青春自由切符
「!!!!!♫♪♬♩(^^♪♬!!!!♩(^^♪♫♪♪♬♩(^^♪♫♪!!!!」
夜遅いガラ空きの電車車両で、バカでかい声で気持ち良さそうに若い男が歌っている。
「ハハハ」
いつの間にか隣に座っていた、小太りの中年男性が乾いた声で笑う。
「世の中、クソ野郎ばかりだな」
その発言に異論はなく、ちらっと見るが無視をする。僅かでも危ない奴、やばい奴には関わらない方が良いに決まっているから。
「殺すわ。良いよな?」
男はそう言いいながら立ち上がり僕を見ると、茶色のジャケットの内ポケットから銃を取り出すと男の顔を真正面から撃つ。
当然のように頭部は木端微塵となり、肉片は車内のベンチや窓、床に飛び散った。
僕は変わらず無視をする。銃声にはかなり驚いたが無視をする。
電車も関係ないとばかりにガタンゴトンガタンゴトンと走る。
「いやいやまさかやで。子供が出来るなんてさ。あいつが親と話してくれってうるさいで家に行ったのよ。そしたらあいつの親父に『どうすんねん』ってめっちゃキレられてよ。いや、どうしようもないじゃないですかって言ったわ。本当に参るわ、別れるしかないけど、でもまぁ、あいつのテク、めっちゃ気持ち良いんねん。アハハハ」
「ふー、何なんだろうね。こんな事を言えば老害と言われるんだろうけど、やはり今の若者のモラルは下がってきていると思わんか?わしの若い頃は・・・、いやスマン。そんなことはどうでも良いか」
いつのまにか隣に座っていたスーツ姿の老人が、何かを言って欲しい様子で僕を見る。
その発言に異論はなく、ちらっと見るが無視をする。僅かでも危ない奴、やばい奴には関わらない方が良いに決まっているから。
「うむ。やはり殺すか。父無し子にするのは可哀そうじゃが。どうじゃ?」
老人はそう言いながら立ち上がり僕を見ると、懐から30センチほど出刃包丁を取り出し、真正面から男の腹部を何度も刺した。
刺す、抜く、刺す、抜く、刺す、抜く、リズムよく繰り返されると、男は当然の様に電車内の床に倒れこむ。隣で話していた友人らしき男は、助けることも悲鳴をあげることもなく、返り血を浴びながらただ真っ直ぐ対面の窓を見ていた。殺されて当然だと思っているのだろうか、自分には関係ないと思っているのだろうか、恐怖で動けないのだろうか、その表情からは何も読み取れない。
「ギャハハハ」「アーハッハッハッ」「ギャハアーハッハッハッ」
若い女が電車内に響く声で笑っている。
母親に抱かれながら寝ている赤ん坊がその声にビクッとなると、その反応が面白いのか繰り返し何度も笑う。
いつの間にか隣に座っていたジャージ姿の男子高校生が、怒りに満ちた声で言う。
「腹立ちますよね。僕の兄のところにも今度、赤ちゃんが生まれるんです。赤ちゃんが寝ているのにそれをわざわざ起こして笑うなんて。絶対に許せない、そう思うでしょう?」
その発言に異論はなく、ちらっと見るが無視をする。僅かでも危ない奴、やばい奴には関わらない方が良いに決まっているから。
男子高校生は立ち上がりながら僕を見ると、スポーツバッグからスタンガンを取り出す。
そして女の前に立つと、その左胸にスタンガンを数秒ほど押し当てる。女はビクッビクッと身体を震わせると音を立てて床に倒れこみ、男子高校生はそのまま何度もスタンガンを押し当てると女は動かなくなる。その光景に赤ちゃんが驚いたのか泣き出す。男子高校生はスタンガンをスポーツバッグにしまうと、いないないばぁいないいないばぁと、赤ちゃんに顔を向ける。赤ちゃんはキョトンとしながら慈愛に満ちた顔の男子高校生を見ていた。
「どうして何もしなかった?あんな奴を許した?」
「そうじゃ。まったく、今の若いもんは」
「信じられません。極刑に値する奴をほっておくなんて」
僕は駅の待合室で対面に座る3人に問われると、いつの間にか隣にいた女性新聞記者が代わりに反論する。
「あなたたちが行っているのはただの殺人です。車内で大声を出して歌っていたから、妊娠の責任を取らなかったから、赤ちゃんの起きる反応を面白がり起こしたから。それらは決して褒められることではありません。しかし、だからといって、殺されるようなことなのですか?」
「当たり前だろ」「当然じゃ」「もちろんです」
3人が同時に答えその声がかぶる。それが可笑しかったのか、彼らはお互いの顔を見合わせ笑う。
その姿に女性記者は声を張り上げる。
「ふざけないで下さい!こんなことは許されません!あなた達は間違っています!記事にして世論と司法に裁いてもらいます!」
ホームアナウンスが流れる。
「まもなくホームに最終電車が参ります。白線の内側でお待ちになりながら、行先をお決め下さい」
僕は叔母から入学祝いでもらった万年筆を握る。
彼らは暴力で悪に裁きを下してきた。女性新聞記者はペンで悪を暴いてきた。
僕は万年筆を握る手に力を込める。これで頭を目を頸動脈を突き刺し悪を裁く、記事を書き悪を暴く、変わらず関わりを持たない、万年筆を握る手が汗ばむ。
電車がホームに到着する。
「暴力でもなく、暴くでもなく、傍観者でもない、別の道があるのではないでしょうか?」
電車の到着ベルよりも小さい僕の声を、無力ではない4人はポカンとして聞いている。




