第50話 恋人未満の距離
次に会ったのは、
昼間だった。
理由は、
特にない。
「時間が合ったから」
それだけ。
選んだのは、
人の多い街。
デートと呼ぶには、
少し曖昧。
歩く速度を、
自然に合わせる。
触れない。
でも、
離れすぎない。
不思議な距離。
「こういうの」
彼が言う。
「懐かしい」
私は、
少しだけ笑う。
「私は、初めて」
本当だった。
推しと会っていた頃は、
こんなふうに、
隣を歩いたことはない。
常に、
境界線があった。
昼食をとって、
雑貨屋に入る。
特に用はない。
それでも、
時間は進む。
彼が、
棚の商品を手に取って、
感想を言う。
意外と、
普通。
そのことが、
少し安心で、
少し怖い。
カフェで休憩する。
向かい合って座る。
「今」
彼が、少し真剣な顔になる。
「無理してない?」
気遣い。
それとも、
確認。
私は、
正直に答える。
「楽しい」
「でも、緊張してる」
彼は、
ほっとしたように笑う。
「俺も」
同じ言葉。
同じ温度。
それだけで、
十分だった。
別れ際、
一瞬だけ、
彼の手が近づく。
でも、
触れない。
迷った末の、
自制。
それを見て、
私は思う。
ああ、
ちゃんと、我慢してる。
家に帰ってから、
少しだけ胸が高鳴る。
恋人じゃない。
約束もない。
それなのに、
心は、
確実に動いている。
これは、
危険だ。
でも、
同時に、
とても健全だ。
恋人未満の距離。
その曖昧さが、
今の私たちには、
ちょうどよかった。




