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【第3話:スライム見つけた】

魔王城の廊下を、勇者リオは汗ばみながら歩いていた。


魔王城周辺は、気温が高めだ。

すぐ近くには活火山があり、岩肌からは蒸気が立ち昇っている。


昼間は、石造りの城の中でも気温が30℃を超えることも珍しくない。

今は夏なので、外の気温は40度を超えているかもしれない。


「暑がりのまくに、何か役立つものがあれば……」


――と考えながら歩いていると

柱の陰で何かが微かに震えているのが目に入った。


透明で、ぷるぷるとしたその姿は──スライムだ。


「……君、どうしてこんなところに?」


そっと手を差し伸べると、スライムはひるむ様子もなく、リオの手の中におさまった。

ひんやりとした感触が、手のひらに心地よく伝わる。


「うん、これは……使えるかも。」


そう思ったリオは、スライムを抱えたまま玉座の間へ駆け戻った。


**


魔王城、玉座の間。


「……あつい。」


玉座の上で、だらりと横たわる魔王まくの口からは、間延びした声が漏れていた。

全身が毛に覆われたその身体は、夏の暑さの中で冬用の毛布かぶっているようなものだ。


本人曰く、「前の世界ではエアコンという道具があってな……」と暑さへの愚痴をこぼしていたが、今この世界にそれはない。


すると、片手に小さなスライムを抱えたリオが玉座の間に飛び込んできた。


玉座の間に備え付けられた銀鋼製の大皿に、水差しから水をたっぷりと注ぐ。

その中に、さきほどのスライムをそっと入れると──


ぷるん……ぶるるるるん


水を吸収したスライムは、みるみるうちに膨らんでいった。

50センチほどの大きさになると、その姿は透明なクッションのようになった。

リオはそれを両手で抱え、慎重に玉座へと近づく。


「ちょっと失礼しますね……」


スライムを、寝そべる魔王の背中からそっとかぶせた。


ひんやり


「……っ……!?」


まくの体がピクリと動いた。


虎毛を通して伝わる冷たさが心地よく、火照った体温をゆっくりと奪っていく。


やがて──


「……これ……さいこう……」


まくの顔がゆるんだ。

そのまま、目を閉じて、スライムの重みに身をまかせる。


リオはその様子をそっと見つめながら、小さく笑った。


「ふふ……やっぱり、持ってきてよかった。」


魔王城は暑さに満ちている。


けれど、玉座の間の片隅には、透明な冷感スライムと、それに包まれた魔王と、そしてその姿を嬉しそうに見つめる勇者がいた。

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