第42話 それぞれの場所で
活動再開の日が、
正式に発表された。
大きなニュース。
祝福の言葉。
待っていた、という声。
私は、
それを静かに眺めていた。
喜びでも、
嫉妬でもない。
ただ、
一区切り、という感覚。
あの人は、
元の場所に戻っていく。
ステージ。
照明。
歓声。
私は、
そこにはいない。
でも、
もう、そこに戻りたいとも思わない。
新しいアカウントには、
相変わらず、日常が流れている。
特別じゃない話。
誰の目も引かない言葉。
それが、
今の私には、
ちょうどいい。
仕事帰り、
駅前の大型ビジョンに、
彼の映像が流れていた。
足を止める。
一瞬だけ。
変わらない笑顔。
完成された姿。
遠い。
でも、
嫌な距離じゃない。
あの夜のホテルも、
電話も、
投稿も。
全部、
確かにあった。
でも、
それが今の私を縛ってはいない。
彼は、
彼の人生を生きている。
私は、
私の人生を生きている。
それだけのこと。
画面から視線を外して、
歩き出す。
もう、
追いかけない。
応援もしない。
拒絶もしない。
ただ、
交わらない。
それが、
私たちにとって、
いちばん安全で、
いちばん誠実な距離だと、
今なら分かる。
夜風が、
少し冷たい。
でも、
心は、静かだった。
そして、
新しい日常が始まる。




