第20話 届いてしまった言葉
帰り道、足が止まった。
駅の大型ビジョンに、
あの人が映っていた。
偶然。
ただ、それだけ。
新曲のプロモーション。
短いインタビュー。
立ち止まるつもりはなかった。
でも、身体が反応してしまう。
「最近、大事にしてることは?」
司会者の問いに、
あの人は、少し考える素振りを見せた。
いつもの間。
癖みたいな沈黙。
「……ちゃんと、距離を考えること」
胸が、微かに鳴る。
「近づきすぎると、壊れるものもあるから」
「でも、離れすぎると、伝わらないこともある」
そんな言い方、前からしてた?
それとも、私が勝手に拾っているだけ?
「だから、今は――」
言葉が、少し詰まる。
「ちゃんと、選びたいですね」
その一瞬。
視線が、カメラ越しに合った気がした。
もちろん、気のせい。
分かってる。
でも、心は、そう受け取らなかった。
選ぶ。
距離。
壊れる。
全部、知っている言葉に聞こえてしまう。
私は、息を止めていたことに気づき、
慌てて、呼吸をする。
都合のいい解釈だ。
自分でも、分かってる。
でも、
届いてしまった言葉は、
なかったことにできない。
あの人が、
何を考えているのか。
誰に向けて、
その言葉を選んだのか。
分からない。
分からないのに、
心だけが、先に反応する。
スマホが震えた。
通知じゃない。
ただの、広告。
それでも、
一瞬、期待してしまった。
私は、画面を消す。
もう一度、思い出す。
越えなかった一線。
引いたはずの距離。
それなのに、
世界のほうが、
また近づいてくる。
選ばなかったはずの道が、
目の前で、光っている。
私は、立ち尽くしたまま、
その光から、
目を逸らせなかった。




