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【第7話:魔王城の食糧事情】

魔王城の中に響く足音は一つだけ。

朝の見回りをしている、勇者リオのそれだ。

彼は、この城へ「魔王」を討伐するため、やってきた。


しかし、魔王は、想像とは少し、いや――かなり違った。

その魔王とは――「まく」という名前の、モフモフ虎毛の秋田犬である。


「……あぁ、腹が減った。」


まくは、玉座にいつものように座りながら、ぽつりとそう漏らした。


魔王である彼は、どうやら「魔王特典」なる何かにより、食べなくとも死ぬことはない。

だが、空腹感はちゃんとある。いや、むしろ普通にある。


魔王城には、食料がほとんど残されていなかった。

以前の住人たる魔物たちは、食料をどうしていたのか――まくにも分からない。

外に狩りに出ていたのか?それとも、共食い……?

考えるほどに謎は深まるばかりだ。


リオがここに来てから数日間は、彼の持ってきた干し肉でなんとか空腹をしのいでいた。

だがそれも、やがて底をつく。


「なぁリオ。このままだと草とか食い始めそうだ。」


そんな愚痴をこぼす。


すると、リオは少し笑って言った。


「じゃあ、罠でも仕掛けてくるよ。」


それからのリオは、毎朝見回りのついでに、魔王城周辺に簡単な罠を仕掛けるようになった。

そして、たまにイノシシや野兎のような獣を捕らえては、自らさばいて干し肉に加工した。

目を丸くするほどの手際のよさだった。


「器用だな、お前……いや、この世界じゃ当たり前か?」


ある日、城門の前に一台の小さな馬車が停まった。

馬車の手綱を取っていたのは、リオの母。


「息子がお世話になっているから。」と、彼女は笑いながら、干し肉の詰まった樽を三つも降ろした。


「いや、お世話になってるのは、ぼくの方なんだけど……」


女一人で危険な道のりを旅して大丈夫なのか、などと心配してたら、リオが教えてくれた。


「母さんは、生活魔法が使えるから、大丈夫だよ。」


火を起こすことから、魔獣除けの結界を張る、車軸を強化する魔法まで――

日常を支える生活魔法は、この世界ではごく一般的らしい。


冗談のつもりで、突風を発生させて敵を全滅させたり、大水を出して水攻めにしたり、大火力で竜を焼き払ったりみたいな、そういうすごい魔法ができるやつはいないのか訊いてみたら


「そういうことができる人もいるって噂だけど……誰も見たことないんだよな。」


リオはそう言って笑った。



まくはこの世界に来た時のことを思い出す。

召喚は……世界と世界を繋ぐのは……異次元の魔法になるんだろうな。


きっと魔物の中に、その希少な使い手がいたんだろう。

その貴重な術が、ぼくが「吠えた」ことで、失われてしまったのだとすれば──


「……ちょっと、勿体ないことをしたかもな。」


夕飯の干し肉をむしゃむしゃ食べながら、そんなことを考えていたが、やがて考えるのをやめると――


「……ま、いっか。」


玉座の間に、秋田犬の魔王の咀嚼音だけが響いた。

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