任命
地下帝国の危機は過ぎ去り、私たちは発展の一途を辿った。
防衛機能はさらに気合を入れて作り替えたし、建物も大幅に増やした。学園まで作り上げた。
発展したのは設備だけでは無い。
地下帝国の住民がすごい規模で増え続けた。
居場所を追われた者、世界に嫌気がさしていた者、才能があるのに周りからの嫉妬で道を閉ざされた者、エンジュを崇拝する者、シャルルに多大な恩がある者、イブの料理やサイエンの技術に心酔する者
挙げればキリがない。
しかし共通して言えることは、みんな何かしらの事情があって、覚悟が決まっているという点だ。
彼らは、決して物事を人のせいにしない。
仮に地下帝国で危険な目に遭っても、それは自分の選択だと納得できる者ばかりだった。
あんな国にいるくらいなら、地下帝国で死ねることはもはや喜びだと豪語する者までいた。
そこまで言ってくれるなら、作り手としては嬉しい限りだ。
さらに、住民が増えたことで、地下帝国の発展速度は加速した。
【人魚】族は水にまつわる管理を全て請け負ってくれて、科学技術だけではどうにもならない部分まであっさり解決してみせた。
【鳥人】族は天井の部分の管理を隅々まで行ってくれた。機材を設置したり移動したするにも大いに活躍してくれた。
【炎油】族は少し変わった種族だ。言語も流暢には話せない。しかしイブとはなぜか一瞬で打ち解け合い、イブの料理の助手として欠かせない存在になっているようだ。
【鉱炭】族は鉱石の扱いに優れている。鉱石から別の鉱石を生み出すようなことまで出来る。鉱石のみに絞れば、その扱いは【ドワーフ】をも凌駕する。私たちの物作りには鉱石を使うことがしばしばあるので助かっている。
このように、世界中の大陸から数えきれないほどの種族が集まってきている。驚くべきは、全くなんの争いもなく、協力し合うことができていることだ。
地下帝国のルールはただひとつ。
“全ての住民は自由である。人の自由を妨げてはならない。”
まあ、仮にルールが無くても、ここの人たちなら自然とそれができるだろう。
地下帝国の住民と認めるかどうかの基準を用意して、かなり絞っていると聞いているからだ。シャルルが取り仕切っているというのだから間違いない。
こうして日々、質の高い住民が増え、みんなで協力し合い、地下帝国の発展は加速していく。
そしてついに地下帝国は完成の日を迎えた。
早速“始まりのメンバー”全員が集まった。
まずは地下帝国のご案内タイムといこう。
第1層から順に周り、第3層、第4層、第8層は飛ばして案内した。
どの階層でもみんなが驚いてくれてとても嬉しかった。思わず胸を張ってしまう。
そうしたくなるくらいに、私は本気で地下帝国作りに取り組むことが出来たのだと思うと誇らしい気持ちになった。
そして今、第10層まで降りてきた。
私はここで、やることがある。
早速サイエンが説明を始める。
「最後、第10層は、僕たちのためだけの階層だ。みんなの家を建ててあるよ。あとでゆっくり自分の家を見てきてほしい。それでこの、1番大きな建物は、、。」
しかし途中で言い淀んでしまった。
ふふ、わたしの出番かな、全くもう。
「もうサイエン、何を言い淀んでいるの。可愛いんだから。私からいうね。この建物は、この地下帝国の皇帝と皇女が住む家なの。」
私がはっきりと言う。
するとすかさずシャルルが言った。
「なるほどなあ。つまり兄さんとルシーはんの家ってことやな。」
そう、その通りだ。
そして当の本人たちの反応も予想通りのものだった。
「え?ぼく?僕とルシーがこの地下帝国の皇帝と皇女?無理だよそういうのよくわからないし。」
わたしは、この時のためにあの約束をしたのだ。忘れたとは言わせない。
私は2人に向かってこっそりと告げた。
「地下帝国が完成したら、2人には私の任命を聞いてもらうように言ってあったよね?逃げないでね?ふふ。」
2人は、ハッと思い出したような顔をした。
そしてそれを見た私はみんなにも聞こえるように言った。
「2人のおかげで最高の仲間ができた。運命の相手とも出会えた。地下帝国も完成した。今ではたくさんの住民たちが幸せそうに暮らしている。皇帝、皇女に相応しいのはあなたたちだけです。私が任命します!」
こうして私は無事役目を終えた。
まあとは言え、今後も対等な立場で接していくのは変わらない。
地下帝国フリーリング誕生の、儀式みたいなものだ。
そのあとは忙しかった。第3層、第4層では住民たちに取り囲まれた。
ちょうどいいので地下帝国の名前と皇帝皇女のお披露目をしておいた。
最後はイブのご馳走を食べた。あまりに美味しくて、つい勢いよく語ってしまった気がする。サイエンの喋り方がうつったのかも、、?
今日この日まで、長かったような短かったような。
激動の日々が始まって、気付いたら地下帝国を作り始めて、運命の人と出会い、共に完成までたどり着くことができた。
ひとつ確かなのは、これから先、何があったとしても、この仲間たちがいれば乗り切ることができるだろうということだ。
今日という日は、ひとつの区切りとなるだろう。
まずは祝おう。
地下帝国フリーリングの誕生を。




