この異世界恋愛はクソゲーだけど
ロックマン8 ~メタルヒーローズ~
オープニング曲 ELECTRICAL COMMUNICATION
にインスパイアされて書いたお話です
『人生なんてクソゲーだ』なんて言葉がある。
過日の私はそれを『甘え』だと断じていた。
こんな神ゲー他にないじゃないかって。
しかし、今では違う考えを持っている。
なぜかって?
転生先がクソゲー世界だったからだよぉ!(´;ω;`)
アナタの身近にいるちょっぴり困った人を思い浮かべてもらうと分かると思うが、依存心が強く自分勝手な人間ほど。うまくいかない理由を外に求めたがるものだ。
そういう人物は、ゲームでも○○が上手くできないって時も、自分で色々と試行錯誤することもなく「え、これバグじゃない?」って思ったりする。はい、前世学生時代の私です。本当にありがとうございました。
で、攻略Wikiなんかを見てみるとやっぱりバクなどではなく、解決方法がキチンとのっていて「なーんだ、そうだったのか。疑ってごめんね」ってなるのがお決まりのパターン。
しかし、そこへ行くと私が昔やりこんだ「どらごん☆メモリアル♪」は一味違う。
攻略Wikiのアンサーはだいたい『こう』なのだ
Q:○○が上手くいかないんですけど……
A:それはバグです。諦めましょう。
ソルティアこと私は、そんなクソゲー世界の転生型ヒロインだ。今日も今日とて『誉め言葉さしすせそ』をフル活用し攻略対象達を立てる言動をしている。
「流石です、知りませんでしたわミート様」
「すごーい、アオナ様」
「センスがいいですね、コーショ様」
ちなみに声質は深刻な病もヒーリンググッドしてしまいそうな美ヴォイス。原作で人気声優様が担当していたからね。これには男性陣も思わずニッコリ。
ただしメインヒーローのヴァニラ王子は除く。
「そのくらいで調子に乗らないでくださいね?ヴァニラさん」
この時だけは腹黒元カノ(かり)の声トーン。
不敬罪にならないぎりぎりレベルでの塩対応だ。
お陰で生徒会室の空気は今日も微妙。
ごめんよ皆、特に王子。
でも、わたくし本当は貴方推しなのよ。
これには深い理由があるの。
「どらごん☆メモリアル♪」、通称どらメモは、一流のデザイナーとシナリオライターに、超豪華声優陣まで参戦し制作された。
加えて『3Dで世界を自由に移動しながら様々なイベントをすすめる画期的な恋愛シミュレーション』という触れ込みで発売前から注目の的に。
そして、発売後も大注目された。
……悪い意味で。
とにかくバグが多かったのだ。
なんでも、デザイナーとライターと声優に予算を割きすぎて途中で資金不足になり、超優秀なフリーランスプログラマーを制作途中で解雇したら様々なバグが修正できなくなり「もうどうにでもなーれ☆」と発売した結果らしい。
そしてそのまま会社は倒産、修正パッチもリリースされなかったという伝説のクソゲーである。
「何でそんな世界に転生しちゃうかなぁ。たしかに前世唯一の心残りはこのゲームのことだったけどさぁ……」
前世は病気で若くして亡くなったんだけど、仕事もオタ活動も頑張って充実したいい人生だったと思う。
両親にはごめんだけど、よくできた兄と妹もいるしそこまで心残りではない。そんな中、私が死ぬ間際に考えていたのが、この世界のメインヒーロー、ヴァニラ王子のことなのだ。
バクだらけの『どらメモ』
中でも特に致命的なものが2つある。
そのうちの一つが巷で『凍れる時の秘法』と言われるバグだ。
なんとドラめもは、『メインキャラが攻略できない』という致命的欠陥を抱えている。
人気者でありながら心の中に孤独を抱える人気キャラであるヴァニラ王子。攻略対象キャラたちは全員、その好感度が80を超えると重大な関係進展イベントへと進むのだが、王子の場合はその際に必ずゲームがフリーズしてリセットボタンを押すハメになるのだ(苦笑)
当時多くのどらメモガチ勢が「バグなどに愛しの推しの生殺与奪の権を握られてたまるか!」と王子エンドを迎えるべくあらゆるルートを探り、そして挫折した。かくいう私もその中の一人である。
そして、病で余命が減る中、何を血迷ったか私は残った時間をもう一度彼を救うことに費やし、しかし望み叶わず寿命が尽きたのだった。
今思うと、『若くして理不尽に寿命を迎える自分』と『理不尽にエンディングを迎えられない推し』を重ね合わせていたのだと思う。
でもまさかその世界に転生するとは思わなかったよ。
なお、当然だがこの世界、厳密にゲームと同じわけではない。みんなそれぞれ自我を持ち、きちんと悩みや考えを持ちながら『生きて』いる。しかし、誰かに事情を話して理解者や協力者を作ろうという考えは今のところない。
と言うのも、世界の強制力がどう働くか不明だし、『この世界は実はバグだらけの作り物だよ』なんて話をするわけにもいかないからだ。
異世界恋愛世界を、のけぞって銃弾を回避するSF映画にするのは私の望むところではない。この世界には電話ボックスもないしね。
実際、この世界に生きる普通の女の子だった私は、15歳の誕生日に、聖女の力と一緒に前世の記憶がインストールされた際、気が狂いそうになった。
幸い人格は今世のまま保たれたっぽいけど、あまりの情報量と衝撃に性格とかちょっと変わった気もするし。
さて、そんなクソゲー世界で生きていくにあたり絶対に押さえておくべきポイントが3つある。
☆1つ目、『私にはヒーロー達の好感度が視える』
彼らの頭上にピンク色の数字が表示されている。間違いないだろう。
☆2つ目。『世界には強制力がある』
少し雑談しただけで他の女性には決して靡かないヒーロー達の好感度が理不尽なほど上がるのを頭上の数字で確認済だ。また、他のヒーローと少し雑談するのを目撃させただけで別のヒーローの好感度は下がっていた。ゲームと同じ仕様だが、自我を持つ人間の思考としては明らかに不自然。おそらく世界に強制力があり、軽いマインドコントロールのような状態になっている。
☆3つ目。『バグは健在』
『壁すり抜け忍者屋敷』と『叩くと増えるビスケット』の、2つの軽微なバグを再現・確認済だ。だから『凍れる時の秘法』もきっと健在。発動したらどうなるの?凍れる時の中で死にたくても死ねないとか……怖っ!
これだけは絶対に回避しなくては......
そして、この世界で『ストーリーを攻略』するには2つの選択肢がある。
(1)順当に3年間過ごしヴァニラ王子以外と結ばれる。
(2)二つ目の致命的バグを利用し、友達卒業エンドまで時間をカッ飛ばす。
私は今回(2)での攻略を目指している。
これは『邪竜討伐RTA』と呼ばれていたものだ。
学園にある竜の像。実は封印されたラスボスの邪竜で、復活までは基本『破壊不能オブジェクト』扱いだが、二年目の学園祭の日だけは破壊できるようになるのだ。
その日、模造品をどんどん壊しながら宝を探すイベントがあり、期間限定で多くの破壊不能オブジェクトが破壊可能になる。その設定時に制作陣がミスしたらしい。
そして、そこで邪竜像を壊すとそのままゲームクリア扱いとなり、卒業式まで強制的に時間がスキップされるのだ。
ちなみに(1)はどのルートでも終盤で邪竜が完全体で復活し、学園をぶっ壊すんだよね。もちろんケガ人も沢山出る。そして明示されてこそいないが、テキストに書かれていた被害状況を見る限り、死者が出る可能性も高い。
何とかして推しの心を救ってやりたい気持ちはもちろんある。多分エンディングを迎えれば世界の強制力は解除されるだろうから、その後にヴァニラ王子とご縁があるかは分からない。しかし命あっての物種だ。きっと私の推しは、最悪私がいなくても、いつか自力で幸せになれる男だと信じている。
と、言うわけで『致命的バグを利用し友達卒業エンドまで時をカッ飛ばす』が現在の目標。こいつを目指して頑張るぞい!!
◇
ソルティアが息巻いているちょうどその頃。
テイル王立学園の生徒会室では、男たちが膝を突き合わせて話し込んでいた。
「なあ、みんな。最近の俺、おかしいんだ。」
「いいえ、おかしいのは貴方だけではないようですよ」
騎士団長の息子、ミート
教皇の息子、アオナ
大商人の息子、コーショ
第一王子、ヴァニラ
彼らは全員、なかなかに聡明な男達だ。
立場もある彼ら。今まで多くの女性に言い寄られてきたが、浮かれることなく常に一線を引いて来た。
だが、新入生のソルティアを前にすると不思議と頭に靄がかかった様になってしまう。思考が制限されて恋に浮かされた愚か者の様になるのだ。明らかに何かがおかしい。
「全員に気のあるようなそぶりを見せて競わせる。商人の立場から言わせてもらうと、これは、花街のお姉さんの手管の様にも見える。だが、それが分かっていても抗えない」
「自分ではもう少し自制心がある方だと思っていたのですが」
「ヴァニラ王子にだけ塩対応なのも不気味だしな」
もちろんマインドコントロールの類を受けていないのは全員が医務官に確認済だ。
そもそも、ソルティアの力は破邪の魔力であり人を操れるようなものではない。
だから、彼女はなにも悪くない。何度考え直しても自分たちが年相応に恋の病にかかっているだけという結論になる。
なるのだが、どうしても違和感がぬぐえない。
「俺たち、これからどうなっちまうんだ?」
「本当に抵抗できない……」
何かがおかしいと分かっているのに抗えない。
得体が知れない恐怖。
まるで、世界に強制力でもあるかのような……
自分でコントロールできない現状に、男たちは白旗を上げる。
「とりあえず」
口を開いたのはヴァニラ
「この四人の交代制で、遠目にソルティアの事をしばらく監視してみよう。何もなければそれでよし、監視していたと打ち明け誠心誠意彼女に謝ろう。もし彼女の周辺で何か怪しい動きがあればいったん拘束して、事情を話してもらおう」
残る三人はうなずいた。
◇
文化祭がおわり、現在は夜の10時。
私は学生寮をこっそりと抜け出して、竜の像の前にやって来ていた。
文化祭の大工道具から拝借したハンマーで像を殴りつける。石造りではなくて生物に硬質なゴムをかぶせたような感触が手に返って来た。やはり、この像は今、生きている。そして破壊できると確信した。
この『邪竜討伐RTA』では竜の像を殴ると戦闘開始扱いとなる。
なお、破壊できずに翌日を迎えるとそのまま邪竜が完全体で復活する。現在のステータスでは敗北必至だ。しかし、戦闘開始から日付変更まで像は動かず、耐久力も防御力も低い状態で殴り放題なので、余裕で復活前に破壊可能。
勝ったな、ガハハッ!
そんな風に私は調子に乗っていた
しかしーー
「聖なる像に何をしている!!」
「うげ?!」
突然、氷の魔法に手足の動きを封じられた。
え、ヴァニラ王子!?
「いったい何を企んでいたんだ?」
「分からないが、ロクでもない事だろう」
「残念ですよ、ソルティア」
他の3名もいる。
何で!?
今の行動を目撃されていたらしく、全員の好感度が一桁まで下がっていく。
周囲に味方不在の状況で、私は問答無用に拘束され、猿轡まで嚙まされた。
拘束されたまま、私は生徒会室に連れてこられていた。
猿轡だけ外され、目の前には冷たいオーラを放つヴァニラ王子。
「さて、観念して事情を説明してくれないか」
どうやらヴァニラの発案で交代で私を見張っていたらしく、怪しい動きをした私を見て魔道具で連絡を取り集結したらいい。ちなみに残りの3名は、見張りや、学生寮および教師陣への報告のため席を外している。
そんな現状に私はと言うと
「この馬鹿ヴァニラ!何てことしてくれたのよ!邪竜復活まで時間がない!早くあの像を壊さないと大変なことになるわ!」
焦りまくっていた。
「……面白い冗談を言うね。でも、今はまじめな話をしようじゃないか」
「真面目な話よ!早くこの拘束を解いて、そして協力して」
「狂人のふりをしても無駄だぞ、私の『氷の魔眼』はごまかせない」
冷たい声で告げるヴァニラ。
その発言に私は――
「それよ!」
「は?」
「いいわ。信じられないのなら貴方、その『氷の魔眼』で私の理性を凍結させなさい。本心を暴くといいわ、その上で嘘をついていないと分かったら、像の破壊に協力して!さあ、早くやりなさい!」
◇
ヴァニラは非常に高い魔力と『魔眼』をもって生まれた。
彼の『氷の魔眼』は常時発動型であり、『相手の状態を冷静に見抜く能力』と『瞳をのぞき込んだ相手の理性を凍結する力』を持っていた。
神の恩寵とも呼ばれる魔眼であるが、彼には呪いのようなものでもあった。普段、意識的に力を抑えていても、目が合えば魔力耐性の乏しいものはすぐに理性が固まり、恍惚状態となってしまう。そして大半のものが、頼んでもいないのに浅ましい欲望をべらべらとしゃべり始めるのだ。
特に幼いころはそれで嫌な思いも沢山して、心を閉ざした彼はやがて「氷の王子」などと言われるようになった。
学園の生徒会メンバーは全員魔力耐性が高いが、それでもヴァニラと目を合わせようとはしない。いや、本能的に危険を察知しており、できないと言った方が正しいか。
また、それぞれの立場もある。王子であるヴァニラと彼らは既知の仲だが対等ではない、あくまで一歩引いた立ち位置での交流であった。
そんな中、ソルティアは異質の存在であった。
非常に魔力耐性が高いのもあるのだろうが、こちらの目を見て話かけてくる。しかも、誰もが畏怖し、あるいは礼を尽くす王子である己に対して歯に衣着せぬ物言いと対応をしてくる。
それが新鮮で、『王子』や『魔眼持ち』などではない1人の人間として見てもらっているようで、ヴァニラには愉快に思う気持ちがあった。
しかし、ソルティアには何か秘密と目的があったようだ。
失望した。
しかも、何か事情があったのだろうと考え捕縛し、努めて紳士的に事情と問うたというのに、彼女はめちゃくちゃな狂言を述べた。そして尚も追及すると言い放った。
「信じられないのなら貴方、その『氷の魔眼』で私の理性を凍結させなさい。本心を暴くといいわ、その上で嘘をついていないと分かったら、像の破壊に協力して!」
どうせ、『自分には魔眼がきかないから』などと高をくくっているのだろう。
こちらの気も知らずに、腹立たしいことだ。
「……では、望みどおりにしてあげよう」
普段、意識的に力を抑えている魔力を開放する。高い魔力による影響で、アイスブルーの瞳の色が白銀に変化した。その状態で、ソルティアの瞳をのぞき込む。彼女は一瞬、カクンと首を下げたかと思うと、瞳からハイライトが消えた。理性が凍結され恍惚状態になった証である。
「さて、君は今、何を考えている」
尋問開始だ。徹底的に本心と聞き出してやる。
「その冷徹な美声もすきぃ!!」
「……は?」
突然興奮した声を上げるソルティア。
普段自分に対して冷徹な彼女と、周囲の男性陣に対して礼儀正しい彼女しか知らないにヴァニラは、変貌した彼女の様子に面食らう。そして、「声もすきぃ!!」とはどういう事だ。
あれだけ自分にだけ塩対応していた彼女。
愉快に思う一方で、自分は恋愛対象外なのだなとさみしく思う気持ちもあったのだが、まさか実は彼女も自分の事を好いてくれていたとでも言うのか?
「き、君が凶行に及んだ目的は何だ?」
「貴方を、助けたかった……何度繰り返してもダメだったの、でも今度こそ助ける。どんな手段を使ってでも……」
ヴァニラは頭を殴られたような衝撃を受けた。
常に人々を導き、助ける側の立場だった自分。助けたかったなどと言われるのは初めての経験だ。激しく動揺しながら、しかし彼の聡明な頭脳は素早くある仮説を立てていた。
『死に戻り』
それは太古の聖女が持っていたという力。聖女は5回にも及ぶやり直しの末に邪竜を封印したと言う。もしかするとソルティアはその力を持っているのではないだろうか。
そして実は何回も時を戻しループを繰り返している?
彼女の自分に対する塩対応も、そこに何か原因があるのか?
「私にも分かるように話してくれ。」
「あの竜の像は守り神なんかじゃない。堅牢な聖力により封印された邪竜なの。今は封印が弱まっている。今日中に破壊しないとみんな殺されてしまうわ。」
ヴァニラは雷に打たれたような衝撃を受けた。
◇
はっ
今、私意識を失っていた?
今何時、邪竜はどうなった?
「ヴァニラ!拘束を解いて、邪竜が!」
「分かった、すぐに向かおう!」
王子はひょいっと私の事を抱き上げる。
拘束はもう解かれていた。
判断が早い!
はわわ、推しにお姫様抱っこされちゃった!
いやいや違う。そんな場合じゃない。
「あの、ドアは逆方向だけど」
「こちらの方が速い」
「えっ、ちょ!?ここ窓、そしてここは三階いぃぃぃー!?」
高い、速い、怖い!
窓から飛び出し風の魔力で邪竜の元へ。
スリルがヤバい!
それに推しに姫抱きされた興奮も加わり、心臓が破裂しそうだよぉ!
竜の像の前に来た時には、日付が変わりそうになっていた。
「どうすればいい?」
「できるだけ迅速に像をぶっ壊して!」
間に合うか?
私の言葉を聞くやいなや、ヴァニラは氷の大剣を生み出して像に叩きつけた。
やっぱりこの王子、判断が早い!
バカーン!と威勢の良い音が聞こえて像がバラバラになる。
ミッションコンプリートだ。
すると、無事に?バグが発動したのか、さっそく周囲の時空が歪み始める。
「やった!ありがとうヴァニラ。貴方って最高ね!」
「な、なんだこれは?本当に壊してよかったのか!?」
ヴァニラが動揺しているが、大丈夫大丈夫。
このまま卒業式の後、皆友達エンドまで時空が飛ぶのだろう。
その際、ヒーローたちの記憶もリセットされるに違いない。
それを端的に説明してあげた。
「なあ、ソルティア。念のため確認するが、私に対する言動が厳しかったのは、私のことが気に入らなかったからではないのだな」
「そんなわけにないわ。貴方のことを救おうと、何回やり直しを繰り返したと思っているの?でも、塩対応については本当にごめんね。本当は、前世で死ぬ間際にも貴方の事を思っていたくらい、貴方が好きよ……大好き!」
上手くいったことに興奮して、思わずいらんことまで口走ってしまう。
まあ、ここでの記憶は持ち越されないからね。旅の恥はかき捨てと言うやつだ。
「ソルティア!私も君を愛してる!」
「のほおぉー!」
秘薬を前にした薬屋のような声を上げる私。
だって仕方ないのだ。夢にまでみた推しから告白&熱い抱擁だもの。
ヘブン状態のまま時空のゆがみに飲み込まれていく際、王子の頭上の数字が100を超えたのがチラリと見えた。
そして――
気が付くと、伝説の木の下に一人佇んでいた。
周囲に咲いている植物の様子から見ても、バグが発動し卒業式後まで時間が飛んだとみて間違いないだろう。
「よかった……」
安堵のため息が漏れる。
「なにが『よかった』なのかな?」
私のセリフに続くように背後からかけられた美声に、今度はひゅっと息が漏れる。
ヴァニラ王子がなんでここにいるの!?
おそるおそる振り返ったが、彼の頭上に好感度を示す数字は視えなかった。
よかった。強制力は終了したのだろう。バク発動時に一緒にいたからここに現れたのかな?ただ友人エンドのはずだから、今後ヴァニラ王子と縁があるかは分からない。しかし私の推しは、いつか自力でも幸せになれる男だと信じている。
「ああ、ヴァニラ様。無事卒業出来て良かったなーと。」
とりあえず、もう塩対応しなくて良いことに心が軽い。
「学園には一年弱しか通っていないのに不思議なものだな。」
「うえ?!」
驚きの余り変な声が出てしまった。
貴方、もしかして記憶が残って……?
「正直、分からないことだらけで聞きたいことも多いのだが、とりあず……」
まずいまずい、どうごまかそう。
「私と婚約してくれ」
「んあ?!」
なんでそうなるの!?
と思ったが、よく考えたらさっきお互いに告白っぽいことしていたな……え、もしかしてアレがクリティカルヒットして私という存在が彼の心のど真ん中にログインしちゃったとでもいうの?
「ダメだろうか?私たちは両想いだと思うのだが……」
不安そうな顔でヴァニラがきいてくる。
そんな素敵な推しの顔をみて私は、「細けぇことはどうでもいいんだよ。」と思いました。
だって、あれこれ考えるよりも、今まで散々塩対応してきちゃった推しを笑顔にする方がずっと大切だからね!
「あの、ダメじゃないです。その……嬉しい。」
それに突然の求婚ではあるが、私的にナンセンスかといえば全然そんなことはない。
むしろ、アリふんす(鼻息)だ。
そして、世界がフリーズする兆候もない。
なら、少々雑な力技感があるが、これでハッピーエンドってことで良いんじゃない?
ほら、バグ発動前にどういった訳か好感度が100を超えていたし。愛の奇跡的な......ダメ?
いいやダメじゃない!(反語)
どらメモガチ勢のみんな、私やったよ。王子エンドは異世界にありました。凍れる時の秘宝とはおさらばです。イェイ⭐︎
「では、私達は今から晴れて婚約関係だ。だから頼む、これからはもう一人で抱え込んで無茶をしないでくれ。私のことも信じて頼ってほしい。」
「はいはい」
うへへ、早速溺愛されてしまってます。
私、氷の王子と雪解けの春を迎えますね♡
「……本当に頼むぞ。でないと、心配の余り君を監禁したくなってしまう」
……ん、なんか不穏な単語が聞こえなかった?
おかしいな。背中がヒヤッとしたぞ。
そういえばゲームでは他のヒーロー達は確か、好感度がカンストすると全員、それまでとは違う意外な一面を見せてくれてたんだよね。
いままで誰も見たことのない彼の一面ってまさか……
いやいや、大丈夫大丈夫!
この恋物語は正常動作中……だよね?
結論から言おう。
私達はバグから無事に抜け出していた。
強制力に縛られていた世界は正常に戻り、恋物語はその後へと進む。
しかしそんな喜びもつかの間。
愛のあまりヤンデレった彼氏の束縛に七転八倒する私の未来は、たった今始まったばかりなのであった。
※きちんと幸せにはなれました。
いつも誤字報告を下さる皆様へ
作者も次の読者様も助かっております。出来たら今作のバク(誤字)にも修正パッチ頂けたら嬉しい。
あと、ポイントや感想やレビューは次回作への資金(元気)になります。よろしければ、スポンサーとして大盤振る舞いしていただけますと幸いです(*´ω`*)




