第21話 最悪な再会
人混みの中で、肩がぶつかった。
謝ろうとして、顔を上げて、
息が止まる。
あの人だった。
帽子とマスク。
ラフな服装。
それでも、間違えようがない。
一瞬、時間がずれたみたいに、
周囲の音が遠のく。
向こうも、気づいた。
目が合う。
ほんの一秒。
「……久しぶり」
声は低くて、
思っていたより、近い。
最悪だと思った。
同時に、少しだけ、嬉しいと思ってしまった。
「こんなところで会うとは思わなかった」
人目を気にして、
距離を取ろうとする仕草。
その動きが、
前より、はっきり見える。
私は、頷くだけで、
言葉が出てこない。
沈黙が、伸びる。
「元気?」
それだけで、
胸が、ぎゅっと締まる。
元気なわけがない。
でも、説明する場所でもない。
「……それなりに」
曖昧な返事。
逃げの言葉。
あの人は、
少しだけ笑った。
前と同じ。
でも、どこか違う。
「無理、してない?」
その問いが、
優しすぎた。
してる。
全部。
でも、言えない。
「してないよ」
嘘は、上手くなっていた。
周囲の視線が、
少しずつ、こちらに集まる。
あの人が、
それに気づいて、
一歩、後ろに下がる。
その距離が、
答えだった。
「……じゃあ」
別れの合図。
引き止める理由はない。
引き止めてはいけない。
分かっているのに、
口が、勝手に動いた。
「この前の、インタビュー」
言ってから、後悔する。
あの人は、
一瞬だけ、目を伏せた。
「見たんだ」
否定でも、肯定でもない。
「……ごめん」
何に対しての謝罪か、
分からない。
でも、その一言で、
全部が、崩れそうになる。
「じゃあ、また」
また、なんてないくせに。
背中を向ける姿を、
私は、黙って見送る。
追わなかった。
呼び止めなかった。
それが、
正解だと分かっていたから。
でも、
最悪な再会は、
最悪な余韻を残す。
胸の奥で、
何かが、もう一度、
動き出してしまったことだけは、
否定できなかった。




