表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/102

サトーの性格

「えーと、聞き間違いかな? 問題をもう一度お願いします」

「ああもちろんだ。もう一度読み上げよう」


 問1.君はおばあちゃんに拳銃を渡され、子供の頃から親しい隣人のトミーおじさんの暗殺を頼まれた。以下にある選択肢のうち、君がとりたい行動は?


 1・拳銃を受け取り、おばあちゃんの頭を撃ち抜く

 2・おばあちゃんに言われた通りに、拳銃を手に取って隣人を暗殺する

 3・失敗したくないので、ロケットランチャーとミニガンを要求する

 4・隣人を暗殺した後、口封じのためにおばあちゃんを始末する


(なんもまちがってなかったぁ?! 何この問題!!)


 いや待て、無茶苦茶な問題だが、これには何か理由があるはずだ。

 性格診断と言っていたし、答えのない問題を突きつけて、アレっぽいのとかソレっぽいのを判断する、トロッコ問題的なやつに違いない。


「えーっと……」

「ちょっと難しかったかな? サトー君の直感的な判断でもいいよ」

(直感的に殺人させないでッ?!)


「うーん、『4』で」

「ほう、それは何故かな?」

「トミーおじさんを暗殺した後、おばあちゃんにとって残る邪魔者は、暗殺の秘密を知っている僕になるわけです。なので先手を打って殺します」


 ランドさんは「エッ」みたいな顔をしている。

 いや、そういうテストじゃないの?


「なら『1』のおばあちゃんだけを殺す方法を取らないのは何故だね?」


 ふむ、論理的な判断力もテストするのか。就職面接みたい。いや、面接でこんな事フツー聞かんわ。どんな蛮族カンパニーだよ。


 ともかく、僕はこの問題の背後関係を考えてみる。

 ……うん、こういうのはどうだろう。


「僕の家族であるおばあちゃんが暗殺したい相手は、僕にとっても敵である可能性が高いからです。トミーおじさんが子供の頃から親しいということは、昔から僕の家に来ていたということですよね?」

「そうだね、それが何か?」

「他人にも関わらず、親しげに寄ってくる。下心のある人物なのは間違いないでしょう。暗殺を依頼するおばあちゃんはもちろん、おじさんも普通じゃない。両方とも始末しないと、僕の身の安全を守れません」

「……な、なるほど、次の問題だ――」


 僕はランドさんが次々と繰り出す質問に、僕なりに誠実に答えた。つもりなのだが、僕が質問に答えるたびに、ランドさんの顔色が悪くなってくる。

 うーん、何か間違えたかな?


「これで私からの質問は以上だ。あくまでも参考、参考だからね……」

「どうでしょうか?」

「う、うーん、サトーくんはユニークな性格をしているね」

「はぁ」


 ランドは診断書の結果を見ながら、心の中で頭を抱えていた。

 彼の手にある、墜落者ギルドお手製の診断書には、こう書かれていた。


【名前】サトー

【性格】サイコパス/精神的無反応/鋼の意志

【技能】得意>雑用/機械操作 苦手>射撃/格闘/工作/農業/etc…


(えーっと……サトーくんと言ったか、こ、これはどうしようかな?)


 【性格】に書かれているサイコパスは、簡単に言えば極端に自己中心的で冷淡な性格のことだ。


 サイコパスは他人がどんなにひどい目にあっても、一切気にかけない。

 この辺境惑星ナーロウは悲惨な土地だ。昨日まで肩を抱いて笑っていた仲間が、次の日に病気や銃弾で死んだとしても、何らおかしくない。普通の人間ならショックを受けるところだが、サイコパスな人間は、平然と普段と同じ生活を送るだろう。


 自分勝手で他人に興味を持たない性格、それがサイコパスだ。一見好ましくないように見えるが、この星の過酷な環境に適応しやすい性格とも言える。


 しかし、サイコパスは他人と問題を起こしがちだ。

 先述したような行動は、普通の人にとっては異常者にしか見えないからね。


 彼をすでにあるコロニーに新人として送り込むと、何らかの問題を起こす可能性が高いだろう。この性格はデメリットとメリットが極端なのだ。


 精神的無反応も、メリットとデメリットの激しい性格だ。

彼は精神的なもの、つまり汚いからヤダ、つらいとか悲しいといったものに対して無反応なのだ。これはその反対のものに対しても同じことが言える。


 つまり、サトー君はきれいな空や美しい美術品を見ても、心を動かされないということだ。


 この性格も、他人と問題を起こしやすい。

 人は「感性が違う」と感じた人に対して、嫌悪感を持つからね。


 最後の「鋼の意思」これもまぁ……なんで彼ってこう極端なんだろうね?

 つまり、何があろうと己の意思を突き通す頑固さがあるということだ。


 彼は何が会っても簡単に諦めたりせず、なすべきことをやり通すだろう。

 どんなひどいブラック企業に勤めていたとしても、彼なら耐えられる。


 しかし、これにも問題がある。鋼の意思で動き続ける人間は、普通の人間にとって無理だと感じる事も平然とやり続けてしまう。良い性格に見えるが、この性格の人間をリーダーにすると、周りの人間に無理をさせて疲弊させる。最悪の場合、反乱やボイコットを引き起こしてコミュニティが崩壊する。


 そして技能面だ。彼は雑用をしたり、言われたことをやる能力は極めて高い。だが、誰かの指示に正確に従うということが苦手だ。


 彼がすべての責任を負うリーダーなら問題は無い。しかし、彼はサイコパスであり、誰かの命や財産に対して興味がなく、責任を持てない。


 これが彼個人の問題なら良い。だが墜落者ギルドはそうではない。リーダーとしても部下としてもサトーくんは不適格だ。上につけても、下につけても、間違いをやらかすだろう。

 うん、間違いなく銃や権力を持たせてはいけない人間だ。


 ……正直なところ、私はサトーくんの扱いに困っている。

 彼は人と触れ合ったり協力することが出来ないだろう。


 うん、ならいっそ――《《彼一人》》でなんとかしてもらうか!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ