表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/150

【第61話:夢の力】

ホスイの街――夜。レグルス商会の貴賓室。


ふかふかのベッドには勇者リオが、安らかな寝息を立てて眠っている。

まくはその隣、窓際の絨毯のない床で、体を丸めていた。


魔法ブラシでどれだけ手入れをしていても、犬は犬。毛が抜けるのは仕方ない。

リオの寝ている寝具を汚すわけにはいかない――そんな律儀な魔王である。



――夢の中。


一面の暗黒。どこまでも深く、音も光もない。


ふと、その漆黒の闇に、小さな紫の光がひとつ、またひとつと灯りはじめる。

やがて、それは無数の瞬きを伴って浮かび上がり、まるで星空のように広がっていく。


その紫の光の集団から、細く、やさしい声が聞こえてきた。


「……あのときは助けてくださって、ありがとうございました。」


「……助けた覚えはないのだが?」


「いいえ。あの暗黒の中で絶望していた私たちを、あなたは間違いなく救ってくれました。」


「……そうか。なら、どういたしまして?」


まくは首をかしげながらも答えた。


「おまえたちは……いったいなんだ?……魔物なのか?」


「そうですね。魔力を宿している、という意味では……私たちは極小の魔物かもしれません。けれど、魔力を持つというだけなら、人間だって魔物と同じなのです。」


「……なるほど。で、用件はなんだ?」


「私たちはあまりにも小さく、あなたにお返しできる力など本来はありません。

ですが……あなたは以前、咆哮の力をコントロールしようとしていましたよね?」


まくの脳裏に、魔界ゴキブリを吹き飛ばすために試した“極小指向性咆哮”のことが浮かんだ。


「それなら、私たちにも協力できます。これからは、どんな対象でも――あなたの“吼え声”で、自由に選択して吹き飛ばせるようになります。音も、力も、あなたの思い通りに。」


言葉が終わると同時に、紫の光は淡くきらめきながら霧のように消えていった。



**



朝日が差し込み、まくは目を覚ました。


立ち上がって大きく伸びをし、窓辺に前足をかけて身を乗り出す。

あくびを一つしたまくの目に、下の通りの様子が映った。


ガラの悪い男たちが、果物売りの少女に絡んでいる。


「オラオラ、そっちからぶつかったって言ってんだろうが!」


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」


「謝って済むなら、衛兵はいらねぇんだよ。」


男の一人が短剣を振り上げ、少女に向かって一歩踏み出した、その瞬間。

まくは、小さく一声――「ウォン」と吼えた。


その咆哮は、ごくごく小さなものだった。

しかし次の瞬間、男の手にあった短剣が、黒い霧のようにシュウゥと消え去った。

続いて、周囲にいた他の男たちの腰に下げられた剣も、同様にして消失した。


「なっ、おれの短剣が……!?」


「剣が……ねぇ!?」


騒ぎ立てる男たちを、まくは窓の上から静かに見下ろす。


――あれは、夢じゃなかったのだ。


あの紫の光の群れ、小さな魔物たち。

あれは確かに、まくに新たな力を与えてくれた。


(けど……あいつらに、おれはいったい何をしてやったんだろうな?)


そう思いながらも、まくはもう一度あくびをすると、静かに窓辺から降りた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ