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第14話 触れないまま、近づく

待ち合わせの場所に着いたのは、少し早かった。


人は多い。

でも、誰もこちらを見ていない。

少なくとも、そう信じられる程度には。


心臓が、落ち着かない。

待っているだけなのに、息が浅くなる。


来なければいい。

そう思う気持ちと、

来てほしいという期待が、

同じ重さで並んでいる。


足音が、近づく。


振り返らなくても分かる。

歩き方。

間の取り方。


やっぱり、いた。


少しだけ離れた位置で、立ち止まる。

すぐに声はかけてこない。


その距離が、

前より、ずっと近い。


「……久しぶり」


低い声。

控えめで、静か。


私は、頷いた。

声を出すと、震えそうだったから。


「ごめん」

「急に、呼び出して」


また、謝る。


謝られるたびに、

何を求められているのか、分からなくなる。


歩こうか、と言われて、

私は頷く。


並んで歩く。

触れない。

でも、離れすぎない。


その距離が、

一番、意識してしまう。


「その後……大丈夫だった?」


大丈夫なわけがない。

でも、全部は言えない。


「……なんとか」


それだけで、精一杯だった。


向こうは、それ以上、踏み込まない。

それが、優しさなのか、怖さなのか、

判断できない。


少しだけ、沈黙。


雑踏の音が、間を埋める。


「本当は」

ふいに、声が落ちる。


「会わないほうが、よかった」


胸が、きゅっとなる。


「でも」

続く言葉を、待ってしまう自分がいる。


「それでも、会いたかった」


たったそれだけ。

でも、十分すぎた。


触れていない。

手も、肩も。


それなのに、

距離は、もう戻れないところまで縮んでいる。


私は、何も答えられなかった。


答えたら、

何かが、決まってしまう気がして。


歩き続ける。

同じ速度で。

同じ方向を向いて。


触れないまま、

一番、近いところまで。

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