第26話 会えなかった理由
返事は、すぐに来た。
「分かった」
それだけ。
時間も、場所も、
最低限の情報。
人目につかない、
平日の昼。
私は、少し早めに着いた。
落ち着かない。
時計ばかり見る。
この選択が、
正しいかどうかは、
まだ分からない。
でも、
向き合う覚悟だけは、
決めたつもりだった。
約束の時間。
……来ない。
五分。
十分。
胸の奥が、
嫌な形で、ざわつく。
スマホを確認する。
通知は、ない。
二十分が過ぎた頃、
知らないアカウントから、
メッセージが届いた。
「今、出られない」
「ごめん」
短い。
説明もない。
その直後、
ニュースが流れる。
緊急告知。
体調不良。
当面の活動休止。
画面に映る、
公式文。
事務的で、
冷たい文字。
足元が、ぐらっとする。
理由は、
書かれていない。
タイミングが、
悪すぎた。
偶然なのか、
必然なのか。
私は、
椅子に座ったまま、
動けなかった。
周囲の人たちは、
誰も気づかない。
私だけが、
この場所で、
置き去りにされている。
連絡を入れようとして、
指が止まる。
今は、
触れてはいけない。
そう分かっている。
それでも、
胸の奥では、
別の声がする。
もし、あのとき。
距離を取る前に、
話していたら。
もし、噂が出る前に、
向き合っていたら。
この結果は、
変わっていたのか。
答えは、ない。
私は、
何もできないまま、
その場を離れた。
会えなかった理由は、
はっきりしている。
でも、
それで、
納得できるほど、
感情は、簡単じゃなかった。




