第12話 それでも、終わらなかった
終わったと思っていた。
噂も。
関係も。
推し活も。
全部、綺麗に切り取られて、
なかったことになったはずだった。
それなのに。
夜遅く、スマホが震えた。
通知音を切っていたから、
振動だけが、静かに伝わる。
画面を見るまでに、
少し時間がかかった。
もう、期待しないと決めたのに、
心臓は、正直だった。
名前が、表示されている。
あの人。
息が止まる。
指先が、冷たくなる。
同時に、胸の奥が、熱を持つ。
開いてはいけない。
見なければ、なかったことにできる。
でも。
私は、画面を開いた。
短いメッセージ。
「遅くなって、ごめん」
「今、少しだけ話せる?」
それだけ。
言い訳もない。
説明もない。
でも、“切れていない”という事実だけが、
はっきりそこにあった。
どうして。
今さら。
そう思うのに、
拒否の言葉は浮かばなかった。
「……少しなら」
送信してから、
自分が何をしているのか分からなくなる。
すぐに、既読がついた。
「ありがとう」
その一言が、
切り離されたはずの距離を、
また少しだけ、縮める。
通話は、来なかった。
メッセージのまま。
それが、逆に助かった。
「全部、うまく処理された」
「だから、もう大丈夫なはずだった」
“はず”。
その言葉に、
本心が滲んでいる。
「でも」
「どうしても、気になって」
気にしてはいけない人を、
気にしてしまった声。
私は、返事に迷った。
責める資格もない。
期待する権利もない。
それでも。
「……私は、もう」
「いなかった人、ですよね」
送った瞬間、
胸が締めつけられる。
しばらく、返事が来ない。
数秒。
それとも、数分。
時間が、伸びる。
「そう、した」
「でも、それで終わりにしていいかは」
続きが、来る。
「まだ、分からない」
曖昧な言葉。
希望にも、残酷にも取れる言い方。
私は、スマホを握りしめた。
終わったはずの物語が、
まだ、余熱を持っている。
それが、
嬉しいのか。
怖いのか。
答えは、出なかった。
ただひとつだけ、
はっきりしたことがある。
私は、もう一度、
画面の外で、推しの名前を見てしまった。
それだけで、
終わったはずの世界が、
また、静かに動き出していた。




