【第20話:ワイバーン再び】
魔王城の玉座の間では、魔王まくと勇者リオが珍しく穏やかな昼下がりを過ごしていた。
「……最近、平和だなぁ」
「ワイバーンを百体ほど一吠えで消して以来、静かだな……」
だがその時――
バサバサバサバサッ!!
突如として、城外から巨大な羽音が響いてきた。
「また来たな……!」
まくは眉ひとつ動かさずに立ち上がり、リオを伴って城壁広場へと向かった。
さあ、再びワイバーンの大群……かと思いきや、今回は一体だけ。
それも、先日の群れとは明らかに違う。体は漆黒に輝き、目には知性の光が宿り、翼をゆっくりと折りたたみながら、空中に優雅に浮かんでいた。
「……おお?」
まくが訝しげに目を細めたその瞬間、そのワイバーンが空中で翼を広げ、くるりと旋回し、前足を胸にあてるような仕草を見せた。
それは――ワイバーン流の礼だった。
リオも口をポカンと開けたまま見上げていた。何が起きているのか、脳が理解を拒否しているようだった。
ワイバーンは、低く重厚な声で語り出す。
「大魔王まく殿、そして勇者リオ殿。先日の我が弟たちの無礼……まことに申し訳なかった。我らの愚行により、あなたの力の深さをまざまざと知ることとなった。」
まくは軽く肩をすくめ、あくび混じりに言った。
「別に気にしていない。たいして歯応えもなかったからな。」
リオは内心「こわっ……」と叫びながら、まくの肝の据わりっぷりに戦慄していた。
ワイバーンはさらに翼を畳み、地面に降り立った。そして頭を下げた。
「我らワイバーン族は、これより貴殿らと友好を結びたい。敵対ではなく、互いに高め合う関係を築こうではないか。」
魔王まくは、その場に凛と立ったまま少し考え、やがてニヤリと笑った。
「ふむ、いいだろう。だが裏切れば……次は族長だろうが一吠えで消し飛ばす。」
その言葉に、ワイバーンは首を深く垂れた。
リオはというと、横で完全に固まっていた。生まれて初めて見るワイバーンの圧倒的な存在感と、それ以上に涼しい顔でそれに対応する魔王まくの姿に、尊敬を通り越して恐怖を覚えていた。
(……すごい。すごすぎる。でも早く終わってほしい、この怪獣会議……!)
そして数分後、ワイバーンは礼儀正しく再び空へと舞い上がり、去って行った。
リオはその場に崩れ落ち、地面に手をついて呟いた。
「もう……こりごりだよ……」
まくは空を見上げながら、ポツリと漏らした。
「ワイバーンにも話が通じる奴がいたとはな……」
こうして、魔王まくと勇者リオのもとに、思わぬ友人――ワイバーン族が加わった。




