卒業
時が経つのは本当に早いもので、僕たちは卒業式を迎えていた。
あの講演会の影響か、僕たちの周りには常に人が絶えなかった。冒険者としての活動も認められSランク冒険者となったことで、その界隈でも有名になっていたのだった。
日々の鍛錬も怠らず、時には思いっきり遊び、時にはみんなで勉強を教えあったりした。
その結果として、ぼくの名前は学園首席卒業の部分に刻まれていた。
え、ぼくが、、こんな僕でも、首席卒業できちゃった、、。夢みたいだ。これも全部、みんなのおかげだ。
卒業生代表挨拶では、みんなへの感謝の思いを1番に込めておいた。ちょっと自分のパーティメンバーへの贔屓の色が強すぎたかもしれない。
でもいいよね、このくらい。卒業生代表の立場を利用してでも、彼女たちに思いを伝えたかったのだから。
そして卒業式が終わったすぐ後のことだった。僕はその彼女たちに呼び出された。そこは普段あまり人が来ない静かな場所だった。卒業式の日ということもあり、今日は誰もいなかった。
マリアが喋り始める。なんだかとても緊張感が漂っている。一体何事だろうか。
「わたし、、、。ピヨン君のことが好きなの。友達としてとかじゃなくて大好きなの。付き合いたいの、あと婚約して結婚して子供も産みたい。」
「ちょっとマリア、さすがにそれは抜け駆けすぎない!?事前の打ち合わせと違うんだけど!」
「いやマリアナイスよ、この流れで押し切りましょう。ピヨン君も驚いて声も出せずに固まってるわ。これはマリアが作り出したチャンスよ。」
「それもそうね、私も、勇気を出さなきゃ」
「なんやかんや言い始めたピヨン君を丸め込むのは私に任せて。」
「おっけい、頼りにしてるわよ。」
ん?あれー?えーっと、これは今なにが起きているのだろうか?あのマリアが、、ぼくに、告白?
あのマビナー学園主催お嫁さんにしたいランキング第1位を、3年間独占し続けたマリアが?
いや、そんな肩書きなんて関係なかった。ぼくは言われてやっと気付いた。ぼくはマリアのことが前から好きだったのだ。
あまりの突然の出来事に固まってしまったが、これ以上彼女を待たせるわけにはいかない。
「マリア、あのね、ぼくもマリアのことが」
「はーいストップー!ピヨン、私とも結婚してね。正妻はマリアに譲るからさ。」
「同じく。わたしピヨンいなかったら生きていけない。正妻はマリアでいい。」
「わたしもピヨン君のことずーっと好きだったの毎日毎日ピヨン君のことばっかり考えてるの。好きだよピヨン君、結婚して。仕方ないから正妻はマリアで決まりね。でも赤ちゃんは欲しい。」
「わたしもピヨン君をこれからもずっと支えたいの。結婚してくれないかな。それともピヨン君はわたしと一緒にいるの、嫌、、?」
頭が真っ白になるとはこういうことを言うのだろうか?ぼくは今同時に5人の女の子から結婚を申し込まれたぞ。これはおかしなことだ。だってそんなの問題、、問題?いや、何が問題なのだろうか。
僕は尊敬するお父さんの顔を頭に浮かべた。
ピヨンよ、くよくよ悩む必要など無いのだ。なぜなら全員を幸せにすればいいのだからな!はっはっはっ。
そんなお父さんのセリフがありありと浮かんできたのだった。
そうだ、僕はみんなのことがとても好きだ。ここまで頑張れたのも、首席で卒業できたのも、何より人生がこんなにも楽しいのも、彼女たちがいつも一緒にいてくれるからなのだ。
僕にもう迷いは無かった。
「みんな、ありがとう。僕はみんなのことが大好きだよ。僕は一生、みんなと一緒にいたい。だから僕と結婚してほしい。僕が必ず、全員を幸せにするから。」
僕は本気の思いを込めてそう宣言した。
ん?どうもみんなの反応が鈍い。
なんかピタリと固まって動かないし、顔も赤いような、、。怒ってるのかな?あ!分かった、そうだよね、こんな短い言葉だけじゃ伝わらないんだ。
それはそうだろう。僕なんかにはもったいないような最高の女の子たちをお嫁さんにもらうんだから。こんなので足りるわけがない。もっとしっかり思いを伝えよう。そして伝え切れない分は、今後の僕の行動で示すしかない。
僕はそれから、みんなと出会ったきっかけまで遡り、一人一人に言及しながら、彼女たちの魅力と、これまで一緒にいてどれだけ救われたか、楽しかったか、幸せだったか。そう言ったことを語り続けた。
それでもまだまだ序章だ、そんなことを思っていたのだが。
「も、もう、大丈夫よ。分かった、すごく分かったの、とっても愛されてるって伝わったわ。これ以上はもう耐えられない、、。見てみなさい、みんなしゃがみ込んで、目がトロンとしているわ、あなたのせいよ、、。それに、わたしだって、、。」
え、マリア。どういうこと、おーい、マリアー!
呼びかけたが、確かに目がトロンとしている。ぼーっとして、焦点があっていないようだ。マリアはもう何もしゃべらなくなってしまった。
あれ、ぼくなんかやっちゃいました?
たっぷり20分ほどの時を置き、やっと普通の状態に戻りつつあった彼女たちに告げた。
「今日、僕の家に来ない?」
すると再び彼女たちは倒れてしまった。
ん?実家の両親に挨拶に行こうと思ったんだけどな、、。
その後、誤解をさせるようなこと言わないでよねと怒られたりしながら僕の実家に向かった。
誤解?なんのことだろう。
そしてやっと実家に着いたわけだか。
「「「「「お母さんが5人!?」」」」」
「え、あれ?言ってなかったっけ?」
「「「「「聞いてないよ!?」」」」」
何やら彼女たちは驚いていた。まあすぐに慣れるだろう。
とは思っていたが、予想以上に彼女たちはお母さんたちと馴染むのが早かった。
そして今、僕とお父さんはポツンと2人取り残され、10人の女子会のはじっこで座っていた。
「ピヨンがこんなに可愛いお嫁さんを5人も同時にね、、。」
「なーんか、どっかで聞いたことのある話ね、あなた。」
「ほんとよねー、身近にそう言う人がいたような気がするわ、ね、あなた?」
なんだろう、お母さんたちはとっても笑顔なのに、こっちにまですごい圧を感じる。
お父さんも力なく、はっはっはと笑うだけだった。お父さんは、この状態になったお母さんたちに何を言っても無駄だということを知っているのだ。
でも僕はここは言うしかなかった。
「大丈夫だよ!僕が責任持ってみんなを幸せにするから!」
そしてしばらくの沈黙の後、
「はあ、ピヨン。あなたは間違いなく、お父さんの子ね、、。」
「血は争えないのね、、。」
「もういいんじゃないかしら、私たちもそれで幸せに暮らしてるわけだし、、。」
「そうなのよね〜、、。」
ん?何を言っているのだろうか?僕はもちろんお父さんの息子だよ?
その後もいろいろあったが、とりあえずお祝いをしようということになり、急ごしらえのパーティが始まった。
いつも以上に賑やかで、お父さん、お母さんたちに祝福してもらえてとても嬉しかった。
僕はこれからももっと強くなって、大切な5人のお嫁さんと共に歩んでいく。
例えどんな困難が待ち受けていようとも。




