#僕 1
最悪だ、こんな奴に一瞬だけでも「恋」したなんて。
今度は目覚めるところからじゃ無い。右手にある銃はまだ煙が出ていて、「僕」だった体は痙攣している。
なんで銃なんか持っているのか。何故殺したのか、何故すぐに「憑依」が済んだのか…。色々と考えることがあったのにまず浮かんできた感情は後悔だった。もう少し冷静になっていればこの「ごーすと」と名付けれられていた現象についてもっと聞き出す事が出来たかも知れない。それを、くだらない恋愛感情なんかで台無しにしたんだ。僕に関わる恋愛なんて碌な事が起きていないと。銃を置き、動かなくなった体の温度を確かめる様に手を置いて、今までの憑依を振り返る。
一つ前の僕は仲の良かったアイドルオタク、かつて僕の唯一無二の親友でもあった。
一人称が「拙者」なんて傍から見たら気持ち悪いだろう。でもかなり頭が冴えていて、憑依の事もすぐに理解してくれた掛け替えのない親友だ。途方に暮れていた僕に希望をくれたのだ。それが…こんなになっちゃったんだ、頭に穴開いて目があらぬ方向を向いている死体に。
その前は…覚えていないわけじゃなくて何も素性を知らない謎の女。この女の所為で下らないオバケごっこが始まったんだ。あの女が僕を殺してから色々おかしくなった、いっそ死んでしまった方が楽だったのに。
…やめよう、死んで良い事なんて無い。生きている以上「死にたい」なんて考えるな。だから手を差し伸べたのに、もっと互いの事を理解しあえていたら僕はこんなに悲しまなくて済んだのに。この嘆きは、ただのエゴなのかな。
もう忘れかけていた、最初の僕は正義感の強い厨二病。思い出しといて酷い言い様。でも一番悩みが小さくて幸せだった。拗れていなければ謎女時代の僕を殺したメンヘラ女と付き合っていたかもしれない。苦労はするかもしれないが誰も死ぬことは無い平和な世界のままであったのかも。今となってはもう夢物語で、僕は起きた物事を振り返って泣くことしか出来ない人形でしか無い。
完全に冷たくなった死体から手を引き自分の頬を触る。やっぱり泣いている、考える事にいっぱいで涙が溢れていることに気づかない位に。だって。僕はどうしたらいいの。また誰かに殺され続けて泣かなきゃいけないの?
「誰か…助けてよ…」
そんな事呟いたって都合良く誰かが来てくれるわけないじゃないか。この非現実を受け入れろよ。
「良い加減にしろよ!」
僕は誰に怒っているのだろう。それは情けない僕に対してか、現実から目を背けるなって言う本能だろうか。孤独な部屋に大きな声が響いた。
するとどうだろうか、静かだった家に足音が聞こえてくる。一瞬願いが叶ったと錯覚したがすぐ冷静になり空っぽの銃を構えて扉を睨む。親友は凄かった、アイドルは事情を知っていた。偶々だったんだ、この現象を理解していたのは。見ず知らずの警察が介入したとして説明出来ないし更にややこしくなるだけ。ならいっそ捕まってしまおうか、僕が殺しましたと言って逮捕されればこんな状況よりマシになるのでは。だがそれだと人生諦めましたと言っているようで気持ち悪くないか。扉が開くまでほぼ混乱していた僕の元に来た人物は
「サファイア…?」
また誰なんだよこの女!
髪の下が緑色で、金髪であればプリンと言った所ならこの髪型は
「抹茶プリン!」
「誰が抹茶プリンだ 冗談言える位には落ち着いたか」
死体を慣れた手つきで袋に入れていく謎の少女。少なくとも今は殺されなさそうだけどこれまで何度も選択を誤ってきたんだ。慎重に会話せねば。
「ところで…『ごーすと』って知ってる?」
「なにそれ」
もうしくじったか。この現象を知らない人だし冷たそうな人で会話しにくい、説明できる気がしない。
「えっと…僕色々ショックで記憶を失った…って言ったら信じる?」
「えー…また?」
苦し紛れに考えた記憶喪失作戦だったのに「また?」と返された。このサファイアって奴身内に変な言い訳でも吐くのだろうか。謎が謎を呼んでしまい頭を抱えてしまう。てかなんでこの少女は死体の対処に慣れてるんだよ、まさかコイツもメンヘラ殺人鬼で僕はまた殺されるのかも。
「あーもう!殺されるなら今殺せすぐ殺せ!」
「落ち着け!記憶喪失だって分かったからちょっと黙ってろ!」
「辞世の句を考えさせてくれるんだね 今までで一番優しいかも」
「殺さねぇから!記憶無いなら私がそういう事してるのも知らない筈だろ!」
言ってからハッと気付いたように少女は口に手を当てる。殺人はしてるって事か、もう驚くのも疲れたな。疲れた顔にあまり痛くない拳が飛んできた。
「お前が死んだら誰よりもルビーが悲しむだろ!」
また知らない女出てきたよ。あっちも複雑な事情があることを察したがこちらも大概だと思うんだ。共に理解が出来るのか不安でしか無い。
…少し思い出した。この体、「サファイア」はライブの時もう一人出てくるんだっけ。青い髪に対してあの子は髪が赤くて、確か名前が…
「『ルビー』だ!思い出した!」
「お前なんでしょっちゅう記憶無くすの?」
冷静なツッコミに何も言えなくなってしまった。
やっと、交わり始めた。




