第34話 決断の時間
部屋のカーテンを、
三日間、開けなかった。
昼か夜か、
よく分からない。
スマホは、
机の上に伏せたまま。
見れば、壊れる。
見なくても、壊れていく。
それでも、
世界は止まらない。
インターホンが鳴った。
心臓が、
嫌な跳ね方をする。
無視しようとして、
でも、もう一度鳴る。
「……どなたですか」
かすれた声。
「事務所の者です」
一瞬で、
背中が冷える。
ドアは、開けない。
それだけは、決めていた。
「書面を、お渡ししたくて」
「開けなくて構いません」
足音。
紙が、床に置かれる音。
そして、
遠ざかっていく気配。
しばらくしてから、
ドアを少しだけ開けた。
白い封筒。
名前は、書いていない。
宛名は、
「関係者各位」。
中身は、
丁寧すぎる文章だった。
お願い。
配慮。
協力。
――今後、一切の接触を控えてください
――情報の発信を行わないでください
――違反が確認された場合、法的措置も検討します
脅しじゃない。
でも、
優しさでもない。
私は、
紙を床に落とした。
選ばれてしまったのに、
守られる対象じゃない。
推しでもない。
恋人でもない。
被害者でも、加害者でもない。
ただの、
「リスク」。
それが、
私の立場。
スマホを手に取る。
画面を見なくても、
通知が溜まっているのが分かる。
でも、
今、見るべきものは、
そこじゃない。
私は、
ひとつだけ、
新しいメモを開いた。
書く。
事実。
時系列。
感情。
誰にも見せない前提で、
全部、書く。
消えるためじゃない。
守るためでもない。
――選ぶため。
もし、
このまま黙れば、
私は、なかったことになる。
でも、
声を出せば、
もっと、壊れる。
それでも。
選ばれてしまった私が、
最後にできる選択は、
もう、ひとつしか残っていなかった。
カーテンの隙間から、
久しぶりに光が差し込む。




