第24話 沈黙のあとで
何も起きない日が、続いた。
通知は鳴らない。
タイムラインも、見ない。
静かすぎて、
逆に、落ち着かなかった。
私は、日常に戻ろうとした。
仕事をして、
帰って、
眠る。
それだけ。
なのに、ある夜。
知らない番号から、
着信が入った。
一瞬で、
胸が、嫌な音を立てる。
出る理由は、ない。
出るべきでも、ない。
それでも、
指が、通話ボタンに触れていた。
「……もしもし」
短い沈黙。
「驚かせて、ごめん」
聞き覚えのある声。
心臓が、
思いきり、跳ねる。
「今、大丈夫?」
大丈夫なわけがない。
「……用件は?」
自分でも、冷たい声だと思った。
「少しだけ、話したくて」
その言葉に、
胸が、軋む。
話したら、
戻ってしまう。
距離を、引いたはずなのに。
「今は、よくない」
そう言うつもりだった。
でも、
言葉は、続かなかった。
「誤解が、広がってる」
低い声。
抑えた調子。
「巻き込んでしまった」
謝罪。
それだけ。
責めていない。
でも、近づいている。
「もう、大丈夫です」
早口で、答える。
「私のほうが、悪いから」
沈黙が、落ちる。
「……それでも」
その先を、
聞いてはいけない気がした。
「これ以上、話さないほうがいい」
先に、線を引く。
自分の声が、
少し、震えていた。
「分かった」
即答だった。
その速さが、
優しさなのか、
諦めなのか、
分からない。
「でも」
一拍、置いて。
「ちゃんと、選ばせてほしかった」
その言葉だけを残して、
通話は切れた。
画面に映る、
通話終了の文字。
私は、しばらく、
動けなかった。
選ばせてほしかった。
誰に?
何を?
距離を引いたのは、
私だ。
それなのに、
心だけが、
強く、揺れている。
沈黙のあとで、
世界が、また動き出してしまった。
私は、
引いた線の前に立ったまま、
どちらにも進めずにいた。




