【第30話:来客色々】
「ふう……」
玉座の上で、モフモフ虎毛の秋田犬の魔王まくは、ため息をひとつこぼした。
今日は魔王城に来客がやけに多い。
もっとも、そのきっかけは、リオの母が「今の魔王は大きな犬なのよ」と軽く話したことなのだが。
その話に尾ひれがつき、背びれがつき、ヒレというヒレをフル装備して、変なうわさが国中に広がった。
「魔王は今、毛づくろいに困っているらしい」
「新しい飼い主を探しているらしい」
「魔王領の未来を憂い、良い占い師を探しているらしい」
「座り心地の良い新しい玉座を求めているらしい」、、、
——―結果、この静かな魔王城に、参拝ブームが到来してしまった。
**
「魔王陛下! この玉座を見てください! 最高級クッション入り、炎にも水にも強い、そして回転式!」
商会の荷馬車に積んだ椅子の説明をするのは、ハーネル州の名門・エアハーネル家の五男にして、「ハーネル商会」の若き会頭ガイ=エアハーネル。
「エルミナ王宮御用達の名にかけて、陛下にぴったりの品をお届けに参りました!」
まくはじっと彼を見つめた。
静かに立ち上がり、ガイの乗っていた豪華な馬車に歩み寄る。
「ま、まさか、馬車のほうを、お気に召された……?」
まくは馬車の車輪に脚を上げ、小便をひとしぶきかけた。
「……帰れっ!」
**
続いて、ホスイで一番の占い師ネザリーが登場。
香水のきつい香りが風に乗ってやってくる。
「魔王様のお悩み、香りと星の力で解決しますわ」
「この洗髪剤、魔王様の毛並みにぴったりですよ」
彼女はそう言って、月光草の香り入りだという洗髪剤を売りつけようとした。
**
さらに、肖像画家のメリア夫人。
「まあまあまあ! この毛並み、気高さ、そしてこのふてぶてしい表情! ぜひ描かせてください、お願い!」
彼女の目的は肖像画だけではなかった。
「うちの小型犬、お年頃の娘なんですの。そろそろお婿さんを……」
「…………」
**
ようやく静けさを取り戻した魔王城。
秋田犬の魔王まくは、玉座の上にどさっと横たわった。しっぽをくるりと巻いて、頭を前足の上に乗せる。
「ぼくは……見世物じゃない。」
そう心の中で呟く。
静かで、穏やかで、ほどほどにブラッシングされて、毎日干し肉がもらえる。そんな魔王生活が理想だった。
だが、、、
「まく――、王宮からの特使が来たよ……!」
まくの耳がぴくりと動く。
またか──。
「ふう。」
今日二度目のため息が、玉座の間にこだました。




