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【第113話:竜帝の昔語り その二】

竜帝は話を続ける――


”船”は、まるでこの世界そのものを威圧するかのごとく、天空にその巨体をとどめていた。

大地に黒く渦巻く嵐の上空で静止した”船”は、百年の時を経ても動くことなく、ただそこに存在していた。


しかしある日、夢が醒めるように、大地の黒い嵐がすっと消えた。

”船”から再び無数の小さな船が、ゆっくりと地上へと降下すると、乗っていた者たちを地に降ろし、”船”は空の彼方へと消えた。


降ろされた者たちはおよそ三つの種に分けられているようだった。

まず、白銀の髪に、透きとおるように白い肌を持った美しい男女。

次に、彼らを崇めるように従う、青白い肌と灰色の髪の人々。

そして、まるで魔物のような強靭で耐久性のある躯体をした者たち。


若き竜帝は、山脈の中腹にある洞窟宮殿から、静かに異質な者たちの様子を窺うことにした。

再び”船”が現れるのではないかという恐怖が、彼の翼を縛ったのだ。


だが、その不安は裏切られる形となった。”船”は二度と来なかった。

地上に降り立った者たちは、それから驚くべき速さで文明を築き始めた。

集落は村へ、村は都市へ――

やがて彼らは鉄の獣を作り、空に触れんばかりの高い塔を建て始めた。

その進歩は、あたかも始めからそうなることを知っていたかのようだった。


それから数百年の時が流れた。

ある日のこと、鉄の獣に乗った使者が洞窟宮殿を訪れた。

その使者は丁重な態度で礼を尽くし、竜帝の前にひざまずいた。


「お目にかかれて光栄です、竜の長よ。

 わたしはイスロニア王国を治める王族のひとり――

 ロアルセアーナ=ライネンニュージカと申します。」


白銀の髪と白い肌。気高く、美しく、どこか厳かな気配をまとう女性であった。

彼女は語る。

イスロニアは平和を望むものであり、竜族に危害を加えるつもりはない。お互いに争いを望まぬことを確認したい――と。


「既に“親”たる存在に痛手を負わされておるのだがな。」と竜帝は苦笑したが、それでも相互不干渉の契りを交わした。


そして、さらに千年あまりの歳月が過ぎた――ある日、イスロニアから再び彼女がやって来た。

白銀の髪も、透きとおる白い肌も、かつて会ったときとまったく変わらぬまま。

かすかに疲れた表情を浮かべ、それでも毅然とした態度で竜帝の前にひれ伏した。


「どうか……これらの民を、あなたの国へ避難させていただけませんか。」


彼女の背後には、数千にも及ぶ魔物と思しき男女が立ちすくんでいた。

恐れと不安の入り混じった目で竜帝を見つめている。


話を聞けば、王国では謎の病が蔓延し、人々が次々に黒い石となって命を落としているという。


「彼らを竜帝陛下に託します。

 わたしはこれから、残る者たちを別の場所に避難させ、そして……父王のもとへ行かねばなりません。」


その声に迷いはなかった。

深い悲しみを湛えながらも、すでに覚悟を決めた者の顔であった。

その瞳を見て、竜帝は理解した。

――彼女は自らの命と引き換えに、何かを成そうとしているのだ、と。


「……よかろう、預かろう。」


その後、間もなくして、イスロニアの王都は白き閃光とともに消滅した。


「魔の森を通過するときに大きなくぼみのある場所があるであろう?そこが王都のあった場所だ。」


「ラシュヌよ。我もおまえも“造られたもの”ではない。

 だが――かつてイスロニアより引き取り、今ではその子孫がイスハンベルクに暮らす魔物たちは……おそらく“造られた存在”なのであろうな。」


竜帝は、そこで話を終えた。


「以上だ。下がるが良い」


その言葉に、ラシュヌは静かに深く頭を下げた。


「……また、いつか参ります。」


その言葉だけを残し、彼は静かにその場を後にした。

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