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【第38話:あっけなく城外へ】

虎毛の秋田犬の魔王まくは、その日も懲りずに城外を目指していた。


幾度となく挑戦してきた、外が見えているのに越えられぬ城門。全力で駆け抜ければそのまま外へ出られるかと思いきや、気づけばまた、城壁広場の中に戻ってきてしまう。


「クソ……!」


舌打ちすらしたくなる。しかし、まくは犬だ。舐められてたまるか。犬の執念深さを、この城門に見せてやろうじゃないかと、何十回となく突撃を繰り返す。


――そのときだった。


「……いほう…ま…すか?」


聞き慣れぬ、どこか無機質な、それでいて優しくも感じる声が、聞こえたような気がした。


(は? 今、なんて?)


まくは鼻をピクリと動かす。辺りに誰の気配もない。が、たしかに何者かの声がした。


「もしかして、リオか……?」


どこか高い場所からこの滑稽な努力を見て、ニヤニヤ笑っているのではないか?


「ふざけやがって……!」


まくは、頭を低く構え、四肢に力を込め、吠えるように叫びながら、いつも以上の勢いで城門へと突進した。


そして、開放された城門へと飛び込んだ、その瞬間。


「――かいほうしますか?」


今度ははっきりと、耳の奥に響くような声がした。


それが何を意味するのかまくには分からなかったが、「かいほう」という言葉に、何かしらの突破口を感じた。


開けられるものなら、開ければいい。脱ぐものがあれば、脱いでしまえばいい。城門の外に出られるのなら、何だってする――


解放(じゆうに)してくれ……」


つぶやくように、でも確かにそう答えたとき、不意に、背中のどこかが“カチャリ”と音を立てたような気がした。


その直後。


ふっと何かが緩み、まくの身体が抵抗もなく、空気を切るように城門の向こう側へ――すり抜けた。


「……え?」


ぽかんとした顔で振り返る。そこには、何事もなかったかのように開かれたままの城門と、静まり返った城壁広場があった。


風が吹いている。


今、まくは確かに城門の外に立っている。


「なん、だと……?」


愕然とした。今までの苦労はいったい何だったのか。あの、汗と鼻水とよだれを混ぜたような努力の日々は? あの筋肉痛は?


背後で誰かが「くすっ」と笑った気がした。振り返っても誰もいない。


けれど、まくは確かに理解した。


あの城門は、「解放されたい」と願い、自らを委ねたときに、初めて開くものだったのだと。


「……なんだよそれ……」


小さく、けれどどこか晴れやかな声でつぶやいて、まくは前を向いた。


そこには、まだ誰も踏み入れていない、まく自身の冒険の道が広がっていた。

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