依頼
次に仲間の2人と再会したのは、【気術】が無事ランク2に上がってしばらく経った頃だった。
ランク1の頃とは比べものにならない自身の実力の高まりを感じる。つい夢中になって鍛治をやり続けていると、【ドワーフ】のおじさんたちが血相を変えて言った。
「嬢ちゃん、、。これを売るわけにはいかねぇ。これを売ったらわしは嬢ちゃんを庇いきれなくなる。国からの依頼で、半ば誘拐のような形で嬢ちゃんが攫われてもおかしくねぇ。これはそれほどの品だ。」
そうか、、。
いや、薄々勘付いてはいた。物作りにおいて、もうこの国では私は成長出来ない。この国の鍛治水準を完全に追い越してしまったから。
そんなタイミングを見計らったかのように仲間の2人がやってきたのだった。
私は嬉しくて、ろくに挨拶もせずに語り始めてしまった。
そんな私の話を優しく聞いてくれたと思ったら、今から時間はあるかと聞かれた。
もちろんあるに決まっていた。むしろ路頭に迷っていたところだったのだ。何かをしたかったのだ。夢に向かうための何かを。
そして今回も想像を超えたことが起きる。見たこともないほど巨大なアダマンタイトを渡された。
いやこれを平然と差し出せるってどういうこと?本当に何者?
しかしそんなことより私はこのアダマンタイトに夢中だった。
好きなように鍛治をしてくれというものだから私のテンションは天井を突き抜けそうだった。
ただし、言われた通り、スキルとしては【気術】しか使わないようにした。
それにしてもやはり鍛治は楽しい。
しかもこんなに巨大なアダマンタイトを使えるなんて。
何もかもを忘れ、夢中になって鍛治を続けていると、私は急激に襲う激痛で我に返った。
体が熱い。そして内側から光っている。あーこれが、、。
「わたし、本当になれちゃった。なっちゃったよ、ランク3に、、。信じられない。」
そう、わたしは伝説のランク3に至ったのだ。
「それはひとえに、クリートが頑張った成果だよ。改めてランク3達成おめでとう!
さて、余韻に浸ってるところ悪いけど、クリートにお願いがあるんだ。ねえクリート、僕たちの故郷に来てくれないかな。そしてずっとそこで暮らしてほしい。」
私は即答した。
「わかった。断るわけないじゃん。むしろ行きたい。私はね、いつでも行けるように準備してあったんだよ。」
これはちょっと盛ったかもしれない。でも心の準備としてはいつでも出来ていたし、そろそろこの国からも出なければと思っていた。
そしてさっさと荷物をまとめていると。
「まったくよー、やっぱりいっちまうのか。」
「あーあ、寂しくなるぜ。」
「ほらこれ、持ってってくれ。そっちでも何かの役には立つだろう。」
私にとてもよくしてくれた、みんながいた。そうだ、この人たちともお別れなんだ。
「ありがとう。子供だった私をこんなに自由にさせてくれて。そして守り続けてくれて、本当にありがとう。これ、受け取って欲しい。」
私がみんなに渡したのは、鍛治の道具だった。私はみんなの鍛治の様子を9歳の時から見てきた。だから、どんな鍛治道具を渡せば喜ぶかなどわかっていた。
さらに、それぞれ個別で形や重さを調節した。これでみんなはもっと仕事が楽になるし、いいものが作れるようになるはずだ。
それを渡した瞬間、みんなは泣いて喜んでくれた。え、そんな大層な物ではないよ!?
いつも、お客さんや国の遣いの人に対しては、あんなに頑固で冷たい対応なのに、私に対しては優しいし、こんな表情も見せてくれる。
それが愛おしかった。
盛大なお見送りの末に、私たちは出発した。
そんな感動的なお別れも、私を抱えて海上を走り出したとあっては薄れざるを得ない。え、なにこれほんとに、、。でも、いちいち驚いてもキリが無い。そもそも最初に会った時から、この2人は何か他の人とは違うと感じていたのだから。
「もう、あなたたちが何をしても驚かないようにするわ、、。」
気付けばそう呟いていた。
それにしても、、。
「あんたたちの故郷って魔境だったんかい!」
いや、悪いけど前言撤回。この2人と一緒に歩んでいく上で、驚かないようにするということがそもそも不可能なのかもしれない。
「【気術】ランク3もあれば大抵のことは大丈夫だよ。」
そんな的外れな返答が返ってきたものだから、わたしは思わず苦笑いしていた。
そして魔境に上陸して間もなく、私はあるお願いをされた。
「地下帝国!?」
「そうだよ。【鍛治】ランク2と【気術】ランク3があれば、地下を掘ったり、ある程度の作業は安全に問題なくできるはずだ。鉱石も山ほど用意してある。これで天井や地面をしっかりと固めながら、安全第一で作業してくれ。大枠の設計図はもうできているから。」
ふふ。そうだ!これだよ!私は嬉しかった。いや、まだこの感情は隠しておこう。ほとんど意味のない意地だが、せっかくお願いという形になっているのに、また喜んでしまったら私が施しばかり受けていることになってしまう。
いや、まあ実際そうなんだけどさ、、。
「はーーーしょうがないわー。全くしょうがない。か弱い女の子にこんな大仕事を任せちゃって。はーまったく、腕が鳴りまくるわ。」
最後らへんはちょっと本音が出てしまった気がするが、まあいいだろう。
「任せて。一切の妥協をしない。私が、最大最強の地下帝国を作り上げて見せるから。」
わたしは決心を口にしていた。今までとは比べ物にならない途方もない大作業となるだろう。それこそ、わたしの知識や経験を総動員しても足りないかもしれない。それほどの大仕事だ。
でも私は、ワクワクが止まらなかった。




