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【第13話:街道ルート】

魔王城と人間の領土の最北端――ホスイの街を結ぶ古道(通称:魔王の道)は、

およそ百キロの距離を隔てながらも、ところどころに苔むした石畳が顔を覗かせていた。


意外なことに、道が整っているのは魔王領の方であり、

人間の側はむしろ、雨が降ればぬかるむような土道ばかりだった。


魔王城の周囲には、いまは見る影もないが、

古の時代に栄えた温浴の街があったとされる。

活火山の噴火により滅びたという言い伝えもあるが、

それを裏づける記録は何ひとつ残ってはいない。


また、魔界の森――別名「魔の樹海」には、かつては栄華を誇った王国があったとも語られている。

だが、今は深い森に覆われ、その痕跡すら、人の目に触れることはない。


**


古道を、一台の幌馬車が走っていた。

背を丸めて手綱を握るのは、商人のムヒサ。

人間のなかでも珍しく、冷却の魔法を扱えるため、重宝されていた。

とはいえ、魔法の効能範囲はせいぜい木箱ひとつ分。


しかし暑さにも腐らせず商品を運べる男――

それが彼の評判であり、金を払ってでも彼の馬車を利用したい者は後を絶たなかった。


今日の積み荷もまた、特別なものだった。

それは、リオの故郷デント村から預かってきた、大切な品々。


道中、ムヒサは口元をほころばせた。

「まさか、あの魔王が“ただの犬っころ”とはな……世も末か、いや、世は平和か。」


最近、人々の間ではこう囁かれている。

「新しい魔王はモフモフの大きな犬である。」と。

その噂はホスイや近隣のカドの街ばかりでなく、遠く中央の王都にすら届きはじめていた。


**


やがて馬車は、魔王城にたどり着いた。

日が傾き、赤く染まった空の下に、巨岩の黒い城は静かにそびえていた。

城門を入ると、城の入り口ではリオが待っていた。


「よう、リオ。荷物、持ってきたぞ。おふくろさんが張り切ってたよ。」


ムヒサが冷却魔法で包んでいた木箱を手渡すと、リオはにっこりと微笑んだ。


「ありがとう、ムヒサ。母さんによろしく伝えて。」


そういうと、リオは箱を抱えて嬉しそうに城の中へと戻っていった。


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