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【第6話:リオの母さんがやって来た】

リオが城に来てから三週間が過ぎた。


勇者リオ、十七歳。

彼の故郷は、魔王城から南へ四百キロほどの小さな村。


魔王討伐にやって来た彼が、いまや魔王城に住み込みで「魔王の飼い主(?)」をしているのだから、人生とは不思議なものだ。


その日も、リオはいつものように魔王城を散歩がてら見回りしていた。


朝霧に包まれた魔王城の城門の外側。見慣れた風景の中に、彼は“異物”を見つけた。


「……えっ?」


巨大な扉の前に、小さな幌なし馬車がぽつんと止まっていたのだ。

しかも、その馬車に乗っているのは――


「……母さん!?」


リオは叫びそうになるのをかろうじて堪え、慌てて門を開くレバーを操作する。


ギギギィ――と重々しい音を立て、鉄と魔力で強化された城門がゆっくりと開いていく。

リオの母はまるで故郷の村の門をくぐるかのように平然と中へと進み、リオの元へと馬車を進めた。


「……何しに来たの? ここ、魔王城だよ?」


「魔王様にご挨拶しに来たんだよ。まくちゃんにはお世話になってるからねえ。」


実はまく――虎毛の秋田犬の魔王は、リオを“飼い主(せわがかり)”として手に入れた(?)ものの、忠義な犬の性格からか、リオが魔王城に住むことになった経緯と彼の現在の様子を、こまめに伝書魔鳥でリオの故郷へ知らせていた。


その「報告」を受け取っていたのが、まさにこの母だった。


リオは渋々ながらも母を玉座の間へと案内することにした。


**


魔王まくは、玉座の上で前足を組み、あくびをしていた。

リオとその母が玉座の間へ入って来ると、ちらりと目をやる。


リオの母はまくを見るなり、思わず声を上げた。


「あらやっぱり! 思ってた通りだわ!」


そう言って魔王の近くまで駆け寄る。

それを見たリオは少し慌てたが、母は満足げに笑い、リオに向かってこう言った。


「来た甲斐があったわぁ……」


まくはただ面倒くさそうに母を見つめ、すぐに視線を逸らして横になろうとした

――が、大きく目を見開く。


まくの視界に飛び込んできたのは、リオのほうを振り返った母の上着の背中――

そこには、まくに瓜二つの虎毛の秋田犬の刺繍が、背中いっぱいに施されていたのだ。


「勝手に想像して刺繍したんだけど。まさか、本物とそっくり同じだったなんてねぇ」


(……この人間、一体何者だ?)


まくは横目でリオの母を見ながら、内心で唸る。


(ただの田舎の母親……ではないな。何かある。いや、あるに違いない……)


その日から、魔王まくはリオの母を「気になる存在」として、意識し始めたという。

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