第19話 知らない誰かの正論
久しぶりに、あの場所へ行った。
ライブの余韻が残る、駅前のカフェ。
推し活仲間と、何度も時間を潰した場所。
今日は、一人。
席に座っても、
話す相手はいない。
それが、少しだけ楽だった。
隣のテーブルから、
聞き覚えのある話題が流れてくる。
「あの人さ、最近すごく良くない?」
「距離感うまいよね」
名前は出ていない。
でも、分かる。
胸が、わずかに反応する。
「ファンは夢見てるくらいが、ちょうどいいんだよ」
「現実知ったら、冷めるって」
笑い声。
軽い調子。
正論だ。
頭では、分かっている。
正しい距離。
守るべき線。
でも、その正しさが、
今の私には、鋭すぎた。
私は、カップを持つ手に力を入れる。
夢見てた?
私も?
現実を知って、
冷めた?
違う。
たぶん、違う。
冷めたんじゃない。
近づいて、怖くなっただけ。
知らない誰かの言葉が、
胸の奥を、正確に刺してくる。
私は、席を立った。
逃げるみたいに、
店を出る。
外の空気が、
少しだけ、冷たい。
正論は、優しくない。
でも、嘘もついていない。
私は、歩きながら考える。
ファンでいること。
恋をしたこと。
線を引いたこと。
どれが、間違いだったのか。
それとも、
全部、正しかったのか。
分からないまま、
足だけが、前に進む。
ただ一つだけ、
確かだった。
私はまだ、
答えを出す気になれない。
この気持ちを、
夢だったことにするには、
まだ、近すぎた。




