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【100話完結】こっそり作ろう地下帝国〜0歳奴隷転生からの爆速スタートダッシュ〜  作者: おーる
第1章 0歳奴隷転生からの爆速スタートダッシュ
7/100

再訪問

仲間を集め回ってから約1年が経過し、

僕とルシーは14歳になった。


魔境に戻ってきた僕たちは、日課となるいつもの訓練に加えて、とあることに取り組んでいた。


それは、【気術】を効率よく育成する方法について研究することだ。


六大陸を回って頼もしい仲間たちを見つけたのはいいが、これからどんどん育成する必要がある。時間はいくらあっても足りない。だから少しでも効率が良くなる方法を考えていたのだ。


その研究は、それなりに成果が出た。様々な下準備も終わったので、今日からまた六大陸を回ってみんなの様子を見に行こうと思う。そしてあわよくば【気術】のランクを上げて回りたい。


みんなちゃんと訓練してくれているだろうか。



そんなわけで久しぶりの海上ダッシュをして、グレイン大陸、武装国家グレインにやってきた。

早速【ドワーフ】であるクリートの工房を訪ねる。



「わー!久しぶり、やっと来てくれた、待ってたよ〜」


クリートは明るく出迎えてくれた。


そして相対した瞬間にわかった。クリートはすでに、【気術】ランク2とランク3の中間にいる。


「ふふ、結構頑張っちゃった。でもそしたらね、鍛治の腕が上がりまくってすごいの。それでね、、。」



クリートはなんでもないことのように言っているが、尋常じゃない努力の積み重ねが必要だっただろう。



クリートの工房には、国宝級の値段が付くであろう防具や武器が並んでいた。どれも、クリートが作製したものだという。

アイテム鑑定スキルなど持っていなくても、その存在感だけで理解できた。それらがいかに優れた代物かということが。


クリートよ、君を仲間にして本当に良かったよ。


「クリート、今から時間ある?」


「ある!あるよ!いくらでも!」



仕事は大丈夫なの?という言葉を飲み込んで、

「よし、じゃあ行こうか」と告げた。



向かった先はすぐそこ、というか、目の前だ。クリートが実際にいつも鍛治をしている、鍛治台だった。


「え、ここ?」



そう、【気術】を伸ばす最適解。それはやはり、本人の気質に沿うことだ。クリートの場合、鍛治に関することを行うのが近道なのだ。


「クリート、これを使ってくれ。」


「こ、、こ、これ、これは、、アダマンタイト、、」


「うん。アダマンタイトだよ。」


「え、すごい、すごすぎるよ。ほんものだ。本当にいいの、まさかアダマンタイトを手にする日がくるなんて、しかもこんな上物で巨大な塊、、。」


「喜んでもらえてよかった。僕たちがクリートのために用意したんだ。今からこれに対して、ぶっ続けで鍛治をしてもらう。その際は、【鍛治】スキルは使用しないでくれ。【気術】だけを使うんだ。」



クリートは、この説明で理解したようだ。


「わかった。ありがとう。わたしやり遂げて見せる。」


それから。


僕とルシーのサポートはもちろんしたが、クリートは凄まじい集中力でアダマンタイトに対して鍛治をし、【気】を張り巡らせ続けた。


そして、その時がやってきた。【気術】レベル3。


クリートが、自分の体中を駆け巡る熱いエネルギーに悶絶する姿をみて、ぼくは懐かしさを感じた。


白い光が収まると、そこには呆然と立ち尽くすクリートの姿があった。


「わたし、本当になれちゃった。なっちゃったよ、ランク3に、、。信じられない。」



「それはひとえに、クリートが頑張った成果だよ。改めてランク3達成おめでとう!

さて、余韻に浸ってるところ悪いけど、クリートにお願いがあるんだ。ねえクリート、僕たちの故郷に来てくれないかな。そしてずっとそこで暮らしてほしい。」


かなり大きなお願いをしている自覚はある。これまで、この地で築いた地位も、人脈も、生活も、クリートの持つ工房も、全て捨ててこちらに来いと言っているのだから。


「わかった。断るわけないじゃん。むしろ行きたい。私はね、いつでも行けるように準備してあったんだよ。」


え、、?まじすか。



とても驚いたが、非常にありがたいし、ここはもう速攻で連れ帰ろうと思う。


そんなわけで帰り支度を済ませていると。


「まったくよー、やっぱりいっちまうのか。」

「あーあ、寂しくなるぜ。」

「ほらこれ、持ってってくれ。そっちでも何かの役には立つだろう。」



いつのまにかクリートの周りには、ゴツいおっさんたちが勢揃いしていた。みんな、クリートのファンのようだ。




盛大なお見送りの末に、僕とルシーとクリートは出発した。



クリートを抱えながら、目にも止まらぬスピードで海上を駆け抜ける僕とルシーに、クリートは最初は目を見開いて驚いていたが、

「もう、あなたたちが何をしても驚かないようにするわ、、。」


そう呟いてからは大人しくなった。


うむ、是非とも早く環境に慣れてくれ。



こうして、クリートを魔境に連れ帰ることに成功した。

あんたたちの故郷って魔境だったんかい!という盛大なツッコミをもらったが、【気術】ランク3もあれば大抵のことは大丈夫だと励ましておいた。


クリートは苦笑いしていた。



そんな彼女に、追撃とばかりに大きなお願いをした。それこそが、彼女を仲間にしたかった最も大きな理由であり、彼女をここに呼んだ理由でもある。



そのお願いとは。


「地下帝国!?」



「そうだよ。【鍛治】ランク2と【気術】ランク3があれば、地下を掘ったり、ある程度の作業は安全に問題なくできるはずだ。鉱石も山ほど用意してある。これで天井や地面をしっかりと固めながら、安全第一で作業してくれ。大枠の設計図はもうできているから。」


またしても無茶なお願いをしている。

それでも。

彼女は嬉しそうだった。喜びが隠せていない。


「はーーーしょうがないわー。全くしょうがない。か弱い女の子にこんな大仕事を任せちゃって。はーまったく、腕が鳴りまくるわ。」


そして大きく息を吸い込んで呼吸を整えてから、彼女はこう続けた。



「任せて。一切の妥協をしない。私が、最大最強の地下帝国を作り上げて見せるから。」



そういって笑ったクリートが、頼もしくて仕方ない。いくら感謝しても足りない。仲間になってくれてありがとう。


これでいよいよ本格的に僕たちの計画が動き出したということだ。



「地下帝国が完成したら、2人にはちょっとばかり言うことを聞いてもらうからね!私の任命から逃げないように!」


任命?そうきたか。まあいいだろう。どんな任命かはわからないけど、地下帝国を作ってもらっておいて、お願いのひとつも聞けないほど小さな人間では無いつもりだ。


逃げも隠れもしないよ。



僕はクリートに了解の旨を伝えると、彼女は満足気に頷いて、早速作業に取り掛かり始めた。


やる気満々のクリートを見ながら、僕とルシーは微笑んだ。



さてとお次は、化学先進連合国ミラーズに行こう。サイエンは元気にしてるかな。



「僕は本当にやばい発明をしてしまったかもしれない。みてくれよこれを。いやね、あのときの議論のおかげでひらめいてしまったんだ。もしもこれが作れれば、たとえ離れたところにいても、声を届けることができるようになる。何日もかけて移動して伝言を伝えたり、急用の際に速達手紙を出す必要もなくなるんだ。」



久しぶり〜だとか、そういう挨拶も何もなく、出会って早々に発明について語り出したサイエンの姿をみて、僕は安心した。元気そうでよかった。

 それに、僕は驚いていた。サイエンは【気術】ランク2に至っていた。それどころか、これはもうランク3に近いかもしれない。


「あーこれかい、いやね、【気術】ってのは素晴らしい。ぼくの脳みそが冴えて冴えて仕方なくなるのさ、あの全能感を味わったらやめられないよ。もっともっとランクを上げていろんなことを試したくなるのが研究者のサガなのさ。」


「にしてもそこまで成長してるのはすごいぞ、、」

「うん、ほんとすごいよ。」

あのルシーでさえも手放しで褒めるほどのことなのだ。



「はっはっは。いやちょっとしたコネがあって冒険者のチームに参加させてもらったのさ。そこで僕は大活躍してしまってね、おっとそんなことはどうでもいいんだ。魔物を狩ってその魔物が持っていた【気】を取り込んだんだ。あとはひたすら研究さ。どうも僕は、脳に【気】を集めてひたすら頭を使い続けることで効率よく【気術】を伸ばせるようでね。」



さすがはサイエン、、。僕たちが伝えようとしていたことを全部もうすでにやっていたとは。


これならもう、仕上げだけすれば良さそうだな。


僕はサイエンに、とある資料を渡す。それは僕が前々から書き進めていた資料の一つだ。


「これは、、おお。ん?おお、そうか、ここがこうで!なんて素晴らしい発想力だ!なんてスケールだ。なあ、僕と一緒に研究者にならないかい!いやー、こんなワクワクするものを見せられて僕は我慢できないよ。君の望むこの“地下帝国”について、もっと見せてくれ!」


サイエンはたちまち僕の作った資料に釘付けになったようだ。喜んでくれて何よりだ。


そしてサイエンは、意識してかあるいは無意識か、莫大な【気】を頭に寄せ集めた。そしてすごいスピードで資料を読み込む。


僕とルシーはそれを見て、静かにサポートする。



とんでもない勢いでサイエンの【気術】が成長していくのが伝わってきた。



それからたった2日で、サイエンはランク3に至った。ほとんどランク3に近い状態だったとはいえ、凄まじい速度だと言える。

種族が【ゴブリン】であるが故の【最弱ボーナス】による効果もあるだろうが、それにしても早い。キャラクターレベルだって上がってしまっているだろうし、年齢だって僕らより上なのだから。



「これはまた桁違いにすごい!見えるぞ、今ならどんな発明でもできてしまいそうだ!便利な発明も危ない兵器もなんでも何でもだ。これが【気術】ランク3か!ありがとう、君たちのおかげだよ。ぼくは幸福者だ。あとはぼくの発明を理解して、完璧に形にしてくれる、ものづくりのプロがいればなあ。」



それを聞いて僕とルシーは顔を合わせて笑う。いるんだなあ、もうすでに。さて、さっさと連れ帰ろう。



「な、なんだと、物理法則を無視している!いや違うな、これは君たちがすごすぎるだけだ!確かに超人的な速さで足を回転させ続ければ不可能ではない、、??それにしてもこれはおかしいぞ!まさに僕の頭の回転くらい早いなんてね、はっはっは!」



僕とルシーはサイエンを担いで海上ダッシュをしているわけだが、サイエンはテンション上げ上げで騒いでいた。楽しそうで何よりである。



そして魔境に帰ってきた。

「な、な、ここは魔境じゃないか!只者ではないことは分かっていたが、まさか故郷が魔境だとは。それよりも、、。ふむふむなるほど、あたりが【気】に満ちているな。しかし魔境にしては魔物の気配がそれほど多くはないな、、。いや、わかったぞ、君たちだろう。君たちが狩っているからだな!」


さすがはサイエン、全て正解だ。


「さて、僕をここに連れてきたからにはやってほしいことがあるんだろう?まあぼくは立派な研究室と立派な研究道具さえあれば文句は言わないさ、いや、あと一つ、安全性もほしいところだな、なんていったってここは魔境だし。」



そうだろうそうだろう。サイエンのそういう性格はすでに理解している。その上で断言しよう。ここにはサイエンの求めるもの全てが揃っていると。サイエンの驚く顔が楽しみだ。



僕とルシーは、魔境の深部にある、“地下への入り口”に案内した。さすがクリート、ちゃんとお願いした通りに、、いや、それ以上の工夫を凝らして作ってくれているようだ。


「こんなところに地下への入り口だと!?まさかもう地下帝国を作り始めているというのか??それにこの造り、、。なんて美しいんだ。僕にはわかるぞ、相当な手練れ。武装国家グレインの奴らか?いや国家最上位レベルの大ベテランでもこれほどの仕事はできないはず、、。」


どうやら入り口だけでサイエンの度肝を抜いたようだ。すごいのはクリートだが、なんだか誇らしい気持ちになった。ルシーも微笑んでいる。可愛い。



「ただいまー。」


「おかえりー、ねーすっごい楽しいの!見てよこれ。【気術】ランク3になってから自分の体が嘘みたいに軽くてどんな作業も楽々できちゃうの。おかげで張り切っちゃった!そうそう、入り口見てくれた〜?結構考えたんだよ。それでね、ん、、?」


クリートが、サイエンの方をみて固まった。


あ、そういえば言ってなかったな。サイエンを連れてくるってこと。



「か、、、」


か?どうしたんだろう。

なんかクリートが固まっている。



「か、、、かわいい、、。」



僕とルシーをして、目を見張るほどのスピードでサイエンに接近したクリートは、声を弾ませて言った。


「あなた、名前は?」



おいおい、さすがにグイグイいきすぎだクリートよ。たしかに、サイエンには【ゴブリン】らしさがあまりなく、清潔感もあるし、顔つきもよく見たら可愛い、、と言えなくもないのかもしれない。

 だが初対面でそのようなことをしては、いくら尖った研究者の天才サイエンでも困るのでは。


そう思ってサイエンの方を見た時、それは杞憂だったと知る。



いつもキリっとしてみるからに賢そうな顔つきで早口で理論を捲し立てるサイエンの表情が、今はだらりと緩み、恍惚とした表情でクリートのことを見つめていたからだ。



「僕の名前はサイエン。研究者だよ。そんなことより僕と結婚しよう。」


「はい、喜んで。私はクリートっていいます。とりあえず抱きしめてもいいですか?」


「もちろんさ。」


僕とルシーは完全に空気となった。初対面のはずの2人が、なぜか熱い抱擁を交わしている。というか秒速で結婚が決まったような、、。


「ああ、君はなんて素晴らしいんだ。たくましい筋肉に、聡明さの滲み出る鋭い瞳、それだけじゃない、僕には分かるよ。君は、頂点を目指している。いや、君なら間違いなくそこに至る。僕と同じさ。化学、技術、生命の可能性、その全てを見たい、そして知りたい。そのために毎日毎日頭を捻らせ、新しい発明をして、一歩ずつ未来を見にいくんだ。」



「なんでもお見通しなのね。そう、私はね、限界を超えたその先、究極の鍛治をするの。未来永劫、私にしかできない、最高の作品を作るの。あなたの、未来を切り開く発明、なんて素敵なの。わたし分かったわ。私にはあなたが必要。私とあなたがいなければ本当の唯一無二は作れない。私たちで作りましょう。この地下帝国を。」


「ああ。」



うん、まああれだ。いいことだ。2人ともこだわりが強いタイプだし、剃りが合わなかったりしたらどうしようと思っていたけど、どうやら相性ぴったりのようだ。


手間が省けてラッキーとさえ思えた。

それに、この2人になら安心して任せられるだろう。

これ以上はお邪魔かと思い、必要な資源の追加と、思いついたアイディアをまとめた資料をこっそりとその場に置き、僕とルシーは外に出た。



「あの2人、よかったね。」

ルシーが言う。


「そうだね。」

ルシーも、あの2人が仲良くできるのか心配してくれていたのかもしれない。


ルシーの頭を撫でてみた。ちょっと嬉しそうだ。可愛い。



「さて、次行くか。」

「うん。」



やってきたのは大商業連邦ショートーだ。シャルルのことはそこまで心配していない。彼女は聡明でしっかり者の印象がある。ただ、かなり忙しそうだった。そんな中【気術】の訓練をするのは難しいかもしれない。

 そういう意味での不安はあるが、、。



「兄さんたち!まっとったで〜。お店の予約も済んどるよ。こっちや!」



なんで僕たちが来ることが分かったのか、そう聞こうとしたが、それを察したのかシャルルは喋り出した。


「武装国家グレインの、知る人ぞ知る若手天才鍛治職人、クリート。化学技術連合国ミラーズの、彼が居なかったら現在の技術は100年は遅れていたとされる発明の怪物、サイエン。

 この2人、引っこ抜いたの、兄さんやろ?」


情報入手があまりにも速すぎる。シャルル恐るべし。僕とルシーが絶句していると、シャルルはさらに続ける。


「うちは確信してん。こんなことできるの、兄さんらしかいないってな。そしたらあとは簡単や。次にうちの番が来るまでに準備しとくだけや。ほら、着いたで〜。」


案内されたのは、どう見ても超高級レストランである。お金とか持ってないけど大丈夫だろうか。


「この店の料理はなあ、舌がとろけるほど美味いんや。噂によれば【天界】から取り寄せとるらしいで。心配せんでもうちの奢りや。いくらでも食べてってな。」



なんだか申し訳ない、、。だがその説明でここの料理には心底興味が湧いた。ありがたく頂くことにする。



結論から言おう。本当に舌がとろけるかと思った。このような料理、存在して大丈夫なのだろうか。これを巡って戦争が起きたりとか、、、は流石に無いとは思うが、それほどの美味であった。ルシーも夢中になって料理を頬張っている。

 ルシー、ほんとはこれまでも、ご飯を食べたいのを我慢していたりするのだろうか。ルシーが喜ぶなら毎日でも美味しい料理を食べさせてあげたい。僕はそう思った。



ひとしきりみんなで料理を味わうと、シャルルは言った。


「んで、目的のものはこれやろ?まあ、見抜かれとるかもしれんけど一応見せとくな〜。」



そして僕たちは、先ほどと比にならないほど大きな驚きをすることになる。

今まで自然と纏っていた彼女の【気】が、突如として数倍濃密なものに変わった。

彼女はすでに、【気術】ランク3に至っていたのだ。



「え!???!?」

「え、、、。」



僕とルシーはつい声を上げてしまった。


「やーー、頑張った甲斐があったわあ。兄さんたちのその顔が見たかったんよ。普段はあんま警戒されんように、ランク2くらいの力に抑えるようにしてるんや。ゆうてもランク2の時点で多くの相手の度肝を抜けるんやけどな。」



うーん。確かに、もっとよく見破ろうとすれば見破れただろう。

だがまさかこの期間で、しかも忙しいシャルルが【気術】ランク3に至っているなどとは夢にも思わなかった。まずはランク2に無事なっていたことを労い、その後ランク3を目指すためのサポートを行おうとしていたのだから。


それがまさか、ただランク3に至っているだけでなく、それを使いこなし、制御する訓練まで施して、ランク2を偽装しているなど、予想できるはずが無かった。



「うれしいわあ。兄さんいま、心底驚いて、尊敬の眼差し向けとったよ。兄さんにそんな顔してもらえただけでもうち、大満足やわ。」


シャルルが凄すぎてさっきから驚きの連続だ。その上美味しい料理までご馳走してもらった。今度、何かシャルルにお返しをしないとな。ぼくはそう決めた。



「ここの料理、おいしかったやろ?兄さんたちのことや、【気】さえあれば食事は不用!とかゆうて訓練に明け暮れとるのが目に見えてんねん。たまには美味しいもんでも食べて、心を休めるのもいいもんやで〜。あ、そろそろうち行かないとや。種明かしはまた今度や。ほなまたな〜。」



そうしてシャルルは去って行った。


「不思議な人。また、最初から最後まで彼女のペースだった。シャルル、すごい。」


そう言いながら、残った料理を綺麗に食べ尽くすルシー。ああ可愛い。待ってろ、毎日それが食べられるような未来を作るから。


それにしてもシャルル、本当に何者なんだ。最初会った時、僕たちのことを只者じゃないと言っていたが、僕からしたらシャルルの方がよほど化け物である。もちろん褒め言葉だ。


シャルルを仲間にできたことに感謝しながら、次に行こう。



やってきたのは龍帝国ドラール。バートルは山にこもって修行中だろう。無理しすぎていないといいが。

訓練がちゃんとできているかどうかの心配はしていない。むしろ、無茶しすぎていないかの方が心配だ。



さて、適当に山にやってきたが、バートルさんはどこだろうか。【気】を広げて索敵をしようか、と思ったその瞬間、なにやら高速で【気】の塊がこちらに向かってくるのを察知した。


思わず僕とルシーは身構えて、ランク3、いやランク4に近い力を出してしまった。防御の体制で迎え撃つ。



そしてやってきていた高速の【気】の塊は僕たちの目の前で急停止した。



「がっはっはっは!!いやはやさすがであるな!うーむ、俺は強くなったと思ったが、、。いや、強くなったからこそ分かるのだろう、まだまだ勝てないということが。恐れ入った!!」



巨大な【気】の塊はバートルさんだった。おかげさまで、魔境以外でこんな強敵いたっけ?という疑問を抱きつつ、久しぶりに強敵と戦う時のあの緊張感を思い出すことができた。


「久しぶり、バートルさん。元気そうで良かったよ。無茶しすぎてないかと思ってね。」



「おうおう、嬉しいじゃねーか!心配してくれてたのか、俺のことを!」


「まあね、バートルさんはタフだけど、強くなるためなら我を忘れそうだから。」



「がっはっはっ!よーーくわかってるじゃねーか!さすがだぜ。ま、この通りピンピンしてるから大丈夫だ!そしておかげさまでランク3になったってわけよ。ランク4になるにはもう少しかかりそうだけどな!」



そう、さすがというべきか、バートルはランク3に至っていた。ずっと修行し続けていたとはいえ、異常なほどにすごいことだ。そもそも【龍人】種の時点で、システムの仕様として、スキルランクが上がりづらくなっているのだ。龍は最強のカテゴリー。それゆえの制限みたいなもの。いわゆるバランス調整というやつだ。


それをバートルは努力で覆した。【奴隷の腕輪】を加味しても、手放しで賞賛するに値する。


「バートルさん、さすがっす!」

「うん、バートルさん、さすが。」


「がっはっは!ルシーちゃんにまで褒められたらこりゃあもっと頑張るしかないわな!よっしゃ、もうひと踏ん張りいってくるぜ!またな!」




そしてバートルさんはいなくなった。気がついた時にはもう見えなくなっていたのだ。速すぎだろ、、。

そしてバートルさん、ほんと頼もしい。だけど無茶だけはしないように気をつけてほしいものだ。



さて、次行くか。

ちょっと次は時間がかかるかもな。


向かった先は学園都市マビナー。ピヨンくんの調子はどうだろうか。



まずはピヨン君を探さないとね。【気】を広げて周囲の様子を調べていく。うーん。この付近にはいない、かな。



「ルシー、この近くにはいないみたいだし、あっちの方いこっか。」


「んー、いないけど、ちょっとここで待ってみた方がいいかも。」


「それは、ルシーの勘?」


「うん。」


「分かった。じゃあ待とう。」


僕は、ルシーの勘を心の底から信用している。なんなら地下への入り口の位置だってルシーの勘で決めた。ランク上げのあの日々だってそうだ。どれだけ安全に気をつけて、理論上問題ない時でも、ルシーが何となくそっちはやめた方がいい、と一言つぶやいた瞬間、すぐに引き返した。


ルシーの勘が間違っていたことは一度もない。別に、実績があるから信じているというわけではない。もしいつの日かルシーの勘が外れる日が来たとして、そして大きな災難が降りかかったとしても僕は後悔しないからだ。


都合のいい部分だけを信じているのではなく、根本的にルシーに入れ込んでいるだけである。



待つこと1時間。にわかに辺りが騒がしくなる。

「おい、きた、きたぞ!帰ってきた!」

「きゃー!ウサ耳イチバンが戻ってきたわよ!勇者くんこっち見てー!」

「すげえ、全員無事だぞ!怪我の一つもしてねえ!」

「勇者様が私の方を見てくれたわ!あ、笑顔で手を振ってくれた、、ねえこれって私のこと好きってことだよねそうだよねうん間違いない。ふふふふふ。」

「さすがは、まだ2年生で、冒険者ランクBになったパーティだな。末恐ろしい。」

「それだけじゃない、29層から戻ってきたんだ。異例の速さで攻略しているというのに、あの笑顔だ。まだまだ余裕があるんじゃないか?」



もう聞こえてくる一部の声だけで、ピヨン君が来たと分かる。しかし気になるのは、つい先ほどまでピヨン君の気配がまるで無かったことだ。


しかしその疑問はすぐに解決した。ピヨン君たちは、【帰還門】にいたからだ。【帰還門】とは、ダンジョンから帰ってくる時にワープしてやってくる場所だ。


ダンジョンは、それぞれ特色が大きく異なる。ワープなど全くなく、ただの小さな洞窟ぐらいのこともあれば、広すぎて探索し尽くすのが難しいほど巨大なダンジョンもある。


今回ピヨン君たちが挑戦していたダンジョンは、空間がこことは隔絶された場所にあるタイプのダンジョンだったようだ。


そしてそれはまさに、僕が“攻略を進めておいて欲しかった”ダンジョンでもある。さりげなくお願いしておいたのが、まさかこんなに早くやってくれているとは思わなかった。


ピヨン君たちが人混みから離れたタイミングを見計らって、話しかける。



「ピヨン君、久しぶり。」


「わあ!会いたかったです。来てくれたんですね!」

「「「「「お久しぶりです!!」」」」」


ピヨン君も、その取り巻きの子たちも元気そうだ。


例の如く学食でご飯を一緒に食べる。


「えっと、そういうわけでランク2になれたんです!色々と教えてくれてありがとうございました!」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」


ピヨン君たちもランク2とランク3の中間にまで至っていた。みんな本当によく頑張っているようだ。何気にピヨン君の取り巻きの女の子たちも全員ランク2になっているところに、彼女らの執念を感じた。



「僕たち、お昼を食べたわったらダンジョン【天からの挑戦状】の30階層に挑むつもりなんです。あの、よかったら一緒にきてくれませんか、多分ボス戦だと思うんですが。」


「もちろん。【天からの挑戦状】の攻略を進めて欲しいっていうのは僕からお願いしてたことだし。まさかここまで早いとは思ってなかったよ。ありがとう。」



様々な会話をし、ひとしきりご飯を食べ終えると、早速ダンジョンの29層にやってきた。

【帰還門】とは逆の、【挑戦門】から入ってきた。攻略途中の階層から入れるのがワープ型ダンジョンのありがたいところだ。


本来、冒険者でも学生でもない僕たちはダンジョンへの挑戦が認められないのだが、Bランク冒険者パーティの庇護下でならということでギルドからの許可が降りた。ピヨン君たちのおかげである。



危なげなくダンジョンの29層を進み、30階層への巨大な扉を開いた。



ピヨン君のいう通り、30階層はボス戦だ。そしてここのボス、結構強いのだ。


ピヨン君たちにとって、とても良い訓練になるだろう。



「ピヨン君!回復するね!」

「ありがとう!」


「やー!えい!」

「全体攻撃来ます!構えて!」

「防御結界使うね!」



かなりの連携力だ。ゲームと違って声がけなどがスムーズにできるからというのもあるだろうが、単純にパーティとしての完成度の高さが窺えた。


それでも、ここのボスは一筋縄ではいかない。ある程度HPが削れたと思われるころ、ボスの形態が変化した。


そしてすかさずボスからの強力な全体攻撃が来た。


「きゃ!ごめんなさい油断したわ!」

「なにこの動き、うぐ!」


お、これはチャンスかもしれない。


僕とルシーも、取り巻きの子たちと同じように適当に吹き飛ばされておく。


ついでに先ほど攻撃を受けた子たちに【気】を送りこみ、いい感じに怪我を治しておく。



「く、みんな!!」

ピヨン君は即座に振り返り、みんなの無事を確認する。そして指示を出す。



「マリア!防御結界を張って、みんなを回復してあげてくれ!」


「うん!防御と回復ね!でも、ピヨン君のサポートが、、」


「僕は大丈夫。みんなを、任せたよ。」


そしてピヨン君はひとり、ボスへと立ち向かう。仲間たちを守るために。


ピヨン君の纏う雰囲気が明らかに変化する。普段のおっとりしてニコニコしたピヨン君とはまるで別人だ。

【勇者】と【気術】が同時に発動し、ピヨン君は眩い光に包まれる。


ああ、これがラブコメ主人公というやつか。普段は優しいピヨン君、今は仲間を守るため戦うかっこいいピヨン君。

恋愛における最強の武器、“ギャップ”を目にした取り巻きの女の子たちは、ぼうっとした表情でピヨン君を見つめている。恋する乙女、そのものである。


まあ、何はともあれこのチャンスを逃す手はないので僕とルシーもこっそり【気】を送ってサポートする。



ピヨン君、彼は不思議な魅力を持っている。


先程から何度も何度もボスにやられて、それでも立ち上がって戦い続ける姿は、是が非でも応援したくなるのだ。


頑張ってほしい、負けないでほしい、と誰もが応援したくてたまらなくなる、そういう人を惹きつける何かが、彼にはある。


彼は命がけで今の勝負に臨んでいる。彼は自分の命よりも仲間の命を重く捉えるタイプだ。だから今の状況は彼にとって全力中の全力だ。それにしてもなんて凄まじい集中力。敵から追わされた怪我を、さりげなく【気】で癒しているが、彼はそんなこと気付いてさえいない。ただひたすらに、仲間を守るために戦い続けている。


【気術】の熟練度があり得ない速度で上昇し、一瞬にしてその時を迎える。


【気術】ランク3。


取り巻きの女の子たちも、それが分かったのだろう。


「「「「「ピヨン君!」」」」」


ピヨン君は一瞬こちらを振り返り、そっと微笑んだ。


そして、全身全霊を込めた一撃をボスに喰らわせた。ボスは大きな断末魔と共に、討伐された。


戦いの中でランクアップを果たし、最後は盛大に決めたピヨン君。なんという主人公ムーブ。

 途中、こっそりと僕とルシーがボスに対して大ダメージを与えていたとはいえ、あそこから1人で勝ち切るとは流石である。



そして、ピヨン君と僕とルシーの手には、攻略者の証が握られていた。


これは、ボスを攻略した際に、その戦いにおいてボスのHPを20%以上削った者に与えられる証だ。



ピヨン君は、その攻略の証を掲げた。

パーティメンバーから惜しみない拍手が送られた。もちろん僕やルシーもパチパチしといた。


とその時、ふらりとピヨン君が倒れた。集中しすぎた反動で気を失ってしまったのだろう。彼は文字通り全てを使い果たす勢いで頑張ったのだ。



「「「「「ピヨン君!!」」」」」


あわてて駆け寄る取り巻きの女の子たち。



それからは慌しかった。


ピヨン君のパーティ、ウサ耳イチバンがダンジョン【天からの挑戦状】をクリアしたこと、ピヨン君が倒れたこと、いろんな状況が重なって周囲の人々は大騒ぎだ。



そして次の日。



大きなベッドに運ばれ、取り巻きの女の子全員に囲まれた状態でピヨン君は目を覚ました。


「「「「「ピヨン君!!」」」」」


「あれ、みんな、、ぼく、寝ちゃってた、の?って、え、え、ぼくこんな薄着で、っていうかみんなもすごい薄着だしとっても距離が近いような、どうなってるのこれ」



「もう、そんなこと気にしなくていいじゃない、ピヨン君、かっこよかったよ。」


「また、守ってもらっちゃった。ありがとピヨン君」


「あー、そこくっつきすぎ!ねーピヨン君ここ、柔らかいよ。こっちにおいでよ」



ぼくとルシーは空気となった。


もう何もいうまい。さすがはラブコメ主人公だ。



ピヨンの無事を確認できたことだし、向かうとするか。次なる目的地。


【天界】へ。



僕とルシーは、そっとその場を後にした。


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