第41話 もしも、の分岐点
もしも、あの日。
あの電話に出なかったら。
海外へ行かなかったら。
投稿もしなかったら。
推し活は、
今も、静かに続いていたのかもしれない。
配信を見て、
新曲を聴いて、
距離を守って、応援する。
安全で、
正しくて、
誰にも迷惑をかけない日々。
そう思うと、
少しだけ、胸が疼く。
でも、
その「もしも」の中に、
私は、いなかった。
感情を抑えて、
疑問を飲み込んで、
違和感を見ないふりをする私。
それは、
平和だけど、
透明だった。
今の私は、
透明じゃない。
傷も、
失敗も、
選択も、
全部、持っている。
夜、散歩に出る。
イヤホンをつけない。
音楽も、つけない。
街の音を、
そのまま聞く。
信号の音。
自転車のベル。
誰かの笑い声。
現実は、
案外、うるさい。
それが、
少しだけ、嬉しい。
スマホに、
新しい通知。
例の投稿に、
最後のコメントが付いていた。
「あなたの話で、救われました」
「私も、声を飲み込んでいた」
短い文章。
でも、
胸に、まっすぐ届く。
私は、
初めて思う。
この出来事は、
間違いだけじゃなかった。
誰かを、
特別にしてしまったこと。
選ばせなかったこと。
選んでしまったこと。
全部、
痛かった。
でも、
それでも。
あのまま推し活が続けば、
よかったのか。
今の私は、
はっきり答えられる。
――いいえ。
私は、
ここに立っている。
もしも、の分岐点は、
もう、過去だ。
残っているのは、
これからの選択だけ。




