【第13話:街道ルート】
魔王城と人間の領土の最北端――ホスイの街を結ぶ古道(通称:魔王の道)は、
およそ百キロの距離を隔てながらも、ところどころに苔むした石畳が顔を覗かせていた。
意外なことに、道が整っているのは魔王領の方であり、
人間の側はむしろ、雨が降ればぬかるむような土道ばかりだった。
魔王城の周囲には、いまは見る影もないが、
古の時代に栄えた温浴の街があったとされる。
活火山の噴火により滅びたという言い伝えもあるが、
それを裏づける記録は何ひとつ残ってはいない。
また、魔界の森――別名「魔の樹海」には、かつては栄華を誇った王国があったとも語られている。
だが、今は深い森に覆われ、その痕跡すら、人の目に触れることはない。
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古道を、一台の幌馬車が走っていた。
背を丸めて手綱を握るのは、商人のムヒサ。
人間のなかでも珍しく、冷却の魔法を扱えるため、重宝されていた。
とはいえ、魔法の効能範囲はせいぜい木箱ひとつ分。
しかし暑さにも腐らせず商品を運べる男――
それが彼の評判であり、金を払ってでも彼の馬車を利用したい者は後を絶たなかった。
今日の積み荷もまた、特別なものだった。
それは、リオの故郷デント村から預かってきた、大切な品々。
道中、ムヒサは口元をほころばせた。
「まさか、あの魔王が“ただの犬っころ”とはな……世も末か、いや、世は平和か。」
最近、人々の間ではこう囁かれている。
「新しい魔王はモフモフの大きな犬である。」と。
その噂はホスイや近隣のカドの街ばかりでなく、遠く中央の王都にすら届きはじめていた。
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やがて馬車は、魔王城にたどり着いた。
日が傾き、赤く染まった空の下に、巨岩の黒い城は静かにそびえていた。
城門を入ると、城の入り口ではリオが待っていた。
「よう、リオ。荷物、持ってきたぞ。おふくろさんが張り切ってたよ。」
ムヒサが冷却魔法で包んでいた木箱を手渡すと、リオはにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、ムヒサ。母さんによろしく伝えて。」
そういうと、リオは箱を抱えて嬉しそうに城の中へと戻っていった。




