【第4話:召喚されし者】
秋田犬のまくは、犬生を最後まで生き抜いた。
やさしい飼い主と過ごし、毎日公園を散歩し、家では気ままに昼寝をする暮らし。
「それなりに幸せな犬生だったワン。」
あるじに看取られながら、まくは静かに息を引き取った。
意識が遠のき、やがて深い闇に包まれ……次の瞬間、再び目が覚めた。
そこは壁も床も天井も黒一色でできたかのような空間。
天井は高く、空間の奥には異様なまでに背もたれの高い台座があった。
まくは即座に、そこが魔王城の最奥、玉座の間であると理解した。なぜかは分からない。
ただ、体の奥深くでは、それが「正解」であるという確信があった。
床では、まくを中心に直径5メートルほどの赤光を帯びた円形の模様が渦を巻きながら消えつつあった。
玉座には、禍々しいほど巨大な影が支配者の風格を漂わせて座っていた。
そしてその左右には、膝をつくように震えるいくつかの大きな影、それから数多の小さな影たち――
明らかに、この巨大な影に忠誠を誓っているようだ。
まくは警戒し、身構えると、いつも不審者に向かうときのように――吠えた。
その瞬間――玉座の間を埋め尽くしていた影たちは、吹き飛ばされるように消えた。
残されたのは、荘厳な玉座と、漆黒の広間のみ。
まくは、まだ警戒しながらもゆっくりと玉座に近づくと、その上に飛び乗った。
悠然と腰を下ろすと、口から自然に言葉が出てくる。
「我が名はマク・・・魔の王なり。」
その声が響いた瞬間、城の壁が震え、魔王城に新たにその名が刻まれた。