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第10話 守られる側と、切り捨てられる側

昼過ぎ、スマホが鳴った。


今度は、はっきりとした通知音。

名前が表示されている。


一瞬、指が止まる。

出る覚悟を、作る時間がほしかった。


でも、逃げられない。


通話を受ける。


「……今、大丈夫?」


少しだけ硬い声。

いつもより、距離のある音。


大丈夫じゃない。

でも、そう言う余裕もなかった。


「はい」


それだけ返す。


短い沈黙。

向こうが、息を整える気配。


「昨日から、少し……状況が、動いてて」


曖昧な言い方。

それだけで、何を指しているか分かる。


噂。

写真。

界隈。


「事務所から、連絡があった」


胸が、静かに沈む。


来るべきものが、来ただけなのに、

覚悟は、全然足りていなかった。


「説明を求められてる。

一緒にいた人が誰かとか、

どういう関係なのかとか」


一言一言が、丁寧すぎる。


選びながら、話している。

間違えないように。

傷つけないように。


でも、それはつまり――。


「俺は、何もないって言う」


その言葉が、静かに落ちた。


否定。

切り分け。

線引き。


分かっていた。

そうするしかないことも。


それでも。


喉の奥が、ひりつく。


「あなたの名前は、出さない」

「一般人の知り合い、で通す」


“通す”。


事実じゃなく、処理としての言葉。


私は、何も言えなかった。


正解だ。

それが、正解。


あの人を守る。

仕事を守る。

居場所を守る。


そのためには、

私は、切り捨てられる側になる。


「……ごめん」


最後に、そう言われた。


謝られる立場じゃない。

でも、否定する力もなかった。


通話が切れる。


静かすぎて、耳が痛い。


守られる側と、

切り捨てられる側。


線は、こんなにも簡単に引かれる。


スマホを置いて、

しばらく、動けなかった。


選んだのは、自分だ。

分かっている。


それでも。


推していた人を守るために、

自分が、いなかったことにされる。


その現実が、

思っていたより、ずっと重かった。

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