スタンピード
魔物の群れ、か。
わたしが見たことのある魔物の群れなんて、今思えば可愛いものだった。あの時は冒険者や警備隊が総出で大所に当たっていた。逆に言えばそれだけで解決する程度のものだった。
しかし今、私の目の前で起こっているのは、そんなのとは比較にならなかった。
一体どこにこんな大量の魔物たちが生息していたというのか。埋め尽くさんばかりの魔物の軍勢。しかも災害級が多く存在し、一部は超災害級に見える。
こんなの、おかしいよ、、。
でも私に恐怖という感情は無かった。
私たちの地下帝国に土足で入り込むとは。きっちり分からせてやらないとね。
私とクリートが丹念に作り上げた、第1層と第2層の防衛機能が火を吹く時がやってきたのだ。
思い返せば本当に長い道のりだった。モグラのように地下を掘り初めてから今に至るまで、本当にいろんなものを作ったし、運命の人にも出会ったし、幸せだった。
そんな幸せを私に運んできてくれた2人の仲間の姿が目に浮かぶ。
一応、連絡しよう。
あれ、、。おかしいな。繋がらない。
通信機が全く繋がらないという場合なんて限られている。あの2人の身に何かが起きている可能性が高い。
少し心配ではあったが、あの2人なら大丈夫だろうとすぐに思いなおした。
【気術】ランク4になったとき、それでもあの2人には勝てる気がしなかった。
むしろランク4になったからこそ、それがよく分かったのである。
だから今は、私たちのことを考えよう。
魔物たちから、この地下帝国を守り抜くのだ。
最初のうち、防衛は順調だった。
強大な魔物たちを、私たちの防衛機能は次々と葬っていった。
住民たちも盛り上がっている。
見たか!私たちの防衛機能を!
とちょっと誇らしく思っていたのだが、現実はそううまくは行かないようだった。
なにやら不思議な光を発し始めた魔物たちが、気がつけば一体の化け物に合体していた。
第一印象は黒だ。
いや、色なんかより、その強さだ。
映像越しでも分かる。
これがどれほどの化け物なのか。
勝てるはずがない。【気術】ランク4の私が、震えてしまうほどに、、。
一体何が起きているの、、。
わたしは怖かった。私たちの幸せが崩されてしまうことが。
わたしは怖かった。大切な人を失うのが。
わたしは怖かった。サイエンを失うことが、、。
それでも、そんな化け物に、立ち向かう人物が1人。
いつも通りの声色。
いつも通りの余裕。
ああ、この人は本当になんでいつも。
「そろそろ体がなまってたところなんよ。ちょうどええわ〜。」
なんでそんなにもかっこいいのか。
サイエンは、シャルルに何かを言いかける。
「シャルル、君は、、。」
続きの言葉はわたしにも想像が付いた。でもサイエンは飲み込んだ。
「サイエンはん、そんな深刻そうな顔せんといてや。うちが負けるみたいやないか。サポート、任せたで〜。」
それでも、全てを分かった上で化け物の元へ向かうシャルル。しかし本当にすごいのは、シャルルは別に無謀だとは思っていないだろうということだ。
どういう人生を送ってきたら、あの化け物相手に、勝機があるかもしれないと思えるのだろうか。
その勇気は、その力は、どこから湧いてくるの、、?
シャルルの戦う姿は、全てを魅了した。戦いのことなどまるで分からない人も、何が起きているのか理解できていない幼児さえも。そのシャルルの戦いから目が逸らせなかった。
あまりにも緻密。
シャルルには未来が見えているとしか思えない。
なぜ何もないところに攻撃をしたのか理解できなかった。
でも次の瞬間、魔物はそこに現れてシャルルの攻撃を受けてよろめいた。
なんで?
なんでそれが分かるの?シャルルさん。
私とサイエンで作ったリングが光り、さらにシャルルの動きは加速する。
なんて綺麗なんだろう。
それでも、状況は悪化した。
魔物がさらなる進化を遂げた。
いや、追い詰められてきた魔物の本気と言ってもいいかもしれない。
そして最悪なタイミングで追加の魔物が現れた。
さらにはシャルルのリングの効果が切れた。
そんな絶望的な状況になっても、シャルルは終わらない。天はシャルルを見離さない。
ピヨンのサポートが入った。
ギリギリの戦いで、魔物と向き合っている。
そんな奇跡の連続のような采配さえも、シャルルが導いているように、私は見えた。
なんで逃げないの?なんで諦めないでの?
その勇気は、あなたの心の源は、一体どこから来るの、、。
私は考える。
自分はどうだろう。自分はあんな風に戦うことは、、、。
いや、違う。そうだ、戦うことだけが全てでは無い。
私はとっくに覚悟なんて出来ていたのだ。
わたしは途端に冷静になる。わたしがいま、できることは何?
そう、私には鍛治ができる。
これまで毎日毎日積み上げてきた鍛治の力がある。
それならさ、やるしかないよね。
あの化け物のいる第2層に行って、防衛機能を修復して戻ってくる。
それができるのは、私しかいない。
私はもう、震えてなどいなかった。




