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第37話 水面下の圧

その連絡は、夜遅くに来た。


今度は、

非通知じゃなかった。


知らない個人名。

でも、

肩書きだけは、はっきりしている。


――マネジメント担当


逃げ道が、

一つずつ塞がれていく感覚。


すぐには返さなかった。

深呼吸して、

三十分、置いた。


それから、

短く返した。


「何でしょうか」


返事は、

驚くほど丁寧だった。


感情も、

威圧も、

一切ない。


それが、

逆に怖い。


「今回の件について」

「少し、認識のすり合わせを」


認識。


事実じゃない。

認識。


「あなたの投稿は、

 悪意がないことは理解しています」


理解している。

でも。


「ただ、状況的に、

 彼の今後に影響が出かねません」


影響。


その言葉で、

立場が、はっきりする。


守る対象は、

最初から決まっている。


「削除の予定はありますか?」


予定。

選択肢のようで、

選択肢じゃない。


私は、

しばらく考えてから、

正直に打った。


「今のところ、ありません」


送信。


一拍置いて、

返事が来る。


「そうですか」

「では、こちらも対応を検討します」


それだけ。


脅しでも、

警告でもない。


でも、

圧力としては、

十分すぎた。


スマホを置いて、

ソファに沈む。


私は、

戦おうとしているわけじゃない。


暴きたいわけでも、

勝ちたいわけでもない。


ただ、

なかったことにされるのが、

耐えられなかっただけ。


でも、

向こうから見れば、

それは“問題行動”だ。


不意に、

思い出す。


あの人の言葉。


「君を、特別にしてしまう」


特別じゃない。

最初から。


私は、

扱いづらい存在になっただけ。


それでも、

不思議と後悔はなかった。


怖い。

確かに、怖い。


でも、

黙って消えるよりは、

ずっと、ましだ。


私は、

もう一度、

自分の投稿を読み返す。


言葉は、

嘘をついていない。


それなら、

引かない。


水面下で、

何かが動いている。


でも、

私も、

もう、流されるだけじゃない。


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