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【第8話:魔王についての噂】
これまで魔王は恐怖の対象だった。
魔王とは、魔物を率いる悪の根源。人類の敵。
勇者によって滅ぼされるべき存在。
ところが、今回の話は違っていた。
村の端の小さな家に暮らす勇者リオの母は、魔王と頻繁に伝書魔鳥を介して連絡を取り合っているという。
さらに彼女が村の人々や出入りする商人に話す内容は驚くべきものだった。
「この間、魔王城に行って魔王に会ってきたの。現魔王は……ただの大きな犬よ。人類に敵対しているどころか、愛嬌があって、親しみやすさは抜群だったわ。」
村人たちは半信半疑で耳を傾けた。魔王が大きな犬?それも人間に敵意を向けていない?そんな話はこれまで聞いたことがなかった。
しかし、勇者の母親が実際に見て来たというこの話が国内外に広まるにつれ、人間側は新たな勇者を魔王城に送り込むことに消極的になっていった。




