第39話 余白の中で
数日が過ぎた。
大きな動きは、ない。
炎上もしない。
謝罪も、訂正もない。
世界は、
何事もなかったみたいに、
次の話題へ進んでいく。
私は、
久しぶりに外へ出た。
コンビニまでの短い距離。
それだけなのに、
空気が新鮮だった。
誰も、
私を見ていない。
指も、向けられない。
当たり前のことが、
少しだけ、ありがたい。
スマホを見る回数も、
減った。
投稿は、
まだ残っている。
消す理由は、
もう、ない。
コメント欄は、
静かだった。
新しい意見も、
新しい憶測も、
増えていない。
ただ、
流れの底に沈んで、
そこで、止まっている。
それで、いい。
私は、
あの人の名前を、
検索しなかった。
活動再開の噂も、
海外の続報も、
自分からは、追わない。
推し活に戻ることは、
もう、できない。
でも、
それを失ったからといって、
空っぽになったわけでもない。
家に帰って、
窓を開ける。
風が入る。
少しだけ、
世界と繋がる感じ。
私は、
あの夜の電話を思い出す。
「消えなくてよかった」
あれは、
慰めじゃない。
救済でもない。
ただの、
事実確認だった。
私は、
確かに、ここにいる。
選ばれてしまった。
間違えた。
傷ついた。
それでも、
消えてはいない。
余白が生まれた。
推し活で埋めていた時間。
感情。
居場所。
それらが、
一度、空になる。
怖いけど、
悪くない。
この余白に、
何を置くかは、
もう、私が決めていい。




