【第14話:お芋は嫌いです。】
「来たよーーっ!!」
玉座の間に勢いよくリオが飛び込んできた。頬を紅潮させ、手には大きな木箱を抱えている。
「またワイバーンか?」と、玉座に鎮座していた秋田犬の魔王まくが目を細める。
リオは木箱をドンと床に置き、にっこりと笑った。
「違うよ! これ、うちの田舎から届いたんだ!」
……その瞬間、まくの鋭い鼻がぴくりと動いた。
そして、嫌な予感がした。
案の定、その予感は的中する。
リオが木箱の蓋を開けた瞬間、漂ってきたのは……濃厚すぎる芋の香り。
「さつまいもグラタン、里芋の煮っころがし、じゃがいもとチーズの春巻き……」
リオが誇らしげに次々と料理を取り出すたび、玉座の間の空気が芋で満たされていく。
まくの脳裏には、前世での芋の記憶が蘇っていた。
――芋のあの食感。ねっとり、もそもそした、それでいて妙な甘さ。そして喉に引っかかるあの感じ。
まくにとって芋は、トラウマそのものだった。
「それじゃあ、まずはこれ! 特製・焼き芋みそバター!」
リオは小皿に盛ったそれを手に取ると、ニッコニコの笑顔で魔王の元へ近づいてきた。
「ほら、あーんして?」
「おいリオ、やめ――」
「だいじょうぶ! ぜっっったい美味しいから!!」
まくが抗議の声を上げる間もなく、リオは一気に芋を口に押し込んだ。
――その瞬間。まくの口の中に、“トラウマ”の衝撃が走る。
ヴォゴォオオオオ!!!!!!
まくの口から、すさまじい勢いで芋が弾き飛ばされた。
弾丸のように放たれた芋は、リオの鼻先をかすめ、そのまま王座の間の壁を突き破った。
ドゴォォン!!
粉塵が舞い、魔王城の壁には風穴が空き、そこから外の景色がのぞいている。
リオは目を見開いたまま、その場に立ち尽くしていた。
数秒の沈黙。
まくは深いため息をつくと、厳かに言った。
『——―芋は、絶対に食わぬ!!!』
こうして、芋料理は魔王城では禁忌とされることになった。
(ちなみに芋料理はリオが残さず食べた)
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後日。リオの母から丁寧な詫びとともに干し肉二樽が送られて来た。




