇宙人です。
言語が分かりません。
不思議ちゃんとかで片付けられる奴じゃないです。
大体ウィスパーボイスでモールス信号みたいな音出してる時点で、おかしいと思いません?
思いますよね?
誰か思うって言ってくださぁい!
心細いんですぅ!
いやまぁね?
害がないなら良かったんだよ。
でも害があるから怖いんだって。
具体的にどんな害かって言うと、ちょうど僕の幼馴染がいい例なんだわ。
結論から言うと、現在進行形で日向は催眠にかけられているのだ。
彼女の今の性格がその証拠です。
何だったら、元の性格の方が酷い。
僕に対しては特に酷かった。
幼馴染だから、昔馴染みだからこそ扱いがちょっと雑になるとか、そういう問題じゃないぐらい酷かったのだ。
少し時を遡るが、日向は学校でも有名なヤンキーだった。
その時の日向は、校舎裏で僕を奴隷の如くパシらせていたのだ。
例えば「金貸せや」とか、「こっち見てんじゃねぇよカス」とかとか、「おい。さっさとパン買ってこいや下僕」とかとかとか。
お口が悪いのなんの。
明らかに僕を下に見ているよね。
悲しいよね。
辛いよね。
でもコイツ無駄に強いから逆らえなかったんだよね。
畜生めぇ!
何でもいいから買ってきてやるよぉ!
ヤケクソ気味に走り、当時の僕は購買へ一直線。
そして学生という荒波に揉まれ、時間をかけながらも見事買うことができた。
僕は「いっけなーい遅刻遅刻ぅ! 半殺しにされちゃーう♪」とこれまたヤケクソ気味に心の中で言いながら、日向の元へ走っていった。
そして着いたらあら不思議!
最近転校してきたと噂の美少女、シグナさんが日向の前に立っているではありませんか。
謎の触手を日向の首に突き刺しながら、シグナさんがお淑やかに微笑んでいるではありませんか。
あらやだ怖ーい♪
うふふふ♪
じゃねぇよ!
呑気に微笑んでるんじゃねぇよ!
怖すぎるってばよ!
当の日向、泡吹いてるよ!
でも無闇に助けに行くことなんてできねぇよ!
そもそも何この状況!?
なんて悠長にリアクションを取っている最中、奴の視線を感じたんだ。
シグナの、真っ黒で渦を巻いたような瞳が明らかに僕を捉えていた。
「ーー・・」
例のモールス信号のような音を囁くような声で出して、微笑んでいたのだ。
その瞬間、僕は必死でその場を離れた。
何故か逃げのびることができた。
ほんとに……何で?
もしかして夢でも見てたんじゃないか?
そんな考えを持ちながら明日を迎えると、当然のように幼馴染の日向がいつもの校舎裏で待っていた。
あぁ、良かった。
変わらないな。
こんな奴隷のような日々を、安心と思えるのもおかしいけどね。
ははは。
その日も僕は犬のように。日向の元へ駆け寄った──。
「・・-・・」
駆け寄った瞬間、あの音が鳴った。
あの悪夢が現実であることを認識させられた。
あのシグナが。
謎の触手を唸らせるシグナが、日向の後ろにいたのだ。
そして日向が、口を開いた。
昨日のシグナの、吸い込まれるような瞳をしながら。
「紹介するね! この子、私の友達になったの! 仲良くしてね!」
フレンドリーで、模範的で、何だかテンプレのような台詞で日向は言った。
僕はずっとコイツのことを見てきたから分かる。
こんな急に、人と仲良くできるような奴なんかじゃない。
もっとこう、一匹狼的な感じなんだよ日向は。
ていうかやめろぉ!!
何だよこれホラー展開かよ!
こえぇからやめろぉ!
なんてことを口に出すわけにはいかない。
怯んで何か余計なことを言ったら、この宇宙人の地雷を踏みかねない。
僕も日向みたいに首を突き刺されてしまうかもしれない。
一方のシグナは相変わらずクスクスと微笑み、何を考え僕を見ているのか分からない。
そもそも何を喋っているのかすら分からない。
だからこそ間違えてはならない。
どうしたらいい?
どうすればいい?
とにかく沈黙がなるべく生まれないように、ポーカーフェイスを保ちながら口を開いた。
「エターナル……なるほどそれが答えか……よかろう」
僕はそう、答えた。
意味が分からない?
当たり前だよ。
だって意味ないし。
しょうがないじゃないか!
何言ってるか分からねぇんだもん!
だったら、意味の分からない言葉で返すのが道理だと思ったんだもん!
そしてこのファーストコンタクトで、どうなったかは冒頭のやり取りで分かるね!
うん!
そうだ!
何か一緒に帰ることが、日課になった!
なんでぇ……?
現在進行形で僕は、催眠にかかり宇宙人に従順になった桜井日向と、その催眠をかけた宇宙人少女のシグナと帰り道を歩いている。
うん。
訳がわからんし、怖い。
僕と一緒にいる目的が分からん。
下手すれば、こやつが人格を変えてくる訳だからね。
そんな事になったら、今の僕が無くなっちゃうからね。
胃がいてぇ……。
だがここで油断したら本当に終わる。
周囲に助けを求めようとしたら、きっと終わりだ。
そもそも、周囲の人間も催眠にかかっていて、手遅れかもしれん。
そいつらも含めて、なるべく話さないようにしなくてはならない。
喋りかけてきやがったら、もうあの厨二病でどうにかするしかねぇ……。
目には目を、歯には歯を、通じない言語には通じない言語だ。
地獄かな。
「・・-・・」
噂をすれば、相変わらずのウィスパーボイスを発しながら、シグナが僕の顔を心配そうに見つめていた。
あらやだ♡
すっごく近いわ♡
ガチ恋距離♡
悩みの原因お前だぞこの野郎♡
ドキドキしちゃうぞ♡
意味合い違うけど♡
お願いだから離れて♡
いやSAN値がもう底をついて死にそうだから、マジで、ホントに、お願いします……。
というかいつの間にか、日向の気配が消えたんだけど。
周囲を確認しても、一向に見つからない。
キョロキョロと見回していると、シグナがコンビニのある方向へ指を指した。
そして彼女は「--・ーー」と発した。
恐らくだが、「あそこに行ったよ」と言っているのだと思う。
畜生こういう時に限っていなくなりやがって……。
めっちゃシグナが見つめてくる。
ていうかまずい。
2人きりにさせられるのはまずいって。
やばいって。
何されるか分からないって。
「---・-」
あざとく首を傾げ、恐らくシグナはすというモールス信号を発した。
やべぇ。
幼馴染がいないから、なんとか自分で解釈しなくちゃならねぇ。
多分、指差してるからコンビニに対して言ってるんだよな。
『す』で連想できるもの……好きとか?
うーんパッと思いつかない……。
大体頭が回らないんだよね。
恐怖が勝ってて余計なことを考えられない。
だがとりあえず、沈黙を作らない方がいいよな。
ならもう一か八かで、それっぽくコミュニケーションを取らなくては。
「……好みかどうかと聞かれれば、我は肯定と答える……当然だ」
コンビニって便利だしね。
まぁ商品が高い物が増えてるのは中々辛いけれど、24時間いつでもいけるのはやっぱいいよなぁ──。
「・ー・」
刹那、どこかの壁に僕はいつの間にか追いやられていた。
シグナがモールス信号が鳴り終わった直後だった。
何故かって?
分かんない⭐︎
ずっとなっていう和文モールス信号発してるんですけどぉ……?
どういう意味ぃ……?!
キレてるんですぅ……?!
怖いのだぁ……。
僕とうとう死ぬのだぁ……?
ホントにこの宇宙人の思考回路が見当つかない。
畜生、ちゃんと同じ言語で喋れていればこんな馬鹿みたいな状況にならねぇのに。
ていうか嫌だぁ!!
死にたくないんですけどぉ!!
い、一旦落ち着いて周囲を見て落ち着かなくては。
後方は壁。
前方はシグナがいる。
左右は触手で退路を塞がれている。
うん!
終わった⭐︎
──って諦めちゃ駄目だ駄目だ!
幸い、表情は悟られないようにポーカーフェイスを貫いてるから、動揺してる様は見せていない……はず。
少しでも弱さを見せたら、何か始末されそうだし……。
こうなったら、また適当に演技するしかない。
「く、くくく……。貴様はぁ、好みではないのか。ざぁ、残念だ……。我は同志だと思っていたというのに……」
緊張して、何か言葉つっかえちゃった。
ただでさえ何言ってるのかわかんねぇのに。
ガダガタじゃねぇか。
対してシグナの反応は、案の定首を傾げる。
お、おー……?
何かいけそうな気がするぞ。
もうちょいハッタリをかけるか。
「アレは便利だ。自身のタイミングで使える……だからこそ好む……そう、ではないか?」
自信ないからまたつっかえちゃった。
頑張れよ。
ただ、今の言葉でシグナが首をブンブンと縦に振る。
まぁそうだよな。
コンビニの良いところって、深夜になっても駆け込める所だよな。
休日の夜更かしで、ついつい寄ってしまうことがあるしね。
シグナが何か納得したからか触手を壁から離し、僕から距離を取った。
そしてまたモールス信号を、ウィスパーボイスで発した。
「ー・ ・・」
僕を指差しながら、恐らく《《だ》》という意味合いの言葉を発した。
『だ』ってなんだ……??
『だ』から始まるもので……尚且つこの宇宙人が発しそうな単語……か。
だ……だい……dai……DIE……!?
えっえっえっ、死ねって言ってるのこの人。
こっっっっわっ!!?
でもその割には、何もしてこないし何か表情がめっちゃ笑顔なんですけど。
マジで思考回路が読み取れん……。
とりあえず僕も作り笑顔で返した。
結局この後、何もされずに終わった。
どういうことだってばよ……?
こうしてこの日は終了した。
毎度毎度こんな調子だ。
心臓が持たない。
ただ屈したら、僕に催眠をかけることだろう。
目的は分からんが、多分従順な奴隷とか欲しいんだろう。
それで喧嘩とか無駄に強い日向とか、催眠にかけて思い通りにしてるわけだし。
ちなみにこの日忽然と姿を消した日向は、コンビニでお花を摘んでいて中々出られなかったようだ。
僕もお花摘みにいけば、あんな触手壁ドンに合わなかったかなぁ……。
というか漏らさなくて良かったー。
大体なんでこんなに付き纏われてるんだよ。
僕、昔何かやったっけ……?
いやそもそも接点がないから心当たりも何もないんだよなぁ……。
まさか、既に催眠にかかってることないよな……?
というか気づかれていたり……。
……。
い、いやいやないない!
駄目だわ……ネガティブ思考になっちゃうわー。
とりあえず、今日生き延びることができたことを喜ぼう。
ここまできたら、絶対催眠にかかってたまるものか。
──ワタシの目的は、この地球に住む人間の支配。
それがワタシ、シグナに課せられた任務だった。
けれど彼を見つけてしまってから、目的が変わった。
霧島透君。
ワタシが気になっている男の子。
この地球という星に来て、最初のターゲットにしてから、遠くからずっと見てた。
彼を初めて見かけたのは、彼が中学生の頃だった。
元々小手調べに催眠術をかけて、一旦持ち帰ることが最初の目標だった。
早速、当時中学生の彼の首筋へ触手を突き刺した。
だというのに、全く催眠にかかる気配がしない。
何度も、やった。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
それでもかからなかった。
ただの少年にしか見えないというのに、なぜ効かない。
分からない。
その疑問が興味に移り変わるのも、時間の問題だった。
催眠にかけなくなってからは、彼をただ観察していた。
きっとワタシは、この時から君に恋していた。
ただ知りたかった。
人間を支配するという任務を放棄して、今はただ君を見ていたい。
だからこそ、邪魔だった。
あの女が。
あの口が悪い桜井日向とかいう幼馴染が、ワタシにとって邪魔だった。
それ故に、彼が高校に入学してから、ワタシの邪魔をしないように直接催眠術をあの女にかけた。
見事奴の目はぐるぐると、目に渦巻き状のマークが浮かび上がる。
そして聞いた。
透君が好きかどうか。
結果は、別にそうではないらしい。
それを聞けて安心した。
透君の方はどうだろうか。
こんな無責任な女のことなんか、好きである訳がない。
対して透君にも、コンビニに行った彼女のことを話した。
すると彼は、はっきりと、好きであると答えた。
なぜ?
なぜあの女が好きなの?
なぜあの暴力女がいいの?
なぜ君はあの女に言いなりになっているの?
ならワタシが暴力女になった方が、いいの?
ワタシは壁に彼を追いやると、彼は相変わらず表情を変えずに答えた。
『アレ』は便利だから、好きだと。
それを聞いて、心底安心したし嬉しかった。
ワタシと価値観は一緒なことは特に。
ムカつく奴は、催眠をかけて便利な道具にするのが良い。
あー透君……。
そこまでワタシに合わせてくれるんだ。
思わず告白してしまった。
大好きだって。
でも人間だったら、それって普通だよね。
好きな人に告白するのって普通、だよね。
そうしたら何も言わなかったけど、笑顔で返してくれた。
きっと君に催眠をかけても全く効かないのは、通じ合っているからだね。
……透君。
やっぱり運命だね。
一目見た時、ずっと君のことばっか観察してた。
ずーっと。
ずっとずっとずっと──。
……あーそっか。
だから君はあの時、あんなことを言ったんだね。
転校生として初めて対面した時、「エターナル」なんてことを言った意味がようやく分かった……。
ワタシ、結構大変だったよ。
君の言っている言葉の意味を理解するためには深読みが必要だったよ。
言語が通じ合えば、もっと君のことが知れるのに。
でも良いんだ。
言葉じゃなくて、心で通じ合ってるんだよね。
だって……永遠に愛し合えるってことだよね。
そうだよね。
きっと、そうだよね。
ウフフフフ……。
また明日になれば君に会える。
催眠術に掛からなくても、きっとワタシの隣にいてくれるよね。
というか、いてくれるよね。
ねぇ?
「Zu-tt o-ite -n--e」
※一応、最後のセリフもモールス信号です。
傍点がヒント。
そのまま言葉になります。




